不意にシュウジはある人物に酒場で待つよう約束を取りつけられた。日が暮れ、夜になり、シュウジは酒場へと足を運んだ。その人物は既にカウンターで酒を飲んでいた。彼は近寄ってくるシュウジの気配に気づく。
「よう」
カウンターのイスに腰掛けていた彼はシュウジに声をかけた。だがシュウジは何も答えず、彼の隣のイスに腰をかける。
「用件はなんだ?簡潔に言え」
シュウジの変わらぬ態度に、彼は腹を立てながらも安堵していた。
「ふう、相変わらずだな。でも安心したぜ。………これからの八騎将の動向についての情報を入手したんだ。聞きたいか?」
「!!……本当なのか?それは」
自分にとって忌まわしきその言葉を彼は久しぶりに他人の口から耳にした。彼はそのまま話を続けた。
「彼らがスィーズランドに籍を置いているのは知っているな?あそこのトラキア半島で戦争が起きているのは知っているよな?」
「ああ。何かで聞いた事がある」
「プロキアとドルファン王国の戦いだ。ヴァルファはプロキアに雇われていた。だが、プロキアで内乱が起きた。その結果、プロキアはドルファンから手を引く事にした…が、ヴァルファは自らの意志でドルファンとの戦争を継続する意向を示した…。そこで今ドルファン王国ではヴァルファを排除する戦力を確保するため、傭兵徴募をやっているんだ。実はな、俺もちいとばかし、ドルファン王国の王様の側近・アナベル=ピクシス卿およびピクシス本家について調べるよう命令を受けてんだ。それでこれを利用してドルファンに入国しようと考えているんだが」
彼はフリーでこのようなことを専門で受け持つ仕事をしていた。もちろん、こんなことをするからにはそれなりに腕も立つ。
「お前、この前左手も剣が扱えるようになったと言っていたな」
「………ああ、そこそこだがな」
「どうだ?右腕のリハビリも兼ねて、勘を取り戻すために俺と一緒にドルファン王国に行ってみないか?しばらく戦ってないし、金も減ってきてるだろ?それにあそこは傭兵だろうと活躍次第では誰でも出世できるっていう話だからな。上手く行けば『聖騎士』にまで行けるかもしれないぞ」
「…………」
「お前は強い奴と戦いたいんだろ?行けば八騎将といやでも戦うことになるんだぜ?しかもヴォルフガリオに借りを返せるかもしれない。…いい話だと思うけどな?」
話を聞いてシュウジはしばらく黙っていた。彼もそのまま口を閉じ、頼んであった酒を飲み始める。そして、そのまま時間が過ぎていった。
やがて、シュウジは改めて口を開いた。
「出世に興味はない。が……いいだろう、その話乗ろう」
「へっ、そうこなくっちゃな。出発は一週間後。荷物まとめておけよ。……それじゃ改めてよろしく、シュウジ=カザミ」
「……こっちこそ、アレス=ラインハート」
二人は不敵な微笑を浮かべ握手した。
次の日、シュウジは一つのなじみのある鍛冶屋に寄った。扉をコンコンと叩いた。
すると、扉をガチャッと開けて一人の女性が顔を出してきた。ここの主人の妻だった。
「あら、シュウジさん。主人なら仕事場で休んでいますよ?」
「頼んでおいた剣を貰いに来たんだが……」
「あがってくださいな。どうぞ?」
「すまない」
シュウジは家にあがり、主人がいる仕事場の方へと向かった。シュウジはいつもここの主人に剣の整備を頼んでいた。自分愛用の剣が折れてしまうといつも主人に頼んでいたのだ。シュウジは主人の腕の良さを知っていた。この前のシベリア戦争の折に剣は折れてしまったので、シュウジは主人に新しい剣を作ってもらうよう頼んであったのだ。主人はシュウジのことをえらく気に入っていて、シュウジに納得がいくまで剣を打たせてもらっていた。そしてつい最近、一品出来あがったと連絡が入ったのだ。シュウジはそれを取りに来たのだった。主人は仕事場の方で煙草を吸いながら一休みしていた。そしてシュウジが入ってくるのに気づいた。
「おう、おまえさんか」
「剣の方はいいのか?」
「ああ、ほれ、そこに飾ってある奴だよ。持っていっていいぞ」
「ん……これか?」
そう言ってシュウジは壁に飾ってある一本の見覚えのある鞘に入った剣を手に取った。そして、剣を引き抜いてみせる。それを見て主人はニヤリと顔に微笑を浮かべる。
「いつも通りの東洋の太刀だ。どうだい?」
「これは……!」
窓から差し込んでくる太陽の光に照らされて裸にされた刀身が光り煌く。その刀身はあまりにもシュウジにとってまぶしいものだった。その精巧さ、鋭さ、剣に込められた思いを感じ取り、シュウジは剣を振ってみせる。鋭く空気を切り裂く音が聞こえる。
「……すごいな。一目で気に入った」
「へへ、そうだろう?なんか適当に銘でもつけておいてくれ」
「考えておくよ」
「だが、それを取りに来たという事は………また戦いに行くのか?」
「ああ…。欧州のドルファン王国へ出向く。戦争が始まるらしくて傭兵を募集している。それに行くことになった」
「そうか…。だが、まだ怪我は完全に完治していないんじゃないのか?」
主人はシュウジに怪我のことについて聞いた。それに対しシュウジは笑みを浮かべながら答える。
「俺がいくら右腕を使えないからって、そう簡単に死んだりしないさ」
シュウジは受け取った剣を鞘に入れたまま左手で構えてみせる。
「俺は…『光速の獅子』と呼ばれていた男だ」
「…どうやら、いらぬ心配だった様だな。………行って来い、また顔を見せてくれよ」
「ああ。邪魔したな」
シュウジはそう言って去っていった。
そこに妻が飲み物を持ってやって来た。
「あら?もう行ってしまったんですか?」
「あいつもあれでなかなか忙しい様だな」
主人は妻の持ってきた飲み物を口へ運びながらそう答えた。
一週間はあっという間に過ぎ去った。
二人は馬車を出発させて港へと向かい、そしてドルファン行きの船に乗りこむ。そこには二人が見知った顔の人物も乗っていた。
「シオン?お前も行くのか?」
「私も傭兵ですから。アレスさんから話を聞いて、行く事にしたんです」
「またこの3人だ。よろしくなシュウジ?」
「…ふん」
シュウジはそっぽ向いた。
「やれやれ、素直じゃないねえ」
アレスはそう言って船内へと歩いて行った。
(……ヴォルフガリオ。この傷の借りは返させてもらうぜ)
ドルファン暦D.26年3月のことであった。
<あとがき>
今回は主人公達についての紹介を少々。
名前:シュウジ=カザミ
愛称:シュウジ
武器:剣・刀類
誕生日:2月17日
好きな食べ物:肉類
嫌いな食べ物:梅干
流派:飛天相馬流
出身地:日本
身長:176cm
体重:66kg
声イメージ:草尾 毅さん
名前:アレス=ラインハート
愛称:アレス
武器:全般、その中でも槍
誕生日:9月9日
好きな食べ物:特になし
嫌いな食べ物:特になし
趣味:寝ること
出身地:欧州
身長:180cm
体重:70kg
声イメージ:関 俊彦さん
名前:シオン=グランフォート
愛称:シオン
武器:飛び道具類、剣
好きな食べ物:パスタ類
嫌いな食べ物:?
趣味:読書
出身地:欧州
身長:176.5cm
体重:64kg
声イメージ:石田 彰さん
細かな突っ込みは駄目。