すぺしうむその3
 〜イモの香りはひそやかにの巻・後編〜


 やがて森の片隅で、あたしは準備を始めた。
 ザンネンながら近くに、人が着替えられそうな物陰や小屋はない。カーテン代わりにマントを張って、簡易更衣室のできあがり。

 もちろんそれだけでは心もとないので、一応見張りはたてておく。女性がいれば一番良かったのだが、あいにくこの場で女の子はあたし1人。
 しかたなく、人選は兵士に比べれば信用のおける、ガウリイにした。

 「…………人の着替え、のぞかないでよ。ガウリイ」
 「お前さんみたいな洗濯板、だれものぞかな――」

 めずりっっ。。
 ちょうどはずしたばかりだったショルダーガードを、思いっきりガウリイの脳天にたたきこむ。

 ……ったく、人の服食べられたシーンまで想像しときながらの子供、いや幼児体型扱い。
 まったく何考えてるんだか。
 数年来のつきあいだが、いまだにこいつのことはわかんない。

 「ま、そんなことより、っと……」

 とりとめのないことを考えながらも手を動かしているうちに、わずかな時間で着替えは終わった。

 「じゃっじゃーん! これでどう!」
 「…………? どういうファッションなのだ、それは?」

 簡易更衣室から出てきたあたしを、不思議そうに見つめる隊長以下兵士たち。

 彼らが疑問に思うのも無理はない。今のあたしは冬用の大きめセーターに、膝までも丈のない毛織物のズボン。バンダナはそのままだが、ショルダーガードははずしている。
 さらに特筆すべきは、兵士たちから借りた4枚の長袖シャツ。袖の部分をヒモ代わりにして、首もと、脇の下、胸の下、腰とそれぞれ4カ所に結びつけている。

 言うまでもなく、オシャレのつもりでこんなふうにシャツを巻いているのではなかった。れっきとした作戦のうちだ。

 「いい? あいつは死んだ植物をエサにするのよ。つまりは麻とか綿製の服をね」
 「ふむふむ」

 顎に手をあて、隊長はうなずく。

 「つまり、毛糸のセーターやズボンは、ヤツに食われる心配はない。おそらく、反応もしないはずよ。
  そしてこの4枚のシャツを身代わりにして、ヤツに『食事』させて時間かせぎしつつ、『食事』の方に注意をそらせば――」
 「そうか! なんとか近づけるかもしれんな!」

 ホントはショルダーガードもあった方が心強かったのだが、これは材質がわからない。結構強度も高くてお気に入りなので、大事をとってはずすことにした。
 4枚のシャツを囮にして、あたしと動物素材の服は、まんまとイモの近くに寄って、焼き尽くすという作戦である。

 「素晴らしい……よくぞこんな素晴らしい作戦を思いついてくれた!」

 なぜか喜色を満面に浮かべ、あたしを褒めちぎる隊長。

 「この作戦ならば、イモ退治に効果的なだけでなく、我々が切望した『触手っぽいものに襲われる女の子』をある意味で表現でき――」
 「帰れあんたらわああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 あたしの放った、インバース・ロイヤル・キックが、隊長の腹に命中した。












 「浄結水(アクア・クリエイト)!」

 ――たぷんっ。
 あたしの持った、水くみ用の瓶の中に、口のところまで水が満ちる。

 「はい、ガウリイ」
 「おう」

 ばしゃっっ!
 軽く答えてあたしから瓶を受け取ると、ガウリイは中の水を地面にまいた。
 あたしは次の容器を手に取り、次々と呪文を唱える。

 「浄結水! 浄結水! 浄結水ー!」

 端から瓶だの桶だのの中に、水が生まれ出る。それをガウリイや兵士たちが撒き散らし、次第にあたりには水の匂いが立ちこめ始めた。

 「それにしても、これは何のまじないなのだ?」

 隊長が、水をまきながら問いかけてくる。そういえば、説明してなかったかも。

 「これは、スイートポテトをおびきよせるまじないよ」
 「……? よくわからんが……効果はあるのか?」
 「さあ。あたしにもわかんない」

 もちろん正確には、魔法でも呪術でもなければ宗教的儀式でもない。単に、スイートポテトの習性を考えてみた結果である。

 スイートポテトは、いわずと知れた植物。そして植物に限ったことではないが、生物は水がなければ生きてはゆけない。
 ならば、水があるところには、寄ってくるのではないか――。特に専門知識など使ったわけでもない、単なる予想にしか過ぎない想像だ。どこか一カ所、あたしの予想外の要因が入り込めば、かんたんに覆される程度の。
 たとえば、このへんに池や湖などの、水場があった場合。たとえば、スイートポテトが地面からしか水分を吸収できない場合。たとえば、スイートポテトが水を感じる能力などない場合。

