8話「それぞれの道」

5.エピローグ


 3月15日

「汝に、騎士の称号を授ける」

 

 ドルファン歴D29年3月15日。

 城では、ドルファン・プロキア戦争で活躍した者達に、勲章と騎士の称号を与える受勲式が行われていた。

 ただ、3月8日の夜、王室会議で「外国人排斥法」が可決。ドルファン国籍を持たない外国人は、国外退去させられることになった。

 それは翌日に、傭兵達に伝えられた。

 ドルファンは自由の国だ、と信じてきた傭兵達にとって、ショックは相当なものだったが、「戦争が終われば用済み」という鉄則が傭兵達には有り、「この国も同じだった」と諦めるしかなかった。

 

 そして今、謁見の間で受勲式が行われている。そして、シンの番が回ってきた。

 シンが、デュラン国王の前に出て、ひざまずく。そして王は持っている剣の、剣先をシンに向け、称号を与えるべく、宣言する。

「シンよ…汝に、騎士の最高位である、聖騎士の称号を与える」

 一瞬、ざわめきが起こったが、その後、拍手が鳴り響いた。他の傭兵達や、戦功をあげた騎士達は、シンを祝福した。

 シンは勲章を受け取り、王の前から退いた。そして、レンもシンと同じように、王の前にひざまずく。

「レンよ…汝に、騎士の最高位である、聖騎士の称号を与える」

 シンと同じ聖騎士の勲章を受け取ったレンは、シンの側に動いた。

 そこに、メッセニ中佐が来た。

「お前ら、カタギリはどうした…?」

「…あいつは、ここには来ません…」

 シンは、メッセニ中佐を見ずに、うつむきながら言った。

「…?」

 

 

 カタギリはそのころ、シアターにいた。

 カタギリの前には、ソフィアがいる。

 

「大変だよ!」

 城までもう少し、というところで、ピコはカタギリにある情報を伝えた。

「ソフィアと、あのジョアンの結婚式が、今日行われるんだって!時間は…あっ!もう始まっちゃう!」

 それを聞いたカタギリは、すぐに答えを出した。

 名誉か、それとも、自分の想いか。

 どちらを選べば、悔いが残らないか。

「…悪い、俺、用事があるんだ!」

 足を止めたカタギリを不思議がっていた双子は、事情を聞いた。

「…わかった。王や中佐に伝えておく。受勲式よりも、大事なことだってな」

 それだけ聞くと、カタギリは教会へ向けて走り出した。

 

 教会では、既に式が始まっていた。カタギリは入り口付近にいるのだが、まだ中の誰にも、気付かれていない。

 ソフィアは、祭壇の前、ジョアンの隣にいた。

「…誓います」

 ジョアンがそう言うのが聞こえ、次に、老神父の声が聞こえた。

「新婦、ソフィア・ロベリンゲ。汝は、夫、ジョアン・エリータスを、生涯愛すると、ここに誓うか?」

 そう聞かれたソフィアは、口を開かなかった。

「…」

「…オホン、新婦、ソフィア・ロベリンゲ」

 老神父が発言を促したが、ソフィアは黙ったままだった。

「彼女…やっぱり、まだ、君のことが…」

 ピコが、カタギリの行動を促す。

「ねえ、君!男だったら、こういうとき、どうするのよ!」

(こういうとき…か)

 カタギリの頭の中を、いろいろな考えがかけめぐる。

(悔いを作らないために、俺はここに来たんだ…)

 そして、一つの考えに絞られてゆく。

「ソフィアァーーーッ!」

 答えにたどりついたとき、カタギリは大声で、ソフィアの名前を呼んでいた。

 教会の中にいるみんなが、カタギリに気付いた。

「カタギリさん!」

「と、東洋人!?」

 ジョアンとソフィア、この2人の声を皮切りに、教会の中がざわめいた。

 そしてその中で、ソフィアはジョアンのそばを離れ、カタギリの元へ走っていた。

 

 教会から抜け出した2人は、ジョアンの叫びを無視して馬車に乗り、シアターの前で降りた。

「ここへ来たかったんです。もう一度だけ、貴方と…」

 そう言うと、ソフィアはカタギリの手を取って、シアターの中に一緒に入っていった。

 これが、カタギリが受勲式ではなく、シアターにいる理由である。

 

 

