シュン・カタギリはゆっくり息を吸った。そして、無形の位に構えていた木刀を正眼に構え直す。この木刀は、シュンが上質な樫の木から削り出して作った物である。これまでは訓練用の剣を使っていたのだが、やはりシュンの武器である刀と西洋風の剣では、用法がまったく違ってくる為、わざわざこの木刀を作ったのだ。
それに対抗するように、向き合ったエミール・シュテルハインは、訓練用の剣を腰溜めに構える。
二人は互いに睨み合い、まさしく一触即発と言った感じだった。
その回りでは、リヒャルト・ハルテナス、ヒーツ・ノイサス、ギルバート・マーカスら、傭兵部隊の幹部が取り巻いている。
次の瞬間、シュンの中の気合が大きく膨れ上がった。
『来る!』
エミールは目を細めて、シュンを迎え撃つ体勢を整える。
次の瞬間シュンの体が掻き消えた。
「前」
脇から見ていたギルバートが、低く呟いた。それを肯定するかのように、シュンはエミールの眼前に現れた。
「チッ!!」
シュンは木刀を袈裟懸けに斬り下ろす。
しかし木刀が体に届く直前に、エミールは後退してシュンの攻撃をかわす。
「ハッ!」
シュンはそのまま前進して斬り上げる。
それに対してエミールは大きく後退してシュンの攻撃をかわすと、体勢を立て直して逆に斬りかかる。
こうなると、体重に余裕のあるエミールの方がシュンより有利である。エミールは充分に加速のついた一撃をシュンに叩き込む。
「クッ!?」
シュンはとっさに木刀を水平に倒して、エミールの攻撃を受ける。そのままエミールは、速攻を仕掛ける。
「クッ!?」
シュンはエミールの攻撃を弾きながら、後退して体勢を立て直す。しかし、その前にエミールはシュンの前に斬り込んだ。
「もらった!!」
エミールはそのままシュンの木刀をすり上げ、開いた胴に剣を叩き込んだ。
「よっしゃ!」
エミールは思わず、喝采を上げる。しかし、
「上」
ふたたび、ギルバートが呟いた。
次の瞬間、シュンの体は幻のように掻き消える。
「襲影斬か!」
エミールは、考えるよりも先に体が動き、その場から離れる。
わずかの差で、シュンの木刀は空を切る。それを確認して、エミールはニヤリと笑う。
「食らえ!!」
そのまま振り返り様に、シュンを斬り付けた。しかしそのシュンもまた、エミールの目の前で掻き消える。
「なっ!?」
その時、エミールの首筋に、冷たい木刀が突きつけられた。
「はい、僕の勝ちです」
そう言うとシュンは、ニッコリ微笑んだ。
それを見て、エミールもニヤリと笑う。
「まいったな。あそこで襲影斬を二回も使ってくるとは思わなかったよ」
「普通の動きをしたんじゃ、エミールさんには勝てないと思ったんで」
「成る程ね」
そんな二人に、高みの見物をしゃれ込んでいた三人が近付いてきた。
「おいおい、情けねえぞエミール。あっさりやられちまいやがって」
ヒーツが相変わらずの銅鑼声で、エミールに言った。
「そんな事言ったってヒーツさん。こいつの襲影斬を目の前で二回も続けてやられたら、目がついていかなくなりますよ」
「そんな物気合でどうにかしろ」
「できるならやってるよ!」
一方でギルバートは、シュンのほうに話し掛けていた。
「まだまだだな、シュン」
優しげな口調の中にあっても、ギルバートは指摘する事はしっかり指摘する。
「端から見ていた俺の目には、お前の動きは手に取るように分かったぞ」
「……はい」
「俺はたまたま弓兵だから、剣の腕はお前に劣る。しかし、世の中には俺より目が良く、なおかつお前より剣の腕が立つ人物だっている。そういった奴と戦った場合、お前は負けてしまうだろう」
「おいおい、それくらいにしとけ」
リヒャルトが、苦笑しながら割って入った。
「そんな超人みたいな奴は、そうはいないって。それに、シュンはまだ14だ、これからまだまだ、伸びるさ」
しかしそれに対して、ギルバートは鋭く切り返した。
「確かに、シュンはまだ成長期真っ盛りだ。そう言う点から見れば、今焦って腕を上げる必要はないだろう。だが、もし今度の戦いで、八騎将の誰かとシュンが戦うような事があったら、どうする?」
その言葉に、誰も返す事ができなかった。それを見て、ギルバートは構わず続ける。
「シュンはイリハで疾風のネクセラリアを討ち取った。その事に口を挟むつもりはない。しかし、今のままで今度もまた、勝てるとは限らねえだろ。その為にも今、納得が行くくらい腕を上げておくべきだと思うぞ」
ギルバートの言葉は、まるで重りのようにシュンの方にのしかかってくるようだった。
片付けを終えたシュンは、いつも一人になりたい時に来る演習場の裏に足を運んだ。
「…………」
そこに立っている木の下に腰掛けて、シュンはただ一点を見詰めている。
