「こんなのはどうかな?」
─これで何個目だ?─
「センスが無い!却下!」
またか…。
プレゼントひとつ買うのに何時間かかっているだろう?
これだけアクセサリーが並んでいるんだ、目移りするのはしょうがないけど…。
「…じゃあ、どんな物が良いんだよぉ?」
「そうそう!最初から私に選ばせてよ…これなんかどう?」
と、ピコが持ってきたのは…なるほど、花をあしらった可愛いピアス…。ピアス!?
「あ〜ダメだよ!…耳に穴を開けなきゃいけないんだろ?」
「ほらっ!チェーンをつければペンダントにピッタリ…」
「…だれがおまえの物を買うって言った?」
「たまにはいーじゃない…ケチ!」
―彼女とは仲良くなっておかないとな…―
これから長いつきあいになるかもしれないから、挨拶の意味も込めてプレゼントでも…。そう考えたのは数日ほど前のこと。
悪く言えば「物で女の子の気持ちをつかむ」ってことだけど。
「あら…“へっぽこ騎兵”さん?ずいぶん場違いなところで会いましたわね?」
平気で人のことを、恥ずかしい呼び名で呼ぶのは…
「あ、リンダ…さん?ちょうど良かった。ちょっと聞いても良いかな?」
「何ですの?」
「女の子ってどんな物が喜ぶのかなって思って」
「ちょっと!何聞いてるの!」ピコがあわてて会話に割り込む。
…が、ピコの声も姿も俺以外にはわからない…妖精だから当然…なのか?
「そうですわよね、まさかご自分の物を買いに来ているワケではゴザイマセンよね?」
「で、どんな物が…」
「ふぅ〜…お気持ちは嬉しいのですが…やはり、もう少しグレードの高いお店の方が…」
「あ〜ゴメン、キミへのプレゼントじゃなくて…」
「あ、あら、そうでしたの?…ちなみに、どのような方ですの?」
「どんなって…ブロンドのストレートで、色白のメガネをかけた…」
「そうではございません!関係はどうなのかと聞いているんです!」
「あ…ゴメン。教え子だよ、家庭教師のアルバイトをやってるから」
「庶民は大変ですのね、本業の他にアルバイトまで…」
「色々とね…」
「仕事上のお付き合いなら、あまり高級な物はダメですわね。
もし恋人なら、庶民レベルでも良いお値段の物を買って差し上げるべきですが…
教え子なら…このくらいの物が適当かと思いますわ」
彼女が手にした小さなペンダントは、センスは良さそうだけど…純金!?
「ふ、ふ〜ん、そーゆー物が喜ばれるのかぁ。いやぁ…参考になったよ、ありがとー」
「いえ、どういたしまして。それでは私もヒマではゴザイマセンので、失礼いたします」
…黙ってれば美人なんだけど…あの価値観にはついていけない。
「何よ“参考になったよ〜”って…イヤミにしか見えないじゃない」
確かに。でも…
「しょうがないよ、育った環境が環境だから…“庶民とはちがいますのよ”ってね」
「大体ネェ!女の子に他の娘へのプレゼントを相談するかなぁ」
「?…普通しないか?おまえだって、ついて来てるし…」
「リンダがキミのこと好きだったらどうするの?」
「それは無いだろ…」
「それは無いでしょうけど…」
「………」
「………」
「なぁに?」
「べつに…なんでもないよ…」
「で?ど〜するの?」
「値段じゃないとは言っても、女の子ってやっぱり“金”とかの方が良いのかな?」
―そう思うと…さすがに買う気が無くなってしまった―
「買えるの?“金のペンダント”」
「なワケ無いだろー」
「じゃ、何をあげるの?」
「とりあえず、他を探してみるか」
プレゼントを求めて町中をブラつくコトに…
女の子へのプレゼントかぁ…思ったよりむずかしいな。
クイズみたいに三択なら楽なのに…などと、くだらないことを考えていると…
「おーい」
聞き覚えのある声が…
「ねぇ、聞こえてるんでしょ〜」
声のする方向を振り向くと…ハンナ?
「ね、ね、ヒマなんだ…なにか買って行ってよ」
アルバイトだろうか?エプロン姿がよく似合っている。
「バイト?」
「うん、そうだよー」
「そうか、花ってのも定番だよな…」
「買っていってくれるの?」
「ん…プレゼントに、ネ」
「“女の子へ”ってのは禁句だからね!」今度は事前にクギをさされる。
(気の回しすぎだって)
「そっか〜買ってくれるか!…で、花言葉は?」
「へ?」
「良くあるだろぉ『変わらぬ想い』とか『真実の愛』…みたいな照れくさいヤツ。どうせ彼女に、なんでしょ?」
ほらな…(最初から相手にされてないのがチョット寂しいけど…)
「んー、そ〜だな…『元気』とか『健康』とか無い?」
「なにそれ?」
「あ、コレなんか可愛くて良さそうだな」
「あ〜ダメ!ダメ!…あのねぇ…」ピコが耳元で騒ぐ、何あわててるんだよ?
