「だが、貴様では役不足だ!死ねえっ!」
奴の一撃が俺の脇腹の辺りをを捉えた。
鎧によって衝撃は和らいだが、その鎧を貫いて刺さっている。
鎧を着ていなかったら、確実に背中まで貫き通されていただろう。
「ぐうっ…」
怯んだ俺に、奴の執拗な攻撃が浴びせかけられる。
「これで終わりだぁっ!」
言い放つと同時に、槍を縦横無尽に突きだし始めた。その槍先からは無数の火炎弾が射出される。
襲い来る火炎弾が身体を蝕み始めた。咄嗟に剣で防ごうとしたが、何発か直撃を受けた。
「うぐっ…ぐはぁっ!!」
激痛が走り、灼熱が全身を襲う。鎧が煤け始め、露出してる部分に軽い火傷を負う。
俺は思わず片膝をついた。奴を睨み付けるにも、頭部から流れてきた血によって右目を潰され、
朦朧とした意識の中、左目も霞んできた。
(殺される…)
初めて『死』に対する恐怖を感じた。
人は、死に直面した時、信じられない力を発揮すると聞いた事があるが、今の俺には為す術が無かった。
死を覚悟して、頭を下げようとしたその刹那、奴の鎧に一筋の鈍い光を見つけた。
その光は、さっき俺が付けた傷跡だった。その傷跡が、太陽の光を反射して、鈍い光を放っていたのだ。
あれを狙えば…
「うっ…、くぅっ…」
「ほう…まだ立ち上がるか。ならば、この一撃で殺してやるっ!」
剣を杖代わりにして、どうにか立ち上がった俺に向かい奴が突進して来た。
槍を中段に構え、確実に心臓の辺りを狙っている。
俺が剣を構え直した時には、奴の槍が射程距離を捉えていた。
「死ねぇぇぇぇいっ!」奴の槍が突き出されると、無我夢中でそれを握りしめた。
心臓まで、あと数センチという所で食い止めつつ、奴を睨み付ける。
この闘いで初めて、奴に驚きの表情が浮かんだ。
そして、奴の鎧に視線を移し、さっきの傷跡を確認した。
もう片方の手で剣を握り、その傷跡目掛け、渾身の力を込めた一撃を放つ。
金属に阻まれた後、肉を斬る鈍い感触が掌を伝わってきた。
その直後、俺の剣を伝うように奴の血が流れ始め、剣の柄から地面に滴り落ちた。
「ぐふぅ…。きっ、貴様ぁぁぁぁぁ…!!!」忌々しげに呻く。
奴の足下には、流れ出た血による血溜まりが出来始めている。
奴の手を放れた槍は、その血溜まりに落ちると、金属音を響かせながら何度か弾み、その血に委ねられる様に静止した。
俺もいつの間にか剣を手放していた。殆ど気力のみで立っていたらしい。
「ヤングよ…良い部下を持ったな…」
そう言い残して、胸に剣を刺したまま地面に倒れ伏した。
真紅の鎧が、奴の鮮血によって、より一層紅く映える。
それを見届けた後、俺も意識を失い地面に倒れ込んだ。
周りで俺の名前を呼ぶ声が響いているみたいだが、それすらも段々聞こえなくなってきた…
続く…