遥か北方の地。
キィィィィン!
剣の煌きの音が戦場に鳴り響く。
この地球上でもっとも大きい大陸・ユーラシアの北の地、シベリアにおいてその音は絶え間なく響き渡る。人の断末魔の叫びとともに。シベリアの戦場ではおびただしい血の跡、死体がいくつも存在していた。そして戦いは終局へと向かっていた。
しかし、戦いはまだあらゆる場所で続いていた。その一つの場所で不意に疾風が吹いた。その風は人々の戦いの間を縫って移動する。疾風は不意に止まった。それは人間だった。一人の人間がまるで風のように動いたのだ。その疾風の軌跡の近くにいた兵士達は刹那、がたっとくず折れた。倒れた者達の体からは多量の血が噴出されていた。一瞬にして絶命する。それを成し遂げた人間は剣を下ろしそ
こに立っていた。鋭い眼差し。血を浴びた鎧。血塗られた剣。彼は傭兵だった。
彼の目的はただ一つ、全欧圏最強と謳われる「十三騎将」と戦うこと、それだけだった。
ふと彼は気配を感じ、上を見た。刹那、彼の視界の中に人影が写った。その人影は剣を振りかぶっていた。
「はああああ!」
「!!」
人影は剣を振りかざして急速に落下してくる。落下スピードを剣撃にのせれば、その威力は倍増する。彼から見て人影の剣筋は綺麗に見えた。
(剣の腕はかなりのものだな…)
彼はそう感じた。だが彼はその剣を紙一重でかわす。彼は気配で剣の動きを感じ取る。着地した人影はすぐさま剣を自分の方へと突き出してくる。が、彼は人影の剣撃を避けながら、体を半回転させ薙ぎ払おうとする。
「はあっ!」
人影はそれをギリギリで避けきれなかった。胴に斬撃の跡が残る。
「ちぃ!?」
彼と人影が間合いをあけて剣を構える。そこで初めて彼は人影の様子を知る事が出来た。全身に赤い鎧を身にまとっている。彼は頭に一つの単語を浮かべ、それを口に出した。
「十三騎将……。そのうちの一人か」
人影の顔が微笑する。
「俺達を知っているようだな」
「赤い鎧を身にまとい、この戦いに参加しているものはお前達だけだからな。それに似たような奴とはさっきから幾度か戦っている」
彼が答える。
十三騎将とは欧州の国の一つ、永世中立国「スィーズランド」に籍をおくデュノス=ヴォルフガリオを隊長とする傭兵騎士団「ヴァルファバラハリアン」の各大隊を指揮する騎士の総称である。現在十三人いるのでそう呼ばれている。またそれぞれが別名を持っていて「破滅のヴォルフガリオ」、「幽鬼のミーヒルビス」等と呼ばれ、全欧最強をいわれている。彼はそのうち既に数人を倒していた。
「……まさか、俺達がその数を減らすとはな」
「ふん、自惚れが過ぎたようだな?上には上がいるということを覚えておけ」
彼は不敵に笑う。人影がそれに対し言い返す。
「そういう割には傷を受けている様だが?」
「それなりには強かったと言う事だ」
チャキ……
人影が剣を構えなおす。
「……そうかい!!」
人影が右上から剣を振り下ろしてくる。
キィィン!
彼はそれを自分の剣で受け止め、はじく。そしてそのまま剣を返し、右下から薙ぎ払う。
「…くっ!」
今度は人影がそれを受け止める。
ギリギリ…!
二つの剣が、刃が拮抗してうなりを挙げる。が、人影の剣は再び彼によって弾かれた。彼は1歩前に踏み出し、斬撃を繰り出す。人影に見事にヒットする。血が噴出する。
「ちぃっ…!」
(ふん…)
彼は顔に笑みを浮かべる。
二人は再び距離を置いて剣を構える。
(…こいつ、強い!俺の攻撃を弾き返すとは…)
「ふっ…そんなものか、貴様の力は?」
「なにっ!!」
「最強といわれた十三騎将も、所詮この程度か」
彼は再び微笑する。次の瞬間、人影は剣気を発しながら左上に剣を構えなおす。
「なら、これでどうだ!!くらえっ!!」
「!?」
人影は彼に向かって突進しながら一撃必殺の斬撃を左斜め上段から放った。その一撃は剣気によって光輝き、衝撃波を起こしながら彼を切り裂こうとする。
「くぅ!」
彼はなんとかかわし、直撃は免れたが衝撃波による傷を体に受けた。彼の感が強力な攻撃を放ち、一気に勝負を決めるべきだと訴えていた。
「…飛天相馬流、飛天昇龍斬!!」
彼は攻撃に耐えきり間髪入れずに下から上へと剣を信じられないような速さで薙ぎ払った。彼は普段、昇龍斬として下から上へと剣を薙ぎ払い滞空迎撃などに使用する。だが薙ぎ払うスピードを最大限に発揮した時、それは強力な必殺技へと変化する。それがこの飛天昇龍斬である。人影は必殺の一撃を放ち、一瞬の隙を作ってしまっていた。この攻撃をまさかかわされるとは思っていなかった。普通ならば、この攻撃をかわせず既に絶命している。だが彼は攻撃に耐え、その隙を突いて自分の技を人影へと叩きこむ。彼の攻撃は確実に人影を捉えていた。人影は直撃をくらった。その時初めて人影は彼が何者かであるかを理解した。覚えがある。どこかで聞いた事がある。
『…飛天相馬流』
(こいつは…!)
