第二章「再会」


宿舎に到着するなり、ケイゴは衛兵に呼び止められた。

衛兵「お前だな、倉庫街で暴れた東洋人というのは?」

鋭い目付きで、彼はケイゴを睨み付ける。

ケイゴ「そうだが?」

彼は、まるで他人事のように返事をした。

あれだけの野次馬に見られていたから、隠すだけ無駄である。

衛兵「早速だが、お前の処分が決定した」

ケイゴ「で内容は?」

衛兵「戦の招集がかかるまで、所持している武器をすべて没収する」

ケイゴ「それだけなのか?」

思ったより軽かったので、ケイゴは呆気に取られた。

衛兵「そうだ。傭兵隊隊長殿が特別にそこまでして下さったのだ。感謝するんだな」

ケイゴ「そうだな」

『阿修羅』を預ける替わりに、ケイゴは自室の鍵を受け取った。

 

 

翌朝。

ケイゴは他の傭兵達より一足早くフェンネル地区へ出向いた。

フェンネル地区はドルファン首都城塞の郊外で、住宅地や学校が立ち並ぶ静かな場所だ。

そこには、傭兵隊用の訓練所もあり、ここでケイゴ達は己の技を磨くことになる。

ピコ「なにもこんなに早く出なくてもよかったんじゃないの?」

まだ眠いのか、あくびをするピコ。

ケイゴ「昨日の件で、隊長に礼を言わなければならないからな。訓練を始める前に言っておかなければ」

ピコ「そうだね」

といった会話(他の人に聞こえないぐらいの小声でやってます)をしているうちに、二人は訓練所の正門前に辿り着いた。

ピコ「ずいぶん大きな場所だね」

ケイゴ「ん?ああ」

彼が門をくぐろうとした時、誰かに呼び止められた。

振り返ると、そこにはソフィアがいた。

ケイゴ「ソフィア……だったな」

ソフィア「はい。昨日は、本当にありがとうございました」

改めて、彼女は昨日の感謝の意を述べた。

ケイゴ「俺はただ、あの下衆が気に食わなかっただけだ。礼を言う必要はない」

ソフィア「でも……あっ!」

突然、彼女は血相を変えて訓練所の隣に位置するドルファン学園へと駆け込んだ。

まるで、何かから逃げるような足取りだった。

完全にソフィアがケイゴの視界から消えると、ド派手な装飾を施した馬車が学園前に停車した。

中から、シンクレアーを腰に提げた若い男が現れる。

服装からして、彼は西洋でいう貴族階級の人間らしかった。

彼はキョロキョロと辺りを見回すと、ダンスステップのような軽い足取りでドルファン学園へと姿を消した。

学生でも先生でもない人間が学校へ入っていった事を疑問に思ったが、どうでもいい事なので、考えるのを止めて、ケイゴは訓練所に入った。

 

 

ケイゴ「ケイゴ・シンドウ、入ります」

訓練所の隊長室の扉をノックした。

向こうから「いいぞ」と返事が返ってくる。

中に入るなり、ケイゴは驚いた。よく見なければ分からないくらい微かではあるが。

ケイゴ「……また、会えるとは思わなかった。ヤング殿」

フッと笑って、ケイゴは部屋のデスクに座っている男に声をかけた。

彼、ヤング・マジョラム大尉はケイゴの数少ない知り合いの一人だった。

ヤング「まったくだ。ハンガリア以来だな」

ケイゴ「ああ」

相変わらずの無愛想な返事に、ヤングは「変わらないな」と笑う。

ヤング「姿はすっかり見違えたのになぁ」

ケイゴ「まぁな。その時は俺はまだ12だったから」

彼は過去を顧みた。

 