「国王…」

「む…?」

 シンは、国王にカタギリのことを話した。

「あいつのこと、許してやってくれませんか…?」

「…」

「あいつだって人なんです。名誉より大事なものが、今、他にあるんです」

「…」

 デュラン国王は、無言で話を聞いている。

「国王も、名誉や金の類よりも大事なものが、あるでしょう…」

「…」

「もう一度、お願いします。あいつを、許してやってください…」

 シンとレンは、国王の前にひざまずき、言葉を待った。

「…わかった」

「国王!?」

 驚いたのは、メッセニだった。

「わしとて人の子…それに、カタギリとやらを止める理由は、わしにはない」

「…わかりました。…しかし、カタギリの分の勲章はどうする気だ?」

 前半はデュラン国王、後半は双子に向けられたメッセージである。

「…中佐、お願いできますか?」

 レンはメッセニ中佐を、カタギリの代役として提案した。

「私がか?」

「ええ。カタギリは、ヤング大尉と中佐、つまり貴方を、尊敬してましたからね」

「…わかった。あいつは好きになれんが、仕方ない…」

 メッセニ中佐が、カタギリの代役を務めた。

「カタギリよ、汝に、騎士の最高位である、聖騎士の称号を与える」

 メッセニ中佐は、受け取った勲章をシンに渡した。

「レンよ…頼みがある…」

 レンは、帰ろうとしたところを呼び止められた。

 レンは国王の前に行き、ひざまずいた。

「娘に…プリシラに…会ってやってほしい…」

「私が、ですか?」

「その通りだ…頼まれてくれるか?」

「…わかりました…」

「すまぬ…親馬鹿とでも、笑ってくれ…」

 メッセニ中佐が、レンに王女の居場所を告げた。

「プリシラ様は、空中庭園にいらっしゃられる。係の者に、案内させよう」

 レンは、空中庭園に向かった。

 

 

 シンは、カタギリを捜していた。

「さて…」

 そして彼自身も、他人に用があった。

「とりあえず、こっちを先に済ませるか…」

 ライズに、手紙を書いた。内容は、外国人排斥法によって明日、国を出ること。それ以外には書いていない。

 そして、フェンネル地区の居住区にある、ライズの家にたどりついた。

 手紙を届け、カタギリを捜し始めようとした。その時。

 シアターの方から、かすかに歌が聞こえた。

(今は、劇とかやってないはずだろ…?)

 シンは、シアターをのぞくためにシアターに近づいた。やはりシアターから歌声が聞こえてくる。

(ここにいたのか、カタギリ…)

 シアターの中には、カタギリがいた。そして舞台の上では、ソフィアが歌っていた。その歌は、少しした後、終わった。

「カタギリ!」

 歌の後、タイミングを見計らってカタギリに声をかけた。

「ほらっ!お前の勲章だ!」

 入り口付近から、ステージの前にいるカタギリまで投げた。

「もう一人は?」

 カタギリは、シンにそう聞いた。

「レンも、用がある人がいるみたいだな」

「シンは?」

「俺も…いや、俺にはいないな…先に、帰るからな」

 シンはそう言って、宿舎に歩き出した。

 

 

「わかった。君が、それを望むなら…」

 レンは、空中庭園でプリシラの話を聞いた。

 デュノス王との関係、そしてその関係と真実への恐怖で、レンやデュノス王に本当の気持ちが聞けないでいることなどを聞いた。

 プリシラは最後に、レンに「一緒に国を出たい」と言った。

「俺は、手を貸すよ」

 レンの、素直な気持ちであった。
 

 

 シンが去って少しした後、シアターにある一団が近づいてきた。

「ここにいたか!東洋人!」

 シアター入り口にいる、ジョアンの声。それまで静かだったシアターは声をよく響かせた。

「さあ!僕のソフィアを返すんだっ!」

 カタギリとソフィアは、お互いを見て無言でうなずいた。ソフィアは、ジョアンの方に歩いていった。

「聞き分けがいいな?東洋人。やっと負けを認めたのかい?」

「いろいろあるんでな。気が済んだら、そこの道を空けてくれないか?」

 ジョアンが立っているのは入り口の真ん中である。さらに、外にはごろつき7、8人ほどの姿が見えている。

「…いいだろう。敬語で喋らなかったのは気にくわないが、道を空けてやろうじゃないか」

 ジョアンはごろつき達に、道を空けるように指示し、カタギリは大勢の視線の中、宿舎に帰った。               


エピローグ

 

