「着いたな…」
カミルは、眼前に広がる、活気に満ちた町を見ながら、ポツリとつぶやいた。
「着いたね…」
彼の肩に乗っていた、10年来の相棒(自称)であるピコも、似たような口調でつぶやく。
「けど…着いたのはイイとして、これからどうすんの?例の依頼を受けるにしても、やっぱり…」
「………とりあえず、宿を取ってから考えよう」
ピコの言葉半ばで。
彼は、彼女にだけ聞こえるような声で言い、ゆっくりとした歩調で歩き始めた……。
この間に、簡単に説明しておこう。
彼らは、傭兵家業を続けて随分長くになる。
そんな彼らが、前回仕事として働いたのが、ドルファンという小国である。
その国で、珍しく彼は………ここは省かせていただく。
とにかく、彼らは仕事を終えたと同時に厄介払いされ、ここ…スィーズランドに辿り着いた、というわけである。
まぁ…その間の船の中で、イロイロとありはしたのだが…コレに関しては、説明はいらないだろう。すぐにソレは来るのだから。
「どこに行くのですか?」
適当に歩いていた彼は、いきなり声をかけられた。
声の主は想像がついている。
だからこそ、彼はため息をつきながら、そちらを振り返った。
「…何か用か?」
振り返ってみれば、そこには、ワインレッド色の髪をポニーテールにした少女が立っていた。
その少女は、肩をすくめながら、
「さぁ…?
私は別にないですが…お嬢様の方はあるのではないでしょうか?」
と、抑揚の無い口調で言う。
カミルは、もう一度ため息をつきながら、
「言い方が回りくどい。さっさと聞けばどうだ? …依頼を受ける気になったのかどうかを、な」
「分かってるなら、『何か用か』なんて聞かないで下さい」
と、そこで少女は表情を崩す。
さっきまでの無表情とは裏腹、人懐っこい笑みを浮かべ、
「で、答えはどうなんです?
…まさか、お嬢様の依頼を断る、なんて言いませんよね?」
口調が少し強まる。
カミルは、なんとなく、アイツを大事に思ってるんだな、などと関係ないことを考えながら、
「…そのお嬢様は?」
「ああ、ホテルの方に…って、それはどうでもいいことです! 受けるのか、受けないのか!ハッキリ言ってください! って、ああ!なに笑ってるんです!?」
気がつけば、カミルはクックックと、口元を抑えながら笑っていた。
「いや…悪い。最初会ったときは随分つかめない無感動な子だと思ってたんで…ギャップが激しくてな」
「失礼ですね…」
「いや、悪い」
「同じセリフを繰り返さないで下さい。…それより、早く答え、聞かせてくださいませんか?」
少しトーンを下げた彼女に、彼はきびすを返して歩き出す。
「…また、逃げるんですか?」
静かな声に、カミルは足を止め、しかし振り返ることはせずに、
「いくらなんでも…悩むさ…。一度は本気で護りたいと思った国を…滅ぼす手伝いしてくれ、なんて言われたらな」
その言葉に、少女は目を丸くする。
「…じゃあな。次、会うときまでには考えとくよ」
彼女が呆然としている間に。
カミルはその場所を去っていた。
どれくらいそうしていたのだろう?
「…また、待たされるのね」
「?! …お嬢様…」
いきなり聞こえた声に、彼女がはじかれたように振り替えると、そこには長めの黒髪をみつあみにし、手袋をした少女…ライズ=ハイマーが、少し寂しげな表情で佇んでいた。
「…無駄足、取らせたわね、ライア」
「…いえ、私はお嬢様の手足になりたいと思って、今、行動を共にしているのです……御気になさらないで下さい」
ス…と、表情を変えた、ライアと呼ばれた少女は、首を振りながら、ハッキリとした声で言った。
その言葉に、ライズは、いつもの無表情を浮かべて、
「…でも、貴方に疑心を抱かせたわ」
「…」
思わず、ライアは沈黙した。
全くそのとおりだったからこそ……ここにしばらく立っていたのだ。
「確かに…その通りです。気持ちをコントロール出来ないような人物が…本当に信用できるのか…疑問です」
今度は、ライズが沈黙した。
「…それに…この調子では…依頼を受けていただけるかどうかも…疑問です」
「それはないわ」
ライアの言葉に、今度は即答した。
「なぜ言い切れるのです?」
「彼もプロよ」
「プロの人間が、感情で途惑いますか?」
「…プロだからこそ…今まで生まれたことの無い感情に…途惑うコトだって…あるのよ」
まるで、自分のことのように…彼女は言った。
「…それに…私だって……あの子達を危険にさらす可能性があると考えると……」
最後の言葉は、か細く、弱々しい声で響き…最後まで聞き取ることは無理だった。
