ドルファン港についたマリルストーン号から、次々と乗客たちが降りていく。
美しい町の風景に目を奪われる者、自らの新天地に瞳を輝かせる者、これから傭兵として一旗上げようと意気込む者。想いはさまざまであるが、とりあえず全員に共通して言える事は、「宿に入って長い船旅の疲れを取りたい」と言う気持ちだった。
シュン・カタギリは夢の中にいた。
それはまだ彼が小さかった頃、倭国で父や母と楽しく暮らしていた頃の記憶。
比較的大きめの屋敷の中庭で、父がシュンに剣の稽古をつけている。
シュンは全身全霊の力で父に木刀を打ち込むが、父はそれを軽くいなしてシュンの喉元に木刀を突きつけてくる。
その様子を、ピコは庭の木の枝から楽しそうに眺めている。
シュンが何度打ち込んでも父はそれを軽くいなしていく。
二十回は打ち込んだだろうか?とうとうシュンは力尽きて地面にへたり込んでしまった。
それを待っていたかのように、シュンの母は濡れた手拭と、よく冷えた水を持って来た。
母は泥だらけになったシュンの顔を手拭で拭いてやり、水を飲ませてやった。
それを見つめながら父も、優しそうに笑う。
楽しかった……今は昔の思い出……
『……ュン……シュン起きなよ!……シュンってば!』
眠っているシュンの耳元で、ピコは大声を張り上げている。
しかし彼女のパートナーは、今だに楽しい夢の世界から帰ってこない。
『もう!』
ピコはシュンの頬に飛び乗ると、両手でゆする。
『シュン朝だよ!ドルファンに着いたよ!もうみんな下船を始めてるよ!』
その声にシュンは、うっすらと目を開ける。
「う〜……ん……ピコ〜……後五分ね……」
寝る子は育つと言うが、それも時によりけりだ。
『……しかたない……』
ピコは最後の手段に訴える事にした。
シュンの耳元まで来ると、メガホンを取り出して(どこから出したかは不明)大きく息を吸い込んだ。
『起きろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
「うわァァァ!?」
次の瞬間、元々大きめのシュンの目はさらに通常の三倍に見開かれた。(当社比)
シュンはベットから転げ落ちた。当然目も覚めた。
『目が覚めた?』
顔いっぱいにやさしい微笑を浮かべて、ピコが言った。
それに対して、いまだに鼓膜にダメージの残っているシュンは、ゆっくりと顔を上げた。
「…………どちらさまでしかたっけ?」
『…………思い出させてあげようか?私のこぶしで』
そう言うとピコは掌をグーにする。外見が可愛らしいピコがそんな事をしてもまるっきり迫力ゼロなのだが、ピコが怒ればある意味怖いことを知っているシュンは慌てる。
「ごめんなさい」
『よろしい。さっ、もう下船は始まってるよ。急いだ急いだ!』
「は〜い」
シュンが着替え終わって荷物をまとめ部屋を出たとき、廊下の端から見覚えのある二人組が歩いてくるのが見えた。
「よう、シュンじゃねえか!」
「目が覚めたか?」
がたいの大きい男と金髪でやや痩せ気味の男の二人組が、シュンに手を上げている。
「ヒーツさん!ギルバートさん!おはようございます!」
一昨日バーで知り合った二人の傭兵に、シュンは元気良く挨拶をした。
「何だ、お前今まで寝てたのか?」
「え?そっ、そんなことは……」
ギルバートに図星を突かれて、シュンは慌ててごまかす。
「顔によだれの跡がついてるぞ」
シュンはとっさに顔に手をやると、顔をほんのり赤くする。
それを見て、ヒーツは豪快に笑い出した。
「まあ良いじゃねえか。良く寝る事も体調を維持するには必要な事だ。傭兵なら自分のコンディションは自分で管理しなくちゃならねえ。良く覚えておけ」
「はい!」
シュンは元気良く返事をした。
「さて、じゃあとっとと下船して、ドルファン上陸と行こうぜ」
ヒーツの言葉に従って、三人は上陸用タラップに向かった。
ドルファン港は、下船した乗客や船のクルー、港の従業員などでごった返していた。
