「ねえねえ、手紙が来てるよ」
「手紙?もしかして、カイティからか?」
「果たし状…って書いてあるから、違うよ」
「じゃあ、あいつか?…でもなあ…」
カタギリは届いた手紙を読み始めた。カタギリの予想通りのことが書いてあった。
「…」
(「今宵、銀月の塔で決着を」…か)
「あのジョアンから果たし状かぁ…なんか、裏がありそうだよね…」
ピコはカタギリの顔をうかがった。何かを考えている。
「…どうしたの?」
「ん?ああ…ジョアンは、まだ、あのことを知らないのかなって…」
「あの事って…2週間前のこと?」
まだ、ソフィアが爆弾テロの被害によって入院していたときに、病室を抜け出して浜辺まで行ったことがあった。
浜辺に着いたのは夜。そこで、アンと出会った。
「アンさん…好きなんですね…彼のことが…」
「ソフィア…さん?」
「カタギリさん…彼女の気持ち、受け止めてあげてください…」
「で、でも、それじゃあソフィアさんが…」
「いいんです…私には婚約者がいますから…」
「ソフィア…さん…」
「カタギリさん…さよなら…」
ソフィアは、最後にその一言だけ言うと、カタギリとアンに背中を向け、街の方に消えていった。
「カタギリさん…気付きましたか…?彼女、私のために、彼女自身の気持ちを…」
「…」
カタギリは先ほどからずっと自分の足下の地面を、もしくは虚空を見ている。アンの質問は耳に届いてないようだった。
「私…ソフィアさんの所に行って来ますね…」
アンも浜辺から姿を消した。
カタギリが宿舎に帰りだしたのは、もうしばらくしてからだった。
翌日、ソフィアがカタギリの部屋に訪れたが、「今まで、いろいろとありがとうございました…」とだけ言って、帰ってしまった。
(ソフィアは俺と別れたんだ…そういう方向での決着をつける必要は…無いだろう…)
「…どうするの?」
「…行くさ…」
「ホントなの!?どうして!?」
予想してなかった答えにピコはカタギリに詰め寄った。
「そんなに慌てるなよ、ピコ…まだ戦うと決まった訳じゃない…」
「えっ?」
「問題は、何のために戦うか…だ」
「?」
「騎士として…つまり、腕試し。もしそうなら、受けるつもりだ…」
「ソフィアを…彼女をめぐって…だったら?」
「2週間前のことを聞けば、あいつだってわかるだろう…戦うのが、無意味だって…」
「そっか…」
一通り会話が終わって、少し静かになったところに双子の声が聞こえた。
「カタギリ!食材の買い出し手伝ってくれ!」
「んん…?レン…か?」
ドアを開けた後カタギリがそう言うと、双子の片割れはうなずいた。
「シンは…?」
「なんか…『用があるから』って言ってどっかに…」
「…わかった。宵の時まで暇だからな…」
「…お前も何かあるのか…まあいい、じゃ、行こうぜ」
宵の刻。
カタギリは剣を持って銀月の塔に向かった。
「よく逃げずにやってきたな、東洋人!」
レリックス駅の辺りで、この国で数度、会ったことのあるジョアンの部下の、チンピラ達と出会った。
「ぐへへへ…おっと、勘違いするなよ…お前さんが加勢を頼んでないか、確かめるだけだ」
「どうやら、あんた一人のようだな…オーケイ、通っていいぜ」
「…」
カタギリは無言のまま、銀月の塔へ歩いていった。
「…来たか…」
ジョアンは銀色の鎧を着込んで、頂上で待っていた。
「まずは今宵の決闘における、立会人を紹介しよう…」
そして出てきたのは、ソフィアだった。
(…!)
「東洋人…覚悟はいいか…?」
「待」
「ジョアン、止めて!こんな事しても、しょうがないでしょう!?」
カタギリの言葉はソフィアの声にかき消された。そのソフィアの声に、ジョアンは顔をしかめた。
「しょうがない…?そんなことあるものか!」
ジョアンはソフィアに対し、激しい剣幕で怒鳴りつけた。
「ソフィア!君はこの東洋人が好きなんだ!この僕を見ていないっ!」
(…)
カタギリは少し、寂しい顔をした。
「僕のどこがこんな奴に劣るんだ!?こんな傭兵ふぜいの東洋人に、エリータスに生まれたという僕が!」
「…」
ソフィアは、答えなかった。
(…それさえ、その貴尊般卑の性格さえなければ、ソフィアはお前のことを…)
好きになっていただろうな、とカタギリは思った。
「ソフィア…き、君も思ってるんだっ!ぼ、僕が、ママの…マリエル・エリータスの、操り人形だって!ただの…木偶人形だって!」
「違う!ジョアン…なぜ」
「黙れえっ!」
「聞けっ!」
「う…う、うぅぅ、うーーーーっ!」
「ジョアン!?」
ソフィアの驚きの声をかき消すかのように、ジョアンは絶叫している。
「ぼ、僕はマリエルの人形…ちち違うっ!さ、最高の聖騎士、ラージン・エリータスの息子だあっ!」
(く…説得は、無理か…?)
