ドルファンに平和が訪れ、約一年が過ぎた頃、彼女は舞台で多くの観衆を前に歌っていた。
舞台女優としてではなく、舞台を締めくくる歌の歌い手として。
戦時中の爆弾テロで、声帯を傷めたため、数分しか声がもたないのだ。
だが、彼女の歌は、聞く者の心の琴線を振るわせた。
また人々は、そんな彼女を平和の象徴として、熱狂的に支持した。
あるとき、一躍シアターのスターとなった彼女が身につけている金色に輝く聖騎士の証に話題が集まった。
そして、薬指にはめられた銀色のリングにも…。
いろいろな憶測が飛び交う中、ついに彼女は重い口を開いた。
戦後、ドルファンから追われるように去っていった、東洋人から受け取り、お守りとして肌身はなさず身につけているものであることを。
その人との約束を守るため、その人へ自分の想いが届くよう心をこめて歌っていることを。
その告白は、ドルファン国中に広まり、騒然となった。
国民は先の戦争の英雄が、国を追われていた事を知らされていなかったのだ。
もちろん、たった一人でヴァルファ8騎将を討ち取り、国の平和を守った東洋人聖騎士の名を……。
次第に高まる王室への批判。そして、英雄の帰還を願う声。
ドルファンを後にし、約1年半位経っただろうか。
あるとき、私のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は、プリシラ=ドルファン。
まさか…。
国を挙げて、聖騎士であるあなたの帰還をお待ちしております。
あなたが望むのなら、ドルファンへの永住も認めます。
帰って来なきゃ、死刑台に送るわよ。
プリシラ王女との思い出が脳裏をよぎる。
王族らしからぬ、ユーモアを持った女性だった。
そんなことより、彼女との約束が果たせる。
彼女は…ソフィアは今、どうしているのだろう?
会いたい……。
はやる気持ちを抑えながら、ドルファンへ向かう支度を始めた。