ヒュオオオオ……
海から風が吹き込む。潮の匂いを持ってくるそれは街に独特な雰囲気を齎す。それが臨海の国の証。ドルファンという国もそんな国である。地中海に接し、貿易がさかんな国という印象がある。
ドルファン王国は欧州の南欧圏の一部「トラキア地方」の中に位置していた。王国は城塞が存在するドルファン地区、学園や運動公園、ゲートが存在するフェンネル地区、森に囲まれたカミツレ地区、国立公園やロムロ坂があるマリーゴールド地区、港や砲群があるシーエアー地区の五つに分かれている。
ドルファン歴D26年4月1日。
ある一隻の船が入港してきた。ドルファンが戦争を戦い抜くために募集した傭兵の第一群を乗せた船である。その中にはシュウジ、アレス、シオンの三人もいた。
「本船は、ただ今ドルファン港に到着致しました。下船の際には…」
ガイドの声が到着を知らせる。 船が着岸し、乗船していた人々は次々と降りていく。アレスも床に置いていた荷物を左肩に担ぎ、降りる準備を終えて、口を開く。
「ふう…ようやく着いたな、ドルファンに」
「ええ」
アレスの言葉に答えたのはシオンだった。ただ一人だけ、気持ち良さそうに寝ている人間がいる。アレスはその人物に声をかけ、体をゆする。
「さて、下りるとするか…っておい、シュウジ何寝てやがんだ?起きろよ、おい」
シュウジは深い眠りに陥ってしまっていた。
「やれやれ…どうするかな…」
「仕方ありませんね。私たちは先に行く事にしましょう。この辺の事を把握しておかなくてはいけませんから。シュウジは管理局員か誰かが起こしてくれるでしょう?」
「ち、しゃーねーか。行こうぜ、シオン」
「ええ」
そう言って、アレスとシオンはシュウジをそのままにして先に船から降りていった。それと同時にピコがシュウジに寄ってくる。
(やっとドルファンに着いたね…ってもうシュウジまだ寝てるの!?さっきっからずーっと寝てるじゃない!!)
ピコがシュウジの耳元に近づき、大声で叫ぶ。
(こらー!!シュウジ、起きなさいよ!!シュウジってば!起きろって言ってるでしょ!?起きろーー ー!!!)
それによってシュウジがようやく目を覚ます。
「ん…」
シュウジがうめきながら目を開け周りを見渡す。そして目に写ったピコに対し、
「誰だお前は?」
と、冷たく言い放った。
(な…あのね!十年来の相棒に対して『誰だ?』はないんじゃない!?せっかく起こして上げたのに、礼を言われる覚えはあっても突き放される覚えはないわよ!!)
そんなピコの怒鳴り声に対し
「お前は冗談も通じないのか」
と、言い放った本人が突き放すように言う。
(冗談って!!)
「ピコ、降りるぞ」
ピコの怒りの言葉を全て無視し、シュウジはピコに下船を促す。それによってピコの怒りは更に倍増したようだ。
(ちょっと!無視しないで、話を聞きなさいよ!)
その時、ちょうど青い制服を着た赤い髪の女性が近づいてきた。
(…と、誰か近づいてくるよ?)
「あの…恐れ入ります。出入国管理局の者ですが…」
と、女性がシュウジに声をかける。
「…俺に用か?」
「こちらの書類に必要事項の記入をお願い致します」
そういって女性はシュウジに書類を手渡す。シュウジは女性から書くものを借りて書類に必要事項を書いていく。そして女性に渡した。女性は書類に記入された事項をを流し見る。
「えー…貴方は傭兵志願ですね?では書類の写しを軍事務局へ回しておきます」
そう言って、女性は書類を脇へ抱える。そして微笑みながらシュウジを見返した。
「ようこそドルファンへ。貴方にご武運がありますようお祈り申し上げますわ」
女性はシュウジから遠ざかっていった。
「…ご武運か、あればいいがな」
シュウジは憮然として船から降りていった。 港に降り立ち、シュウジは辺りを見回す。
(シュウジ、さっきの人から何か貰ってたでしょ?ちょっと見せてよ)
「ああ」
シュウジは封筒の中身をピコに見せるために書類を出す。
(ん…あったあった、地図。あとは…と)
ピコは書類を順に見ていく。
(とりあえず、宿舎に行かなきゃいけないね。ある場所は…)
シュウジは地図を広げてピコに見せた。
(こっからちょっと行った所だね)
「おい、アレスとシオンはどこに行ったんだ?」
(寝てた君をほうっておいて、降りて行ったよ)
「そうか」
その時だった。
「いやっ!は、放して下さいっ!!」
(あれっ?)
