「本船は只今ドルファン港に到着致しました。下船の際は……」
到着を告げるガイドの声が、船内に響いた。
???「やっとドルファンに着いたね」
???「そうだな」
肩に乗っている妖精に、一人の少年が頷く。
実際の歳は19。
青年と言うべきなのだろうが、その顔立ちはどう見ても少年のそれでしかない。
そこに黒髪に黒い双眸とくれば、彼が東洋人ということは一目瞭然だろう。
彼の肩に乗っている妖精は、ピコという。
いつ会ったのかは分からない。
彼女の素姓も、故郷も知らない。
だが、彼にはそんなことはどうでもいい。
重要なのは、ピコのおかげで孤独な思いをすることが少なくなったという事なのだ。
東洋人の少年「行くか」
彼が船室を出ると、扉の向こう側に書類を持った女性が立っていた。
女性「あの、出入国管理事務局の者ですが、こちらの書類の記入欄に必要事項を書いて下さい」
東洋人の少年「この道を真っ直ぐ行くと宿舎があるのか……ん?」
波止場のすぐ側の通りで、彼は地図から顔を上げた。
大きな野次馬の垣根が、何かを囲んでいる。
彼が群衆の間に割って入ると、一人の女の子が三人のチンピラに絡まれていた。
この場に集まった人々には、彼女を助ける気などないらしい。
民間人も、本来弱きを助けるべき騎士も………
ピコ「どうするの?」
東洋人の少年「決まっている」
小声で言うと、彼は人垣を抜けてチンピラたちに向かった。
チンピラA「何だ、テメェ!」
何も言わずに、彼は言い寄ってきたチンピラの右頬に裏拳を放った。
骨の砕ける音がし、チンピラの体は倉庫の壁に吹っ飛ばされる。
状況からして、即死である事は間違いない。
チンピラの頬骨を砕いた腕には、白銀の輝きを持つ手甲が装着されていた。
手の甲から肘までを覆い、分厚い金属板であつられられた手甲には漢字で『阿修羅』という銘が記されていた。
それは、ジーパンもTシャツもジップベストも彼の髪と瞳の色で統一したスタイルの中で、一際目立っている。
東洋人の少年「少しは期待していたのだが、あの程度で即死とは……」
彼は、残った二人のチンピラに振り返った。
その冷たい闇色の目に、二人の顔がどんどん蒼白になっていく。
チンピラB・C「う、うわあぁぁーーーーっ!!」
「殺される」と直感した二人は、逃げ出した。
理性を失った人間ほど、無防備なものはない。
東洋人の少年「俺から逃げる事ができた者は……」
彼は瞬時にチンピラたちに追いつく。
東洋人の少年「いない!」
彼はこれまた分厚い金属板でできた脚絆をまとった足で、二人を横一文字に薙ぎ払う。
チンピラたちは脇腹を抱えながら、呻き悶えた。
肋骨を粉砕された激痛に苦しんでいるのだろう。
そんな二人を尻目に、彼は周囲を見回した。
いつの間にか人垣はなくなり、残っていたのは絡まれていた少女だけだった。
人の死を目の当たりにして、怖さのあまり動けなくなったのだろうと思った。
東洋人の少年「大丈夫か?」
少女「あ……はい」
我に返った少女は、自分を救ってくれた少年の顔を見上げる。
少女「……あの、助けて頂いて、ありがとうございました。
後でお礼に伺いたいので、よろしければお名前を聞かせて頂けませんか?
あっ、私、ソフィア・ロベリンゲと申します」
東洋人の少年「俺はケイゴ・シンドウという」
ソフィア「ケイゴさん……素敵なお名前ですね」
『素敵な名前』と言われ、ケイゴは戸惑った。
故郷や今まで回ってきた国の人々には、忌み嫌われていた名前である。
そう言ってくれたのは、ソフィアが初めてだ。
ソフィア「あの、私、これから用事があるので失礼します」
と言って、ソフィアは恥ずかしそうに走り去ってしまった。
まぁ、格好の良い男に助けられて嬉しく思わない方がおかしいが。
ケイゴ「……素敵な名前、か」
そんな事はつゆ知らず、ケイゴはソフィアの言った言葉を噛み締める様に呟いた。
ピコ「カッコイイねぇ、女の子を助けちゃったりしてさ」
ニヤついた顔をして、ピコがケイゴの頬をつつく。
ケイゴ「ピコ、俺がその程度のからかいに乗るとでも思うか」
ピコ「もうちょっと砕けたトコがあっても良いと思うんだけどなぁ……」
彼のそっけない反応に、ピコは呆れた。
後書き
初めまして、国士無双です。
みんな、剣を持った主人公ばっかりなので、
私の話では、体術戦闘のプロフェッショナルにしてみました。
もっと先に行きたかったのですが、
本日の所は、区切りがいいのでこれで終わります。
これからよろしくお願いします。