第2話


「おーーーい……」

「??????」

 空耳なのか、それとも現実なのか……。

「……様、…お兄様……」

 それは誰かが呼んでいる様だった。しかしその声は拒絶するようでもあった。

 

 一面の小麦、黄金に輝く小麦畑に彼はいた。

 不思議な感じであった。手で軽く穂をなでて見る。丁度刈り時と言うところであろう。それは刈り入れを楽しみにさせる。

 しかし歩けど歩けど、自分が何を求めて歩いているのか、わからなかった。心には大きな物が置いてある、しかし触れたくはなかった。触れてしまえば、自分の生たる意味をなくしてしまいそうであったから。

 歩くたび体は軽くなっていった。

 しばらく歩くと、扉のような物があった。何かがまっている気がしたのだが、それは自分を拒絶していた……

 扉を開けようとしても、向こうで抑えている様であった。しかしノブから何か暖かい物は伝わってきていた。自分はそこへ行きたかった。いや、行くのではなく、逝きたかったのであろう……。

 しかし望みもかなわぬまま、後ろより呼ぶ声に引っ張られていった……

 

「おーーーい、おーーーい……」

 誰かが自分を呼んでいた。だから帰ってきたのだ。

 ベットで眠る男は瞳を開いた。

「お…やっと気がついたね」

「?????」

 彼があまりに無反応だったため、声の主は心底がっかりした様であった。

「…やっぱ見えないのかなぁ…」

「なにが見えないんだ?」

「……私の姿……」

「……!!何物だ…おまえ…!!」

 彼のリアクションに怒ったのか、両手を振り上げながら抗議した。

「お前って…命の恩人に…??見えるの…私が……??」

「ああ……でも頭がおかしい様だ。手ぐらいの大きさにしか見えない…」

 彼はぽかんとその小さい恩人を見つめた。

「変じゃないよ…。私ね、妖精なんだ。ピコって言うのよろしくね」

 ふわふわと羽根を使って、飛んでいる…。今目の前で起こっている事は信じられなかったが、あえて気にしないようにした。

「ん…よろしく……。俺は……」

「うん、君の名前は??」

「……俺の名前は……」

「????」

「………俺は……俺はいったい誰だ……?」

 

 目覚めれば自分が存在していない。彼は今まで過ごしてきていた、思い出を全てを無くしていた。

 ……ただ、彼の記憶の隅に金色の小麦畑の記憶があった。

 ……それは、思い浮かべれば何か胸を締め付けられる、そんな感じのする記憶であった。

 倒れていた時身に着けていた衣服はぼろ雑巾になっていて全く手掛かりにはならなかった。ただ、指に付けていた指輪から年が16歳である事だけわかった。指輪にはこう印されていた。

 

 ……感謝の気持ちをこめて……16歳のお祝い……

              SS1602 11月12日

(ちなみにSSとは欧州共通の暦であって、1602と言うのは今年らしい…)

 

 結局一日小屋で思考錯誤を繰り返したが、何も思い出せなかった。

 既に夜が深け辺りが暗くなってきた時、ふと疑問が浮かんだ。

「なあ、今思ったんだが…誰が俺をここまで運んで、傷の手当てをしてくれたんだ??まさか君じゃあ無理だろう」

「ああ、それは…」

 ピコが言葉を発しようとした時、玄関の扉が開こうとした…

「だれだ!!」

 彼は気配に気付き、玄関に向かって咆えた。

 しかし、気にした様子もなく扉は開き、一人の男が入ってきた。

「…誰だ?って…ここは僕の家なんだけどなあ……」

 

「……済まなかった…命の恩人に向かって……」

 火がついて、辺りに明かりがともる。小屋に生活の灯がついた。そんな中、彼は目の前の椅子にかける青年に謝罪していた。

「いやいや…良いですよ、別に。実際見つけたのはピコなんですから…」

 やたらと腰の低い青年だった。ピコが彼にその男を紹介し、現状を説明した。

 青年の名は、ハンク・シード。19歳。南トルキア国立大学に通う、天才と呼ばれる学生であった。

 トルキアは東との交流が盛んであるため、欧州でもかなり繁栄している国であった。トルキアは、首都をスイ−ズランドに近い北に取り、首都のある北は商業都市、プロキアに面している西は軍事都市、東を貿易都市、南を学術都市と分けていた。そしてその政策の結果が現在のトルキアに至っていた。

