「あれは流石にびっくりしたな」
懐かしそうに俺はつぶやいて大きく寝返りを打った。
「なにがびっくりしたのよ?」
とピコは俺に問う。しかしピコの言葉なんて俺の耳には入ってこなかった。
ゆらゆらと船がまるで揺り籠のように揺れる、俺はうつろうつろ眠りかけていた
「あ、ひょっとしてまたあの子の事考えてたんでしょ?」
ピコは俺をからかうように言う。
そう言ってピコはふっと飛び上がると俺の目の前を一回りして俺の胸に座り込んだ。
「オイどけよ、眠れないじゃないか」
俺はピコを払い除けようとした。
が、これから眠ろうとしている人間が素早いものを正確に仕留める事が出来ただろうか?
ピコはひらりと身を翻し、彼女の寝床へと飛んでいった。
「へっへ〜ん、残念でした〜」
ピコはそう言い残すと、毛布に包まってしまった。
「ったく…」
と、俺は一息ついて目を閉じた…。
「あ〜っ!」
突然人影が塀を飛び越えてきたかと思うと、俺めがけて落ちてきた。
「ドサッ!」と大きな音がすると俺はその人影の下敷きになった。
「いたたた」
人影は頭をさすり、痛そうにつぶやいた。どうやら女らしい
「もう、いきなり飛び出してこないでほしいな!」
と彼女は文句を言ってきた。
「それは俺のセリフだ!」と、言いたかったところだが相手は女だ、ムキになる事はない。こんな女を相手にしたってかえって疲れるだけだ。と俺は思っていた
「すまないな」と俺は彼女の目も見ずに謝ると、スッと通り去ろうとした 。
「あ、ちょっと待った」
俺は彼女に呼び止められた。誤るつもりなのだろうか?
「落し物だよ、ヒュウガ」
彼女は俺の身分証明書を拾い上げると俺に手渡した。
「一応、キミの事を知っちゃったみたいだし、ボクも自己紹介をしておくよ」
というと 彼女は勝手に自己紹介を始めた。
「ボクはハンナ・ショースキー、さっきはいきなり飛び出してきて悪かった、 ごめんなさい。ま、ボクも人のこと言えないしね。お互い様って言うことで…」
その瞬間、鐘の鳴り響く音が聞こえた。
「やばっ、早く行かなきゃ遅刻しちゃうよ。それじゃ、また今度」と言い残し、彼女は校門をくぐって中へ大急ぎで走っていった。
「イキのいい娘だな」
俺は少しだけだが彼女がうらやましかった。
少し失礼な所があるが、何かを誘う不思議な感じがした。
ダリアの香りがほのかに漂う季節、俺の心で何かが芽生え始めていた。