『どうしたの、ボ〜ッとして?』
そんなシュンを見かねたピコが、話し掛けた。
「うん」
シュンは頷いて顔を上げる。
「ねえ、ピコ」
『ん?』
「僕は、間違ってるのかな……」
『…………』
「やろうと思えば、もっと強力な技だって使えるはずなのに…………」
『……シュン』
「でも…………」
シュンは膝を抱えて座り直すと、その膝に顔を埋める。
「恐いんだ…………力を解放してしまったら、自分が自分でなくなってしまうような気がして…………」
『……大丈夫』
ピコはシュンの肩の上に降りると、その頬をそっと撫でる。
『だって、その技は使うなって言われてるんでしょ?』
「…………うん」
頷くとシュンは、自分に天破無神流を教えてくれた叔父の事を思い出した。
父の弟に当たる叔父は、父の亡き後シュンを引き取り、天破無神流の全てを伝授してくれた。
本来、一子相伝であるはずの天破無神流だが、叔父は見よう見まねと独学で天破無神流をマスターしたほどの、天才剣士だった。
しかし教えるに当たって叔父は、シュンにある戒めを言い渡した。
それは、一定以上の破壊力を持った技を使わないというもので、これははるか昔からある、天破無神流の戒律だった。
「…………『かつて神話の時代、人と神の間に起きた戦争…………苦境に陥った人の軍勢が、人の身において神を斬る為に編み出した剣技』…………」
『何、それ?』
シュンの突然の呟きに、ピコはキョトンとして聞き返す。
「天破無神流の理(ことわり)だよ。人間が神を斬る為に作った流派、それが天破無神流だったんだ。だからきっと、使う側の人間もそれなりのリスクを背負わなければいけなかったんだよ」
『ふうん』
ピコが感心したように、呟いた時だった。視界の端で、エミールが歩いてくるのが見えた。
「よう、またここにいたのか?」
「どうかしたんですか?」
シュンは立ち上がって尋ねた。
それに対してエミールは、苦笑しながら言った。
「メシ食いに行こうぜ。さっき負けたから奢ってやるよ」
「え、いいですよ、そんな気を使わなくても」
「いいからいいから、年上の言う事は聞いとくもんだぜ」
そう言うとエミールは、シュンの手を引っ張って訓練所の出口に向かった。
ドルファン暦26年の暮れも、いよいよ押し迫ってきていた。
この頃になると、どの店もクリスマスに向けて店の飾り付けを行ったり、クリスマス用の商品を店先に揃えたりしていた。町の中心の広場には、大きなクリスマスツリーまで立てられている。
まさにドルファン首都城塞は、クリスマス一色と言った感じだった。
「あ、こんなのはどうかな?」
ソフィア・ロベリンゲはそう言うと、手に持った小物を、ついてきた友人二人に見せた。その小物は、背中に羽の生えた天使を模した置物だった。そうやらそれ自体が小さなオルゴールになっているらしい。デザインとしてはシンプルな方だ。
「う〜ん、何て言うか、もうちょっとかわった格好の物でも良いんじゃないかな?」
「そうね、シンプル過ぎるわよ」
友人二人──ハンナ・ショースキーとライズ・ハイマーの両名は、互いに否定的な言葉を口にした。
今日三人は、クリスマスに友人に送るプレゼントを選びに来ていた。
今だにドルファンはヴァルファと交戦状態にあり、なおかつ最前線である国境都市ダナンは敵の占領下にある。そのような状況下で、クリスマスなどにうつつを抜かしている暇はないような気もするの。しかし、なにより王城でも盛大にクリスマスパーティーが催す中にあって、一般市民に自粛を促す訳にも行かず、こうして、首都を上げてのクリスマス気分となった訳である。
ハンナはともかく、ライズは当初付き合う気はなかったのだが、ハンナに強引に引っ張ってこられたのだ。
『…………のんきな物ね』
ライズは辺りの状景を見回し、心の中で呟いた。
このドルファンに来て、何度同じ事を考えた事だろう。こういった状景を見るたびに、ライズはこの国、いや、この首都城塞にとって、戦争など遠い世界の出来事のように扱われている事を感じた。
今、この瞬間にも彼女の仲間は、遠い地で苦しい状況にある。それなのに自分は、彼女たちと一緒に、この箱の中の平和を味わっている。
『このままで、良いはずがない』
ライズがそう呟いた時だった。
「……ズ……ライズ!」
突然呼びかけられて、ライズは我に返った。
「どうしたの、ぼうっとして?」
ハンナが、怪訝な顔付きでライズを見ている。
「……何でもないわ」
少しためらってから、ライズは答えた。
「ふ〜ん、ま、いいや。それよりこんなのどう?」
そう言ってハンナが見せたのは、水色の毛糸で織られたマフラーだった。
「どうって?」
「似合うと思う?」
ライズは少し考えてから答えた。
