第三章「再会」


「着いたな…」

 カミルは、眼前に広がる、活気に満ちた町を見ながら、ポツリとつぶやいた。

「着いたね…」

 彼の肩に乗っていた、10年来の相棒(自称)であるピコも、似たような口調でつぶやく。

「けど…着いたのはイイとして、これからどうすんの?例の依頼を受けるにしても、やっぱり…」

「………とりあえず、宿を取ってから考えよう」

 ピコの言葉半ばで。

 彼は、彼女にだけ聞こえるような声で言い、ゆっくりとした歩調で歩き始めた……。

 

 

 この間に、簡単に説明しておこう。

 彼らは、傭兵家業を続けて随分長くになる。

 そんな彼らが、前回仕事として働いたのが、ドルファンという小国である。

 その国で、珍しく彼は………ここは省かせていただく。

 とにかく、彼らは仕事を終えたと同時に厄介払いされ、ここ…スィーズランドに辿り着いた、というわけである。

 まぁ…その間の船の中で、イロイロとありはしたのだが…コレに関しては、説明はいらないだろう。すぐにソレは来るのだから。

 

 

「どこに行くのですか?」

 適当に歩いていた彼は、いきなり声をかけられた。

 声の主は想像がついている。

 だからこそ、彼はため息をつきながら、そちらを振り返った。

「…何か用か?」

 振り返ってみれば、そこには、ワインレッド色の髪をポニーテールにした少女が立っていた。

 その少女は、肩をすくめながら、

「さぁ…?

 私は別にないですが…お嬢様の方はあるのではないでしょうか?」

 と、抑揚の無い口調で言う。

 カミルは、もう一度ため息をつきながら、

「言い方が回りくどい。さっさと聞けばどうだ? …依頼を受ける気になったのかどうかを、な」

「分かってるなら、『何か用か』なんて聞かないで下さい」

 と、そこで少女は表情を崩す。

 さっきまでの無表情とは裏腹、人懐っこい笑みを浮かべ、

「で、答えはどうなんです?

 …まさか、お嬢様の依頼を断る、なんて言いませんよね?」

 口調が少し強まる。

 カミルは、なんとなく、アイツを大事に思ってるんだな、などと関係ないことを考えながら、

「…そのお嬢様は?」

「ああ、ホテルの方に…って、それはどうでもいいことです! 受けるのか、受けないのか!ハッキリ言ってください! って、ああ!なに笑ってるんです!?」

 気がつけば、カミルはクックックと、口元を抑えながら笑っていた。

「いや…悪い。最初会ったときは随分つかめない無感動な子だと思ってたんで…ギャップが激しくてな」

「失礼ですね…」

「いや、悪い」

「同じセリフを繰り返さないで下さい。…それより、早く答え、聞かせてくださいませんか?」

 少しトーンを下げた彼女に、彼はきびすを返して歩き出す。

「…また、逃げるんですか?」

 静かな声に、カミルは足を止め、しかし振り返ることはせずに、

「いくらなんでも…悩むさ…。一度は本気で護りたいと思った国を…滅ぼす手伝いしてくれ、なんて言われたらな」

 その言葉に、少女は目を丸くする。

「…じゃあな。次、会うときまでには考えとくよ」

 彼女が呆然としている間に。

 カミルはその場所を去っていた。

 

 

 どれくらいそうしていたのだろう?

 

 

「…また、待たされるのね」

「?! …お嬢様…」

 いきなり聞こえた声に、彼女がはじかれたように振り替えると、そこには長めの黒髪をみつあみにし、手袋をした少女…ライズ=ハイマーが、少し寂しげな表情で佇んでいた。

「…無駄足、取らせたわね、ライア」

「…いえ、私はお嬢様の手足になりたいと思って、今、行動を共にしているのです……御気になさらないで下さい」

 ス…と、表情を変えた、ライアと呼ばれた少女は、首を振りながら、ハッキリとした声で言った。

 その言葉に、ライズは、いつもの無表情を浮かべて、

「…でも、貴方に疑心を抱かせたわ」

「…」

 思わず、ライアは沈黙した。

 全くそのとおりだったからこそ……ここにしばらく立っていたのだ。

「確かに…その通りです。気持ちをコントロール出来ないような人物が…本当に信用できるのか…疑問です」

 今度は、ライズが沈黙した。

「…それに…この調子では…依頼を受けていただけるかどうかも…疑問です」

「それはないわ」

 ライアの言葉に、今度は即答した。

「なぜ言い切れるのです?」

「彼もプロよ」

「プロの人間が、感情で途惑いますか?」

「…プロだからこそ…今まで生まれたことの無い感情に…途惑うコトだって…あるのよ」

 まるで、自分のことのように…彼女は言った。

「…それに…私だって……あの子達を危険にさらす可能性があると考えると……」

 最後の言葉は、か細く、弱々しい声で響き…最後まで聞き取ることは無理だった。

 

 

