すぺしうむその4 〜愛のコトバは細やかにの巻・後編〜 |
翌朝食堂に行ってみると、ルロウグとギルメジアの姿は見当たらなかった。 朝食を終え、出発の準備をし、町を発っても何のアクションもない。
こうまで静かだと逆に不気味になってきさえする。
「なあ、リナ。あいつら諦めたのかな」
舗装されていない裏街道。両側を森に挟まれた道の上を、鳥がのどかに飛んでゆく。
「……あれが最後の攻撃だったとは、どうしても思えないのよね」 あたしは呆れたため息をひとつつき、
「あのねえ。あいつらが言ってたでしょーが。あたしたちの『縁結び』と『縁切り』の依頼を同時に受けて、そのうち縁切りの方を実行することにしたって」
――ガウリイにしては鋭い。実はあたしもそれが気になっていた。 とはいえ、その心当たりは皆無である。だいたい他人の縁を切ってくれなんて依頼、『身内がヘンな異性に引っかかったので目を覚まさせたい』から『自分をフッた恋人、もしくは片思い相手への腹いせに』、果ては『そのイチャイチャっぷりが許せない』というものまで多種多様。
実際あたしが以前あの2人に会った時だって、彼らの依頼主は『街の風紀が乱れる』という理由から依頼していた。もおそうなると、誰が依頼主かの特定はほぼ不可能だ。
「とはいえ、やっぱりどうにかして依頼主は特定しないとね……」
言葉と同時にガウリイは腰の剣に手をかける。一瞬遅れてあたしも身構えた。
「隠れてないで出てきなさい。そこにいるのはわかってんのよ」
しかしこちらの呼びかけに返ってきたのは赤い光球!
「さすが魔族殺し(デモン・スレイヤー)リナ=インバースとその相棒ガウリイ=ガブリエフ」 こちらが火炎球の対処で一瞬動けぬ間に、茂みから飛び出して距離をとる2人組。一見して正体がわからないほど覆面で顔を覆っていても、その格好は見覚えがある。
「だがやるしかない。覚悟してもらうぞ」 不敵に笑うあたし。しかしその横でガウリイは声に緊張の色を出し、
「リナっ! 誰だこいつら!」 思わず敵の目前であることも忘れて叫ぶあたしに、ガウリイは頬をぽりぽりとかいた。
「そう言われてもなあ……。オレ、こいつらがこの格好してるの、見た覚えがないんだけど」
そ、そういえばあたしがこの格好を見たのは、前回の一件と今回の最初だけ。
「と、とにかく!
なるほど、少しは考えているようである。
「そうカンタンにいくかしら。ガウリイ!」
あたしの声に応えてガウリイが駆け出す。
「あたしの相手はあなたってこと? ちょっと役者不足じゃない?」
バカのひとつ覚えみたいに次々とっ!
「ちょっと!? これどうする気よ!」
つまりあたしが戦闘そっちのけで消火活動しなかったら、良くて放火犯、悪くすれば黒コゲということか。
しかし悩んでいるヒマはない。後ろの火の手はまだボヤだが、もう3、4発同じことをされれば、かなり大きく燃え広がってしまうだろう。
「火炎球」
ゴウッッ! 「ぐうっ……!?」
風圧に耐えきれず、ルロウグの身体が浮いた次の瞬間。 「のわひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
よっし成功! 「ルロウグ!? ……くっ、やはり正面から挑むのは無謀だったか……!」 ギルメジアの声に悔恨の色がにじむ。彼はその猫背な背中をさらに大きく丸め……って!? 「跳んだ!?」
ガウリイの驚愕の声。
あっという間にルロウグと合流したギルメジアは彼女を助け起こし―― 「マズい! このままじゃ!」
あたしとガウリイの目の前には、背の高いイバラの藪が幅広に連なっている。……逃げるには絶好の足止めだ。
ルロウグは早々に復活し、すでに2人は広場の先へ身を隠すべく走り始めていた。そういえばこいつら、前もやけに頑丈な上、やたらと慎重だった。逃走経路は想定済みだったのかもしれない。
「リナっ! 逃げられちまうぞ!」 一言言いおいて呪文を唱える。 「翔封界(レイ・ウィング)!」
風の結界があたしの周りを囲み、ブワリと身体が宙に浮く。そのまま高度をグングン上げる。イバラの高さを越えて、なお上へ。さらに上へ。 「リナ!?」
ガウリイの声。だが答えるわけにはいかない。あたしはすでに次の呪文の詠唱に入っている!
「氷結弾(フリーズ・ブリッド)!」
ルロウグとギルメジアの驚愕の声が響き渡る。あたしの声の方向と内容にこちらの狙いを察したようだが、遅い。 ボスッッ! 落ちてきたあたしを下でガウリイがしっかりキャッチしてくれた。
「ナーイスキャッチ、ガウリイ」
疲れたため息ひとつつき、それでガウリイはお説教を切り上げた。 下におろしてもらい、イバラを迂回してゆっくりルロウグとギルメジアのところへ向かう。なぜか彼らは諦観したような、どこかすがすがしい表情をしていた。
「――――認めよう、リナ=インバース。悔しいが我らの負けだ」 何を言っているのかこいつらは。一体今のどこにそんなのが――
「自らの身の守りを全て相棒に任せ、己は攻撃のみに徹するとは。おそれいった」 あくまでパートナーというか、仲間としてであって――!
「しかもあんなに決まるお姫様抱っこを見せつけられてはな」 愛情じゃ、ないんだ、けど…………
「…………………………………………。
こいつらを誤解させたままにしておくのはすっごく気にくわない。
「そうだな。どちらの依頼主にも、依頼遂行は不可能と伝え、お前達の愛がいかに不変か知ってもらわねば」 アメリアのやつううぅぅぅぅ!! 世話好きなのは知ってたが、まさかここまでとはっ!!
「あれほど愛と正義について熱く語れる人間も珍しい」
正直また2人の世界に入ってるこいつらは放っといて、さっさとセイルーンに行きたいところではあるのだが、まだ用事は残っている。
「で。もう一方の、別れさせろって依頼は?」 な………………………………
「なにいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
く……くっ……郷里の姉ちゃん絡みの依頼となっっ!?
「そうだリナ=インバース。2人が別れた時に言え、と伝言を預かっているのだが――」 のひいいいいぃぃぃぃぃぃ!??
「ガっ、ガウリイ!! 次の目的地はセイルーンに変更、すぐ出発よ!!
あたしはくるりと向きを変え、脇目もふらずに走り出す。
「ところでリナ。ゼフィーリア――――」
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なんかオチてない……。 愛とは様々な形があるものであり、また様々な捕らえ方があるものです。 そんなわけで、「本人たちにその自覚はまったくないのに、端から見たらバカップル」に 挑戦してみました。ジブンの書いてる別ジャンルの言葉を使えば、天然バカップルです。 ……その別ジャンルとほぼ同時進行で書いてたから、ちょっとリナの性格とか ちゃんと書けてるか心配なんですけど。少なくとも文体ぐらいは変わってそーな気がする。 あ、でもルロウグとギルメジアの口調がよく見ると原作と違うのは、 前編の頃からだったから、最初からです(滝汗) ギルメジアは原作でほとんど戦っていないので能力がわからないから、勝手に設定いたしました。 なんか猫背のヤツって身体がバネになってるイメージありませんか。 ちなみに「上空で攻撃して落ちてきたところを下にいるパートナーが受け止める」っていうのは、 以前ポケモンでサトシとピカチュウがやってたものです。ジブンの理想のガウリナってあんなん。 |
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