 「……でも、ここんとこ晴れの日が多かったし。たぶん水を欲しがってるんじゃないかと思うのよ。
  どんな生物も、『エモノ』を捕らえて食べるなら、その『エモノ』を感じる能力はあると思うしね」
 「まあ、一応筋は通っているな」

 ひとまずあたしの説明にうなずいて、隊長は黙々と作業に没頭する。
 音は、あたしの呪文を詠唱する声と、水が地面に撒かれる音。
 それ以外は皆、示し合わせたように音をたてない。
 知っているのだ。もしヤツが来るとしたら――

 がさささッッ!

 「き……来たっ!」

 兵士の誰かが声をあげる。
 もしヤツが来るとしたら――殺気も臭いもないスイートポテトは、音でのみその存在を知らせる!

 一斉にみんなが、音の方へ振り向く。
 そこには予想に違わず、イヤでも見慣れてしまった、緑色の蔓!

 「まかせといて!」

 あたしはひとつ叫ぶと、まっすぐ蔓の方へ向かっていった。
 蔓は、エモノの方から走り寄ってきたのを一瞬戸惑ったように動きを止めるが、再びあたし目がけて襲いくる。
 蔓が動いたとき、ちらっとだけ見えた。間違いない。この先に、スイートポテトの本体はある!

 「よぉし、食べたいだけ食べなさい!」

 あたしは、蔓の巻き付いた一番上のシャツの結び目をほどいて、身体から離す。
 そのとたん、蔓はまるでエサに群がる肉食魚のように、一斉にシャツへと襲いかかった。
 蔓が夢中になって食事している隙に、あたしは十数歩分、イモ本体へ走り寄る。

 次の蔓が襲ってくる。今度は2枚目のシャツ。
 同じことを繰り返し、4枚目のシャツを解き放ったころには、完全にイモ本体へ肉迫していた。

 「――やった!」

 兵士のだれかが叫ぶ声がする。そのときにはもう、あたしは呪文詠唱に入っていた。
 まだ少し、本体の近くに蔓が残っているけど、これくらいなら大丈夫。
 蔓があたしの動きを拘束するよりこちらの呪文が完成する方が早いし、万一拘束されたとしても、力ずくで呪文を放つことのできる量しかない。
 合わせたあたしの両手の中に、炎の力が生まれ出る!

 「火炎(ファイアー)…………」

 そのとき。
 突然、蔓が奇妙な動きを始めた。

 緑色の蔓は、うねうねと波打ちながら、残った全てを寄り合わせ、1本の太い蔓――いや、まさに触手状の、不気味な物体と化す。
 触手は、わずかに鎌首をもたげると、一直線にあたしに向かって襲いかかった!

 (――え!?)

 まったく予想外の行動に、思わず声を上げそうになる。手足を拘束しようとする動きではない。まるでエモノを一撃でしとめるためのような、大きく懐に飛び込むときの動き。
 数本がかたまって1本になったように見える、その触手が眼前まで迫ったとき、あたしは愚かにもようやくヤツの狙いと、そして自分の過ちに気づいた。

 (――しまった! 下着…………!?)





 次の瞬間、触手は元の数本に戻り、二手に分かれて捕食を開始した。
 うっかり、そのまま着ていてしまった、木綿の下着目指して。
 上着の裾をめくり上げ、あたしの上着の中と、ズボンの中とに緑色の蔓が侵入する!



 「きゃああぁぁぁあああぁぁぁっっ!!!??」
 『おおおおおををををぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!』





 絹裂くようなあたしの悲鳴と、男どもの驚嘆とも感嘆ともつかぬ叫びが交錯する。
 ――ってちょっと待て!! ガウリイまで一緒になって、なにやってんのよ!!?

