第二章「ライバル」


「う……… ふぁぁぁぁ………

 ……朝か」

(ドルファンに着いて一日目の朝、ピコの姿が見当らない)

「ピコ?」

「何?」

「なんだ。そんな所に居たのか。どこに行ってたんだ」

「ちょっと近所をみてきたの」

「あっ、それより今日から教習所通いだね」

「ああ」

「じゃあ早く支度して行こうよ」

「そうだな」

俺達は宿舎を後にした。
 

 

「あの…」

「ん?」

そこには昨日の少女、ソフィア=ロベリンゲがいた。

「昨日はありがとうございました。

 それで…お礼と言っては何ですが…あ!?」

ソフィアは、何かに怯えるかのように学校の中へ逃げ込んでしまった。

「何だ?」

何者か背後から近づいてくる。

「ボクの〜愛しのソフィア〜」

(なっ、何だこいつは?)

「ん?ここにいたはずなんだが…」

男は踊るような足取りで、学校の中へ入っていった

(何だったんだあいつは? まあ格好からしてどっかの貴族のやつかな。それにソフィアを知ってるみたいだな…。

 まあいい、早く教習所に行こう)
 
 

「良く来たなゴロツキども!オレがここの主任教官であるヤング=マジョラム大尉だ!!」

教習所に着き整列をしている俺達の前に顔に傷の入った男が立っている。

「この国では陸戦において銃火気は一切使用していない。全て己の剣技だけが頼りだ!よそで銃に慣れてきたものはここでは地獄を見るぞ!

 それとだ、剣を持つ者は全て騎士と区別なく扱われる…。礼儀・教養・精神…それらを叩き込んでやるから覚悟しておけ!」

周りからマジかよと言った声があがってくる。

(まあ無理も無い。銃火気を使用しないのはともかく礼儀なんかも叩き込まれるんじゃな。戦争をしに来た奴等がそんなことをされるなんて思ってもいなかっただろう)

 現にクボタの周りには礼儀などとは一生無関係そうなガラの悪い奴が何人もいた。

「さあて、久々にやるか」

俺はそう言い自分の剣をとる。片刃の刀身が反っている俺の国独特の剣だ。

(またこいつを使う事になるのか…『村正』…あいつの忘れ形見)

俺はいつもどこかの戦火国に行く度必ずこう思う。

剣を鞘から抜くにつれてその刀身が徐々に姿を現してくる。

(今までこの刀は何人の血を吸ってきてるのだろうか…なのにこいつの切れ味は鈍ってこない。逆に何人もの血を吸って不気味に光ってきている。人々が妖刀といって恐れるわけだ)

「おい、何だあの剣? あんな細身の剣で大丈夫なのか?」

「まさか、戦場で剣が折れて死ぬだけだろう」

周りから俺の剣に対して野次が飛んでくる 。

(言ってろ。…そんじょそこらの剣とはわけが違う)

俺がそう思っていると、さっきの顔に傷のある男、ヤング大尉が俺に歩み寄ってきた。

「おい、東洋人」

「はい?」

俺が振り向いている間にヤングが俺に剣を振りかざしていた。

「なっ…!」
 

ギインッ!
 

俺は何とかヤングの剣を受け止めることができた。

「ほう、今のを受け止めても刃こぼれひとつ無いとはな」

ヤングはそう言うと剣を鞘に収めた。周りの者は驚愕の表情をしている。

「それに今のを防ぐとは、なかなかいい腕だな。名前を聞いておこうか」

「…クボタ、クボタ=ノブユキ」

「クボタか。覚えておこう」

ヤングはそう言うと俺達のいる場所を後にした

(何だったんだ一体?  どうも今日は変な奴に多く会うな)

一通りの練習をして俺はまっすぐ宿舎へと戻った。

(なんだか今日は疲れた…もう寝よう)
 

 

次の日、俺はまた教習所に通う。するとどこからともなく、

「ハハハハハハハハハ!」

という笑い声が教習所に響きわたる。その声の主は…

「ジョアン=エリータス参上!」

(またあいつか)

「フッ…傭兵は悲しいな同情に値するよその無様な姿には。

 この僕の様に生まれついての騎士であったら無駄な努力も必要ないのにな…。

 ま、せいぜい頑張って戦場で死にたまえハッハッハ」

ジョアンは高笑いを響かせながらゆうゆうと歩き去った

(何なんだ?あの馬鹿は?)

「気にするなああいう手合いはこの国には多いんだ。あのテの騎士が多いからこの国の騎士団は腐る一方なのさ…」

「だろうな」

(あんな奴等が多いんじゃかつては「陸戦の雄」と呼ばれたこの国の騎士団も弱体化していくのも無理はないか)

「ところでヤング教官、エリータスってご存知ですか?」

「ああ。エリータスと言えばピクシス家に続く旧家の両翼と言われている名門貴族だ。

 さっきの奴の父親、ラージン=エリータスは聖騎士の称号を持つ立派な騎士だったんだが、息子があんなんじゃあな…。

 それよりクボタ、どうだ俺と一剣交えてみないか?もちろん真剣は使わないが」

ヤングの言葉に対し、俺は

「ええ、いいでしょう」

と答えた。

「よし、準備が出来次第、俺の所にこい」

と言ってヤングは去っていった。
 

 

「よし! 行くぞ!」

「来い!」

相手はさすがにドルファンの一部隊隊長だけあってかなり強い。

 

ガッ! ガガッ! ガッ! 
 

互いの持っている練習用の剣が激しくぶつかり合う。

「やるな、さすが俺が見込んだ通りのいい腕だ。もうこれくらいにしておこうかクボタ」

「ええ、そうしますか」

「クボタ、戦場では己を見失うな。絶対に生きて帰るという気持ちを強く持つんだ。そうすれば必ず生きて戻ってこれる。お前ぐらいの腕があればな」

「はい」

「じゃあ後は宿舎に戻って明日に備えろ。また明日も勝負だ。いいな」

ヤングの表情は少し笑って見えた。

「ええ、いいですよ明日の勝負は勝って見せます」

という俺の返事にヤングは笑って見せた。
 
 

 

宿舎に帰り着き夕食と風呂を済ませた俺は明日の勝負を心待ちにしながら眠りについた。


後書き

 

文中の「あいつの忘れ形見」のあいつについてはいつか書いていきたいと思います。

それにしてもヤングの人物設定が原作とずれていますね(笑)。すみません。


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