「そこまで言うのなら…仕方がない」

「すみません、お父様…」

 3時間に及ぶ話し合いの末、プリシラは、デュノス王の説得に成功した。

「しかし、条件がある」

「条件?」

「時々でいいから、わしらの事を、思い出してほしい…」

「…はい」

「お前に忘れられることが、わしには、一番の恐怖なのだ…血がつながっていなくとも、お前はわしらの子なのだからな…」

「…」

「約束だぞ…」

「…どうして、最後まで私を止めなかったのですか?」

 プリシラの言葉に、デュノス王は一息ついて、答えた。

「お前が嫌いだから、というわけではない。この国を出て、レンと共にいることがお前にとって一番の幸せだというのなら、わしはお前を止めぬ。お前が幸せであることは、同時にわしらも幸せなのだ」

「…ありがとう…お父様…」

 

 

「ソフィア…どうして、あんな事をしたんだ?」

 ソフィアは、父親のロバートと共に、ジョアンの母、マリエルの屋敷にいた。リビングで、ソフィア、ロバート、マリエルの3人で話し合っている。

 ジョアンは、自分の部屋で話が終わるのを待つことになっている。

「…」

 ロバートの質問に、ソフィアはうつむいているだけだった。

「黙ってちゃわからんだろう!」

「私は…」

(私は…そう、「私」の気持ちは…)

 顔を上げ、前にいる2人に目を向ける。

「あの人のことが…好きだからです」

「ソフィア!…なぜ、あんな東洋人の男の事を気にかけてるんだっ!」

 さっきよりも怒気を含んだロバートの言葉に、ソフィアは宙を見上げ、様々なことを思い出しながら答えた。

「あの人は、いつも私のことを気にかけてくれた…劇団の入団オーディションの時、ケガをして、病院に入院したとき、時間の許す限り一緒にいてくれた…」

「だがそれなら、ジョアン君だって…」

 ソフィアは首を左右に振った。

「ジョアンも確かに、私を喜ばせようとしてくれた。でも、少し強引で、他の人を困らせたり、私自身の気持ちを無視して行動した。私は、私が喜ぶために他の人が困るのを見たくないし、それに…」

「それに…?」

「入団オーディションの時、彼はお金で私を合格させようとした。自分の力で受けてこそ合格したときに喜べるのに…って思った」

 一息ついて、ソフィアは言葉を続けた。

「でも、あの人は、カタギリさんは違ったんです。言ってくれました。『自分の足で進まないで、一番後悔するのは君だ』と。そして、私の気持ちを、第一に考えてくれたんです」

「なるほど…だからあのような行動をしたというのですね?」

 それまで黙っていたマリエルが口を開いた。

「ジョアンとの結婚の話は、どうするのですか?」

「…あの式の続きですが…」

 結婚式の、神父の言葉に対しての返答をしゃべった。

「…誓えません…」

「ソフィアッ!?」

「お父さん、私は、今言ったとおり、自分の足で歩くことを決めたの…借金は、私が絶対に、返してみせるから…」

 ソフィアの神父への返答に驚いたロバートだったが、ロバートへの言葉には、ソフィアの強い意志があることを何となく感じ、落ち着きを取り戻した。

「しかし…突然ですが…」

 マリエルが、口を開いた。

「約一週間前に外国人排斥法が作られて、傭兵達は強制退去することになりました」

「えっ…!?」

「おそらく、明日、出国することになるでしょうね」

「そんな…」

「どうするつもりですか?」

 ソフィアは、少しの間の後、

「今日1日、考えさせてください…」と言い、マリエル邸を後にした。

 ロバートは帰ろうとした時、マリエルに引き留められた。

「なにか…?」

「貴方の借金の話ですが…とりあえず、彼女の返答に関わらず、今残っている分の借金は払っておきます」

「えっ?」

 意外な言葉を聞いて、ロバートは固まった。縁が切れたのにほぼ近い状態なのに、今残っている借金を払ってくれるという言葉に。

「この件は、ジョアンの糧にもなったことでしょう。それを考えれば、それなりの礼はさせていただきますよ」

「そ、そうですか…ありがとうございます」

「では、ロバートさん、家族を大切に…」

 マリエルはそう言って、屋敷の奥に入っていった。

 ロバートは、家に帰っていった。

 

 当の三男は、マリエルの話を聞いた後、2、3日引きこもり、その後立ち直った…らしい。

 

