第三話「安らぎの時」


シュウジは宿舎のあるシーエアー地区から離れたカミツレ地区へと来ていた。

高原で仰向けになってしばらく寝っ転がっていた。

「フィーネ…」

シュウジは何気にそう呟く。

いつも頭の中から離れない。彼女の事が。

彼女が走っている姿が目に浮かぶ。自分を見ながら。

(何故だ?)

そう思う。彼女を頻繁に思い出すようになっていた。一時期は思い出す事が無くなっていたのに。たまに思い出す程度になっていたのに。

(この国に来てからだ)

そう考える。刹那、

「シュウジ、奇遇ですね」

不意に声をかけられて、シュウジはそばに立っている人物に気づく。

「……シオンか」

シオンがシュウジの隣に座る。

「どうしたんです、こんな所で」

「お前こそ、何故ここにいる?」

「別に意味はないですよ。ゆっくり休めるところを探していたら、ここにたどり着いただけです」

「……そうか」

高原を風がさあっと吹きぬけて行く。

(気持ちいいな…)

シュウジは素直にそう感じていた。

「いい風ですね」

「そうだな…」

シオンの呟きにシュウジが答える。

「さて…、俺はもう行く。お前はどうするんだ?」

シュウジの問いにシオンが答える。

「私はもう少しゆっくりしていきます」

「そうか。じゃあ、また後でな」

そう言ってシュウジはその場を後にした。

シュウジが視界から消えるのを待ってシオンはしゃべった。

「フィーネ…ですか。あなたは彼女のことを誰にも話さない。…話そうとしない」

 

 

シュウジはなんとなくマリーゴールド地区へと足を運んだ。

ロムロ坂を南下する。けっこう人がいるのを見て、

(人ごみは苦手だ)

シュウジは足早に抜けようとした、その時だった。

「あら…?シュウジさんじゃないですか?」

不意に呼びとめられる。シュウジが振り向くとそこには四人の少女がいた。声をかけてきたのはソフィアだった。

「あ、お兄ちゃんだぁ〜」

「よ」

「また会ったね」

他の三人も順々にシュウジに声をかける。そして少女達が気づく。

「…みんな、どうしてシュウジさんのこと知ってるの?」

「あれ〜、お姉ちゃんたち…お兄ちゃんと知り合いなの?」

「なんで皆シュウジの事を知ってるの?」

「どういうことなんだ?」

遅れてシュウジが、

「…お前達か」

とそっけなく答える。その返事を聞いてその中で1番長身の金髪のロングヘアーの少女―レズリー・ロピカーナが口を開く。

「ふう…やれやれ。相変わらずだね、あんたも」

そのセリフを聞き、シュウジはアレスを思い出した。

(…あいつにも同じ事を言われたな)

「あんた…足早に去ろうとしてただろ?人ごみは苦手なのかい?」

同じ少女にそう言われ、シュウジは素直にうなづく。

「…ああ。まあな」

「でも、せっかくですからどこかで休みませんか?」

ソフィアが提案する。

「あ〜、それ賛成!いいでしょ、お兄ちゃん!!」

「そうだよ。久しぶりに会ったんだしさあ」

1番背の小さい女の子―ロリィ=コールウェルとショートヘアが良く似合う少女―ハンナ=ショースキーもソフィアの提案にうなづく。

「しかし…」

「ま、いいじゃないか。行こうぜシュウジ」

だがレズリーに反論の機会を潰され、シュウジは無理やり連れて行かれていく事になった。

 

 

(…どうして、こんなことになっているんだ?)

シュウジは自分に問答する。だが、答えが浮かぶはずもなかった。シュウジ達はロムロ坂沿いにある喫茶店に入っていた。1つの円く白いテーブルをかこみ、シュウジとソフィアとレズリー、ロリィ、ハンナが座っている。彼女達は楽しそうに談笑している。シュウジは目の前にある飲み物に手をつけた。

(意外にうまいな)