三方を海に囲まれているドルファン王国は、古くから船を使った海外貿易が盛んに行われ、いくつもの大きな港が作られていた。シュン達が降り立ったのはその中でも最大の規模を誇る港で、首都城塞内にあるためドルファン海軍の本拠地にもなっていた。
『大きい港だねえ』
シュンの頭の上で寝そべっているピコが、ため息混じりに呟いた。
「そうだね……なんて言うか、活気があるよね」
そう言ってシュンは、辺りの人を見回す。
「みんな目も活き活きしているよ。街が生きている証拠だよ」
『随分と詩人だねえシュン』
「え?そうかな?」
シュンは少し照れたようにはにかんだ。
『で、後はどこに行くの?』
「うん。シーエアー地区って所にある傭兵隊宿舎に。そこで登録をやるんだ」
『ふーん、じゃあ、早速行こうか』
「そうだね、ヒーツさん、ギルバー……あれ?」
『どうしたの?』
「あの二人は?」
『そう言えば……』
シュンとピコはキョロキョロと辺りを見回す。
二人の姿はない。周りにはうねるような人の波があるだけ。
「いっ、いない……」
『ね……』
一呼吸おいてからシュンは叫んだ。
「いなくなっちゃった二人とも!」
ちなみに世間一般では、こういう状況を「迷子」と言う。
「さっ、探さないと!」
『そっ、そうだね……じゃあまず……』
ピコがそこまで言ったとき、シュンの眉はピクッと吊りあがった。
『私はあっちを探すから、君はそっちを……』
「待って」
シュンはピコを遮った。
「……悲鳴?」
『え?』
ピコは怪訝な顔つきで、シュンの顔を覗き込む。
「人の泣き声がする」
『ほんと?』
「こっちだ!」
そう言うとシュンは走り出した。
『ちょっ、ちょっと!』
慌ててピコはその後を追った。
「やめて……やめてください……」
港の倉庫の一角で、茶色いロングヘアの少女が小さい肩を震わせている。
その周りには五、六人の男が囲んでいる。
「別に泣く事ねえじゃねえか」
「そうそう、俺たちは別にいじめているわけじゃねえんだよ」
「ちょっと付き合ってくれるだけでいいからよ」
男達は口々に少女にからむ。
それに対して少女は、隅に追い込まれて震えているだけだ。
「ごめんなさい……私は……あの……」
その目には涙が浮かんでいる。
「泣くんじゃねえよ!」
そんな少女に苛立って、男の一人が少女の手首をつかんだ。
その時、
「その手を離せ!」
男達の頭上に、小さい影が躍った。
そして影はそのまま、少女の手首をつかんでいる男の頭を蹴り飛ばした。
「え?」
何が起きたのか理解できない一同は、天から舞い降りたようなその小さい影を見下ろした。
地面に降り立ったシュンは、ショックでその場にへたり込んでいる少女を見下ろした。
「大丈夫ですか?」
「え……ええ……」
今だに事態の変化に対応しきれないでいる少女は、うつろな瞳をシュンに向けた。
「もう大丈夫ですよ」
そう言うとシュンは、鋭いまなざしを男達に向けた。
「大の男がたった一人の女の子に複数で掛かるなんて、恥ずかしくないんですか!」
「うるせいぞ小僧!」
「ガキは帰ってオネンネしてな!」
そう言うと男達は、一斉にシュンに襲い掛かった。
そこでようやく少女は、我に返った。
見ると自分の目の前に一人の少年が立っている。おそらく自分と同じくらいの歳だろう。その少年に、自分に絡んでいた男達が襲いかかろうとしている。
「逃げて……」
絞り出すような声を出した後、両手で目を覆い必死に叫んだ。
「逃げてェェェェェェェェェェェェェェェ!」
しかし次の瞬間、シュンは目にも留まらぬ速さで動いた。
無秩序に襲い掛かってくる男達に、高速で当て身を食らわしていく。
「……え?」
少女はゆっくり目を開いた。
そこには倒れ伏した男達と、何事も無かったように立っている少年がいた。
「……大丈夫ですか?」
そう言ってシュンはニッコリ笑った。
「ええ……」
少女は倒れている男達を見回してから、シュンを見上げた。
