宣戦布告



『装うことは、あいつに対しての宣戦布告』



 階段を、なにげないふりをしてゆっくりと下りていく。
 下は食堂。
 今は夏。
 強い日差しが肌をやく窓際の席をさけ、日陰になったテーブルに座り、今日もあいつは先に待つ。
 時々金糸が舞うのはいたずらな風のせい。
 暑さが苦手なあたしのために、少しでも風通しのいい席をとる。
 それが、ここのところのあいつの役目。
 満足した獣のように少し細められる目は、成果がちゃんと実を結んだせいかしら。
 額にうっすら光る汗。
 馬鹿ね、いつから待ってたの?

 「・・・・よう、遅かったな」

 空いた間は、あたしに対する最高の賛辞。

 「女の子の支度には時間がかかるのよ♪」

 ふわり。
 たなびくスカートは鮮やかな白。
 首の後ろで結ばれた、細いリボンがくすぐったい。

 「そうしていると、リナもちゃんと女の子に見えるんだな」

 「失敬ねぇ。あたしはいつでも女の子よ」

 「あの態度のどこが一体いつも女の子・・・・いや、なんでもないです」

  冗談めかした軽いセリフ。
  駄目よ、瞳が裏切ってる。

 ふわふわ。
 風のせいが足元を通り抜ける。
 時々短く見える、スカートの丈。
 ちょっとサービスのしすぎかな。

 「ほら、さっさと座れ」

 「へぇ、今日は待遇いいんじゃない?」

 どこぞの気の効いたウェイターのように、細心の注意を払ってひかれた椅子。
 トスン。
 あたしの低位置、ちょっぴり浅めの腰掛け方。
 椅子の座り方まで、いつのまにか覚えてたのね。
 丁度良くおさまったあたしの体。
 いたずらな風も、白い布へのたわむれを止める。

 「ま、たまにわな」

 あら、気取った仕草。
 意外と様になっちゃうのね。
 でも、なぜかあたりを見渡す、そのきつい視線はなにかしら。

 「さて、今日の夕飯のおすすめはっと」

 「リナ、なんかめぼしいものあるのか?」

 「ん〜、これなんかいいんじゃない?」

 手にもったメニュー表をガウリイの目の前に。

 前にのりだすあたしの体。
 さらされる白い腕。
 ないないって言われているけど、成長しているあたしの胸が、ガウリイの視線の真正面。

 「そおか?んじゃぁそいつを三人前な♪あとはっと」

 不自然さなどまるでなく、当たり前のようにカウンターに戻される蒼い瞳。
 そっちの方が、よっぽど不自然よ?
 メニューはあたしの手の中なのに。

 いつもと違う反応。
 いつもと違う雰囲気。
 いつもと同じあなた。
 いつもと同じあたし。

 「おっちゃーん、こっちAからDまで四人前ずつ!」

 「なにっ、ならオレはAが二人前、Dが六人前!」

 「・・・・・・あんた、さっきといってること違うわよ」

 「・・・・忘れてた。リナのお勧めなんだっけか?」

 「こんのクラゲ!!」

 すかさず空飛ぶ不思議なスリッパ。

 「お前さん、相変わらずどこからだしてくるんだ、それ」

 「乙女は秘密が多いものなのよ」

 いつもと同じ会話。
 いつもと同じ行動。
 いつもと違う視線。
 いつもと違う仕草。

 止まった会話。

 とどまる蒼と赤。

 注文を終えたあたしたちを、穏やかな静寂が包み込む。
 知ってるよ、あんたがなにを言いたいか。
 わかってるよ、その手がなにを望んでるか。

 全身で、あたしになにかをずっともとめた来た。


 でも、気づいてやらない。
 言ってなんかやらない。
 あたしはあたし、リナ=インバース。

 売られた喧嘩は十倍返し。
 でもね、あんたはあたしに売ってないのよ?

 売られた喧嘩はもれなくお買い上げ。
 でもね、あたしはあんたから買いたいの。


 だから、これは宣戦布告。
 女の衣装は戦装束。
 ひらひら踊って何かを誘う。
 でも分かってるんでしょう?

 食事が終れば夜の闇。

 あんたが男に帰るとき。

 だから、これは宣戦布告。
 男の領域は闇のなか。
 本音はいつでも闇のなか。
 でも、分かってるんでしょう?


 白は無垢の象徴。
 そんな戯言なんか知らない。
 これはあたしの挑戦状。

 ほら、ゆっくり瞳が色を変える。

 「なぁ、リナ」




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管理者から一言:
 誘うリナちゃんなのですね〜〜!ジブンも誘って誘って〜〜〜!!(殴)
 こんな風に誘われたら、ガウリイもうドッキドキもんですねー。
 周りを牽制しつつリナの姿を堪能できるのは、いつもの超人的スピードがなせるワザなのか?
 さあ目覚めよ!ブラックガウリイ!(笑)
 ぽこさんこれおいしいです〜!ありがとうございました♪




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