特訓を終えた俺は夕食を買いにドルファン地区へ足を運んだ。
相変わらずこの辺は活気があって気に入っている、ここいらの住民達とは顔見知りまでにもなっていた。
「いつもの所で買うの?」
と、ピコが問う
「当たり前だろ?金が少ないんだから」
俺は当たり前のように返した。
「あ〜あ、たまにはあそこのレストランで食べたいなぁ」
ピコは文句を言った。
「贅沢言うな、食べられるだけもでありがたく思え」
俺は足を急がせた。
この辺まで来ると色々と料理の香りが漂ってくる。そして俺はとある店で足を止めた。
「ここのところ毎日ここね…飽きない?」
ピコが呆れたように聞いてきた。
俺はピコの言葉なんて耳もくれなかった。
ここには俺がいつも特訓を終えた後に来る。夕方になればほとんどの品物が売り切れて残り物しかない。それをサービスしてまけてくれるのだ。懐が涼しい時はいつもここに世話になる…。
「カランカラン」
ドアベルが店内に鳴り響く
「いらっしゃいませ〜」
聞き慣れた声が勢いよく俺の耳に飛び込む。ここの店の人気看板娘、スーグラフトンだ。
「あら?ヒュウガじゃない、今日も昨日と同じく?今日は結構売れ残ったわよ」
俺にとってはありがたかったが、売れ残ったのが気に入らなかったのか、スーはちょっと顔をしかめていた。
「今日はこの私が焼いたのにどういうわけかいっぱい売れ残っちゃって」
どうやら自分の焼いたパンが売れなかったことに納得いかなかったらしい。
「おかしいわねえ、パパやママが焼くパンと全然変わりないのにどうしてかしら?」
スーは首をかしげながら残ったパンを袋の中に放り込んでいる。
「あなたもそんなに懐が寒いんならバイトでもすれば良いのに」
とスーは言う。
「ウチでバイトでもしたら?結構儲かるわよ?」
スーは何かを訴えるかのように俺を見た。
「何言ってんだよ、そんな暇あるわけないだろ?」
と俺は返した。
「それにヤング教官から信用を得てるし訓練所もそう簡単に休めないし」
俺は言った一瞬だけだが彼女が寂しそうに見えた。
「なあんだ、面白くないわねえ。ま、仕方ないか。気が向いたらいつでも声かけてね」
スーは明るく振舞ったが、なんとなくぎこちなく見えた。
俺はパンの入った袋を受け取りお金を置いて出ようとしたその時、
「ちょっと待った」
スーが呼び止め、彼女は厨房の中へ入っていった。
数分してから大きなパンを持ったスーが厨房から出てきた。彼女はそれをいそいそと袋へ入れると、俺に手渡した。
「サービスよ、私の焼いたパンなの♪それで明日感想聞かせてね」
「感想ってなんの感想だよ?」
俺は彼女に聞いた。
「決まってるじゃない、美味いか不味いかよ」
そうやって期待してるように俺をみる。
「わかったよ、その代わり、何て言っても文句言うなよ」
そう言って俺は振り返り店を出ると何も考えずに歩き出した。
歩いて何分かすると、どこかで見かけた女の子が歩いてくる…。
今日ぶつかってきたハンナだ。