そう思いながらシュウジは飲み続ける。

「…でも、皆シュウジさんのこと知ってたなんて」

「ボクもびっくりだよ。なんで皆言わなかったの?」

「誰もそんなこと言わないだろ?」

「ねえねえ、ソフィアお姉ちゃん達はどうしてお兄ちゃんと知り合ったの?」

「私は…港で絡まれていた所をシュウジさんに助けてもらったんです」

「絡まれてただって?…そっか、危なかったな」

「ええ。シュウジさんにはお世話になりました」

「…別に気にする必要はない」

シュウジは言った。

「ボクは遅刻しそうだったから学校の向かいの塀を飛び越えた時にシュウジとぶつかっちゃたんだ。その時知り合ったんだよ。ごめんね、シュウジ。あの時はさ」

「別に気にする必要はない」

「ロリィはねえ、怖い犬に吠えられてた時に助けてもらったんだあ。お兄ちゃん、あの時はありがとう!」

「あたしもその時一緒だったんだ。シュウジがこの子に何かしようとしてたのか勘違いしちゃったけどな。…悪かったねシュウジ」

「別に気にする必要はない」

3度目の同じ返事を聞き、レズリーが溜息をつく。

「ふう…あんた、そのセリフ3度目だよ?他に言い方ないのかい?」

「………」

シュウジが無言になる。

「ねえ、シュウジ無口になっちゃって。なんか喋ってよ」

「シュウジはもともと無口なほうだったろ?出会った時もそうじゃなかったか?」

「…あは。そうだった、そうだった。必要最低限のことしか話さなかったもん」

「…余計なお世話だ」

ソフィアがフォローに入る。

「まあまあ…。あ、そういえばシュウジさんって、東洋の…方ですよね」

ソフィアがシュウジに問い掛ける。

「?ああ、そうだが?」

「だったら、向うの方のお話って聞かせてくれませんか?いろいろ知りたいですから」

「そうだな。教えてくれよ、向うの事」

「ロリィも聞きた〜い!」

「ボクも興味あるなあ!」

シュウジは少し悩んだが、

「…まあ、いいだろう」と言って彼女たちに話すことにした。

 

 

「……私たちのところは大分違うんですね」

「ああ。そうだな」

「でも、シュウジはあまり不慣れな感じがないな。どうしてだい?」

「……俺は小さい頃から師匠と一緒にいろんな所を周っていた。また、傭兵という仕事は世界中を周ることになる。だから、昔からいろんな文化にふれる機会が多かった」

「なるほどね…」

「へえ〜お兄ちゃんっていろんな所回ったことあるんだ〜、すご〜い!」

シュウジは彼女達といろいろ話している事を不思議に思っていた。

(…こうして女性達と話すのは久しぶりだな。…あいつが死んで以来か)

シュウジは一人の女性を思い出す。フィーネを。

(彼女達が少し強引なせいもあるが)

シュウジがふっと笑う。ソフィアがそれに気づく。

「……どうしたんです、シュウジさん?笑ったりして」

「大した事はないさ…」

「?」

その時、シュウジは不意に声をかけられた。

「…シュウジじゃねえか。珍しいな、お前とここで会うなんてよ」

喫茶店の外からだ。聞き覚えのある声だった。

「…アレスか」

アレスが喫茶店の囲いの外からシュウジに向かって声をかけていた。シュウジの周りを見渡して、微笑する。

「…ほんと、珍しいねえ。シュウジがこんな美少女達と会話してるとこなんてなかなか見られねえからな」

「お前はここで何してるんだ」

「ああ、ちいと一仕事終えてな。一休みしようとしてたところだ」

ソフィアがシュウジに話しかけてくる。

「あの…シュウジさん、この方は…?」

「俺の傭兵仲間のアレス、アレス=ラインハートだ」

「よろしく、嬢ちゃん」

「は、はい…」

ソフィアは少し苦手な様だった。シュウジは他の少女達もアレスに紹介する。一通り終えて時計を見た。

「もうこんな時間か。アレス、宿舎へ戻るとしよう」

「ん…、ああ、そうだな。帰るか」

「じゃあ、あたし達も帰るとするか」

レズリーがお金をだそうとする。だが、それをシュウジが止めた。

「待て。ここの金くらいなら俺が払おう」

「え、でも悪いですよ、シュウジさんに迷惑かけてしまいます」

ソフィアが口を開く。

「気にするな。このくらいなら大した事はない」

「そうだぜ、嬢ちゃん達?ここはシュウジにまかせとけよ」

ソフィアはしぶしぶ了解した。シュウジがお金を払い終えると、外で皆が待っていた。

「じゃあね、シュウジ」

「またな」

「さようならー、お兄ちゃーん」

「ああ」

最後にソフィアが礼をする。

「すみません、シュウジさん。今日は…」

「気にするなと言っている」

「…本当にすみません。それでは、また」

「ああ」

ソフィア達とさよならをかわし別れる。

「どうしたんだよ、シュウジ。あんなとこで話してるなんてよ?」

「…別に。気にするな」

「へいへい」

 

 

シュウジが部屋へ戻るとピコが待っていた。

(あ、シュウジお帰り〜。ねえねえ、手紙が来てたよ?)

「手紙?」

(中開けて見てみてよ)

「ああ」

シュウジは手紙の封を開け、中の紙切れ一枚を手に取り内容を読む。シュウジの顔付きが傭兵のそれに変わる。

(なんて書いてあるの…あ!)

「…始まるようだな」

(シュウジ…)

「来るか…八騎将…」

シュウジはそう呟いた。手紙の内容は戦争の始まりを告げるものだった。

 

 

7月。遂に戦いの火蓋は切って落とされたのだった。


後書き

 

最近、ソウルキャリバーにはまってます。

全然関係ねえよ、オイ(爆)

でわ。


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