「ふう…」
俺は揺れる船の寝室で仰向けになりながら大きなため息をついた。
「何つまんなさそうな顔してるのよ?」
と、俺をからかうようにピコが言う。
「何ってお前も見ていただろう?」
俺は物覚えの悪いヤツだと思いながらピコに言う。
「さっきあの子と話してたこと?」
ピコは何事もなかったように俺に問う。
そう、あの波止場で…
ただ揺れる波の音を聴きながら彼女は俺への思いをぶつけてくれた。
ドルファンが黄金色に染まる黄昏時、勇気を振り絞って告白してくれた人…。
自分では信じられなかった。こんなにも自分が必要とされていたと言う事を。
彼女の吸い込まれそうな青い瞳にみつめられた時は何も言えず、ただ、無言で抱きしめてやるくらいしか出来なかった。
使われて捨てられてきた自分、誰も振り向いてはくれない。誰も必要としない“あやつり人形”…そんな物だと俺はいつも思っていた。
傭兵…役目が終わればそこで終わる、そして流れていく。
月日が経つに連れて俺は人を思う心を失ってきていたのかもしれない。それが当たり前だったから。あまりにも虚しかったから…。
だがあの日から少しずつ自分が変わってきていたのかもしれない。
そう、塀から俺めがけて影が落ちてきたあの日から……。