 だが、正直ギャラリーの反応なんて、後回しだった。
 あたしは一刻も早く服の中から引きずりだそうと、蔓に手をかける。

 「ちょっと! さっさと離れなさい! 離れなさいってのに!!」

 必死で引っ張ったというのに、蔓はまったく動じない。
 それどころか、あたしの手など意に介した様子もなく、ますます侵入の度合いを深くしてゆく。

 「ひあああぁぁっっ!!」

 「うおぉぉ、我が人生に一片の悔いなし!! これぞ、これぞ男のロマン!
  あのころはまだ固かった蕾のような肉体が、今は若く瑞々しく成長し、まさに食べ頃食われ頃!! 数年たち、再び行われる陵辱の惨劇! そして少女は、またしても触手の餌食に!!
  このアブノーマルさがたまらんではないか、なあ!」
 「はい、隊長!」
 「我々の日頃の行いは正しかったんですね!」

 たまらず再び悲鳴をあげると、興奮した兵士たちの声が響いた。
 今度こそは、さすがにあたしの耳にも届く。
 くっそぉ、こいつら! 他人事だと思って!
 第一、だれが『再び』かだれが!!?

 ――――ギギンッッ!!!

 視線に込められるだけの殺意を込めて、あたしは男たちを睨み付ける。
 もしこの殺意を行動に込めていたら、間違いなく全員オダブツだったろう。
 大人しく辱めを受けていた――決してそんなことはないのだが、男どもの目にはそう映っていたと思われる――あたしが、突然射殺しそうな目で自分たちを見たことで、やつらが全員我に返った。

 真っ先にガウリイがこっちへ駆け寄ってくる。

 「リナ! だいじょうぶか!」
 「だいじょうぶか、じゃなああぁぁい! さっさとなんとかしてよ!」

 しかし、ガウリイがあたしの元へたどり着く、ほんの数瞬前。
 緑色の蔓は、急にあたしの身体から離れ、するすると引いていった。

 「? どうしたんだ?」
 「さあ……。ガウリイに恐れをなしたとも思えないし…………っっって!!!」

 言いかけたその途中で、あたしは二の句が継げなくなった。
 蔓が引いたことで冷静を取り戻しかけていた頭が、再びものすごい勢いで急騰する。

 引いてゆく蔓のうちひとつには、白い布きれが引っかかっていた。
 それはすなわち――すでに原型を止めていない、あたしの下着の一部。

 「なっっっ、ななななな、ななななななな………………!!!!!」
 「……あー、その……なんだ……」

 隣で、困りきったような、ごまかすようなガウリイの声がする。
 ふと気づけば、ガウリイだけじゃない。兵士たちも皆、その布きれに視線が集中していた。

 「ま、まま、待ったあああぁぁぁぁ!!! 全員あっち向いて!! 見るんぢゃなぁぁい!!」
 「いやそのしかし、敵前でよそを向くっていうのは……」

 言い訳がましい声で、取り繕うようにガウリイが言う。
 彼の言うことももっともだ。しかし。
 全員あの布に目がくぎづけ状態じゃ、どこ向いてたって一緒じゃないのよっっっ!!

 「と、とにかく……! …………??!」

 そのときだった。
 下半身に、ズルリと何かが滑り落ちるような感覚。
 同時におぞましいほどの悪い予感が、悪寒となって襲いかかってきた。
 もし巫女が、魔王復活の瘴気を感じたとしたら、こんな悪寒を感じるのかもしれない。

 「リ…………………………………………」

 こちらを向き、なにか言いかけて、ガウリイが絶句する。
 あたしを見下ろす彼の喉が、ゴクリと鳴った。

 ガウリイの目線が、なぜかすごく強くなっている気がする。これまで一度も見せたことのない、ひどく力を帯び、ただ一心にひとつのものを見つめる、混じりっけのない純粋な、一条の視線。
 先ほど、『くぎづけ状態』という言葉を使ったが、まだまだ甘い。これがホンモノの釘付け状態なのだと、その視線の強さで思い知らされる。