 ハンクが彼の現状を聞くと、いくつかの質問をしてみた。

 住んでいた国、基本的な学術、好きな事から、嫌いな事まで…。

 結果、学術においては問題なかったのだが、他の全てにおいて、覚えてないのであった。そして彼は推論を言ってのけた…。

「まず、君の風貌から東洋人なのかと思ったのだが、恐らく欧州で生まれたハーフなんだと思う。君の神学の知識は東洋と全く異なる」

 ずばり言ってのけるハンクに、二人の視線は集中する。

「次に君の肩にある“闘いの神”の刺青はトルキアで信仰されている神のもの。恐らくトルキアで生まれたのだろう。しかし、きっと辺境の村に違いない。君の言葉には僕らから見て、微妙ななまりがある」

 少しの質問よりハンクはこれだけの推理を展開したのであった。しかしこのような事がわかっても、彼の記憶が少しでも戻る事はなかった…。

 彼は名前を思い出すことができないのに対して苛立ちを覚えていた。

 この日は、何も考えずに眠る事をハンクの勧められた。

 そして彼はまた眠りについた……。

 

 

「ねえねえ。なんで……は剣を持とうと思ったの?頭が良いんだから学者さんになれば良いのに?」

「……様。私の父はとても偉大でした。そして同時に父がライバルでもありました」

「なんでお父様がライバルなの?」

「父は私を剣で相手にする時に限り、必ず子供扱いするのです…。悔しくて悔しくて、私は日々訓練を重ねました。そして13歳にして父から全てを学びました。しかし父はそれでも強く、遠かったのです…。私はきっと父を超えてみたかったのだと思います」

「へーーー、……って意外に努力家なんだね」

「努力なしに人は強くなれませんよ。さあ、……様、勉強を続けますよ」

「…はぁい…」

 

 身なりのよい、女の子の勉強を教えている夢だった。しかし肝心なところは空白のまま……。

 そして彼は目を覚ました。

 

 

──翌日──

「ねえねえ、……ええと……」

「……気にしなくていい。名無しとでも呼んでくれ」

 彼の名前がわからない事を気にしたピコに対して、冷めた口調でいってのけた。

「ええーー!!だめだよ、そんなんじゃ…」

「そうですね、差し支えなければ、私達で仮の名を考えさせてもらっても良いですか?」

 横で彼とピコとも会話を聞いていたハンクも口を挟んだ。

「ああ、かまわない。頼むよ」

 この時に、彼はハンクの趣味とセンスのなさに気づいた…。

 

 ──名前決め中──

 

「ねえ、カインってのはどう?」

「ほう…いいな、それ」

 納得する彼にハンクは、

「バーミアン…てのはどうでしょう?…“勇者バーミアン”って感じがしますよ」

「………」

「……却下!!」

 あきれるピコときっぱり断る彼を気にしないでか、ハンクのセンスのなさが爆発した。

「ポントマル!!」

「却下!!」

「アジアン」

「論外!!」

「スカイラー…」

「その辺で終わりだ…放送的にもまずい…」

「しゅん……」

 あきらめきれないハンクを放っておいて、会話をピコに戻す。

「ねえ、伝説なんだけど、東洋の戦士でカイエン・アラキって人がいるんだ。…どうカイエンってのは?」

「…いいな、そいつにしよう…」

 即決する彼に、ハンクが異義の声を上げる。

「ええっ!!もっといいのがあると思うだけどなぁ……」

 二人はあえてハンクを無視する事にした…。

 

 ……こうして彼の名が決まった。

 そして彼、もといカイエンはしばらくハンクの元でやっかいになる事になった。

 

 

 すぐに、カイエンは普通の生活に溶け込めた。

 そしてしばらくしたある日、彼はハンクと一緒に街に出る事になった……。

 南トルキアの町は賑わいを見せる活気のある町であった。もとより民衆からあがったといわれる初代トルキア王は、真に民のための政治を行ったという。その結果が現れ今に至っている。街で祭りでもあれば、民衆と一緒になって行う親しみやすい王であるため、民の不満もなく周りからは“理想郷”と呼ばれていた。スィーズランドに続く平和な王国であった。