「これ……あなたが?」
「ええ」
シュンは手を取って少女を立ち上がらせた。
「ありがとうございます。あの、私はソフィア・ロベリンゲと申します。失礼でなければ後日お礼に上がりたいので、あなたのお名前をお聞かせください」
「そっ、そんな、お礼だなんて……大した事をしたわけではありませんので……」
シュンは顔を赤くして両手を振る。
「そう言わずに、是非お願いします」
シュンは困った顔をソフィアに向ける。
「…………シュン・カタギリです……傭兵をしています」
シュンの言葉に、ソフィアは驚いた顔をする。
「あの……見れば私とそれほど変わらない歳のように見えるのですが……失礼ですが、お幾つなのですが?」
「十四歳ですよ」
それを聞いてソフィアは、さらに驚いた顔をする。
「そんな……私より一つ年下なんて……」
「よく、言われます」
シュンの笑顔にソフィアの顔にも徐々に笑顔を浮かべる。
「シュン君……で良いでしょうか?」
「ええ。できれば敬語も控えくれればうれしいんですけど……いちおう年上なんだし」
「そう、ですね」
そう言うと二人は笑いあった。
「それじゃあ、今日は急ぐからこれで。後日必ずお礼に伺いますから」
「はい。それじゃあ」
シュンは歩き去るソフィアに手を振った。
『さっすが、やるねえ』
シュンの肩まで降りてきたピコが、冷やかすように言った。
「ピコ」
『かわいい子だったねえ。気に入ったんでしょ?』
「なっ、なんでそうなるの?」
『十年来の相棒の目はごまかせないよ。きみの好みの子だったんでしょ?』
「そっ、それは……」
シュンはスッと視線をはずした。
『……?』
その顔を見て、ピコは怪訝な顔をする。
「たとえ……さ、僕の好みの人が目の前に現れたとしても、僕にはその人を好きになる資格なんて無いから……」
『シュン……』
寂しそうにたたずむシュンの横顔を、ピコもまた悲しい顔で眺めるしかなかった。
ドルファン上陸の翌日から、傭兵達は訓練場へと狩り出された。
プロキア王国との間に戦争の気運が高まっているドルファンとしては、これ以上余裕を持っている暇は無かった。
訓練場は宿舎のすぐ裏にあり、二個中隊が楽に集団戦の演習を行えるだけの広さを有していた。
今回第一陣としてドルファン入りを果たした傭兵は約三百名。それが一斉に訓練場に集められた。
「よく来たなゴロツキ共!!」
傭兵達の前に立った教官が、良く通る声で叫んだ。
鍛え抜かれた体には贅肉が一切無く、中肉中背の体は俊敏な狼を思わせる。
「俺がお前達の教官長の、ヤング・マジョラム大尉だ!この国では陸戦において銃火器は一切使用しない!よそで銃を使った戦いに慣れてきた者は、ここでは地獄を見るぞ!!」
『ふ〜ん。鉄砲は使わないのか』
ヤングの言葉を聴いても、シュンは特に気にすることは無かった。元々シュンは銃を使った事は一度も無い。父親の仲間が何度か使っているのを見た事ある程度である。このドルファンに来るまでも、頼りにしてきたのは故郷から持ってきた刀と、剣の腕のみだった。
ヤングの話はなおも続いた。
「それと、ここでは皆、傭兵も騎士と同等に扱われる!礼儀、学問、信仰、一通り叩き込んでやるから覚悟しておけ!」
『ゲッ……』
それを聞いて、シュンの顔はあからさまに歪んだ。
倭国を出てから戦場で暮らしてきたシュンにとって、学問など地平線の彼方に投げ捨てた言葉だった。
「以上だ、ではこれより二班に分かれて教習を行う。なまった体を鍛えなおせ!」
シュンは第二班に組み込まれた。
あいにくヒーツとギルバートは一斑らしく、姿は見えない。
二班のスケジュールは午前中は実技課程、午後から教養課程になっていた。
実技第一日目は実力試験として、教官相手に一対一の戦闘訓練となった。ヤングをはじめ数十人の教官が一列に並び、傭兵達がそれぞれに並んで掛かるのだ。
シュンは迷わずヤングの列に並んだ。
シュンの目の前には、おそらく十代後半と思われる少年が並んでいる。
