セリナリバ−駅前。俺は偶然を装い、買い物途中のソフィアに声を掛けた。
「やあ、ソフィア」
「あっ、アスタさん…。もしかして私に何か、ご用ですか…?」
「ソフィア…、その、今度の日曜日、俺と遊歩道に行かないか?」
「ええ…良いですよ。その日は何もありませんし…」
よっしゃあ!
「それじゃ、今度の約束忘れないで下さいね。」
そう言い残して彼女は去っていった。ほのかに甘い香りを残しながら…。
いやっほう!今度の日曜日が楽しみだぜい!
んでもって日曜日。
約束の時間を既に15分過ぎている。時間に正確な彼女らしくないな…。
そんな考えを巡らせていると、向こうからソフィアが駆け足でやってきた。
「ごめんなさい。昨日よく眠れなかったから、つい…。」
かっ、可愛い…。可愛すぎる!暴走しそうになる自分を抑え、必死に平静を保つ。
ふぅ、危ない危ない…。
「いや、気にしなくてもいいよ。それより行こうか?」
「はい!」
かくして俺達は遊歩道に歩み始めた。
遊歩道は、辺りに人がいないせいか静まり返っていた。時折聞こえる木々のざわめきも、こういう時は耳に心地いい。
普段はカップルの密集地みたいなこの場所が、静かな時もあるんだなと妙な感心をしてしまう。
「静かですね…」不意にソフィアが口を開いた。
「ああ…」俺もその言葉に同調する。
「こうしてると、なんだか…」「恋人同士…、みたいだね…」
しまった!今のは余りにもキザっぽかったかな?
「だと…、いいんですけど…」
えっ?ええっ?今なんて…?。
ソフィアの顔を見ると、恥ずかしげに頬を染めている。少し伏せた顔をこちらに向け、上目遣いに俺を見ている。
信じて良いんだね?僕は此処にいてもいいんだね?(←間違い)その時の俺の表情は想像にお任せするとして、
完全に舞い上がっていた俺は、その直後襲いかかる悲劇に気付くはずもなかった…。
「楽しかったね、ソフィア。」
しかし、彼女の表情は曇っている。あっ、あれ?何かまずかったかな?
すると、彼女は俺を見据えてこう言った。
「以前も此処、来ませんでしたか…?」そう言って、ジト目で俺を睨み付ける。
はうっ!やばい…。取り敢えず弁解をしなければ…。
「いっ、いや、それはその…。数ヶ月ぶりだったから…。」
「何ですか、その『数ヶ月ぶり』って!」
「あっ、いや、だから…。とっ、とにかく話し合おう!」
「最低です、アスタさん!失礼します!」
ソフィアはぷいと顔を背けると、俺の前から立ち去ってしまった。一人残された俺は、魂の抜け殻と化していた。
そんな俺を嘲笑うかの様に冷たい北風が俺を包んでいた…。