クレア・マジョラム 〜その青春〜

−第1話−

著:帝王


ヤング「てぇいやぁっ!」

セイル「遅いわぁ!」

白銀が交差する度、周りの空気が揺れ、乾いた音が日の傾いた訓練場に響いた。

二人の若い男が剣の稽古をしている。いや、稽古にしては激しすぎた…。

二人は本気だった。その太刀の一振り一振りに殺気がこもっている。

この二人はハンガリア陸軍の中でも、指折りの使い手だった。

彼等は軍の中でのよきライバルであった。しかし彼等にはまだ他にも因縁がある…。

ヤング「セイル!息があがってんじゃないのか?」

セイル「ふん!おまえこそ動きが鈍くなってきたぞ!」

二人は幾度も斬り合った後、後ろに飛び退き間合いを取った。

二人は睨み合ったまま、相手の隙をうかがっていた。

少しでも足を引いたら、少しでも息を乱したら、負ける…

そんな二人の均衡を破ったのは、一人の女の声だった。

クレア「セイル……」

二人の男は声の主に振り返った。そして、深いため息を付き、互いに剣を納めた。

辺りはもう暗闇に覆われていた……

 

街灯の照らす道を二人の男女が歩いていた。セイルとクレアである。二人は世間で言う恋人同士と言うやつである。

クレア「ねぇ、どうして、いつもヤングさんと喧嘩してるの?」

セイル「喧嘩じゃない、稽古だ」

クレア「だって、あんなにすごい顔して……」

セイル「それはおま……」

クレア「ん?何?」

セイル「いや、なんでもない……」

クレア「変なの…」

セイルは「お前のせい」と言いかけてやめた。

これがセイルとヤングのもう一つの因縁で、実はヤングもまた、このクレアという女に好意を抱いていたのである。

先にアタックしたのがセイルで、そのまま二人は付き合うことになったのだ。

ヤングにしてみれば、抜け駆けされたみたいなもので、その結果がさっきの稽古である。

クレア「ねぇ、ヤングさんとセイルってどっちが強いの?」

セイル「決まってるだろう、俺だ」

クレア「でも、さっきは圧されてたみたいだけど…」

セイル「なっ!そんなわけないだろう!?あのままやってれば俺が…。大体、俺は槍術が得意なんだ!!」

クレア「ふふふっ…」

セイルはクレアが笑っているのをみて、ちょっとムッとした。

セイル「何がおかしい……」

クレア「だって、ふふっ、子供みたいなんだもの……。くすっ」

セイル「悪かったな…」

クレア「ごめんごめん。怒らないで…」

セイル「別に怒ってない……」

クレア「そういうところも、子供っぽい…」

セイル「ふっ…そうかもな…。ふふっ…」

セイルはクレアの指摘に、苦笑した。

 

クレア「ここまででいいわ」

セイル「ああ…じゃあな…」

セイルはクレアの額にキスをすると、来た道を引き返していった。

セイルはクレアを家の近くまで送ってから、自分の家に帰るのだ。割と粋な男である。

クレアは幸せだった。額にキスは付き合ってから毎日してくれる恒例の行事だったが、毎日あるということが、

クレアにとって幸せで、安心できた。

クレアは、額をさすると、満面の笑みで家に入った。

 

続く……


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