叫び声にピコが気づく。シュウジも気づき声のした方向に振り向いた。 ガラの悪い連中が女の子を取り囲んでいる光景が目に写った。
(女の子がチンピラにからまれてるみたいね…)
「……」
連中の一人の赤い髪を逆立てた男がこちらの視線に気づいたようだ。 シュウジに近づいてくる。
「てめぇ、なぁに見てんだよ文句あるのかぁ、その面はよぉ?」
「……」
(シュウジ、助けないの!?)
ピコの台詞にシュウジは頷いた。
(わかってる、大丈夫だ)
「おい、兄ちゃんよぉ?何とか言えよ!」
男がシュウジに絡んでくる。
「…止めろ」
シュウジが男に言い放つ。
「はぁ?」
「少女に絡むのを止めろ」
男は顔をにへへ…と笑わせて、言い放った。
「東洋人の兄ちゃんよぉ…カッコつけすぎると痛い目に遭うぜぇ…こんな風になぁ!」
と男が拳を振り上げた瞬間、シュウジの拳が男のみぞおちに決まった。
「うげ…!」
男は腰が曲がったままの体勢で地に崩れ落ちる。それを見た他の男たちもシュウジの所へやってきた。
「てめえ、ビリーに何しやがる!」
「ふん…それはこいつに言ってくれ。殴りかかって来たから反撃しただけさ」
「あんだと!」
「こっちの正当防衛だ。貴様らごときにぐだぐだと言われる筋合いはない」
「このやろぉ!!」
ビリーと呼ばれた赤い髪の男の仲間であるらしい剃髪の男と、巨漢の男の二人がシュウジに勢いづいて向かってきた。しかし、シュウジは既に剃髪の男の目の前に接近していた。
「な…!」
男にはシュウジの動きなど見えているはずもなかった。シュウジは左手で男の顔を鷲掴みしてそのまま 背後にあった木箱に叩き付けた。 パラパラ…と木箱が崩れ、剃髪の男がそこに埋もれたまま気絶している。
「弱いな」
「この野郎!」
今度は巨漢の男が手に持っていたチェーンを力任せに振り回してきた。だがその攻撃はシュウジには掠りもしない。
「ちょこまかと逃げやがって!」
「…俺がちょこまか逃げているのではなく、貴様がとろすぎるんだ」
「へん言わせておけば、てめえの細腕で何が出来るって言うんだよ!?」
シュウジの顔が微笑を浮かべる。次の瞬間、シュウジは襲いかかってくるチェーンを左手で掴んだ。
「ぐ…」
ギシギシ…と鎖が唸りを上げている。男は動きたくても動けなくなっていた。
「こ、こいつ…!」
「その細腕に、負けているのは誰だ?」
シュウジが巨漢の男を挑発する。
「こ、この野郎…!」
刹那、シュウジが鎖を自分の方へと引く。と同時に均衡が崩れ、男がバランスを崩す。
「うぉ…」
その瞬間にザッ!とシュウジが男に接近した。そして上に飛び上がり、回し蹴りを男の顔面に直撃させる。 男はそのまま後方へ吹っ飛んだ。
「ふん…」
シュウジは着地して、微笑した。
「くそ…!」
「次から、絡む男を考えるんだな」
男は立ち上がって、起き上がりそうなビリーとまだ気絶している剃髪の男を抱え上げて逃げ去っていった。
「てっ…てめぇ、いつか殺してやる…次会う時は覚悟しとけよっ!」
何時の間にか回復していたビリーの捨て台詞だけがその場に残った。だが、抱え上げられた状態で言ったのでかっこ悪さだけがより際立っていた。
「ふぅ…」
シュウジが一息吐いた時、少女が近寄ってきた。
「あ、有難う御座いました…」
少女がシュウジに礼を述べる。
「気にするな…ただ、少し気になっただけだ。…それより、怪我はないか」
「あ、いえ…大丈夫です、お蔭様で」
シュウジもぱっと見たが、確かに怪我はなさそうだった。