7年前、ハンガリアで勃発した戦争に、ケイゴは傭兵として初めて戦に出向いた。

その時、彼の指導をしていたのが、ヤングだった。

ケイゴは、その天性の戦闘センスを遺憾なく発揮し、『ハンガリアの狼』ヤングを大いに助けた。

手甲で相手を殴り倒す姿から、この時既に、ケイゴは『ゴッドハンド』という異名をつけられており、敵味方問わず震え上がらせた。

戦争が終わった後、ケイゴは流浪の旅へ、ヤングは騎士としてドルファン王国へとお互い別の道を歩み、奇妙ながらも、今こうして二人は再会した。

  
ケイゴ「そういえば、クレア殿とはうまくやっているのか?」

クレアとは、ヤングの妻である。

気立てもよく、しっかりしていて、おまけに美人の彼女には、ケイゴも大変世話になった。

ヤング「ああ。夫婦円満ってトコだな」

ケイゴ「それはよかった。まだ積もる話をしたいが、そろそろ訓練が始まるな。一旦、失礼させてもらう」

ヤング「ああ。……そうだ、今日訓練が終わったら、俺と一戦交えてくれないか?」

ケイゴ「いいだろう。だが、ヤング殿ほどの者となると、さすがに武器なしでは……」

ヤング「なぁに、その辺は心配するな。武器はちゃんと返してやるさ」

ケイゴ「いいのか?」

ヤング「俺が決めた処分だ。俺が取り消したって問題はないさ」

ケイゴ「そういうところは変わらんな。楽しみにしているぞ」

ケイゴは、去り際にフッと微かな笑みを漏らした。

 

 

ヤング「本日はここまで!」

彼の一声で、第一次徴募で集まった傭兵達の訓練が終わった。

ここに来てから初めての訓練にも関わらず、ヤングは手加減することはなかった。

もちろん、ケイゴも同様だった。

本気を出している二人に勝てる者は、この中には皆無だった。

そして……

ヤング「用意はいいか?」

ケイゴ「ああ」

手甲『阿修羅』を装備したケイゴは、OKサインを出す。

二人は久々に相見えた。

傭兵達の視線が、固唾を飲んで二人に集中する。

先に動いたのはヤングだった。

彼は振りかぶった剣をケイゴに叩き付ける。

ケイゴはそれを右に飛んで避けて、ヤングの懐に入る。

ケイゴ「はっ!」

ヤング「ぐっ!」

掌底を喰らったヤングに、わずかだが、隙ができた。

そこに、すかさずサマーソルトキックを彼に浴びせるケイゴ。

だが、ヤングは瞬時に後退し、空中で無防備なケイゴを横薙ぎにする。

ケイゴ「くっ!」

彼は、『阿修羅』で剣を受け止める。

そして、回転の勢いを殺さずに、剣ごとヤングを放り投げた。

ケイゴの所作に、西欧出身がほとんどの傭兵達が目を丸くする。

彼の手の内を知っているヤングは、何とか地に足をつけ正面を警戒する。

だが、他の傭兵達が上を驚愕の表情で見上げていたのに気づくと、彼は舌打ちをした。

ヤング「上か!」

彼が注意を上に向けた時には、もう遅かった。

踵から光の爪を伸ばした右足を、上半身に密着するぐらいまでに上げたケイゴが、もう頭上すれすれにまで迫っていた。

反撃できないと悟ったヤングは、咄嗟に防御に転じる。

ケイゴ「雷槌脚!」

思いっきり上げた足を振り降ろすケイゴ。

それを受け流そうとするヤング。

 

ガキッ!

 

何かが折れる音がした後に、肉を裂く音が聞こえた。

傭兵達はその光景を見るなり、声が出なかった。

確かに、そこにはヤングとケイゴが立っていた。側には、折れた剣が突き刺さっている。

ヤングは折れた剣を持ったまま動かない。

ケイゴの右足がヤングの肩の上に乗り、さらに踵の光の爪が、彼の背中に突き刺さっているので、下手に動くと背中の傷が大きく開いてしまう。

ケイゴ「はっ!」

左足で腹を蹴ってバック転宙返りをし、ケイゴはヤングの背中からヒールクロウを引き抜いた。同時に、ヤングは片膝を地面につける。

ヤング「腕が上がったな」

大きく成長した息子を見るような眼差しで、ヤングはケイゴを上目遣いで見た。

ケイゴ「そのようだ。今まで自分の力量がよく分からなかったからな……しかし、こんなに早くヤング殿を越えてしまうとは……」

自分の成長に一番驚いているのはケイゴ自身のようだ。

まるで、自分が人間でないように思える。

ヤング「さぁて、今晩は付き合えよ!久々にクレアと三人で団欒と行こうぜ」

ケイゴ「ああ」

 

 

今を精一杯生きること。

それが、今の自分にできることだとケイゴは自分に言い聞かせた。


後書き

 

○面○イダー○ギトの○ルスの技をそのままケイゴに使わせてしまいました。
でも、この技かっこいいからいっか。

ちなみに、ケイゴの顔は、○ンダムWの○イロを大人にした感じです。

なんか、いろいろなところからパクってるような気が……


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