「私の通う大学では様々な事を研究しております。主に医学を…。ゲルタニアに留学生を送り、医学を発展させようとしています」

「ハンクは、何を学んでいるんだ?」

 大学へ続く路地を歩いていた。ピコはカイエンの肩に乗り話を聞いている。ハンクよりしっかりした体格の、カイエンの肩のほうが楽で良いらしい。

「決まってはいません、学ぶ事全てが楽しいのですから。でも、あえて言うなら今は、ある事を研究しています」

「ある事?」

「ええ。それは…」

 ハンクが話を始めようとした折に、数人の白衣を着た男が話しかけてきた。

「よう、ハンク。妖精さんの国は見つかったか?ハハハハハハハハ!!」

「…ハンクってば、異世界の存在を主張するもんだから、周りの人から変人とか、頭がおかしいって言われてるのよ。私と出会ったもんだから、彼、絶対に異世界は存在するって……」

 ピコがカイエンの耳元で囁いた。

 ハンクは数人の男に言われ放題からかわれていた。それなのに何も言い返せないでいた。

「彼、気が弱いの。だからいつも、ああやっていじめられて…。友達も私しかいなくて…」

「………」

 ハンクが言われ放題の中、言い返す声が上がった。

「いいかげんにしろ。そうやって、一人をいじめて楽しんで。お前らはガキか?」

 カイエンが数人の学生の中に立ち、一言いった。どうやら、情けなくて見ていられなかったようだ。

「あん!!てめーのほうがガキだろう!!生意気言ってんじゃねーぞ!!」

「……あきれて物がいえん…。散れ…通行の邪魔だ……」

 彼らを気にする事もなくハンクを引っ張るように連れて行く。

 何故こんなに彼は心を強く持ってるのか?

 彼は決意したのだった。いつか見た夢が自分であるなら、自分は強い人間なんだと…。くよくよせず、強く生きることができると…。単純ではあったがその決意は、彼が真に強い人間である証拠であった。

「おい待てよ!!」

 悔しかったのか、一人の男が強くカイエンの肩をつかむ。だが、カイエンは、その手を軽くひねり上げる。その動きは一瞬であって、傍からは何が起きたのか、ましてや、やられた本人さえわからなかった。

「いてててててて!!やめろ!!やめろ!!」

 男がひどく訴えるので、カイエンはその手を解放してやる。

 そして男たちは一目散に去っていった。

 残されたピコとハンクはポカンとしていた。

「…君、強いんだね……」

「ああ、すごいな…。戦士の刺青は伊達じゃないな…」

 そう言われるもカイエンも今一つわかっていなかった。

「分からないが、体が勝手に動いて…。闘いを体が覚えてるといったような…」

 軽く拳を作った。二人に体で表すように。

「すごいな…その歳で身体に格闘を覚えこませているなんて…。もしかして君は、すごい人なのかもしれないな」

「よしてくれ…きっとたいした事ないさ…」

 彼らはそんな話しをしながら、大学へ向かった…。

 その途中、彼らは武器屋で足を止めた。とりあえず“闘いの神”の刺青があるって事は、戦士だったのだろう、というハンクの判断から、剣の一つぐらい持っていたほうがいいとの事だった。剣を振る事で何か記憶につながるかもという考えも含まれていた。

「いらっしゃい」

 武器屋に入るとピコはパタパタと飛びはしゃぎ始めた。(ちなみにピコの姿は二人以外に見えていない)

「握って見みるといいよ。何か思い出すかもしれない」

 忠告からいくつかの剣を握って見る。両手剣、片手剣、短剣、槍、斧…。すべて一度は使っていたような感触を覚えるが、手に感じよく収まる物はなかった。

「兄さん、東洋人だろ?東洋ってのはあれじゃないのか?…ええと、そうそう“刀”」

「……刀」

「あーー、うちにはないんだが……。多分、東にいけばあると思うんだが……」

 ハンクは何か思いついたような顔になり、とりあえずカイエンが一番しっくりきたという片手剣“ブロードソード”を購入し店を出た。

「悪いな…買ってもらって…」

「いいですよ。こちらこそたいした剣を買えずに…済みません…」

 二人とも謝っている様子を見て、ピコは笑みをこぼした。いままでハンクはいつも一人ぼっちであった。笑う事があっても寂しさを隠していた。

 ハンクは小さい頃に両親をなくし、孤児院で暮らしていた。彼はその頃から天才ともてはやされたが、友達がいなかった。ピコが唯一の友達であった。

 そんな彼が、カイエンと出会い少し変わってきているような気がしていたのであった。

「大学へ行きましょう…」

 こうして、ハンクに引っ張られる様に大学へ向かった…。

 