「そうね、あなたのイメージに合うかもしれないわ」
それを聞いて、ハンナは困ったような顔をした。
「あのさ、僕じゃなくて、ライズにだよ」
「え?」
その時のライズの顔は呆気に取られて、少々間の抜けた顔をしていたのかもしれない。その証拠に、ハンナは可笑しくてたまらないと言わんばかりに笑い出した。
「絶対似合うと思うよ」
そう言うとハンナは、ライズの首にマフラーを巻いてみた。
「うん、似合う似合う。君って結構クールだから、こう言う色が似合うと思うよ」
「……そう」
ライズは呟くと、あらためて鏡に目をやった。
彼女の首には、水色のマフラーが巻かれている。彼女の手に元々はめられている赤い手袋との妙なギャップが、かえって彼女の魅力を引き出している。
そこへ、買い物を済ませたソフィアがやってきた。結局、先程のオルゴールに決めたらしい。
「お待たせ、後はどうする?」
「ちょっと待って」
そう言うと、ハンナはライズの首からマフラーを外した。
「僕、これ買ってくるから、ちょっと待ってて」
「……ハンナ」
ライズは少し困った顔で、ハンナを見た。
それに対して、ハンナは悪戯っぽい笑顔をライズに向けた。
「いいからいいから、これが終わったら僕の知ってるレストランでお昼ご飯食べようね」
そう言うとハンナは、会計の方に走っていった。
「だから、もう一遍言うぞ!」
昼食を食べる為に入ったレストランで、エミールは大声を出していた。その向かいに座ったシュンは、恥ずかしそうに回りを見回している。
「いいか!俺がチーズドリアとコーヒー!そっちがチキンカレーとオレンジジュースだ!分かったか!?」
エミールは、目の前のウェイトレスに言い放った。
それに対してウェイトレスは、
「はい、もう一度言います、あなたがハンガリア風ドリアとミルク、そちらの方がハヤシライスにメロンジュースですね」
「ちっがーーーう!!」
先程から四、五回はこの調子でやり取りしている。何度言ってもこのウェイトレスは、オーダーを覚えられないのだ。
「あの」
見かねてシュンは、割って入った。
「すいません、それでいいので、早く持ってきてください」
「おい、シュン!」
「わっかりましたあ!!オーダーは入りまーす!!」
そう叫びながら、ウェイトレスは厨房の方に入っていった。
「ったく!何なんだありゃあ?」
そう言うと、エミールはドカッと椅子に腰掛けた。
「真面目にやる気あるのかよ」
「良いじゃないですか。僕はもうお腹が減って、何でも入りそうですよ」
「…………俺もだ。叫んだら余計腹減った」
エミールは憤懣を露にしながら、腕を組む。
「まあ良い。これだけ腹減ってりゃ、何食ってもうまいだろ」
「そうですね」
シュンはそう言って、ニッコリ笑った。
そのシュンの笑顔を見て、エミールは尋ねた。
「なあ、シュン」
「はい?」
水の入ったグラスを口に運びながら、シュンはエミールを見る。
「お前、さっき何考えてたんだ?」
「え?」
「訓練所で俺が誘った時だよ」
「それは……」
エミールの質問に、シュンは言いよどむ。それを見て、エミールはさらに尋ねる。
「ギルバートさんに言われた事だろ?」
「…………はい」
シュンは、神妙な顔で頷く。
「エミールさん……」
「何だ?」
「…………いえ、何でもないです」
シュンは、再び黙り込む。これは自分自身の問題である。例えエミールであっても、相談できる類の物ではなかった。
そんなシュンの心情を汲み取って、エミールは身を乗り出した。
「悩みを抱え込むのは良くないぜ。話してみろよ」
そう言うエミールは、まるで本当の兄のようだ。
「……はい」
頷いてから、シュンは顔を上げた。
「……力のある人間が、その力を使わないのは、卑怯でしょうか?」
「あん?」
エミールは、シュンの目をじっと見詰める。
シュンはやや伏せ目がちにしながら、エミールの返事を待っている。
そんなシュンに、エミールはゆっくり口を開いた。
「別に、いいんじゃねえの?」
「え?」
予期していなかった答えに、シュンは思わず顔を上げた。
その視線の先には、優しいげな笑みを見せるエミールがいた。
「誰にだって事情があるんだ。力を持っていても使えない事情があるなら、無理に使う必要はねえさ」
「エミールさん……」
シュンは、心持ち表情を和らげた。
「それによ、戦争はお前一人でやってる訳じゃねえんだ。もう少し、俺達の事も信用してくれよ」
「…………はい」
そう頷いたシュンの顔には、先ほどまで漂っていた不安の空気が奇麗に消え去っていた。
その時、先程のウェイトレスがやってきた。
「あのう、すいませ〜ん」
「はい?」
シュンが顔を上げて聞き返した。
