「敵は何割方落ちた?」
戦の火の粉がかからない遠くで馬上の青年は槍を持つ歩兵に話し掛けた。
「はっ。7割方は落ちたと思われます」
「そうか。お前達はここで待機してくれ」
「だ…団長、どちらへ?」
聞く耳を持つことなく青年は戦の火の中へ、と馬を走らせた。
馬の鞍には所属する国の国旗が記されていた。
“ドルファン王国”
D20年、ドルファン王国の貿易拡大のため、勢力を南方のアルカント国に伸ばしていた。
小国アルカント国は、欧州でも有数の貿易起点となっており非常に繁栄した国であった。
それに比べドルファン王国は海に面する土地にも恵まれず、貿易はおろか、北のプロキアにもおびやかされる小国であった。
その危機を打開すべく、南下作戦に出たのであった。
作戦実行一月目。ついにアルカント国に限界が見え始めてきた。敵の兵は元より既に2、3割方までに減少していた。
またドルファン軍は戦の先に街の外壁までもが見えるほど進行していた。
青年は馬を前線を指揮している指揮官の側に寄せた。
「どうだ?」
「はっ、問題ありません。落ちるのも時間の問題です」
「…済まないが、一度兵を退かせてくれ。戦略的撤退として」
「はっ?何故に兵を?今が一番士気が高まっているというのに」
誰が見ても落ちるのは時間の問題だった。そんな折に青年が言った“退け”との言葉はできなかった。
「街が見える。下手をすれば市街地戦も考えられる。被害はあまり出したくない。…一度降伏勧告を出し、聞かないようであれば兵を一旦退こう。考えがある」
「かしこまりました。団長の事です。きっといい案があるのでしょう」
「…ここでは、団長ではない。一指揮官だ」
10、20は違うであろう青年がここでの指揮官にあたっている。しかし、彼に不平不満をこぼす物はいなかった。
カエデ・マキシム。それがその青年の名前。彼は皆とは違う風貌を持っていた。
それもそのはず、彼の父は東洋人、母は欧州人、つまりハーフなのである。
彼の父は剣聖として名高いハヤテ・カガミという欧州1、2を争う使い手だった。
その卓越した剣技を13才にして習得していた、天才剣士とされていた。
そして15才の時に父が病で亡くなったため、母と妹のためにドルファン王国で兵として働くことになった。
彼が指揮官として迎えられるまでそうかからなかった。父の評判と本人の実力があいまって、国からは重宝された。
そして王の目に入り、近衛騎士団長に16才、最年少にして抜擢された。
始めは疎む者もいたが、彼の知識、兵法、礼儀作法、精神。何においてもかけることなく素晴らしかったため、彼は英雄として皆から受け入れられた。
そしていま、全軍の総指揮官としてこの合戦にいるのであった。
「降伏勧告を出したところ、敵の大将が一騎射ちを申し込んでおります」
「なるほど、士気を高めて守りを固める気だな…。敵ながらできる大将だな。だが逆に負ければ士気もそぐ事ができるな…」
マキシムは遠方を見ながら答える。
「団長、私にその一騎射ちを受けさせてください!!」
「……君の指揮にはすばらしい才能がある。ここで万が一失うのはこの国のためにならない」
「では君が行けば済む事だ……」
「ア…アーレス王子!!何故このようなところに」
王子と呼ばれたその男はテントに入りざま、マキシムに言ってのけた。
「君なら負ける事もなかろう…」
「…かしこまりました」
「父が後続部隊の駐屯基地に来ている。ここへも時期くるだろう」
「王が来ているのですか!!」
他の指揮官が王の出現により士気が高まっていく中、気にすることなくマキシムは仕度を始めた。
「王がこられるまでには、決着をつけます…」
「期待してるぞ、私も戦場に出て戦いたいのだが、何しろこの身は私一人の身ではないのでな…。では父を迎えてくる」
「くそっ、団長を眼の敵にしやがって…」
「まあ、そう言うもんじゃない…、私が行けば全てにも決着がつくだろう」
マキシムは簡易な鎧を着込み、腰に打ち刀、と片手剣を提げ出陣した。
「健闘を祈ります」
皆が口々に言う中、マキシムはテントを後にした。