───南トルキア大学、展示室───

「こちらの物を見て何か思い出しませんか?」

それは展示用のガラスケースに入った東洋の刀であった。

「…見てもなぁ…。いまいち思い出せないなあ…」

「じゃあ、握ってみましょう」

 と言って、ハンクはカギを閉めているガラスケースを開けようとしている。

「!!なにしてんの!!開くわけないでしょ!!」

 ピコが強く否定するも簡単に開けてしまった…。

「以前、展示品を研究した事がありまして…。その時カギを返すのを忘れていたんです」

 恐ろしくマイペースなのに二人の度肝は抜かれたのであった…。

 

「どうです?これが東洋の刀です」

 展示品の一本を取りだし、カイエンに渡してみる。

 その刀は柄も白木で覆われている刀であった。

「…吸い付くような感じがするな…。きっとこんな感じの武器を使っていたんだろう…」

 鞘から刀を抜いてみる。…まるでそれは芸術品を思わせる美しさを持っていた。

「…そっちの刃がもっと長い奴を貸してくれ…」

 刀を鞘に収めるとハンクにそれを渡し、代わりにもう少し長い刃を持つ刀を受け取った。

「……………」

 同じように白木で覆われた刀であった。同じように鞘から抜き、再び収め。彼はなにか納得したような笑みをもらす。

「…これだと思う。こんな感じの武器…いや、これを使っていたと思う」

 彼はそう言うと、持っていた刀をハンクに渡した。しかしハンクは考えるようなそぶりを見せ、またカイエンに刀を返した。

「頂いちゃいましょう。絶対にばれませんから。ここは本当、年に一度、ここの配置を全く知らないおじさんが、新しい物を置くだけです。ささっ。もらっときましょう!」

「……いいのかな?」

 カイエンはピコに聞いてみる。

「さあ?いいんじゃないの…?」

 

 というような感じで、この刀はカイエンが使う事になってしまった。

「こんな事でいいのか?」と、彼は一日中悩んだという…。

 

 

 一月ぐらいが流れ、カイエンが剣の訓練に勤しんでいた時、突然ハンクに呼ばれた。

 彼はひどく興奮していた。そして彼の手には一冊の本があった。

 彼の話を聞くために、一旦家に戻る事にした。家の中ではピコが気持ちよさそうに昼寝していた。が、そんなピコもたたき起こして彼は話を始めた。

 ピコは寝ぼけ半分、怒り半分で彼の話を聞いた。

「この本によると、さらに南の大陸に“オルカディア”という大きな国があったそうなんだ。そして、その国の王はある日、意識を失い、目を覚ます事がなかったそうなんだ。その時、その危機をある薬で乗り越えたらしい。そう、この世に存在はしない、異世界にある薬で…。その異世界に行くには3つの条件が必要だったらしい…。一つ目に空の石版というレリーフ、二つ目に2つの飛空石、3つ目にその世界の住民…」

 興奮するハンクをまた始まった、といわんばかりに、冷たく見た。

「この本は伝説だけではなく、実話を多く書きも残している。過去にオルカディアという国は存在している。そして、この話に出てくる3つの条件のうち、2つを僕らは満たしているんだ」

「??????」

「まず、二つ目の二つの飛空石…。こいつはずばりこいつだと思う」

 するとハンクは袋より、赤と青の綺麗な石を取り出す。

「見てくれ、この石は元素が何かわからない上、今の技術では到底できないくらい綺麗に加工されている。そして決定的なのは、この本に形容されている石の形とそっくりなんだ」

「……まさか!!あんた、また展示室から取ってきたでしょう?」

 ピコの予想があたったのか、彼は少し申し訳なさそうに下を向く。

「…も、もう一つだけどそれはピコ、君さ…」

 ハンクはカイエンの方にいるピコを指差す。えっ?!と言わんばかりのバランスを崩して落ちそうになるが、なんとか体勢を取り戻す。

「……わたし??」

「ああ、異世界の住民とは君の事だと思う。それにこの石は、西の森で見つかったという。…そう、君が気がついたらいたという、その森で…」

「それは偶然なんじゃないか??そううまくいくものでもないと思うし…」

「いや、必然だよ。ピコがこの世界にきた時この石を使っていたとしたら…。そうするとつじつまが合うんだ…」

「………」

「だから僕は…」

「どうしたいんだ?探しに行くのか?石版を…」

 カイエンが彼が今したいと思う事がわかっていた。それはピコも同じであった。

「ああ、行こうと思う…」

 彼は強い決心を見せる様に強くうなずいた。そうなればもう、これからの事は決まっていた。

「じゃあ、行くか」

「そうね」

「…え?」

 二人の言葉に我が耳を疑う様に情けない声を出した。

「ハンク一人だと、危ないしな。…それに、今までの礼もある。護衛として俺がいてもいいだろ」

「私はなによりも、私の故郷が見たいからね…。ついていくよ」

「ふたりとも……」

 ハンクはつい耐えきれず、涙を流し大きな声で泣き出してしまった。彼は今はじめて、本当の人のやさしさと言う物に触れた気がした。でもそれはきっと彼の今までの行いが、結果に結びついたに過ぎないのであろう。