「店内、今、込み合ってるんで、すいませんが、相席よろしいでしょうか?」
シュンは一度エミールの顔を見てから答えた。
「ええ、かまいませんよ」
「どうもすいません、それでは、こちらへ、ど〜ぞ〜!」
そう言うと、ウェイトレスは、三人の少女を案内した。しかし、その顔ぶれに、シュンは見覚えがあった。
「あれ、ライズさんにソフィアさん、それにハンナさんも」
「ヤッホー、奇遇だねシュン」
そう言って、ハンナはウィンクしてみせた。それから、向かいに座ったエミールを見た。
「それに、エミールさんだっけ?」
「おう、久しぶりだな、呼び捨てで良いぜ」
そう言って、エミールも片手を上げる。
ライズとソフィアは、エミールとは初対面である為、一通り自己紹介を終えてから一同は席についた。
「でも、ほんと、奇遇ですね。こんな所で合うなんて」
「あはは、実はさ、彼女、」
そう言うとハンナは、先程のウェイトレスを差した。
「僕の従姉妹なんだ」
「「え?」」
シュンとエミールの言葉は、見事にハモッた。
「そうなんですか?」
「まあね。名前はキャロル・パレッキー、僕より四つ年上だよ。だから、お昼はよく、ここに来るんだ」
「だったらよ」
エミールは、少し顔をしかめて口を開いた。
「ちょっと言っといてくれよ。オーダー間違えるなって」
それを聞いて、ハンナはまるでどこかをくすぐられているみたいに笑い出した。
「あはは、やっぱりやったんだ!!」
それを見て、他の四人は唖然とする。
「キャロ姉ったらさ、いっつもオーダー間違えるんだよ。あれはもう、確信犯だよね」
「おいおい、そんなんじゃ客が引いちまうぞ」
「それがさ、あのオーダー、結構人気あるらしいよ。『何が出るか分からないからスリルがある』ってさ」
「そんなもんかね?」
エミールがややげんなりして答えた時、厨房から料理が運ばれて来た。
シュンにしろエミールにしろ、オーダーとかけ離れた物が出されたが、もはや文句を言う気にもなれず、二人はそのまま口に運んだ。
その内にハンナ達の料理も運ばれてきて、ようやく料理が出そろった頃、ソフィアが口を開いた。
「エミールさんは、シュン君の先輩なのですか?」
ソフィアの言葉にエミールは、料理を運ぶ手を止めた。
「先輩っつうか、どちらかと言えば、ダチに近いかな?ここの傭兵部隊に入ったのは同時だったし。剣の腕は俺よりもこいつの方が良いくらいだ」
「そうなんですか」
ソフィアは、以前シュンが言っていた事を思い出した。シュンは、傭兵部隊には友達がたくさんいると言った。エミールも、その一人なのだろう。
「戦う上での、仲間意識と言う物ね」
ライズが、淡々とした口調で言った。
「う〜ん、ちょっと違う気がします」
シュンは、なぜか自分の席に運ばれてきたカツカレーを飲み込んでから、口を開いた。
「一度戦いに赴けば、確かに一緒に戦う仲間として頼りにしますが、こうして普段生活する分には、どちらかと言えば家族みたいな物だと、僕は思っています」
「……家族……」
そう呟くと、ライズは少し目を伏せた。
彼女にも仲間が、そして家族がいる。その家族は今…………
「どうしたんですかライズさん?」
そんなライズの表情に気付いたソフィアが、心配そうに声を掛けた。
「……何でもないわ」
そう言ってライズは、顔を背けた。
「何でもないって顔じゃないな」
エミールはそう言って、ライズの顔を覗き込む。エミールには、今のライズの表情に見覚えがあった。それは先程までの、シュンの思い詰めた表情に良く似ていた。
しかしライズは、逃げるように視線をはずした。
「本当に、何でもないわ」
「…………なら、良いけどよ」
エミールも、それ以上踏み込もうとはしなかった。初対面の相手をこれ以上問い詰めるのは失礼だと思ったからだろう。
それから暫く、一同は一言も口を利かずに、黙々と料理を口に運んだ。
10分くらいした頃だろうか、突然通りの方が騒がしくなった。
「なんでしょう?」
シュンが立ち上がって人込みの向こうに目をやるが、野次馬が邪魔で見えない。
「今日、何かパレードあったっけ?」
「さあ、聞いてないけど」
ハンナの問いに、ソフィアも首をかしげる。
「僕、ちょっと見てきますね」
そう言うとシュンは、外に駆け出した。
しかし暫くして、慌てて戻ってきた。
「大変です!サーカスの動物が急に暴れ出して、町で暴れているそうです!!」
今、全欧で有名なパリャールヌイサーカス団がドルファン首都城塞に来ている。そこで使われている動物達が、暴れていると言うのだ。
レストランの中は、騒然となった。
そんな中で、エミールの反応は素早かった。
「シュン!!」
エミールは、傍らに立てかけてあったシュンの刀を投げ渡すと、自身もロングソードをもって席を立った。