 

その夜。

「お父さん…」

「…ソフィアか…」

「私…」

「行くのか…?」

「…はい」

「舞台で歌う夢は、どうするんだ?」

「国が違っても、歌を歌うことは出来るけれど…カタギリさんは、一人しかいませんから…」

「…わかった…」

「借金は、これを…」

 ソフィアはロバートに、一つの封筒を手渡した。

「これは?」

「カタギリさんが勲章と一緒にもらった、戦争での謝礼金。『もう必要ないし、他に渡す人もいないから』って…」

「そうか…ああ、それとな…働くことにしたよ」

「えっ…?」

「礼拝堂の掃除だ。今まで、お前達家族にさんざん迷惑かけたからな…神様にざんげの意味も込めて…な」

「そうなんだ…」

「あと、今ある分の借金はエリータスが受け持ってくれることになった」

「…どうして…?」

「まあ、いろいろあるんだ。とにかく気にすることはない。自分のやりたいことを、やればいい」

「…うん!」

 

 

 3月16日、夕刻。波止場近く。

「しかしまあ…」

 シンはカタギリとレン「達」を見た。

「こんなことになってたとはね…」

「なによ、その言い方は…」

「何か、不都合でもおありなんですか?」

 前者がプリシラ、後者がソフィアである。昼前、2人は傭兵宿舎に訪れた。

「さてと…国に帰ったらどうするかな…」

「ちょっと!話をそらさないでよ!」

 と、ふと倉庫街の方を見ていたシンは、人影を見つけた。

「ん…?」

「どうした、シン?」

「ああ…ちょっと用事を思い出した」

「用事ぃ?」

 カタギリ達は時間のことを聞いた。

「すぐすむから先に行っててくれ。お前らの乗る船に間に合うぐらいには早く済むだろうから」

「何それ?はっきりしないわねぇ…」

「悪かったな。はっきりしなくて」

 シンは皮肉を飛ばしながら、先に波止場に向かったカタギリ達を見送った。そして、人影の方に歩いていく。

 

「…結論は出たのか?」

「…ええ、一応ね…」

 建物の影からでてきたのは、ライズだった。

「俺に関係することなのか?」

「だからこそ、伝えに来たのよ…私の、生き方を…」

 

 

─────そして、カタギリ達はスィーズランドへ帰っていった。

 カタギリは、軍部の中の管理職に就いた。

 シンは外交官になり、レンはその補佐をしている。

 彼ら一人一人に、支え合う存在がいる。

 その存在は、昔はみんな苦しみを抱えていた。

 しかし、三人は彼女たちをその苦しみから解放した。

 三人は、ドルファンだけでなく、彼女たちにとっても英雄であった。


作品全体を通してのあとがき

 

 やっと全部終わりました。

 では、振り返ってみましょうかね…

 

ルール

「それぞれの道 シン」に書いてあったとおり、ルールがありました。

「魔法は登場しない」というのがルールです。だからライナノールとか、キリングの爺ちゃん出せなかったんです。

「二刀氷炎斬」とか「ザ・デス」とか…

 あれは魔法じゃないかなーって思ったもんで…

 ピコとか工兵は見逃してました。まあ、それは勘弁して。

 

主人公

 カタギリのはずだったんだけどね…シンが主人公みたいになってしまいました。

 シン:カタギリ:レン=4:2:2これはこのSSの中での戦いの回数です。

 シンはヴォルフガリオ倒しちゃうし、やっぱシンが主人公になってるかも…

 

雰囲気

 戦闘シーン、迫力出ないぃぃぃぃ(泣)

 会話シーンとか主人公達の過去はうまくいったと思うんだけど…

 

画力

 問題大有りだと思う。特に最初の方の作品。

 ネクセラリア辺りが特に…やばい。

 

勲章

 計算しました。いや、勲章の取り方を、ですけど。

 シンは戦い。これオンリーです。

 カタギリも似たようなもの。割とごろつきとか倒してるんで。

 レンは王女誕生日とかで。プリシラとつきあってるわけだし。

 だからみんな聖騎士の勲章とってたんです。実際のゲームでは足りないけど。

 

 こうしてみると、画力が最大の問題ですね…

 

 さて、カタギリ達三人の物語はここで終わりです。

 この作品が貴方にとって何かの糧になれば嬉しい限りです。

  

 では。


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