タイミングも良かったのだろう。少女には全く被害がないようだった。
「あの…改めて御礼に伺いたいので、せめてお名前だけでも教えて頂けますか?」
少女が名前を尋ねてくる。だが、シュウジは何も言わなかった。その沈黙を少女は自分が名前を教えてないからだと思ったようだ。
「あ、すいません…私、ソフィア・ロベリンゲと申します」
と自分の名前をシュウジに教えた。だが、それでもシュウジは黙っていた。
(ちょっと、シュウジ何か言いなさいよ)
「…シュウジ」
「え?」
「シュウジ=カザミだ」
ソフィアの顔に、パァっと笑みが広がる。
「シュウジさん…素敵なお名前ですね。いずれ改めて御礼に伺います。今日は助けて頂いて本当に有難う御座いました。では、急いでいますのでこれで…」
ソフィアは恥ずかしそうに頬を赤らめ、立ち去ってしまった。 ピコの冷やかしが聞こえる。
(カッコいいね〜女の子なんか助けちゃってさ!よっ、色男!)
「お前が『助けないの?』と言ったんだろうが」
(じゃあ私が言わないと助けなかったの?)
ピコが変な笑みを浮かべてシュウジに言った。
「…そういう事じゃない」
その時、ちょうどアレスとシオンがやって来た。
「お、やっと目を覚ましたみたいだな」
「よく眠る人ですね、あなたは」
アレスとシオンが口々にシュウジをからかう。
だがそれをシュウジが意に介する様子はない。
「どこ行ってたんだ?」
「ま、その辺をちぃとな」
「シュウジ、宿舎は向こうのほうにありましたよ。では行きましょうか、日も暮れそうですし」
「わかった」
シュウジはアレスとシオンに付いて行った。
シュウジは飯をアレス、シオンと一緒に食べて宿舎の自分の部屋へと戻ってきた。 荷物は既に最初に来た時に部屋に置いてある。 部屋にはベッドに、机、タンスと一般的な家具はちゃんと揃っていた。いろいろ物が置けそうな棚もあった。また、それなりに綺麗な壁だった。
(まあまあの部屋じゃない?結構長い間お世話になる部屋だから、これ位じゃないと)
初めてここに着いた時、ピコが部屋の感想をそう述べていた。それなりに綺麗な部屋らしい。 ピコが口を開いた。
(さぁて…っと明後日から養成所通いだよ。なまった体を鍛え直さなきゃ!それに、この国じゃ傭兵だって聖騎士になれるぐらい出世の道が開かれてるんだから頑張って手柄を立てなくっちゃね!)
「別に。前に言ったはずだ、俺は借りを返しに来ただけだ。全て終われば国を出る俺には関係のない事だ」
シュウジはそう言ってベッドに入る。
(でもさあ…ちょっとぐらい欲があっても、バチは当たらないんじゃないのかなあ?)
しかし、シュウジから返答はない。
(って、ちょっと!シュウジ、人の話ちゃんと聞いてる!?)
怒鳴ってピコがベッドに入ったシュウジを見に行くと、耳に聞こえてきたのはすこやかな寝息だった。
(え…もう寝ちゃったの!?)
既にシュウジは目を瞑り、気持ち良さそうに眠っていた。
(寝付き早すぎよ、シュウジ…)
それを見て、ピコは呆れた。
<あとがき>
レポートたくさん、実験夜遅くまで、ゲーム溜まって、あーららこららと何もやらない内に時が過ぎてしまったような…。
久しぶりの投稿です。やっとソフィアが出たよ…感激。次はジョアンだな(爆)。
ピコ以外(?)のキャラクターを書く時は一応頭の中で声をイメージして(前の後書き参照)台詞を考えているのですが、なかなか…。
さて2話はいつ出来るのでしょう?ソフト溜まってる〜10本くらい(爆爆)多分、数ヵ月後に出来ると…いいな♪てへ♪