「さあ、準備をしようぜ。先は長くなりそうだからな」

「うん。がんばろう!!」

「はい!!頑張りましょう!!」

 こうして、カイエンはハンクと共に旅に出る事になった。

 

 彼はその時16歳。記憶を取り戻す事とは、全く関係ない事ではあった。しかし、彼の人生を新たにスタートさせるような気持ちが、心を満たしていたのであった。

 

 

 そして、彼らが旅をはじめて5年の月日が経った。

 そこには、少し子供っぽさを残した青年の姿はなく、鋭い中に凛々しさを感じさせる、彼…カイエンがいた。

 彼らの旅は終点を迎えようとしていた。旧オルカディア城の謁見の間にある、レリーフこそ空の石版であった。そして3人は今それを目の前にしていた。本の通りであれば、そのレリーフに石をはめ込む穴があるはずだった…。そしてそこには、その通りに二つの穴があった。

 不安と期待を抱き、ハンクは恐る恐る、石をレリーフに埋め込んだ。

 その時、眩いばかりの光が3人を包んだ……

 そして三人はその場から消えた……

 

 最初に気がついたのはピコであった。彼女にとって、そこは不思議な感じのする街であった。

 彼女はすぐにハンクとカイエンを起こそうとした。二人が気付いたとき、そこに不思議な感じをさせる女性が立っていた。

「ここへ人間の方がくるのは何十年ぶりでしょう…」

 目の前に立つ美女に言葉を失い二人は彼女を見つめた。またピコはその女性に何か懐かしい物を抱いていた。

「さ…ここで話をするのもなんでしょう。こちらへどうぞ…」

 彼女が動き出すと同時に彼らの意識も戻ってきた。余程だらしない顔をしていたのだろう、ピコがあきれていた。

 

 ハンクは移動中、街並みを見て感嘆をもらしていた。

「異世界というからどんな世界と思ったら…。意外に普通なんだな…」

 とカイエンはもらすも、ハンクはすぐにそれを否定する。

「おいおい、あれを見ても普通と言えるかい?」

 指を挿した先は、自動で開く扉があった。

 二人は“おおおお”と感嘆をもらしながら歩いていたが、ピコは何かふさぎこんでいた。

 

 先ほどの女性は、この街をしきる長だという。彼女はエリムと名乗った。そして彼女はこう言った。

 ……妖精の住む都リトルミンチにようこそ……

 

 エリムの家、そこで話をする事になった。

 ハンクは椅子に腰を下ろすないなや、質問をぶつけた。

 しかし返ってくる言葉は全く知らない単語ばかりであった。

 そして話はピコに移った。

「あなたは、確かにこの世界の住人です。でも、成長してないところを見ると小さい頃から別の世界、あなた達の世界にいたのでしょう。この世界にいれば、1、2年もすれば私のように成長しているはずです」

「………」

「ピコ…あなたに言うのは過酷なのはわかっていますが、あなたはこの世界で過ごすのは無理でしょう…」

「……………」

 ピコは黙って話を聞く。

「あなたは、長くそちらの世界にいすぎたのでしょう。力を失っています」

「…力??」

 一同はピコを見た。

「私達には、互いに言葉を発することなく意思を疎通させる事ができます。それは生きる上では“合理化”と呼ばれるのでしょう…」

「………」

「それができないあなたは、この世界では暮らすのは難しいでしょう」

「……かまいません。私の故郷はあっちの世界だと思っています。私はあっちで生きていくつもりです」

 ピコの決心に胸を打たれたエリムはそっと彼女の頭をなでた。そして今度はカイエンに話が移った。

「……あなたは、不思議な目をしていますね?まるで、なにか瞳の奥に閉じこもっているような…」

「そうかな??」

「彼、記憶をなくしちゃったんだ。どうにかならないかな?」

「そうですか…。私の力で彼の意思・記憶を読んでみましょう。よろしいですか??」

「お願いするよ」

 そう応えると、彼女は目をつぶり集中し始めた。

 

