第一話「少女」


 空を見上げる、空は赤く、まわりをも紅く染めている。風が潮のにおいを運ぶ、港のそばだからだろう。夕日は見えない、路の両脇に倉庫が立ち並んで夕日を隠す。ため息をつき、なぜ俺はここにいるのかを思う。

 

 ………さかのぼること三ヶ月前、俺の属していた傭兵団『折れた牙』は北欧で壊滅した。正規兵を温存するために傭兵を前に置く、傭兵の部隊に伝令が伝わらない、これらはよくあることである。最前線に配備された俺達は奇襲を受け、後続の正規軍に応援を求めるが、すでに正規軍は撤退しており孤立無援のまま戦いとなった。

 白髪の老騎士というような風体をした傭兵団長が、吼え敵兵に向かってハルバート《戦斧》を振り回しながら駈け、古強者達がそれに伴なう。

 俺も続こうと走り出すが、ファルに腕をいきなりつかまれ思わずつんのめる。

「大将からの命令だ!大将たちが敵をひきつけている間に逃げるぞ」

 俺がファルに顔を向けると、俺の不服を感じたのか更に畳掛けるように言う。

「一刻も早く味方を探して、また戻りゃいいんだよ!!」

 詭弁だとわかっていた。だが逃げなければ全滅だともわかっていたため俺はそれにしたがった。

 そして……

 …そして…俺は…ここドルファンにいる……って、そんなことは今はどうでもいいんだ、そう問題は…

 

 お――い!お〜〜ぃ

 ねえ!いつまでもトリップしてないで、お願いだからもどってきてよぉ〜、聞こえてる?返事してよ!」

 ピコはヒソカの肩にとまり、耳を“ぐわしっ”とつかんで大声で呼ぶ。

「だーーっ!!痛うるさいぞピコ!」

「いつまでもボーっとしてないで、早く宿舎に行こうよ、もう日も暮れてるし。ねえっ!」

 ヒソカの文句には耳を貸さず、ピコはその日何度目かの文句を言った。

 ヒソカは再び空を見上げる。ピコは文句を言おうとするが、その前にヒソカのうめき声がさえぎる。

「…ここ、どこ……」

「…………………………」

「…………………………」

「えーーー!!

 あれだけ自信たっぷりに『大丈夫地図ぐらい読めるって』とか、『こっちのほうが近道になるな』なんていっといて迷子?まいごなの?」

「あぅ……」

 一瞬の沈黙のあと、ピコが堰をきったようにわめく。しかもヒソカの声まねをしているらしいが、実にいやみったらしく鼻につく。だが、ヒソカはうめくことしかできない。

「だいたいキミは子供なんだよ!ファルコはすでに荷物をまとめてたのに、キミはついた後にようやくまとめている上に、『子供じゃないんだから一人で行けるよ、気にせず先に言ってて』なんて、それで迷っていたら世話ないわよまったく」

「あぅ、あぅう〜……!!」

 突然ヒソカの目つきが鋭くなり、まわりをうかがう様にみる。その様子にピコが尋ねるようにヒソカのほうを見る。

「女の声…悲鳴が聞こえた……」

 そう言うや否やヒソカは駆け出した。その後をピコが追う。ヒソカは鎧を着込み、左手に荷が詰りふくれて重そうな袋を持っているが軽快に走っている。傭兵として体造りはできているようだ。

 しばらく走ると、かすかだった声が明瞭に聞こえてくる。

「イヤッ はなしてください!!」

「けっ、おとなしくしてな!ちょいとオレたちと一緒に来てくれりゃいいんだよ」

 十代半ばのおとなしそうな少女が、ゴロツキにしか見えない三人組の男に囲まれていた。周りには他の人は見えない、荷物を捨てさらに速度を上げる。

「なんだぁ、て…」

 ゴロツキの一人がヒソカに気付くが、言葉を言い終える前に蹴りつけられる。不意をつかれた上に、スピードの乗った蹴りだった。ゴロツキは蹴り飛ばされ、ヒソカはその反動を利用して止まる。もう一人のゴロツキが立ち止まったヒソカに振り向きざま裏拳を叩き込むが、ヒソカは、すばやくゴロツキのほうへ踏み込み、裏拳を放った腕を取り投げ飛ばす。残ったゴロツキは少女の腕をつかみ盾にしてこちらを牽制しようとするが、ヒソカはそれの上をいく速さでゴロツキの後ろを取り、腕をひねる。それと同時に、少女の腕をつかんだ手の親指を折り、はなさせる。