 ふと思う。

 今、自分がしていることはなんなのか、と。

 ぽっかりと空いた…何かを失った心では、何も分からない。

 だから、今もあの依頼を受けるかどうか…悩む。

 …プロとしては情けないが、感情に惑わされながら。

 

 

 数日前、彼女から最初の依頼をされた日のこと。

 

「では、依頼の話をさせていただきます」

 カミルの制止を無視して入って来た少女…ライアは、当然のようにイスに座り、口を開いた。

「まぁ…いいけどよ」

 正直言って、相手の気が変わったらどうしよう、などと警戒気味の口調で言う。

 ライアは気づいているのかいないのか、話をすすめる。

「では、カミル=ニール殿。貴方に、我々の手伝いをしていただきたい」

 キッパリと言った彼女に、カミルは眉をひそめながら、

「…何の?」

 と、もっともな問いを返す。

 相手は、それに対し、表情一つ変えず、

「ドルファンを攻め落とすことの、です」

 ピクッ

 瞬間、カミルの表情が変わる。

 しかし、それでも彼は、努めて平静な声で、

「何故…そんな依頼を俺に持ちかける?」

「貴方が、八騎将全員を一騎討ちで倒し…聖騎士の称号を与えられるハズだった程の実力を見込んで、です」

 確かに彼は、全欧最強と言われる傭兵騎士団『ヴァルファバラハリアン』の筆頭に置かれる、一騎当千とまで言われた八騎将を全員討ち倒したし、聖騎士の称号を与えられる可能性もあった。

 …可能性があった、というのは、彼が叙勲式には出なかったため、結果は解らず終まいだからである。

「………」

 スィ…と目を細めながら、カミルは目の前の少女を見つめ…いや、睨む。

「何か?」

 当のライアは、平然とした顔で問いかけてくる。

 無論、殺気に近いモノが、その視線に含まれているのを、感じ取っていながら。

「…気に食わない」

「なにがです?」

 問いかけに、彼はベッドから腰を上げ、

「……依頼を受ける気は無い」

 ぽつりと、少し弱い口調で言った。

 ライアはしばらく沈黙していたが、やがて席を立ち、

「…気が変わりましたら、いつでも言ってください。少なくとも…私の上の方は歓迎すると思いますから」

「…一応、考えとこう…気が向いたら」

「望み薄ですね…」

 苦笑を浮かべてつぶやき、ライアは部屋を出て行った。

 

 そして…それの翌日。

 再会があった

 …もっとも、それを彼が望んだかどうかは別ではあるが。

 

「…で、お前と、このお嬢さんとは、いったいどういう関係なんだ?」

 カミルは壁にもたれかかる様な体勢のまま、入って来たライアと、ライズの2人をジト目で見ながら、低い声で問いかけた。

「…上司と部下?」

「ストレート過ぎ」

 ライアの言葉に、速攻でツッコむ彼。

「…じゃあ…ご主人様と下僕?」

「そういうヤバ気な言い方はヤメろ…」

「…ではなんと言えばいいのですか?」

 ライアが真顔で問いかけてくる。冗談やら悪ふざけは微塵も無い、マジな顔で。

「…おい、ライズ…」

「貴方、もう依頼は聞いたわね?」

 疲れきった口調で呼ぶ彼を遮り、ライズは静かに言葉を紡ぐ。

「?…依頼って……!? おい…お前、まさか…!」

 カミルは、1歩彼女に詰め寄り、

「まさか…予想はしてたけど…コイツに俺をスカウトするように言ったのって…お前か?!」

「そうよ」

 あっさりと答えるライズに、カミルは、怒りともとれる表情を浮かべ、

「お前…『あの約束』はどうしたっ?!」

 そう、激昂した。

「……」

「俺はてっきり、お前が『あの約束』…いや、『遺言』にしたがってくれているって…」

 肩さえ震わせながら、カミルは、今度は明らかな怒りの表情で、ライズを見る。

 一方のライズは、彼の方を見ずに、

「じゃぁ聞くけど…普通ってなに?」

「………え?」

 意外すぎた問い。

 思わずカミルは、間の抜けた声を出していた。

「確かに、お父様は私に“普通の女として生きろ”と言ったわ。…けど…普通って…なに?」

「それは……」

 思わず、言葉に詰まる。

「普通…それは人によって変わりますね…。平凡でつまらないと思うような、決められた生活を普通とすることもできますし、人を殺すことさえ“今まで平気でやってきたのだから”という理由を並べてしまえば、その人にとっての普通とできます」

「それは極論だろう…」

 ライアの静かな『語り』に、カミルは力ない声でつぶやく。

「でも、私達のような人間にとっては…通用しますよ?」

 傭兵もアサシンも人を殺して生きる『商売』。

 人を殺すことを『普通』と出来なければ…やっていけない『商売』。

 カミルの問いに、彼女の瞳はそう答えていた。

「…それで…お前は今までの生活を普通として…いるわけか?」

「…復讐が終わるまでわね」

 ため息混じりの問いかけに、ライズも同様の調子でうなずいた。

 