ふと思う。
今、自分がしていることはなんなのか、と。
ぽっかりと空いた…何かを失った心では、何も分からない。
だから、今もあの依頼を受けるかどうか…悩む。
…プロとしては情けないが、感情に惑わされながら。
数日前、彼女から最初の依頼をされた日のこと。
「では、依頼の話をさせていただきます」
カミルの制止を無視して入って来た少女…ライアは、当然のようにイスに座り、口を開いた。
「まぁ…いいけどよ」
正直言って、相手の気が変わったらどうしよう、などと警戒気味の口調で言う。
ライアは気づいているのかいないのか、話をすすめる。
「では、カミル=ニール殿。貴方に、我々の手伝いをしていただきたい」
キッパリと言った彼女に、カミルは眉をひそめながら、
「…何の?」
と、もっともな問いを返す。
相手は、それに対し、表情一つ変えず、
「ドルファンを攻め落とすことの、です」
ピクッ
瞬間、カミルの表情が変わる。
しかし、それでも彼は、努めて平静な声で、
「何故…そんな依頼を俺に持ちかける?」
「貴方が、八騎将全員を一騎討ちで倒し…聖騎士の称号を与えられるハズだった程の実力を見込んで、です」
確かに彼は、全欧最強と言われる傭兵騎士団『ヴァルファバラハリアン』の筆頭に置かれる、一騎当千とまで言われた八騎将を全員討ち倒したし、聖騎士の称号を与えられる可能性もあった。
…可能性があった、というのは、彼が叙勲式には出なかったため、結果は解らず終まいだからである。
「………」
スィ…と目を細めながら、カミルは目の前の少女を見つめ…いや、睨む。
「何か?」
当のライアは、平然とした顔で問いかけてくる。
無論、殺気に近いモノが、その視線に含まれているのを、感じ取っていながら。
「…気に食わない」
「なにがです?」
問いかけに、彼はベッドから腰を上げ、
「……依頼を受ける気は無い」
ぽつりと、少し弱い口調で言った。
ライアはしばらく沈黙していたが、やがて席を立ち、
「…気が変わりましたら、いつでも言ってください。少なくとも…私の上の方は歓迎すると思いますから」
「…一応、考えとこう…気が向いたら」
「望み薄ですね…」
苦笑を浮かべてつぶやき、ライアは部屋を出て行った。
そして…それの翌日。
再会があった
…もっとも、それを彼が望んだかどうかは別ではあるが。
「…で、お前と、このお嬢さんとは、いったいどういう関係なんだ?」
カミルは壁にもたれかかる様な体勢のまま、入って来たライアと、ライズの2人をジト目で見ながら、低い声で問いかけた。
「…上司と部下?」
「ストレート過ぎ」
ライアの言葉に、速攻でツッコむ彼。
「…じゃあ…ご主人様と下僕?」
「そういうヤバ気な言い方はヤメろ…」
「…ではなんと言えばいいのですか?」
ライアが真顔で問いかけてくる。冗談やら悪ふざけは微塵も無い、マジな顔で。
「…おい、ライズ…」
「貴方、もう依頼は聞いたわね?」
疲れきった口調で呼ぶ彼を遮り、ライズは静かに言葉を紡ぐ。
「?…依頼って……!? おい…お前、まさか…!」
カミルは、1歩彼女に詰め寄り、
「まさか…予想はしてたけど…コイツに俺をスカウトするように言ったのって…お前か?!」
「そうよ」
あっさりと答えるライズに、カミルは、怒りともとれる表情を浮かべ、
「お前…『あの約束』はどうしたっ?!」
そう、激昂した。
「……」
「俺はてっきり、お前が『あの約束』…いや、『遺言』にしたがってくれているって…」
肩さえ震わせながら、カミルは、今度は明らかな怒りの表情で、ライズを見る。
一方のライズは、彼の方を見ずに、
「じゃぁ聞くけど…普通ってなに?」
「………え?」
意外すぎた問い。
思わずカミルは、間の抜けた声を出していた。
「確かに、お父様は私に“普通の女として生きろ”と言ったわ。…けど…普通って…なに?」
「それは……」
思わず、言葉に詰まる。
「普通…それは人によって変わりますね…。平凡でつまらないと思うような、決められた生活を普通とすることもできますし、人を殺すことさえ“今まで平気でやってきたのだから”という理由を並べてしまえば、その人にとっての普通とできます」
「それは極論だろう…」
ライアの静かな『語り』に、カミルは力ない声でつぶやく。
「でも、私達のような人間にとっては…通用しますよ?」
傭兵もアサシンも人を殺して生きる『商売』。
人を殺すことを『普通』と出来なければ…やっていけない『商売』。
カミルの問いに、彼女の瞳はそう答えていた。
「…それで…お前は今までの生活を普通として…いるわけか?」