 2、30分が過ぎた時、やっと彼女が目を開け、口を開いた。

「……あなたの記憶は、あなた自身が封じ込めた物です。それはとても堅く垣間見る事はできませんでした」

「そうですか……」

 がっかりしたような態度を見た彼女はさらにこう加えた。

「本当に記憶を取り戻したいのであれば、ドルファン王国という国に行ってみてください。そこにカギがあるはずです」

「………」

 彼女はさらに強い口調でこうも加えた。

「あなたは、自分で記憶を封じ込めるという事をしたのですから、以前の記憶には余程の事があったのでしょう。中途半端な覚悟なら、記憶は取り戻さないほうがよいでしょう」

「……そうですか…」

 彼は気のない返事を返した…。

「まあ、今日は休んでください。ゆっくりと…」

 彼らはエリムの言葉に甘えさせてもらう事にした。みんな頭を整理したかったのだろう。各自個室を借りて、その日は過ぎていった。

 

 

───翌朝───

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 三人とも目が少し赤い。きっと遅くまで考え事をしていたのだろう。一番始めにカイエンが口を開いた。

「…俺、決心した事があるんだ…。すぐにでもドルファン王国に行ってみようと思う」

「そうですか……。あなた達は?」

 するとハンクは答えた。

「僕はもう少しここで勉強したい、この世界は平和な世界だ。この世界で学んだことを僕らの世界で生かしたいんだ。こちらの世界が許す限り……」

「ええ、かまいません。あなたの世界のバランスを崩さない程度に、知識を与えましょう」

 後に彼の学んだことは、今、乱れている世界に急速に必要とされていることばかりであった。

 そしてピコはこう返事を出した。

「私は……私も自分が故郷と思う世界に帰ろうと思います」

「そうか…ピコと別れるのは辛いけど……ピコ、カイエンの事頼んだよ。まだ彼の知らない事がいっぱいあると思うから……」

 ハンクは話している最中につい泣き出してしまった。それを見たピコはこう言った。

「ハンク…私達きっとまた会えるから…。その時までに、その泣き虫なのと気の弱いとこ直しておきなよ…」

「…ああ、きっとまた会おう。いや必ず会いに行くよ」

「ああ、そっちも頑張れよ!!ピコ、これからも頼むよ」

「まっかしときな!!」

 友情を確かめ合った3人。新たなる道が見える。そこを振りかえらず進むことを決意した。

 

「では、私があなた達の世界まで送りましょう…」

「はい、お願いします!!」

 カイエンとピコは声をそろえた。

「では、お気おつけて……」

 彼女が両手をふりかざすと、一瞬で二人をまばゆい光が包みこむ。
 
 そして彼らは異世界を後にした。

 

 彼らを見送った後、その場にはハンクとエリムがいた。

 彼らがいなくなった途端、彼女は涙を流し始めた…

「!!どうしました??」

 彼女は涙をふきながら答える。

「カイエンの…あの方の記憶はあまりに悲しすぎます…」

「えっ!?見えていたのですか?」

 驚いた様にハンクは彼女に言ってみるが、彼女の涙は一向に止まらなかった。

「ええ。あのような事があれば…人は辛くて生きていけないでしょう」

「……そうなんですか…。でも僕は信じてます。彼ならきっと、その記憶に流される事なく生きていけるって」

「ええ、私も信じております。彼に降り注ぐ“復讐”という牙の試練に負けない事を…」

 進もうとしている道が茨の道であろうと、彼は進んでいくだろう。きっと…。

 二人は彼らのいなくなった後も、そこで彼らを見守りつづけた…。

 風がやさしく吹き渡るその地で…。

 

 

「本船はまもなくドルファン港に到着します。入国審査が……」

「ようやく、ドルファンについたね…」

 

 D.26年。

 …6年ぶりに彼はこの地へ帰ってきた…。

 誰かが彼を迎える事はなくても、風は彼に“お帰り”とばかりに、優しく吹いていた。

 

 ……誰かの祈りを届ける様に……
 

続く…


<あとがき>

 

 やっと2話が終了しました。あらかじめ3話から本編キャラ登場と予告してしまったので強引に2話終了しました。

 皆さん気付いたでしょう。適度にRの内容も入れてみたいなあ、とかねがね思っていたため、強引に入れました(省略しまくりで)。

 これからやっとゲーム本編にリンクします。一気に6年も過ぎた事は大目に見て下さい(どうしても、早く本編キャラを入れたかったので…)。

 

 これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

 

ブッシュベイビー


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