 「……………………」
 「……………………」

 ガウリイの見ているもの。それはきっと、あたしの悪寒の正体だ。
 知ってはいけない。知れば、きっと後悔する。
 だが、知らなければ事態がなくなるというものでもない。
 あたしは、他に選択肢もなく、恐る恐る視線を下し――

 『………………………………』

 そこには。
 下着よりはまともなカタチをしているものの、すでに役立たずの布と化したあたしのズボンが、地面に散らばっていた。

 いくらズボンを構成する布が動物製でも、それを縫い止める糸が植物製ではイミがないのだということに気づいたのは、もっとずっと後のことだった。

 「――――※¶♯Ωψ凵゙%Å〃ёя!!!!!!!」

 あまりの辱めに言語神経が完全にマヒしてしまったあたしの口から、混沌の言語(カオス・ワーズ)でも古代文字でもない、まったく意味不明の言葉が漏れ出す。

 反射的に地面へしゃがみ込み、唯一無傷だったセーターを思い切り伸ばし、ひざまで覆い隠す。幸い、セーターが大きめだったのでサイアクの事態はまぬがれたようだが、際どいなんて言葉でもまだ足りない、めちゃめちゃギリギリのところだった。
 正直――おしりの方は、アウトか、セーフか、確かめる気にはなれないほどの。

 これ以上ないぐらい、全身ものすごい勢いで、血が駆けめぐる。
 そのとき、兵士の一人が、感極まったという声でつぶやいた。

 「……いやぁ。いい仕事してるなぁ……」

 ぶちぶぶぶちちぶちぃぶちちちぃぃぃぃっっっ!!!

 頭全体から、やたら大きな音が響く。
 忍耐。我慢。辛抱。寛容。
 そんな言葉が、あたしの中から全て吹っ飛んだ。

 頭の中を占めるのは、たったひとつの感情だけ。
 怒り。こんなモノを作ったこの世界そのものに抱く、強烈な怒り。

 世界を滅ぼそうとしたある男の怒りを、あたしはこのとき初めて、少し実感できたような気になっていた。







 ――山に、黒くキレイな花が咲く。
 山全体を、覆い尽くすほどの、大きくて黒い花。

 花は一瞬で消えてゆく。とても儚いその命。
 一人で消えるのは寂しいから。花は周りの存在(もの)を連れてゆく。
 自分の生まれた、混沌のただ中へと。

 その花の名は――重破斬(ギガ・スレイブ)。








 「リナ、お前さんなぁ……いくらなんでもやりすぎだぞ……」

 きれいに山ひとつ消えてしまったその跡を見て、ガウリイがうんざりといった感じで呻く。
 一方あたしは、手持ちの服を着込んで少し落ち着いたとはいえ、まだ怒りが収まっていなかった。

 「ふんっっ! このあたしにあんなことしたんだから、自業自得ってモンよ!」

 銀色に染まった髪の一房を、指でピンとはね上げる。
 さすがにこの呪文から逃れる術を、スイートポテトが持っているとは思えない。
 これできれいに、取りこぼしの心配なく、スイートポテトは殲滅したはずだ。

 「結果よければすべて良し! ってね」
 「……あんましいいとは思えんのだが……」
 「細かいことぐちぐちと、うるさいよ、ガウリイ」

 目つきを鋭くして睨んでやると、まだあたしの機嫌が悪いことを察したのか、ガウリイは黙りこんだ。
 そして視線を後ろの方へ流す。
 つられてあたしもそちらを見ると、そこではまだ兵士たちが、事態についてゆけず呆然としていた。

 あたしたちと目があったのをきっかけに、隊長が声をかけてくる。

 「……なあ……いったい……なにがどうなった……?」
 「あたしの呪文で、山ごとスイートポテトを吹っ飛ばしたのよ」

 端的で事実のみの説明だが、思考回路の働いていない彼らは、それで一応納得してくれたようだ。
 口々に「そうか」「そうなのか」と呟きながら、あたりをぼんやりと眺める。

 実を言うと、竜破斬(ドラグ・スレイブ)でも、ここまで跡形もなく山を消すことはできない。どうしたって岩とか木とかの影に入って、竜破斬の威力をまぬがれた木とか岩とかが残ってしまう。
 だが、重破斬の場合は、すべてを包み込んで混沌へと返す。その威力に死角はない。