「…復讐が終わるまでわね」
ため息混じりの問いかけに、ライズも同様の調子でうなずいた。
スィーズランド ライズとライアが宿泊しているホテル
「今考えれば…無茶な説得の仕方だったかもね…」
「え?」
向かいでコーヒーをかたむけていたライズのつぶやきに、ライアはケーキを口に運ぼうとした手を止める。
お互いに夕食も終えて、自分だけがイチゴショートなんぞをパクついているさなか、無表情の彼女がいきなりつぶやけば、当然手が止まる。
ケーキの事しか無かった頭を切り替え、言葉の意味を把握し、
「でも…他に理由もなかったじゃないですか…」
と、もっともらしいことを言ってのけるライア。
「…理由…ね」
「………」
一瞬、目の前の、自分より1つ年下の少女が、イヤに悲しげな表情を浮かべたような気がして、ライアは沈黙する。
「…ホントに…いったい…どれが自分の本当の気持ちなのかしら…」
「………」
言葉の意味を掴みかねて、ライアは、しばらく沈黙した。
同時刻 安ホテルの一室
「…で、どう思う?」
カミルは、相棒になんとはなしに意見を求めてみた。
「いや…いきなり言われても…。キミがなに考えてるか、ちゃんといってくんないと分からないし…」
枕の上に横たわっていたピコは、ぴょこんっと起き上がりながら言う。
「それはまあ……その辺は…十年来の相棒の勘で」
頬を掻きながら、いつもの少しのんきに聞こえる声で言う彼に、ピコはフム、と腕組みして、
「…ライズのこと?」
「おぉ?!なぜ分かる!?」
「そりゃもぉ、相棒としての勘で。っていうか、自分で言っといて、そんなに驚かないでよ」
「いや…俺は冗談のつもりだったんだがな」
……………
「私…なんでコレの相棒やってんだろ…」
「悪かった…俺が悪かった……」
部屋の隅っこの方に移動して、のの字書きながら、本気でグレかけているピコに、カミルは土下座で謝る。
「…はぁ…。でも、確かに分からないよね」
「あ、ああ…。アイツ…なんでまたドルファンと戦争なんてやろう、なんて考えてんだ……?」
ベッドに腰かけながら、ぽつりとつぶやく。
「…聞けばよかったのに……船の中で」
「…いや……あの時はそういう雰囲気では…」
「…じゃあ、これから聞きに行けば?」
「…次会ったときに答えるっていってしまった…」
……………
「私さ…キミも結構わかんないよ…相棒やってても…」
「俺もお前はよく分からん」
─わかってもらっちゃ困るけど。
お互いにそんなことを考えているとはつゆ知らず、考え込む2人。
「…分からないと言えば…」
「?」
唐突にぼやく彼に、ピコは目をそちらに向ける。
「……アイツ…だな…」
「誰?」
「……」
黙したまま答えない彼に、ピコは首をかしげる。
「…どうして…あそこで消えなくちゃいけなかったんだろうな……?」
「!…さぁ…ね」
誰に対して言ったわけでもない言葉に、ピコは、やけに他人のように聞こえる口調で応えた。
というわけで、ようやく自己紹介をさせていただきます。kawabataこと、折沢崎 椎名という者です。
未熟で稚拙な物しか書けないヤツですが、なんとはなしに書かせてもらってます。
…読んでくれてる人がいるかどうかは知りませんが…。
さて、この作品ですが(作品といえるのか、こんなモン)、アンEND後の設定です。ちなみに、ライズやメネ○ス、その他数名の娘が攻略可の状態となっています。…が、しかし…出番あるのか?(オイ)
キャラクターですが、主人公のカミル=ニール、彼は捨て子で、とある『義賊』のランドー=クロスフォードという人物に育てられた、という経歴(?)を持ってます。名前が全然違いますが、気にしないで下さい。彼の性格を考えた結果なんです。
実力は…まぁ、ヴォルフガリオ倒せるくらいだから、強いんでしょう、きっと。武器は日本刀を使ってます。銘刀は秘密です。
次にライアですが、彼女の名前、まぎらわしいですよね…しかもいっしょに行動してるし。
…ってそうじゃなくて、フルネームは、ライア=セルバーナと言います。職業はアサシン(暗殺者)ですが…なんでライズに付き添っているかは、後の話中にて。
他にもオリキャラは出てくる予定ですので、そのつど紹介していきたいと思います。
とりあえず次回ですが、一応依頼に対する『答え』を書こうかな、と思ってます。
あと、ドロドロした人間関係にも発展しそうですね。
ともあれ、とりあえず完結するまで絶対に書きますし、このキャラだせという感想付きのメールをくれれば、できるだけ考慮していきますので、どうか見捨てずに、次回も読んでくださいさい!