───ソフィアが、泣きじゃくっている。
私の腕に包帯を巻きながら。
マクラウドの言った通り、村の入り口で彼女は待っていた。私達の顔を見てほっとしたのも束の間、傷を見て青くなり、地面に荷物をぶちまけて手当を始めてくれたのだが。
私が手近な石に腰を降ろすと、ソフィアは思い詰めた表情で傷口から流れる血を拭う。血に怯えた表情が陰を潜めると、手を進めながら泣きはじめた。
彼女が泣くのを初めて見た。そういえばこの娘、弱い癖に闘いが辛いと泣いたことは一度もなかった……。
「どうしてこんな無茶をするんですか?危険だとか、仲間との連携だとか、なんで、なんで考えてくれないんですかっ!」
泣きながら怒鳴りつけてくる。今までにない結構な迫力で、私は反射的に身構える。
「そんな暇は……」
「なにが暇なんですかっ」
「戦場に即時判断は重要な」
「時と場合によりますっ!こんな……」
しゃくりあげ、自分の腕で顔をこする。包帯を結ぶ手が怒りのためか震えている。それでも必死に結び目を作ろうとしていた。
「こんな傷…女の子なのに……」
胸がずきりと痛む。
「ううん……もっと、もっと酷い目にあってたかもしれないのに……なんで……」
練り薬の匂いが鼻腔を刺激する。3重にした最後の結び目をきゅっと縛ると、ソフィアはとうとう顔を覆ってしまった。マクラウドがその肩を気遣うように抱く。
どうして。
どうして、この娘が泣くんだろう?
あんなに冷たいことを言ったのに。
足手まといだと。満足に自己主張もできない弱い娘だと、そう思っていたのに。
何故。
───私のために。
ふと思い付いて、ポケットに手を入れる。白いハンカチをソフィアに向かって差し出した。彼女は虚をつかれた様子で私を見る。
「……ごめんなさい。もう勝手な真似はしない。約束する。だから、泣かないで…苦手なのよ……」
「あ…ご、ごめんなさい」
ソフィアは慌てて顔をハンカチでこする。強くこすったせいか、目も鼻の頭も赤い。
私は小さく吹き出す。
「謝っているのは私なのに、何故あなたまで謝るの?」
「そ、そうですよね…おかしいですよね……」
海の色の瞳が細められる。柔らかな光が宿った。
私は、黙ってその笑顔を見つめていた。
彼女にあって自分にはない何かが、そこから覗いてるような気がしたから。
後書き
ソフィアはいい子やねえ。うんうん(^▽^*)
(最近思うのだが、ライズは性格的にはどうなんだろう。いい子ってゆうのは変だしな。悪いとも思わないが)
この子たちはこれまで大した怪我はしていません。主人公が余裕で守っていますし、ライズもかなり強いので怪我しようがない。ソフィアの足の裏が一番重傷かも(ーー;)
「闘いが辛いと泣いたことは一度もなかった」
攻撃はほとんどふたりに任せっきりですが(というか、ふたりとも率先してソフィアは防御に回す)、辛くない筈がないです。隠れて泣いてるんですがライズが気づかないだけ。マク助は知っていて黙っています。この根性悪。
いいことをしたのに2章連続で怒られるライズって…。誰からも礼は言われないし、怪我までするし。
でも心配して怒られるんならいいのかも。
次は「第12章 夜話」です。