「皆さんはここから出ないようにお願いします!!」
シュンとエミールはそれだけ言い残すと、猛獣が暴れている町の中に駆け出した。
通りの方は、すでにパニックに陥っていた。
逃げ惑う人の波が、左右に走り回り、エミールはなかなか前に進めないでいた。
「どけよ!どけったら!!」
なんとかかき分けて前に進むが、すぐに押し戻されてしまう。
そんなエミールを尻目に、シュンは洋服店の看板の上に跳び上がった。
「エミールさん、先に行きます!」
そう言うと、そのまま屋根の上に飛び乗って、走り出した。
「いいよな、こう言う時身の軽い奴は」
一方のシュンにも、焦りがあった。
動物、暴走、この二つのキーワードが、ある物の存在を指し示していた。
『鬼道衆、獣使いの源蔵……彼に違いない!』
先日現れた鬼道衆の刺客に、想いを馳せる。おそらくこの混乱に乗じて、シュンを抹殺する魂胆なのだろう。
『でも、そんな事の為に、関係ない人達まで巻き添えにするなんて!!』
シュンの胸の内で、怒りの炎が燃え上がる。
『シュン!!』
そんなシュンの肩に、ピコが舞い下りる。
「ピコ!」
『動物達は町の広場にいるよ!!』
「分かった、ありがとう!!」
そう言うと、シュンは更に加速した。もはやピコでも追い付けない。
『絶対負けちゃだめだよ!!』
そんなシュンの背中に、ピコがあらん限りの声で声援を送った。
ピコが言った広場は、既に猛獣達に占領されていた。
大小様々な動物達が、思い思いに町を破壊している。
普通、サーカスの動物達は訓練を受けているはずだから、このように暴走する事など考えにくい。ましてやそれが集団となると、異様以外の何物でもなかった。
そんな動物達に追い詰められるように、赤ん坊を抱いた女性が、建物の壁際に追いつめられている。その回りにはゴリラや猿と言った、比較的大人しく、普通にしていれば暴れ出す事がないはずの動物達が包囲していた。
「あ…………あ…………」
その女性は恐怖で足に力が入らず、立つ事すらままならないようだ。それでも胸の中の赤ん坊を手放さないのは、立派と言う物だ。
そんな親子に、猿達が一斉に牙を剥いた。
「ヒィ!?」
親子の運命が旦夕に迫ったその刹那、横合いから一筋の流星が流れ落ち、猿の群を一撃で粉砕した。
「え?」
女性が顔を上げると、そこには曲刀を構えた少年が立っている。
「大丈夫ですか?」
その少年──シュンは、女性に優しく語り掛ける。
「はっ、はい……」
どうにか答えるだけの元気は残っていたようだ。しかし、回りは動物達に囲まれて、蟻の這い出る隙間もない。
「下がってください」
シュンは女性を下がらせると、そのまま壁を斬り裂き、人一人がやっと通れるだけの通路を作り出した。
「さあ、ここから早く!!」
「はっ、はい!!」
女性はシュンに頭を下げると、その穴の中に飛び込んだ。
「…………さて」
シュンは穴をふさぐようにして立つ。
動物達も女性を追う気はないらしく、シュンを包囲しにかかる。それを見て、シュンは確信を持った。
「やはりあなたですね……鬼道衆の源蔵!!」
その叫びに対し、シュンの頭に直接答えが返ってきた。
『その通り』
くぐもった声が、シュンの脳にこだまする。
『今度こそ貴様の首貰い受けるぞ、片桐瞬!!』
そう言った瞬間、一頭の豹が、シュンに飛び掛かり、その体を引き裂いた。
しかし、その豹の口の中で、シュンの体は掻き消えた。
次の瞬間、豹の脇に出現したシュンは、刀を峰に返し、そのまま豹の胴をっ叩きのめした。例え自分を狙う動物でも、操られている者を無益に殺したくはなかった。
豹は悲鳴を上げて、その場に倒れ伏す。
それが合図だったように、他の動物隊も一斉にシュンに襲い掛かった。
シュンは迷わずその中に踊り込んだ。
「襲雷斬!!」
いくつかの閃光が走ったかと思うと、先頭の数体が音を立てて吹き飛んだ。
そこへさらに、二頭の虎が牙を剥いて飛び掛かる。
「ハァ!!」
シュンは体を回転させ、威力の乗った一撃で虎二頭を吹き飛ばす。
しかし、一頭は吹き飛ばしたが、もう一頭は体勢を立て直して向かってくる。
「クッ!?」
シュンはとっさに体をずらして、虎の牙から逃れると、その頭に刀を叩きつけ虎を倒す。
そのシュンに、今度は四、五頭の猿が爪を立てて飛び掛かった。
「チッ!」
シュンは猿の爪が届く前に、空中に飛び上がってよける。
「襲雷斬!!」
シュンは急降下を掛けながら、襲雷斬を使おうとする。しかし、そのシュンの頭上に小さな影が躍る。
とっさに上を見るシュン。
「狼!?」
狼が二頭、シュンの頭上から襲いかかろうとしている。
シュンはとっさに、刀を頭上に掲げて狼の牙を防ぐ。しかしそのまま、地面へと叩き付けられる。