「どした?」ハンナは首を傾げる。
「ねぇ…お見舞いにこの花はダメなの?」
「あ、鉢植えはダメだよ『根付く』っていって縁起が悪いんだー」
「そ〜なの?」
「お見舞いに持って行くんなら、最初っからそう言ってよぉ。
戦友に『真実の愛』なんて持っていったら、誤解されちゃうよね〜」
「ね、言ったとうりでしょ?」と、胸を張るピコ、変なこと知ってるヤツだなぁ。
「そうか…良いと思ったんだけど」
「切り花は?ドライフラワーってのもあるよ?」
「ゴメン、やっぱりやめとく」
ハンナには悪いけど、ただ枯れて行くだけの切り花、潤いの無くなったドライフラワー…。
どれも贈る気にはなれなかった。
「そっか、食べ物か何かの方がいいかもね、傭兵のことは傭兵のキミが一番良く知ってるだろうし。
女の子へプレゼントをあげる時は言ってよ、いつでも相談に乗るからサ」
「うん、ありがとう」
―ピコがにらんでなきゃ、相談してるんだけどね―
ハンナと別れて、しばらく歩いていると…「ね、本屋があるよ」
そうだな、たしか彼女って本が嫌いじゃなかったよな。
本当に本が好きなのか、外出ができないから必然的に本を読むようになったのか…
とにかく入ってみるか、扉を開けると本屋独特の匂いに包まれる…
「さて、と…」
「変な物選んじゃダメだよ!」
「わかってるって」
しばらく店内を物色するが…ダメだ…俺でも知ってるような有名な名作はもちろん、
読み捨てるような流行モノから、果てはだれが読むんだろう?と思うような専門書まで…。
「なんだか見覚えがある本ばかりだね。ココより、セーラの家に方が蔵書量はあるんじゃない?」
そう、彼女の家で見たことがあるのだ。
「そうだよな、彼女が読んでないのは、こ−ゆーのだけかな?」
手にしたのは安っぽい文庫本…
パラパラとめくっていくと、綺麗な女性が描かれた挿し絵が目に留まる。
…ただ、女性は何も着ていない。どんな場面を描写しているのかと言うと…
「うわっ!エッチィ…」いきなり後ろから女性の声。
「わぁぁぁっっ!」レズリーか?ロリィか?それとも…
ソフィアは大声なんて上げないだろうし…と、とにかく本を元の所へ!
「隠さなくてもいいよ、読みたいんでしょ?男の子だモンね」
「…なんだピコか」
「あれ?読まないの?」
「興味が無いとは言えないけど…こーゆーのはチョットね」
「またまたぁ、私達の仲じゃない、今更隠さなくても」
「一般教養とか、軍事用語なんかは、養成所で教えてもらえるけど…
この手の専門用語は、単語の意味が良くわからないよ」
「言ってくれれば、コノ私の七色の声とぉ劇団アガサも真っ青の演技力を使って
感情を込めて朗読してあげるのにぃ…どうせキミにしか聞こえないんだしネ」
「おまえ…読めるの?」
「読んであげようか?」
「へ、変な声を出すな!気持ち悪い!」
「ドキドキしたクセに」
「俺は昆虫にときめくほどマニアじゃ無いよ!」
「なによ!エッチな本も私も好きでしょうがないクセに!」
「だ・れ・が・こんな恥ずかしい本を好きだってぇ?」
他の人にはピコは見えてないんだよな…
客観的に見ると、恥ずかしいのは一人で騒いでいる俺かもしれない。
「ん?おまえ…今、なんて言った?」
「え?…え、エロ本好きのドスケベって言ってるでしょ!」
「好きじゃ無いって……でも、相手の好きな物、喜ぶ物ってプレゼントの基本だよな」
「!…鈍感なキミには、女の子の喜ぶ物なんてわからないわよ!」
「バカにするなよ〜、彼女が一番欲しい物くらい…」
「センスもお金も無いクセにぃ〜」
「フッ…プレゼントは値段じゃないんだぜ!」
「何カッコつけてるのよ!ばぁ〜かっ!」
売り言葉に買い言葉。そんなつもりはなかったんだけど…
ピコとケンカをしてしまった、いつもの口げんか…ま、ちょうど良いか。
セーラの喜ぶ物ぐらい知っている、いや、物じゃないかな?。
ピコと歩いた道、今日入ったお店…どれも彼女は知らない。
好きな本だって、使用人に買ってきてもらうはずだ。たとえ欲しい本がココに無くても…。
「本屋で自分の目をつかって探す」この行為だけでも、彼女には新鮮なはずだ。
そう…デートに誘って…一緒に歩いて…それが一番のプレゼントだろう。
ピコがいない方が誘いやすいし。今度のバイトの時に誘ってみよう!
社交辞令のつもりで探し始めたプレゼント。
思ったより良いモノを贈ることができそうだ。コレをきっかけに親しくなれれば…。
そんな気持ちでいっぱいだった…。その時は…
―続く―