第三話「王女・プリシラ=ドルファン」


「…何だ、この手紙は」

(いや、何だって…)

ある日の朝の事である。シュウジは自分の部屋の郵便受けを覗いた所、珍しく一通の手紙が入っていた。そこにはこう書かれていた。

『本日催される誕生パーティーに招待したく思います。

 貴殿の参加をお待ち致します。 プリシラ・ドルファン』と。

ピコが驚いたように大きな声を上げる。

「プリシラ=ドルファン…ってこの国の王女様じゃない!?」

「…そうだな」

ピコがシュウジの反応に対しジト目で答える。

(そうだなって…、シュウジわかってる?王女様からの手紙よ手紙!)

「わかってるよ」

シュウジがピコに横目をやって、息をつきながら答えた。

(まったく…ほんとにわかってるの?…で、どうするの?)

「…とりあえず、行くか。よくはわからんが」

(それじゃあ、ドルファン城へレッツゴーだね!)

「…お前、嬉しそうだな」

 

シュウジはドルファン城の門を潜り、城の中へと入っていく。

(なんかさー、いっつもより綺麗な感じするよねえ今日は)

「…そのようだな」

プリシラ王女の誕生日である為か普段よりドルファン城が華やいでいるように、シュウジとピコには感じられた。

「ん…あそこか?」

(あ、きっとそうだよ!パーティー会場!)

扉が開いているその部屋からは、人々の話し声が騒々しく響いていた。

(さ、いこいこ!パーティーパーティー!)

「お前がはしゃいでどうする…待て」

(へ?)

シュウジがピコを制す。ピコが前方を見やると、一人のメイドがシュウジに近寄ってきていた。

「あの…すいません、シュウジ=カザミさんでしょうか?」

(この少女、確かあの時…)

シュウジは自分の名前を聞いてきた少女が、いつかの日にプリムという少女を待っていた時に見かけた少女だと気付く。

「ああ、そうだが」

シュウジが頷くと、目の前の少女は別の部屋へとシュウジを誘う。

「プリシラ王女が謁見の間でお待ちになってます。どうぞ、こちらへ…」

そう言われて、シュウジは少女の後を付いて行く。たどり着いたのは謁見の間と呼ばれる、国王や王女と唯一会うことを許される間だった。そこにある玉座には、普段国王が座っているが、今に限ってその姿は見えなかった。そして、そこには一人の少女がいた。煌びやかで豪華絢爛なドレスを身に纏い、王冠を被っている。

(あの人がプリシラ王女かな?綺麗…)

ピコが間近で感動していた。シュウジの前に一人の中年の男が歩いてきた。ドルファン軍部を率いるメッセニ中佐だった。中佐はシュウジの前までくると、睨みつけるように言った。

「シュウジ、プリシラ王女が直接お話をしたいとの事だ。無礼のないようにな」

「ああ」

「全く、その無愛想な返事は何とかならんのか…」

シュウジは中佐の言葉に答えると、改めて王女を見やった。そして片ひざをつき、頭を下げる。

「プリシラ王女、このような場に私のような一傭兵部隊長をお招き頂き、光栄に思います」

その言葉を聞いた王女の目が丸くなり、直後にくすっと笑い声がする。

「シュウジ、そんな硬くならないで。顔を上げなさい?」

プリシラ王女にそう言われたシュウジが顔を上げると、ようやく王女の顔をまともに見ることが出来た。だが、その瞬間シュウジの脳裏に何かが蘇る。

(あれは…)

「シュウジ=カザミ…ですね?今日は私の誕生パーティーに来て貰え、嬉しく思います」

プリシラがにっこり微笑んだ。そしてシュウジもだんだんと思い出してくる。

(そうか…あの日は確か非常召集があった…)

「貴方と会うのは二度目です。前会った時の事を覚えてますか?」

プリシラ王女の顔が期待に満ち満ちている。シュウジはそして口を開いた。

「…覚えています。あの日は…無理矢理連れまわされましたから」

その瞬間だった。プリシラが玉座を離れ、一気に主人公の元まで駆け寄ってきた。その顔には喜びが満ち溢れている。

「嬉しい…覚えててくれたのね!ごめんね約束すっぽかしちゃって!かなり待ったかしら?あの日はね、運悪くお城から抜け出せなくって…代わりにプリムに行って貰ったんだけど、あの子ったらドジだから…貴方を見つけずじまいで帰って来ちゃったのよ。ちなみに、あの時名乗ったプリムってね、メイドの子の名前なのよ。まさか、あの時プリシラ・ドルファンなんて名乗る訳にいかなかったし…」

喜びの余り、プリシラは言いたい事を一気にまくし立てる。それを中佐の咳払いが遮る。

「ゴッホン!」

それによって、ようやく我に返ったプリシラは照れ笑いを浮かべて、改めて言い直す。

「あら…私ったら…。…と、とにかく再びお会いできて嬉しいです、シュウジ…。今日は私の誕生パーティー…、存分にくつろいでいって下さい」

「あ、ああ…」

だが直後に、プリシラはシュウジに耳打ちする。

「ねえねえ…また今度、どこか行かない?連絡くれれば、抜け出すわよ」

しかしメッセニ中佐の二度目の咳払いがそれを遮った。

「ゴホン!ゴホン!!」

プリシラの顔がまた紅潮した。

「さ、さあ会場の方へ…私は後から参りますので…失礼」

そそくさとプリシラは奥へと消えていった。それを見送った後、メッセニ中佐がシュウジに近寄り、注意を促す。

「東洋人…つまらん問題を起こしたら即刻軍法会議ものだぞ!」

「…それは、俺に言う事か?」

「…とにかく、わかったな!」

メッセニ中佐は足音荒く奥へと立ち去った。

 

その後、シュウジは謁見の間を出、パーティー会場へと戻った。シュウジはそこで、再びプリシラと出会う。

「シュウジ、楽しんでいますか?」

王女に声をかけられたシュウジは、多少驚きを覚えながらも応答する。

「あ、ああ…プリシラ王女」

だが、その言葉を聞いた途端に王女の顔が不機嫌になる。

「もう、王女なんて付けなくていいわよ、プリシラで!ね!わかった!?」

「しかし…」

プリシラはシュウジの口答えを許さなかった。

「わ・か・った!?」

「あ、ああ…わかった…」

プリシラの迫力に、シュウジはただそう答えるしかなかった。その時、シュウジの耳に周りのざわつきが聞こえてきた。

「おお…あの東洋人…王女と親しげに…」

「人は見かけによらぬものだな。今度、うちのパーティーにも招待してみるか…」

「うらやましいですわね、あの殿方…」

「私たちも王女とお近づきになりたいのに…」

それを聞いたプリシラがシュウジに微笑む。

「貴方の注目度アップよ?フフフ…頑張ってね」

そう言ってプリシラは、香水の香りをその場に残して奥へと消えていった。

(な、なんか変った王女さまだね…)

「そうだな…」

シュウジは、その場に立ち尽くし、プリシラ王女をただ見送っていた。


後書き

 

一年目終盤戦…。

後出てない女性キャラは誰でしょうかね…。

久しぶりに出てきたよ、この女…。

大変よ。

主人公のイメージがだんだんちんぷんかんぷんになってきました。

余裕。


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