「う、うう、うううぅぅぅーーーーっ!!」
ジョアンは絶叫しながら剣をかまえた。
「…行くぞ、ジョアン…残念だが、今のお前を止められるのはこれしかないようだからな…」
カタギリも抜刀した。ソフィアに避難を促して、ゆっくりと緊張の度合いを高めた。
「うう…うううぅーーーーっ!」
「行くぞっ!」
戦いが、始まった。
「うううぅぅーーーっ!」 ジョアンの剣が頭の上をかすめた。
(攻撃自体は適当なんだがな…なかなか近づけないな…)
やたらめったら剣を振り回すので、ケガを覚悟しなければ攻撃しに行けない。
(…さて、行くか!)
上からの剣撃を剣身を使って右側に受け流し、右から左への返しで一撃入れた。血が少し飛び散った。
「う、う、うわああぁぁーーーーーっ!」
(!!興奮して、さらにめちゃくちゃになりやがった!)
カタギリはいったん離れて距離をとったが、ジョアンはまだ剣を振り回していた。完全にパニックになっている。
(…やるしか、ない!)
カタギリは剣をいったん鞘に収めた。
(一瞬で相手を制す…それがこれだったな…)
本で一度だけ見たことのある技、居合い。練習はしていたが、実用までには到らず、ドルファン・プロキア戦争は終わってしまった。
(本にあったとは言っても…紹介だけだったからな…)
ジョアンが剣を振り回しながら近づいてきた。
(けど、賭けなきゃな!)
あと7、8歩のところでカタギリは地を蹴った。ジョアンの剣は振り下ろされて、ちょうど上にあがり始めるところだった。
「たああぁっ!」
「う、う、うわあぁぁっ!」
本の通りに、鞘から一気に剣を抜いて、ジョアンを「叩く」。
頭の上に剣を持っていったジョアンのがら空きだった腹に、剣身が当たった。
「ううっ…」
「あんたが死んだら、悲しむ人がいるんでな…刃の逆側だよ…」
「う、う、ううう、うーーーーーっ!」
ジョアンの動きは止まらなかった。
「うぐっ?」
これで終わったと思っていたカタギリは、油断していたところを、ジョアンの剣で自分の剣をはじかれてしまった。
「死ぃね死ね死ね死ね死ね死ねぇゃーっ!」
「ぐあああぁっ!」
至近距離でだされた「サウザンド・キル」をかわすことは不可能だった。
「くっ!」
正確な攻撃をしてこなかったのが幸いした。かなりの切り傷を負ったが、致命傷にはならなかった。
(…一撃じゃダメだ。動けなくさせなきゃ…)
剣を拾い、先ほどの居合いの構えをとる。
再び、カタギリはジョアンの懐に飛び込んだ。左上から剣が来たが、剣がとどくよりも速く、飛び込むことができた。
「はああっ!」
剣で叩くだけではなく、殴り、蹴り、体当たりする。ジョアンの体は2、3メートルふっとんだ。
「う、うう…」
ジョアンの動きが、止まった。
「ま、負けた…パパの、聖騎士の血を受け継ぐ僕が……僕は、ダメなのか?みんなが陰で言うように、ママの操り人形なのか?」
まだ少し、気が動転しているようだ。
「もういやだーーーーっ!殺せぇぇ!僕なんか殺せぇぇっ!」
そう絶叫したジョアンとの間に、一つの影が割り込んできた。
「!!」
割り込んできた人影はソフィアだった。
「カタギリさん…勝負はつきました。貴方の、勝ちです…だから、もう、剣を収めてください…全て終わりにしましょう…」
カタギリは鞘に入っている剣に添えていた手を、離した。
「ジョアン…私、貴方のもとへ行きます…もう、誰も苦しめません。父も…貴方も…」
「そ、ソフィアぁ…」
「カタギリさん…今日まで、本当に楽しかったです…貴方に会えて、本当に良かった…」
少し寂しい微笑みを浮かべながら、ソフィアは喋った。
「私、いつからか…私、貴方のことが…でも、でも…」
ソフィアの目には、涙が浮かんでいる。微笑みも、消えていた。
「ごめんなさいっ!」
涙を浮かべたまま、ソフィアは走っていってしまった。
「東洋人…僕は、貴様に勝ったのか…?ソフィア…泣いてた…」
そう言うと、ジョアンはゆっくりと帰っていった。
(誰も苦しめません…か…)
空を見上げた。星が、いつも通りに輝いていた。
(………)
カタギリは、宿舎へと帰っていった。
3月8日、カタギリの決着は、ついた。
あとがき
ソフィアファンおなじみのイベントが終わりました。
初期プレイ時、ヴォルフガリオになぶられて(防御が低かったので、ガードしても15前後くらった覚えが…)HP130ぐらいでジョアンに挑み、HP4ぐらいで勝った覚えが…
ジョアン「殺せぇぇっ!」
瀕死なんだから、東洋人。無理です。やろうとすれば病院行きです。
ソフィア「貴方の…勝ちです…」
いや…ほぼ相打ちだろ、これは。などとつっこんでました。どうでもいいですね。はい…
初期プレイ時は、ソフィアねらいの方が多かったと思いますが、この「連戦」、どうくぐり抜けましたか?
余談ですが、友達に「みつナイ」を貸したら、5回連続、ソフィアのバッドエンディングを見たそうです(理由はアンと知り合わなかった)。
ジョアンとの戦いには5回全部勝ったらしいのに…
さて、次回で終わりです。とりあえず各キャラとのグッドエンドを迎える予定です。
まあ、がんばります。では。
星輪