「ちょっとちょっと!いきなりエグイわね。もしこの子の知りあいだったらどうするのよ!!」

 いつのまにか来ていたピコの声で我に返る。万が一ではあるだろうが、ヒソカに聞いてみることにした。

「あの…、こいつら、君と知りあいって事はないですよね?」

 少女は青ざめた顔をして首を振る。ヒソカは自分のしたことがこんなにも怯えさせるとは思わなかった。何か声をかけようとするが、言葉を思いつくより先にピコが口を開く。

「まったく、キミって男はどうしてこんなにがさつなんだか…、女の子の前でこんな酷いことをして、手加減しているったってこれじゃあねぇ。死ななきゃ問題ないってことでもないんだよ。」

 その後もピコは延々とヒソカの欠点を挙げつらねる。謝るタイミングをはず
> されたこともあり、ヒソカはいらだっていた。だが、ピコの姿も声もヒソカ以外は見えないし聞こえない。先ほどから何かわめいているゴロツキに八つ当たり気味に叩きのめして、「うるさい!黙れ!!」とピコに聞かせるように怒鳴る。傍目にはゴロツキに言っているように聞こえる。

「くそ〜〜!おぼえていろよ!」

 そうゴロツキは言い捨てると、逃げて行った。ヒソカはそれをしばらく見た後、どう少女に声をかけようか悩みながら振り返る。

「あ…あの……ありがとうございました。

 私は、ソフィア・ロベリンゲと申します。あの、…もしよろしかったら、お名前を教えていただけますか?」

 ソフィアは、なぜか顔を赤らめていた。ヒソカは何か釈然としなかったが答える。

「…えっと……ヒソカ、ヒソカ・クジョウ、傭兵です」

「あ、あの、必ず、改めてお礼にうかがいます。今日は助けて頂いて、本当にありがとうございました!」

「いや、礼なんか…そうだな今してもらおうか」

 何か不安に思ったのか、再び青ざめ、後ろへあとずさる。ヒソカはそんなソフィアの様子に気が付いていない。

「外国人傭兵用宿舎まで案内して…」

「いや!そんな…」

「…………………………」

「…………………………」

「ごめんなさい!!」

 ソフィアは顔中真っ赤にしながら謝ると、逃げるように走り出した。

「……しゅくしゃ…は…」

 日も完全に沈み、月明かりの元、ヒソカは呆然とたたずむ。ピコがあきれてつぶやく。

「なんだかな〜」

 

 

<ソフィアの日記より>

D.26.3.31(土)はれ

 

 今日魔法使いに出会いました。魔法使いの名は、ヒソカさんといいます。

 漁船のアルバイトで遅くなり近道をしたせいで、ガラの悪い男の人たちにからまれてしまいました。そこに私と同い年ぐらいの男の子が割って入って助けてくれました。でも、そのことに気がついたのは、2人の男の人が突然吹き飛んで、私の腕をつかんでいた人が、その私の腕をつかんでいたはずの腕を後ろに回され男の子に押さえつけられていた後でした。その後も魔法のように男の人を吹き飛ばしたんです。

 こういった時、白馬の王子様を思い浮かべるんでしょうけど、その人は、黒髪の東洋人で黒い鎧を身につけ、黒いため、私は魔法使いを連想しました。

 私が何より嬉しかったのは、助けていただいたことよりも、ヒソカさんが怒ってくれたことです。この時の私は髪は乱れ、体も魚の臭いがするため、そのことを言われ恥ずかしくて恥ずかしくて、もう悲しくなっている時にヒソカさんは怒ってくれました。

 あの後、宿舎には帰れたでしょうか?逃げてしまって、変な娘だと思われたでしょうね。お礼とお詫びをかねて明日クッキーを届けようと思います。


《あとがき》

 

はじめまして、TAKUといいます。つたないSSですが、楽しんでもらえたなら嬉しいです。

こういった小説書く(打つ?)のもはじめてなんですが、それ以上に難しいのは、このあとがきだとこれを書いてて気が付きました……何を書けばいいんだか。キャラクターの紹介などをしてお茶をにごしますか…

 

九条 密 (ヒソカ・クジョウ) 18歳 B型

主人公。

日本のある剣術道場の三男坊だった、傭兵をやっているのは「気付いたらなっていた」とのこと。12の頃から傭兵をやっており、『鬼子』、『牙折り』などと呼ばれて恐れられている、普段ボケボケなのは戦場での反動。

容姿は、中肉中背、168cmで引き締まった筋肉を持っている、黒眼黒髪、戦場では目つきが鋭く大人びて見えるが、日常では15,6にみられる。

戦闘スタイルは、基本的にはないというか、武芸百般だが、日本刀を好んで使う。

 

ピコ 妖精

相棒その1。基本的にゲームそのまま。十年来の――といったが実は八年来の相棒。なぜか虫扱いされている。

 

ファルコ・オールディン  27歳 AB型

相棒その2。こちらも八年来の相棒。ピコのことが見えないはずなのに、息の合った呼吸でヒソカをからかう。強くはないが弱くもないタイプ。ヒソカのアシスタント的存在。


プロローグへ戻る

 

戻る