 魔法とは縁遠い兵士たちに、そのことがわかるとは思えないが、やはり尋常では考えられない力ということはわかるのだろう。

 「あ〜あ、とんだ労力使っちゃったわ……っと!」

 緊張がとけたとたん、ふらり、と突然足から力が抜けて、あたしの膝がくだける。
 地面に頽れるその前に、とっさにガウリイがあたしの腕を捕まえてくれた。

 「あー……あんがと、ガウリイ」
 「こら。身体キツいんだろ? オレに黙ってんじゃない」
 「たいしたことないわよ。いつものことなんだから」

 重破斬(もちろん不完全版)を撃つと、魔力の使い過ぎで髪の色が抜けるだけでなく、体力までかなり削りとられる。これまで何度か唱えたが、必ず起こる現象だ。
 別にトクベツなことじゃない。少し休めばちゃんとなおる。

 「いつものことだって、だ。今つらいのは変わらんじゃないか。ほら、早く町へ戻って休むぞ」

 少し怒った口調でガウリイは言うと、あたしのひざの裏に手を差し伸べてくる。
 彼の意図するところを察し、あたしは思いきり暴れた。

 「やっ、やだやだやだ! 抱っこなんてしないでってば!!」
 「ワガママ言うなよ。運ばれた方が楽だぞ?」
 「楽じゃなくてもいいっ! 自分で歩けるわよっ!」

 身をよじってまでする抵抗に、ガウリイはあたしの本気を感じたか、しぶしぶというように手を離す。あたしは多少おぼつかない足取りながらも、そっと立ち上がった。

 「なんだってそんなに嫌がるんだか……」

 そうこぼしたガウリイの横顔を、あたしはこっそり盗み見る。
 いつもどおりの端正な横顔が視界に入ったとたん、いきなり心臓がはね上がった。
 ものすごく居心地が悪くなり、あたしは慌てて目をそらす。
 ……どうしてだろ。まだ、あの熱い視線に射抜かれてるような気がして。

 「リナ? やっぱり疲れてるのか?」

 いつのまにか立ち止まってしまったあたしを心配して、ガウリイが声をかけてくる。
 その顔は――見慣れた、『自称保護者』の顔だった。

 「ううん、だいじょうぶ。なんでもないわ」

 あたしは、つとめて明るく答えて、ゆっくりガウリイの方へ歩きだす。
 隣に並んだはいいものの、やはりガウリイの顔を見上げることはできない。
 代わりに、小さくぽつりとつぶやいた。

 「ガウリイも……男の人、なんだよ、ね」

 特に聞かせようと思ったわけではなかったが、ケダモン並の感知能力を持つ男には、聞こえてしまったらしい。
 どこも気負っていない、なんでもない調子の声が、頭の上から降ってくる。

 「お前さん、オレが女に見えてたのか? 男に決まってるじゃないか」
 「――そうね……」

 なぜか無性に気恥ずかしい。頬が火照る。なにを意識してるんだろう、あたしは。
 あたしがガウリイの顔を見上げられるようになるまで、もう少し時間がかかりそうだった。



                                    fin


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 誰かやるだろう、と思いつつ、結局己がやってしまったときほど、ムナしいものは ないかもしれません。
 触手ネタ。やはりこれをいじくるのは基本でしょう。……いえ、このシリーズだと、ぜってえ裏には いかないですって。
 でも、できるだけシリーズの雰囲気から外れず、それでいてエロティックになるよう、工夫はした つもりなんですが。
 てゆーか、これ『さりげないガウリナ』か? バリバリ表だってる。ダメじゃんジブン。(切腹)
 名もなき隊長ブラボー。世の中の男がみんなそんなマニアックな嗜好を持っているとは考えたく ないですが、
 18歳以上の同人ヤロウなら一度は、お気に入りキャラが触手に絡まれるのを想像するかもです。
 男の欲望よ燃え上がれ。うちのガウリイさんは、結局純白ホワイトにはなりきれないみたいで、 お母さん悲しい(ひそかに爆笑)
 オレ様的最凶疑問。
 スレイヤーズ世界に、下着はありマスか? たぶんないデス。
 中世ヨーロッパ世界が舞台だしなあ……。まあ、大目に見てやってください。




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