「グア……」
シュンは背中から叩きつけれた。そのシュンに向かって一斉に動物達が襲い掛かる。
しかし動物達の牙が届く前に、シュンはその場から姿を消す。そして次に現れた瞬間、襲雷斬で動物達を吹き飛ばす。
それを遠くから見ていた源蔵が、ニヤリとほくそえんだ。
「行け、獣達」
囁くように、命令の言葉を告げた。
次の瞬間、動きの止まったシュンに、動物達が一斉に襲い掛かった。
「!?」
動きを止めた直後なので、さしものシュンもすぐには次の動作に入れない。次の瞬間、動物達の爪がついにシュンの体を捉えた。
動物達はそのまま牙をむき出し、シュンの小さい体を貪りに掛かる。
「ウワァァァァァァァァァ!!」
雄叫びと共に、シュンは動物達を吹き飛ばした。
しかしその体からは、各所から血が滴り落ちている。
「さすがに……不利か……」
シュンは苦しそうに呟く。
そのシュンに息をつかせるまもなく、動物達が襲い掛かる。
「クッ!!」
シュンは刀を構え直した。
その頃レストランに残ったライズ、ハンナ、ソフィアの三人は、窓越しに、通りの様子を覗いていた。
すでに通りに人影はなく、問題の動物達も姿を現さなかった。
「…………静かだね」
ハンナがポツリと言った。
「もう、大丈夫なんじゃないかな?」
「だめよ、シュン君達が帰ってくるまで待ちましょう」
ソフィアは心配そうに声を上げる。
「だって、ほら」
ハンナは外を差した。
「外には何もないし、きっともう大丈夫だよ」
「状況証拠だけよ。判断の材料が少なすぎるわ」
ライズも、ハンナに否定的な意見を述べる。
しかしハンナは、どうにも外の様子が気になって仕方ないようだ。
「僕、ちょっと様子見て来るよ」
そう言うと、入り口に駆け出す。
「ハンナ!」
ソフィアが制止に掛かるが、ハンナはそのまま扉を開く。
「大丈夫大丈夫!僕、足には自信があるから!!」
それだけ言うと、ハンナは外に飛び出した。
「ハッ!!」
シュンの一撃によって、二頭の猿が一遍に吹き飛ぶ。
しかし、そんなシュンの腕に、他の猿が取りついて動きを封じに掛かる。
「チイ!?」
一瞬動きを止めてシュンに、豹が襲いかかった。
豹はシュンに飛びつくと、そのまま地面に押し倒す。しかし、そこで豹の方が地面に崩れ落ちた。シュンはとっさに開いた方の手で、ベルトから鞘を押し出し、豹の腹を突いたのだ。
急いで身を起こしたシュンに向けて、今度は三頭の狼が襲いかかった。
その狼を、シュンは一撃で振り払う。
しかしその影から、今度は黄色いたてがみを持つ動物が現れる。
百獣の王と称される、ライオンのお出ましである。
「!?」
シュンはとっさのことでかわしきれず、脇腹を抉られる。
「グッ!?」
シュンは脇腹を押さえて後退する。その手には、べっとりと血がつく。
しかし息つく暇はない。先程のライオンが、向きを変えてシュンに向かってくる。
「クッ……」
シュンも迎え撃つ為に、体の向きを変えようとするが、その瞬間、脇腹から全身に激痛が走る。
「うあ……」
シュンはその場で片膝をついた。
ライオンの牙が、シュンに迫る。
「死んで、たまるか!!」
シュンはとっさに襲影斬でライオンの牙をかわし、その横から刀を叩き付けた。
首筋への一撃で、ライオンはそのまま失神する。
しかし、もはやそれが限界だった。下半身から一気に力が抜け、シュンはその場に片膝をついた。
そんなシュンの前に、巨大な白い影が現れた。
「…………」
見上げると、そこには牙をむき出しにした白い虎がいた。ホワイトタイガーと呼ばれる種類の虎で、非常に固体数が少ないとされている。おそらく、保護も兼ねてサーカス団が飼っていたのだろう。
しかし今、そのホワイトタイガーもまた、シュンに対して牙をむき出しにしている。
「…………これまでか」
シュンはゆっくりと目を閉じた。
祖国を遠く離れ、このような異境の地で獣に食い殺される。ある意味、自分にふさわしい最後かもしれない。どのみち、ろくな死に方はしないだろうと思っていたのだ。
しかしその牙が届く前に、シュンとホワイトタイガーの間に、数本の矢が突き刺さった。
瞬間的に後退して矢を避けるホワイトタイガー。
「え?」
シュンも思わず顔を上げる。
「シュン!!」
視界の先には、ようやく駆けつけた傭兵部隊の仲間達が見えた。その先頭には、馬に乗ったエミールがいた。ここに来る途中エミールは、騒ぎを聞き付けて出動してきた傭兵部隊と合流したのである。
「エミールさん……皆さん……」
助かった安心感から、シュンの顔には笑みが広がった。そして、そのまま背中から倒れ込む。
駆けつけた傭兵部隊の手によって、生き残っていた動物達も、次々と行動不能になっていった。
「シュン!!」
