ライバル

〜その2〜「決闘」

著:おタクろ〜


…体中を痛みが支配する…

 

せめて…女の子のキスなら…

どのくらい眠っていただろう?痛みにムリヤリ起こされてしまう。

―目の前に見知らぬ天井―

「病院かな?」

「なに寝ぼけてるの?私たちの部屋じゃない」

いきなりピコの顔が目の前に…

 

あーそうか…兵舎の、俺達の部屋の天井か。

「あの…大丈夫ですか?」

こんどは聞き慣れない声…

 

「あっ…まだ横になっていてください」ソフィアだ…

「ずーっとついていてくれたんだよ。あんがい脈アリかも?」

俺以外には聞こえないのを良いことに、勝手なことをしゃべるピコ

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

涙声であやまるソフィア

「君があやまることはないよ…決闘を始めたのは俺達なんだし

 君を勝手に賞品にしちゃったから…あやまるのは俺…」

 

「ごめんなさい!」

その一言を残して彼女は帰っていった、やっぱり悪いことをしたよなぁ…

「好きなんでしょ?なら決闘ぐらい大胆に…」

「うるさいぞ!」

 

ボフッ!

「!…ひどーい、マクラを投げること無いじゃない!…私だって…」

 

彼女にひどいことをしたんだな…俺が子供みたいな意地を張るから…

せめてアイツに―ジョアンに勝ちたい!それで彼女に許してもらえるとは思えないけど。

 

「どうしたの?…ボーッとしてちゃダメよ!」

クレアさんの声で現実に引き戻される。

―どうやったら勝てるだろう?―

アルバイトの途中…そんなことを考えていて、グラスを拭く手が止まっていたらしい。

「すいません…ちゃんと働きます」

 

―ん?―

クレアさんと目が合う、イヤみつめられてる?

「ちょっと…こっちへいらっしゃい」

お店の奥の方へとつれてこられてしまった。

 

「モテモテじゃない」

「ち、ちがう」

 

「包帯を巻き直さないと…ゆるんでると邪魔になるでしょ?」

「―こーゆーことだ」

「何か言った?」

「いえ、何も…」

 

「手柄を立てて…偉くなりたいわよね?」

クレアさんはあざやかな手つきで包帯を巻きながら問いかけてくる。

「そーゆーケガじゃないんですけど」

「じゃあ…男の“ほこり”をかけた決闘とか?」

さすがに鋭い…
 

「コレも貴方が?」

右手の包帯は特にひどい…

「軍人さんはよくケガをするんだから…包帯の巻き方ぐらい覚えなきゃダメよ」

「俺じゃないんです、『左手じゃ巻きにくいから』って…」

ピコが巻いてくれた物だ、不器用じゃないんだけど…サイズが小さいとさすがに…

「あら、手当をしてくれるような女の子がいたの?…よけいなことをしちゃったかしら?」

「いえ!オトコです。同じ傭兵の…ヒゲの濃い」

 

ギリギリ…

「いたたた…」

「あ…ごめんなさい、痛かったかしら?」

「いへ…」

痛いのはキズではなく…見えない存在につねられているほっぺた…

「私はヒゲなんか生えてません〜!」

 

「もし…あなたに優しくしてくれる女の子がいたら…

 絶対に無理なことはしちゃダメよ。勝つことよりも…生きて帰って来ること」

「…その女の子を大切に思っているのなら…ネ!」

 

クレアさんと一緒にいると、戦争をしていることを痛感してしまう…

戦死してしまったヤング・マジョラム大尉の未亡人…

俺が殺してしまった人にもきっと家族が…なぜ人は戦争を忘れられないのか…

 

「俺はなんで傭兵なんてやってんだろう…」

「どーやってご飯食べるのよ」…冷静なピコのツッコミ

「パン屋にでもなろうかな?」

「身を固める覚悟でも出来たの?」

「…今は考えるのやめとこう」

「スーと結婚するんじゃ…」

 

かぽっ!

「うるさい!」

「コラァ〜出せぇ…!」

コップの中なら声も聞こえなくて良いな…チョットかわいそうだけど。

 

―なぜ戦うのか?…ヤング大尉のため…ソフィアのため…―

いや…結局は簡単に勝てると思ったからあんなことを言ったんだ。

「その女の子とデートさせてくれるんなら俺はやってもいいぜ…」

 

アイツを思い切り殴れる…そう考えたのは俺だけじゃない。

ジョアンも同じことを考えていたらしい。

ソフィアを立会人とか言って、決闘の場所へつれてきたのはジョアンだった。

俺のみっともない姿を彼女に見せつけるために…

 

今日で4回目になるのかな?

最初は金貨5枚が目当てで…(今では10枚になっている。)

それに「騎士と直接腕試しが出来る」とゆーことで挑戦者は俺だけじゃない。

…が、だれもジョアンに勝てるヤツはいなかった…

 

「最初から弱そうなヤツを選んでいる」

傭兵の間からはそんな声も聞こえてきたが…

体の痛みがジョアンの実力を物語っている、あれだけ殴られたにも関わらず、

骨折のような大きなケガをしてないのは、アイツの絶妙な力加減のなせるワザ。

たとえそれが俺を殴り続けるためにやっていることだとしても…

 

ドカッ!ドサァ…

 

「決着が付いたみたいだよ」

「見ていてくれたか〜い♪ソフィア〜」

伏し目がちにうなずくソフィア…
 

「はぁ〜彼女の気持ちを何もわかってないな…アイツ」

「ほらぁキミの番だよ、頑張って」

「期待…するなよ」

「また包帯を巻いてあげるから…後のことは心配しないで!」

「そうだな…こんどこそ」

 

―1週間や2週間でいきなり強くなれるワケもなく―

 

ドカッ!バシィイ…!!

相変わらず一方的に殴られているのは俺、そんなに弱かったのか?

この国に来て最初の戦闘…生き残ることは出来た。

ヤング大尉の仇が討ちたくて「ネクセラリア」ってヤツとも戦い、勝つこともできたんだ。

結局、“自信”じゃなく“うぬぼれ”にしかならなかったんだな。

 

「くそぉぉお!」

ギィイン!

「甘いなっ!東洋人!」

ズガァァア!

「ぐっ…がぁっ」

体が痛い…そしてソフィアの視線が…

「勝ちたい」…大尉のためじゃない…ソフィアのためじゃない…

自分の甘さに勝ちたい…

 

「ほう…今日はしぶといなぁ…」

まだだ…なんとか踏みとどまる、だが立っているのも辛い。

「今の俺に何が出来る?」

 

ドスッ…直撃?

「まだ……まだ、たおれないでっ!負けないで………さん…」

ソフィアの声…?

けど俺の耳に聞こえていたのは…

「今だよっ!」

ピコの声援?

「ソフィア?なんでこんなヤツの名前を…!!」

「おぉぉぉおっ!」

ドカァ!

つづく……


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