序章・中編「牙を折られた獅子」


シュウジは運ばれた病院のベッドでずっと眠っていた。

シュウジはその安らかな眠りの中で夢を見ていた。それは昔の記憶…。

 

少女と自分がいる。だが夢の中のシュウジは今よりも少し幼い。少女が自分に微笑みかけてくる。シュウジも彼女に対し微笑む。今の自分からは考えられないような微笑みだった。もう何年もこんな笑顔を浮かべた事はない。

(フィー……ネ…)

彼は少女の名を呟く。だが突然、炎が燃え盛り二人はそれに囲まれる。そして少女・フィーネとシュウジの間にも炎がまるで二人を遮るように壁のように噴き出す。その瞬間、フィーネは悲しい顔を浮かべながらシュウジから遠ざかって行く。シュウジは彼女を助け出そうと一生懸命叫ぶ。その時のシュウジは少し成長した姿だった。

(フィーネ!!行くな、フィーネッ!!)

その叫びとともに、フィーネの目から涙が零れ落ちて行く。

 

いつの間にか夢の中の叫びは現実のものとなっていた。

「……ネ!フィーネ!!」

ピコが気づき、シュウジを呼び起こす。

『シュウジ、シュウジ!!』

「はっ!」

シュウジはピコの声で目を覚ます。

「ピコ…?」

ピコの顔が喜びで満ち溢れた。

『シュウジ!やっと目を覚ましたんだね!!』

シュウジは周りを見渡した。

「ここは…」

白い壁。左手に窓。右手にドア。独特の匂い。シュウジはここが病院の一室だと気づく。

「確か…俺はあの時…」

『キミはあの戦場で血塗れで倒れてたんだよ。そしてこの病院に運ばれて、今目を覚ましたんだよ。ほんとよかったよ、このまま起きないんじゃないかと心配だったんだから』

「そうか…すまなかったな、ピコ」

シュウジは素直に礼を述べた。今ピコを見ることが、話せる人間はシュウジししかいない。つまりシュウジが気を失っていた間、ずっと一人だったことになる。その間、ピコがどんな状況に陥っていたか、シュウジには想像できない。ただ考えられる事は寂しかっただろうという事だけだった。

『もう、心配させないでよね…』

ピコが悲しそうにうつむく。

「…お前でも悲しむことがあるんだな」

その様子がシュウジには何故かおかしく感じられ、ついピコをからかってしまう。ピコはそう言われてカチンと来た。

『もう!せっかく心配してあげたのに!!そんな事言わなくたっていいじゃない!!』

「…悪いな。ほんの冗談だ」

『ふん!』

ピコが怒ってそっぽ向く。

コンコン…

その時だった。病室のドアが叩かれる音がした。そしてドアが開き、人が入ってくる。

「シュウジ、目を覚ましたんですね」

シュウジの知り合いの傭兵仲間、シオン=グランフォートだった。

「…シオンか」

シオンがシュウジに質問する。

「話し声が聞こえたような気がしたんですが?」

「気のせいだ」

シュウジはピコの事を隠し、そう答える。

だが、シオンはたいして気にもとめてないようで、「そうですか?」とだけ答えた。

「あなたほどの男が寝込む事になるとは思いませんでしたよ」

シオンが少し微笑みながら言う。それを聞いてシュウジはあの日の事を思い浮かべてみた。老人の放った衝撃波を避けた後に十字架の斬撃の直撃をくらった。それを放ったのは確か…破滅のヴォルフガリオと呼ばれる男だ。

するとシュウジは重要な事を聞くのを忘れていた事に気づく。

「おい…シオン、俺はどのくらい意識を失っていたんだ?」

「そうですね…だいたい3日間くらいってところですかね」

「3日間か…」

「ええ、相当なダメージだったようですよ。まだ…体が動かないでしょう?」

そう言われシュウジは体を動かそうとする。だが体は鉛のように重く、動く気配すらしない。

「……どうやらそうみたいだな。動かそうとしても全く反応しない」

シュウジが呟く。

「それに…」

シオンは深刻な顔を浮かべ言い放つ。

「特に右腕のダメージが大きかった様です…。骨は折れ、神経はズタズタ。回復には他の個所に比べ数倍の時間を要するそうですよ…」

「……そうか」

シュウジはただそう言っただけだった。

だが彼の心の中には絶望という暗雲が立ちこめていた。右腕が使えないということは、右利きの彼にとって衝撃的だった。戦う力が無に帰したようなものだ。

(く……)

彼は心の中でそう、うめいたのだった。

 

シュウジは再び戦場に、戦うために懸命にリハビリを続けた。更には左手で剣を扱う訓練もした。右手がしばらくの間使えない以上、左手で戦うしかない。シュウジにはそうしなければならない理由があったからだった。

 

ある日の深夜の事である。

シュウジはベッドから立ちあがり、置いてあったあの戦争で折れてしまった剣を左手で手に取った。上段から振ってみる。

だが、勢いがない。次に右手で振ろうとして、持ちなおそうとした。しかし、

カラン……

折れた剣は虚しく地に落ちるだけだった。

「くっ……!!」

彼は壁を左手で思いっきり叩いた。悔しさをぶつける様に。

 

そして、それからしばらくの時が流れていった……。


<あとがき>

 

まさか一ヵ月半も経ってから送ることになるとは…。つーか前のパソコン壊れた(爆)

なんか時代は移り変わってるなあ…

そーいえば、みつめてナイトまたやらないとな…。続き書けなくなっちゃうジャン(爆)

ではでは〜


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