城門のまえで後1歩の進軍が思いのほか芳しくなかった。
それも、そこには屈指の剣士といわれるマティクスが立ちはだかっていた。
「ドルファン軍はこんなものか!!全く相手にならん!!」
怒号を共に次々に兵を両手剣でなぎ払う。彼の周りには兵の死体が数をなしていた。
マキシムは戦場を走り抜けていた。襲いかかる敵を殺すことなく戦闘不能にのしていく。
そして二人が出会った。
「私が、相手になろう…」
「子供が戦場に…こいつはお笑いだ!!」
「私の名は、マキシム。カエデ・マキシム」
マキシムがそう名乗りあげた瞬間、周りが止まったような錯覚に落ちた。
「奴が……」
「団長!!」
敵兵がざわめく中ドルファン軍はより一層士気が高まる。
「なるほど、お前が…相手にとって不足はない。マティクス全力で相手する!!」
お互いに間合いを計る。マティクスは両手剣を振り下ろす位置に構える。
一方マキシムは片手剣をなぎ払う位置に構える。
お互いに動かなくて2分、とても長い2分より先に出たのはマティクスだった。
「うおおおおおおお」
気合の一閃。剣を斜めへ振り下ろす。
これを難なくかわすも、斜めに振り下ろされた反動で、身を一回転させ続けざまに剣を腹部へと突き出す。
体格に似合わない、俊敏な動きに周りはマキシム防戦一方に思えた。
だが、剣を受け、避ける中、マキシムの狙いは別にあった。
「うらあああああああ」
思いきりマティクスが剣を振りおよしたその時……
マキシムは流れるような動きで剣を避け、肩の部分の鎧の隙間に剣を突き刺した。
「ぐああ。クソッ!!まだまだだ!!」
「フッ!!」
だが続け様にマティクスの顎を蹴り上げた。
「ぐあっ!!」
軽くふらつく彼の剣を叩き落とし、首に剣を当てる。
「ここまでだな……」
あまりも華麗振り、鮮やかさ、そして強さに敵の兵は指揮を完全に失った。
「剣を捨てて降伏しろ!!命は取らん。保証する」
この一言で全ての決着がついた。マティクスが兵に軽く合図を送る。すると次々に敵は武器を捨て、降伏した。
「中に兵はいない、これで最後だ。よかったな、お前らも勝ちだ。さあさっさと殺せ」
するとマキシムは剣を収め、彼を立たせた。
「殺しても良い事はない。恥だと思うなら、勝手に死ね。生きる事を恥じだと思うなら…」
「……………」
「都合の良い事だが、生きるのであれば軍はお前を待っている。これからはプロキア戦のために一人でも、良い士官が欲しいんでな」
「断れば……」
マティクスはからかうように言うが、マキシムは答えた。
「普通に暮らせば良いだろう。この国で」
彼は驚いた様であった。都合の良い話しだがマキシムが嘘を言ってないのは目を見れば明らかだった。
「……考えさせてくれ」
こうして戦火の幕は降りた。
──前線基地テント内──
「ご苦労だった、マキシム」
「もったいないお言葉です」
王の前でマキシムはひざまずく。
「城に戻ったら勲章式を行う。その後も立派に勤めてくれ」
「王よ、私の田舎で刈り入れが始まります。私も共に行おうと思うのですが…」
「うむ、ではしばらく休暇を与えよう」
「ありがとうございます」
マキシムはより一層頭をさげる。
「お前のおかげで、少ない被害でアルカントの土地を手に入れる事ができた。…問題は民衆だが…」
「私に良い考えがございます」
「なんだ…言ってみよ」
「はっ!アルカントは非常に発展した都市でした。つきましてはアルカントの国を支えていた老院たちを取り入れ、更なる発展を遂げてはいかがでしょう。血を無駄に流す事も……」
「………なるほど…」
「父上!!そのような事…!!」
「うむ、良い考えだ。彼らと話し合う機会を設けたい。この国も変革の時期に差し掛かったのかもしれん」
「父上!!」
「私もその様に思います。早速私が彼らとの交渉の場を設けます」
「頼んだぞ…」
マキシムが吉報を持ってきたのは、話すまでもない。
──その晩──
「父上!!何故あんな平民上がりの言う事を聞くのです。聞けば敵兵の降伏を認め、こちらで介護しているとか!!奴らはきっと反乱を起こします。今の内に根を絶たないと……」