列に並んでしばらくすると、その少年がシュンに話かけてきた。
「よう」
「あっ、こんにちは」
シュンも軽く頭を下げて挨拶する。
「お前、どこから来たんだ?」
「え?スィーズランドですよ」
当たり前のような質問に、シュンは当たり前の答えを返す。それに対して少年は苦笑して言った。
「そうじゃなくて、国はどこだって聞いたんだよ」
「あっ……」
シュンは納得したように首を振ると、笑って答えた。
「倭国です」
「ほう……東洋の島国だったよな。よくそんな遠くから、南欧まで来たな」
「ええ……まあ」
シュンはあいまいな表情をして、答える。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はエミール・シュテルハイン。ハンガリア出身だ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします。僕はシュン・カタギリです」
「そうか……ところでシュン、お前、あの人の事知ってるか?」
そう言ってエミールがさしたのは、ヤングだった。
「マジョラム教官がどうしたんですか?」
「あの人はもともとハンガリア人の傭兵だったんだが、このドルファンで目覚しい活躍をして騎士に取り立てられたんだ。そこでついたあだ名が『ハンガリアの狼』だ」
「ハンガリアの狼……」
「手ごわい相手だぞ。用心して掛かれよ」
そうこうしているうちに、エミールの番が来た。
「じゃあ、行って来るぜ」
「はい。がんばってください!」
自分に支給された訓練用の剣を携えて、エミールはヤングに向かっていった。
ヤングに対して剣を構えると、エミールは速攻を仕掛けた。
エミールはすばやい動きでヤングを翻弄し、隙を突いて打ち込んでいく。しかし歴戦のヤングはそのことごとくを防ぎとめ、反撃へと転じる。
逆にヤングは、エミールの動きが一瞬と止まったのを見計らい、充分に体重の乗った一撃をエミールに加えてくる。
「チッ!」
剣を弾かれたエミールはとっさに後退しようとするが、そこでヤングはハンガリアの狼の名にに恥じないスピードでエミールに追いつき、喉元に剣を突きつけた。
「……まいりました……」
搾り出すようにエミールは告げた。
戻ってきたエミールは、全力で走りまわった後のようにぐったりしていた。
「大丈夫ですか、エミールさん!?」
「……大丈夫じゃない……」
エミールは弱々しい視線をシュンに向けた。
「気をつけろ。怪我をしないようにな」
「はい!」
シュンがエミールに答えた時、ヤングの怒号が聞こえてきた。
「次!どうした!!」
「はい!!」
シュンは自分の剣を持て、ヤングの前に進み出た。
目の前に現れたシュンを見て、ヤングは一瞬怪訝な顔つきになった。おそらくこれまでと同じように幼さの残るシュンの顔が気になったのだろう。しかしすぐに気を取り直して剣を構える。
シュンも剣を構えながら、自分の名前を名乗る。
「東洋圏、倭国出身、シュン・カタギリです。よろしくお願いします!」
「おう!どこからでも掛かって来い!」
ヤングの低くて良く通る声が、気合となってシュンの小さい体を打つ。
シュンは剣を正眼に構えると、すり足でゆっくりと前進する。
それに対してヤングは、腕をやや正眼より突き出した構えを取る。
シュンは慎重に歩を進めて、自分の間合いを探る。
それを見守る傭兵達の目も、二人に釘付けになる。
次の瞬間、シュンが動いた。
間合いに入った瞬間、目にも留まらぬスピードでヤングの懐に入り、全力で剣を突き出す。
しかしヤングは実をひねってシュンの突きをかわすと、その頭めがけて剣を振り下ろす。
このときシュンは、すでにヤングの間合いに入っているため横に逃げる事はできない。さらに運動エネルギーの大半を前進に使っているため、後ろに下がる事もできない。では、どうやってかわすか?答えは全力で前に駆け抜ける。である。これならまだ間に合う。