エミールが、倒れているシュンに駆け寄る。
「大丈夫か、おい?」
「ははは……来るの、遅いですよ、エミールさん……」
「馬鹿野郎、お前の足が速すぎるんだよ」
そう言うと、衛生兵を呼び寄せる。駆けつけた衛生兵は、シュンを担架に乗せ、ゆっくりと運び出す。
しかし、その時だった。突然獣の唸りが響き、先程のホワイトタイガーが現れる。
ホワイトタイガーは、包囲していた傭兵達を蹴散らす。
「何て奴だ!?」
シュンの傍らに立ったエミールがうめく。その間にも、ホワイトタイガーは次々と傭兵達をその牙に掛けていく。鮮やかな白い色をしていたホワイトタイガーの口の回りは、いつしか鮮血で真っ赤に染まっていた。
その時、新たな得物がホワイトタイガーの前に現れた。
「!?」
「あれは!!」
それは、様子を見に来たハンナだった。まさに、最悪のタイミングと言えた。
それを見ていた源蔵は、ほくそえんだ。
「やれ、ホワイトタイガー」
次の瞬間、ホワイトタイガーは、立ちすくむハンナに突進する。
「逃げろ、ハンナ!!」
必死に叫ぶエミール。しかし、恐怖で足が竦んでいるハンナは、その場に尻餅をついて震えているだけだ。その間にも、ホワイトタイガーはハンナに迫ってくる。
「チイ!!」
エミールはとっさに駆け出した。そして、腰のロングソードを抜き放つ。
「馬鹿野郎!!」
エミールは今にもハンナに襲い掛かろうとしていたホワイトタイガーに、斬りかかる。
しかしホワイトタイガーはエミールの剣が届く前に、上空に飛びあがってよけた。
そして、そのままハンナに向かって急降下する。
「クッ!」
エミールはとっさに、ハンナの前に立ちはだかり盾になる。その肩に、ホワイトタイガーの牙が、深々と突き刺さった。
「グアアアアアアアアアア!!」
強烈な鮮血が、ホワイトタイガーを赤く染め上げる。
そこまでの傷を負いながらも、エミールはハンナに振り返った。
「逃げろ、早く!!」
エミールは渾身の力を込めて、ホワイトタイガーを押し返す。
それを見てようやく立ち直ったハンナが逃走に入る。
ホワイトタイガーもそれを追おうとするが、その前にエミールが立ちはだかる。
「おおっと、ここは通行止めだぜ」
そう言うと、不敵な笑みを浮かべる。しかし、その額からは絶えず脂汗が流れ落ち、もはや立っているのもやっとと言うのが、手に取るように分かる。
それを見て、シュンは起き上がった。
「准尉、起きては駄目です」
制止しようとする衛生兵に、シュンはニッコリ微笑んで押しのける。
「大丈夫です、それより、僕の刀を」
シュンは、衛生兵から刀を受け取ると、納刀したまま腰溜めに構えた。
その視界の先では、今しもホワイトタイガーがエミールに飛び掛かろうとしている。
次の瞬間、強烈な風が吹き始めた。回りにいる傭兵達は、吹き飛ばされまいと必死に堪える。
やがて風は、シュンの体を中心に吹き始め、その手元へと集中していく。
次の瞬間、ホワイトタイガーがエミールに襲い掛かった。
同時に、シュンは目を大きく見開く。
「天破無神流、抜刀術!!」
叫びながら、刀を鞘走らせる。
「襲鳴斬!!」
次の瞬間、手元に凝縮された風が開放され、衝撃波となってホワイトタイガーに飛んだ。
衝撃波を直撃されたホワイトタイガーの巨体は天高く持ち上げられ、錐揉みしながら地上へ叩き付けられた。
それと同時に、シュンも崩れ落ちた。今の一撃で、最後に残っていた体力も使い果たしたのだ。
「シュン!!」
そんなシュンにいち早く駆け寄ったのは、傭兵に保護されていたハンナだった。
「シュン、しっかりして!!」
ハンナの呼びかけに、シュンはゆっくりと目を開いた。
「…………お怪我は、ありませんかハンナさん」
「僕は大丈夫、それより君が」
「……大丈夫ですよ、これより大怪我した事は、いくらでもありますから」
そう言って、シュンは笑顔を見せた。
そこへ、肩を押さえながらエミールがやってきた。
「ったく、倒れるまで無茶しやがって」
「ははは、エミールさんに、言われたくないです」
「何だと?」
「だって、ハンナさんの盾になってホワイトタイガーにかまれるなんて、僕には真似できませんよ」
「当たり前だ。お前とは鍛え方が違うんだよ」
そう言うと、二人は微笑しあった。
やがてシュンは、衛生兵に打たれた麻酔薬で眠りにつくと、検査のためドルファン病院に後送されていった。
その光景を、源蔵は歯噛みしながら見詰めている。
「おのれ、片桐瞬……よくも我が術を破ってくれたな…………」
実際の話、傭兵部隊が駆けつけなければ、確実にシュンはホワイトタイガーに殺されていた訳だから、源蔵の怒りは火を噴かんが如くである。
「しかし、まあ」
源蔵は考え直して、ほくそえむ。