「アーレスよ…残念なのはマキシムが我が子でではない事だ。だがプリシラと婚約させ、きっとお前のよい補佐になってくれるはずだ。」
「父上!!あなたは…あなたは…実の子である私の前で……」
アーレスはそのままテントを走り去った。
「……私はお前を甘やかしすぎた…。唯一の悩みだ……」
王はそう洩らした。
──翌日──
アルカントの老院達がドルファン王国の院室に招かれた、彼らも喜んで受け入れていた。民衆には一切危害がなかったためである。
王の寛容さを、マキシムの素晴らしさを気に入った様であった。
しかしこの時、重大な事件が起きようとしていた…。
──その晩、ドルファン城にて──
「団長、アーレス王子より手紙を預かりました」
「ご苦労」
マキシムの部屋に使いの者が手紙を持ってきた。
「マキシム…なんの手紙?」
そこにはかわいらしい女の子がいた。
“─マキシムへ─
神殿跡でアルカント軍の残党がいることがわかった。私の指揮で抑えるのだが手を貸して欲しい。今すぐくるように。
アーレス・ドルファン”
「プリシラ様。緊急の用ができたため、出かけなくてはならなくなりました。もう遅いことですしお休み下さい」
「ええーーー。私の話し聞いてくれるって言ったのに。お兄様のバカーーー」
「明日、必ず…では」
「あああーー…マキシムーー」
急いでマキシムは簡易な装備を整え、城より馬を走らせた。
神殿跡は静まり返っていた。既にあたりは暗くすぐ先も見えなかった。
その時であった!!
ヒュン!!
風を切りマキシムめざし矢が飛んできた。
刹那!!マキシムは刀を抜き切り払う。
「クックックックック…さすがだな…」
「………王子…なんのつもりです」
ヒュン、ヒュン、ヒュン!!
続けざまに矢が降り注ぐ。がマキシムは全て切り払った。
「さすが、さすが!!」
アーレスは笑いながら拍手を送る。
「……王子。いたずらが過ぎますよ……」
「だまれ!!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!私は貴様のせいで全てを失いつつあるのに。貴様は…貴様は……」
ヒュンヒュンヒュン!!
矢が雨の如く降り注ぐ。何箇所か浅い傷はあっても矢が刺さる事はなかった。だが…
ズバッ!!
「ぐあっ!!」
矢にまぎれ切りかかって来た者に肩口を深くえぐられた。
ヒュン!!……ブシューー!!
すぐさま襲いかかって来た者の首を切り捨てた。
「く……血が止まらんか…」
「さすがのお前もここまでか?冥土の土産に良い事を教えてやる。辺境のトーラと言う村がならず者に襲われるらしい、ククククク、どんな村なんだろうな?」
「!!貴様ーーー!!」
「かかれ!!殺すんだ」
「うあーーーーーーーー!!」
一斉に隠れていた者達が襲いかかってきた。そんな中、悠々とアーレスは去っていった。
「クソッ!!母さん。ナミ……!!」
マキシムは馬に乗り、トーラを目指した。
彼の行った後には、かなりの数の死体が横たわっていた。
彼は3日間馬を走らせた。不眠不休、飲まず食わずで…。彼も馬も限界に来ていた。
その頃、ドルファン王国ではマキシムの死が広まっていた。
「……村が…見えた……」
しかしトーラの村の目の前で不意に馬に振りおとされた。
「グッ!!」
そのままゴロゴロと地面に転がった。
そして馬は血を吐き倒れた。
彼は朦朧とする意識の中歩いた。
──一面の金色──
夕焼けの日を浴びた小麦が金色のじゅうたんを思わせた。
しかし、彼はがぐぜんとした。
焼けた家、
血の臭い、
そして、首をつられて殺されていた家族…。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
マキシムは吊り下げられている家族の足元で泣き叫んだ……。
そして意識を失った……。
<あとがき>
これからこの話しは続いていきます。
読んでいてわかったかもしれませんが“ある映画”をかなりパクッてます。ゆるしてください。
3話くらいからゲーム本編とリンクします。
頑張って書いていきますんでよろしくお願いします。
ブッシュベイビー