 

 スィーズランド ライズとライアが宿泊しているホテル

 

「今考えれば…無茶な説得の仕方だったかもね…」

「え?」

 向かいでコーヒーをかたむけていたライズのつぶやきに、ライアはケーキを口に運ぼうとした手を止める。

 お互いに夕食も終えて、自分だけがイチゴショートなんぞをパクついているさなか、無表情の彼女がいきなりつぶやけば、当然手が止まる。

 ケーキの事しか無かった頭を切り替え、言葉の意味を把握し、

「でも…他に理由もなかったじゃないですか…」

 と、もっともらしいことを言ってのけるライア。

「…理由…ね」

「………」

 一瞬、目の前の、自分より1つ年下の少女が、イヤに悲しげな表情を浮かべたような気がして、ライアは沈黙する。

「…ホントに…いったい…どれが自分の本当の気持ちなのかしら…」

「………」

 言葉の意味を掴みかねて、ライアは、しばらく沈黙した。

 

 

 同時刻 安ホテルの一室

 

「…で、どう思う?」

 カミルは、相棒になんとはなしに意見を求めてみた。

「いや…いきなり言われても…。キミがなに考えてるか、ちゃんといってくんないと分からないし…」

 枕の上に横たわっていたピコは、ぴょこんっと起き上がりながら言う。

「それはまあ……その辺は…十年来の相棒の勘で」

 頬を掻きながら、いつもの少しのんきに聞こえる声で言う彼に、ピコはフム、と腕組みして、

「…ライズのこと?」

「おぉ?!なぜ分かる!?」

「そりゃもぉ、相棒としての勘で。っていうか、自分で言っといて、そんなに驚かないでよ」

「いや…俺は冗談のつもりだったんだがな」

 ……………

「私…なんでコレの相棒やってんだろ…」

「悪かった…俺が悪かった……」

 部屋の隅っこの方に移動して、のの字書きながら、本気でグレかけているピコに、カミルは土下座で謝る。

「…はぁ…。でも、確かに分からないよね」

「あ、ああ…。アイツ…なんでまたドルファンと戦争なんてやろう、なんて考えてんだ……?」

 ベッドに腰かけながら、ぽつりとつぶやく。

「…聞けばよかったのに……船の中で」

「…いや……あの時はそういう雰囲気では…」

「…じゃあ、これから聞きに行けば?」

「…次会ったときに答えるっていってしまった…」

 ……………

「私さ…キミも結構わかんないよ…相棒やってても…」

「俺もお前はよく分からん」

 ─わかってもらっちゃ困るけど。

 お互いにそんなことを考えているとはつゆ知らず、考え込む2人。

 

「…分からないと言えば…」

「?」

 唐突にぼやく彼に、ピコは目をそちらに向ける。

「……アイツ…だな…」

「誰?」

「……」

 黙したまま答えない彼に、ピコは首をかしげる。

「…どうして…あそこで消えなくちゃいけなかったんだろうな……?」

「!…さぁ…ね」

誰に対して言ったわけでもない言葉に、ピコは、やけに他人のように聞こえる口調で応えた。

 

続く……


インターミッション!

 

 というわけで、ようやく自己紹介をさせていただきます。kawabataこと、折沢崎 椎名という者です。

 未熟で稚拙な物しか書けないヤツですが、なんとはなしに書かせてもらってます。

 …読んでくれてる人がいるかどうかは知りませんが…。

 

 さて、この作品ですが(作品といえるのか、こんなモン)、アンEND後の設定です。ちなみに、ライズやメネ○ス、その他数名の娘が攻略可の状態となっています。…が、しかし…出番あるのか?(オイ)

 

 キャラクターですが、主人公のカミル=ニール、彼は捨て子で、とある『義賊』のランドー=クロスフォードという人物に育てられた、という経歴(?)を持ってます。名前が全然違いますが、気にしないで下さい。彼の性格を考えた結果なんです。

 実力は…まぁ、ヴォルフガリオ倒せるくらいだから、強いんでしょう、きっと。武器は日本刀を使ってます。銘刀は秘密です。

 

 次にライアですが、彼女の名前、まぎらわしいですよね…しかもいっしょに行動してるし。

 …ってそうじゃなくて、フルネームは、ライア=セルバーナと言います。職業はアサシン(暗殺者)ですが…なんでライズに付き添っているかは、後の話中にて。

 他にもオリキャラは出てくる予定ですので、そのつど紹介していきたいと思います。

 

 とりあえず次回ですが、一応依頼に対する『答え』を書こうかな、と思ってます。

 あと、ドロドロした人間関係にも発展しそうですね。

 

 ともあれ、とりあえず完結するまで絶対に書きますし、このキャラだせという感想付きのメールをくれれば、できるだけ考慮していきますので、どうか見捨てずに、次回も読んでくださいさい!


第二章へ戻る

 

目次へ戻る