「奴もあの状態では、暫く動く事は出来まい。その間に、亡き者にしてしまえば良いか」
そう、これからチャンスはいくらでもある。何も焦る必要はなかった。
しかし、彼がそれを実行する事はできなかった。
「それは無理と言う物よ」
「!?」
突然背後から女の声がして、反射的に源蔵は振り返った。
しかし次の瞬間、源蔵の胸に深々とナイフが突き刺さった。
「何!?」
ナイフは正確に心臓を刺し抜き、確実に致命傷を与えていた。
「動物と戯れている暇があるなら、少しは己自身を磨く事ね。もっとも、もうその必要もないのだけど」
女がゆっくりとナイフを引き抜くと、源蔵はそのまま床に倒れ込み、二度と動き出す事はなかった。
「…………」
女性はしばらく現像の遺体を眺めていたが、やがて興味を失ったように視線を外し、窓に歩み寄った。
その視線の先では、眠ったシュンが担架に乗せられて、運ばれていく所だった。
それを見て、女はフッと笑った。
「借りは返したわよ、シュン」
それだけ言い残すと、女は風のように消え去った。
結局この事件は、サーカス団の管理不行き届きとされ、加害者側が罰金を支払う事で決着を見た。
幸い重傷を負ったシュンもエミールも、思っていたより傷は浅く、数日の時を置いて退院する事ができた。
しかしシュンは数日後の新聞で、セリナ運河に身元不明の遺体が上がったと言う記事を見逃さなかったが、ついに、誰が源蔵を殺したか、までに思いは至らなかった。
第七話「迫る、牙」 おわり
後書き
どうもこんにちは、ファルクラムです。
前回と今回、「獣使いの源蔵」と言うキャラを登場させ、熊騒動と、猛獣騒動を合体させてみましたが、いかがでしたでしょうか?
少し複雑になりつつある人間関係は、今後どうなっていくのか?
どうか、ご期待してお待ちください。
さて、今回は以前紹介したように、天破無神流の技を少し紹介していと思います。
こちらの都合上、これまでに登場した技に限らせていただくのは、どうかご了承ください。
さて、そのルーツは、本編でシュンが言った通り、はるか神話の時代、人と神との間で戦争が起こり、劣勢に陥った人の軍勢が、「人の身において、神を斬る為に編み出した剣技」です。
なにやら、大風呂敷を広げた気もしますが、実際に話、時代の流れと共に、風化してしまって、人知を超える技はほとんど伝わっていません。それでも、奥義やそれに類する技は、常人ばなれした技が多く、故に代々の継承者は、「一定以上の技を使わない」と言う戒律を頑なに守ってきたのです。
では、技の紹介に移りたいと思います。
1、襲影斬
体の動きに緩急を付ける事で相手の目を撹乱し、残像を作り出す技。天破無神流において最も基本的かつ初歩的な技だが、それゆえに使い出が良く、また、様々なバリエーション変化や、他の技との組み合わせができる。シュンもよくこの技を多用するのだが、シュンの場合まだ未熟で、姿を消す事ができても、攻撃に移る際の殺気までを消す事はできない為、達人級の人間と戦った場合、見破られる事が多い。
2、襲雷斬
襲影斬のスピードを少し落として、技の切れに正確さを与え、一対多数の戦闘に使えるようにした技。それほど移動速度は速くないが、それでも常人の目では、姿を捉える事はできない。
3、襲月斬
腰に全エネルギーを集中し、跳び上がると同時に斬撃を加える。跳び上がった時の初速をそのまま剣に伝える為、一撃で馬の首をも切断し得る。跳び上がって剣を振るった時の軌跡が三日月のようだったことから、この名がついた。
4、襲牙斬
二刀技の一つ、間合いの範囲内で体を高速回転させ、まず一刀目が相手の体を切り裂き、続いて繰り出した二刀目が、最初の傷をより深く抉る。その一撃は凄まじく、時には人の体を真っ二つにしてしまう事もある。
5、襲鳴斬
今回登場した抜刀術。気合を手元に集中させ、抜刀時の風圧で相手を吹き飛ばす技。神話の時代には、この技で神軍の一個軍団を丸ごと吹き飛ばしたと言う伝説があるが、今では風化し、人間なら数人吹き飛ばすのがやっと。それでも、数少ない間合いの外から攻撃できる技であるため、重宝されている。
6、襲星斬
戒律に触れない技としては、最強の威力を誇っている。体を回転させながら宙に浮きあがり、そのまま急降下する事で相手を斬り倒す大技。その威力は凄まじく、達人が使えば、樹齢千年規模の大木でも割り箸のように真っ二つにする事ができる。また、いくつかバリエーションが存在する。
いかがでしたでしょうか、以上が、一年目にシュンが使った技です。
まだまだいくつか存在しますし、奥義ももちろん考えてありますが、それは本編で登場するまでお待ちください。
それでは、今回はこの辺で。
ファルクラム