思い出した。飛天相馬流。東洋人傭兵。
「ぐは…!!ばかな…貴様まさか、光速の…獅子かっ…!!」
人影は衝撃を受け宙へ舞い、地へ落下する。その時には既に命はなかった。
「どうやら、俺の呼び名をしっていたようだな…」
彼が命の火が消えた肉体に対し呟く。彼の戦場での呼び名は『光速の獅子』。彼はそう呼ばれ恐れられていた。人並み外れた速さ、強力な攻撃能力によって無類の強さを誇っていた。
「ふん…まあまあだったな。だがその程度の力ではこの俺は倒せん」
彼はそう言い放った。
だがそんな彼も戦いにより体力を消耗し、傷の数を増やしていく。
「ち。あとどのくらいだ………?ん……」
その時彼は不意に前方に存在する、不気味な気配に気づいた。鎌を手に持ち赤い鎧を身にまとう長い白髪の老人。
「死神か…………?」
彼が老人に対して感じた第一印象だった。彼は不意に老人の気配の変化に気づく。
「攻撃だと!ちぃっ!!」
老人は鎌を振り下ろした。その瞬間、凄まじいまでの衝撃波が巻き起こり彼へと一直線に向かってくる。その衝撃波は…まさに死へと誘おうとする死神の鎌。彼は持ち前の直感力と判断力で紙一重の差でその不意打ちを左へ体を瞬時に移動させてなんとか避ける。だが刹那、彼は酷い後悔の念に襲われた。右の方から感じる嫌悪感。振り向くとそこには横に斬撃を薙ぎ払う、仮面で顔を隠した赤い鎧に
身を包む巨体の戦士がいた。彼の頭に不意に一つの通り名が思い浮かぶ。
(破滅の…………ヴォルフ……ガリオ!?)
その斬撃が彼の血と体力を奪い去る。空中にまだ後が残っておいるうちに、ヴォルフガリオは更に剣を振りかぶる。体に似合わぬ素早い攻撃。
「…………滅せよ!!」
ヴォルフガリオの発した言葉と同時に、縦に斬撃が繰り出される。二つの斬撃の跡が空中に十字架を作り出す。そして同時に巻き起こる嵐のようなヴォルフガリオの剣気。それを彼はかわす事は出来なかった。
「がはっ……!!」
………………そして、そのままその戦いは終結した。
彼は大量の血を流し、その場に倒れていた。
(…シュウジ、シュウジっ!?大丈夫!?)
遠くから声が聞こえてくる。彼はかなりの重体だったが、まだ微かに意識があった。うっすらと開いている目を声のしてくる方向へと向ける。向うから飛んでくる小さな妖精。自分にしか見えない数年来の相棒。
(……ピ…コ…か…?)
その瞬間、彼は意識を失った。ピコが悲しみに満ちた声で一生懸命彼に呼びかける。
(ねえっ!シュウジ、ねえってば!起きてよ、シュウジ!!)
その時彼の友人の一人が近付いてきて、彼の様子に気づく。友人はすぐさま彼を抱え運んで行った。
後の世に記される『シベリア戦争』。その戦いはここに終結した。
欧州・ドルファン王国暦D26年より昔の出来事である。
この後、十三騎将は八騎将として名をはせることになる。
そして、彼の名は「シュウジ=カザミ」といった。
<あとがき>
こういうのは初めてなので、文章が下手だったりするかもしれませんがよろしくお願いします。
主人公についてはあとがきの部分でおいおい話して行こうかなと思っています。とりあえず実家に帰ったらしばらくネットが出来ないのでその前になんとか次の話を送ることが出来れば…。
というか話をほとんど忘れている…。
大丈夫か、俺?