前方に駆け抜けたシュンは寸差でヤングの剣をかわし、自身は追撃に備える。
一方のヤングは、完璧なタイミングで放ったはずの自分の剣がかわされ、軽い驚きを覚えていた。
真剣な表情で剣を構えるシュンを見て、ヤングは口の端に笑みを浮かべた。
「やるな」
そう言って、再び剣を構える。
シュンはと言うと、今度は八双の構えで、先ほどと同じようにジリジリと前に出て行く。
次の瞬間、目を疑うような事が起きた。
シュンは確かにヤングの目の前にいる。しかし、ヤングの後方にもう一人シュンが現れたのだ。
『残像か!!』
ヤングはとっさに、殺気をはらんでいる後ろのシュンに振り返った。
「天破無神流!襲影斬!」
シュンの斬撃が、ヤングを襲う。
しかしヤングは全力で後退し、シュンの斬撃をかわしきった。
すかさず追撃に入るシュン。後退し体勢の崩れたヤングに息も尽かさぬ速攻を仕掛ける。
上と思ったら下、右と思ったら左。流れるような動きがヤングを襲う。
しかしヤングも、伊達にハンガリアの狼と呼ばれたほどの男ではない。シュンの速攻を片っ端から裁いていく。
シュンは焦っていた。自分の攻撃は相手にかすりもしない。必勝の信念をかけて繰り出した速攻は、全てヤングに読まれていた。
徐々に息も上がりだす。戦場で暮らしているシュンは同年代の子供よりは体力があるのだが、それも傭兵と言う大人の世界においては、平均を大きく下回っている。持久戦はシュンにとって不利なのである。
『……仕方が無い……』
シュンは速攻をやめると、剣を肩に担いで構えた。
対してヤングは、速攻がやんだのを見計らい逆に攻勢を仕掛ける。
次の瞬間、シュンの小さい体は回転しながら中天に大きく舞い上がった。
「なっ!?」
ヤングをはじめ、その場にいた全員が息を飲んだ。
そのまま跳躍の頂点に達したシュンは回転をやめ、大きくえびぞりのように体を反らせる。
「天破無神流!襲星斬!!」
そのまま急降下に入るシュン。
自由落下に伴い強烈なまでに威力を高められた一撃が、ヤングに襲い掛かった。
しかしヤングも、切り上げるようにして剣を繰り出す。
二人の剣は空中で交差した。
着地と同時に砂埃が舞い、二人を覆い隠す。
見守る者たちは何がおこったのか分からないまま、固唾を呑んで砂埃を見つめる。
やがて砂埃の中で陰が揺らいぎ、ヤングが出てきた。
その腕の中には、気を失ったシュンが抱きかかえられていた。
勝負は何とか先に剣を叩き込んだヤングの勝利だった。ただ、とっさの事でさすがのヤングも手加減ができず、このような事態になってしまった。
「シュン!」
人ごみの中で見ていたエミールが、慌てて駆け寄る。
「大丈夫だ、すぐに救護班を呼んでくれ」
「はい!」
エミールは急いで救護班を呼ぶべく、走り去った。
ヤングは自分の腕の中で眠るシュンに目を落とした。
『面白い子だ。優れた才能と、強力な剣技を持っている。しかもまだ完成されたわけではない。この子はまだまだ伸びる』
ヤングはフッと笑った。
『面白い。この子の力、俺が目覚めさせてやる』
自らの教官がこのように意気込んでいる事も露知らず、シュンはヤングの腕の中で眠り続けていた。
第一話「ファーストデイズ」 終わり
後書き
皆さんこんにちはファルクラムです。
え〜と、第一話の掲載となりましたが、今回はシュン君の傭兵生活第一日目を取り扱ってみました。
なぜ、主人公がこんなに年下なのか、と疑問に思う方もいらっしゃると存じますのでお答えしておきますと、ある時ファルクラムの頭に天啓のようにひらめいた、「主人公の年齢を年少組みより低く設定したら反応が変わって面白いかも」と言う考えが元になっております。
これからも書き続けますので、どうか私めのつたない文章にお付き合いください。
追伸
「神破りし剣」のほうは、この「黒き流星」の後編みたいなものですので、あとでかならず書く事をお約束いたします。
それでは、また。
ファルクラム