「俺の名は奇稲田アスタ!流浪の芸人だっ!」
ネクセラリアの顔に怒りの色が浮かぶ。
「貴様ぁっ!前回のラストと台詞が違うではないかぁっ!」
「細かい事をいうなっ!それより、俺が相手だっ!」そう言って抜刀する。
まあ、取り敢えず形だけでも整えておこう。どうせ、あっち向いてホイなんだろうから…。
俺に合わせる様に、奴も槍を構え直す。そして俺の事を睨み付けてきた。
互いに動かず、辺りが不気味な静寂に包まれ始める。その静寂を打ち破る様に、奴が仕掛けてきた。
「でりゃぁぁぁぁぁっ!」
最初はグーか?それともチョキか?奴の深層心理を読もうと、考えを巡らせ始めた。
その刹那、奴の槍が空を裂いた。
無防備だった俺は、一瞬何が起こったか分からず、呆然と立ち尽くしているだけだった。
顔の横に衝撃が走る。視線を横に向けると、奴の槍が不気味に光り輝いていた。
額から汗が流れ、首筋まで垂れる。
「チョット待てよ!あっちむいてホイじゃ無いのかよ!」我に返った俺は、真っ先に質問した。
すると、奴の顔が紅潮した。
「馬鹿野郎!あんな事、二度とやるか!」
「話が違うじゃねぇかぁっ!」
「黙れっ!貴様も殺してやるっ!」
そう言って、俺の目前に槍を突き付ける。奴の目は殺気に満ちていた。
さっきまでのアホらしい面影など微塵にもない。目に見えない奴の威圧感に押し潰されそうになっていた。
やけに喉が乾き、唾を何度も飲み込み始める。さっきまで鷹を括っていた相手に恐怖を感じ始めているのだ。
奴は、俺の目前から槍をずらそうとはしない。この場で逃げ出しても、間違いなく背後から貫かれるだろう。
ならば、只殺されるより、一矢報いた方が良い。
俺は、握っていた剣で奴の槍をはね除けると、ゆっくりと奴の方に剣先を向けた。
奴が口元に笑みを浮かべる。
「死ぬ覚悟が出来た様だな…。ならば望み通り殺してやるっ!」
弾かれた槍を構え直し、俺を凝視する。
さっきまで楽観的に構えていたのでなんともなかったが、今は違う。
まるで窮地に立たされた様な錯覚に襲われているのだ。
しかし、そんな恐怖感を拭い去るように、今度は俺から仕掛けた。
「うりゃああぁぁぁぁっ!」
中段に構え、奴に突進する。何も考えていなかった。
只、目の前の敵を倒したい気持ちが先走っていたのだ。
間合いに入った瞬間、奴の槍が襲ってきた。
それを辛うじて交わすと奴の胸部に剣先を突き刺した。
ガキイィィィィン!!
鈍い金属音が辺りに響き渡り、鎧に阻まれた剣先から火花が散る。
俺の一撃は、奴の鎧に傷を付けただけで、致命傷を与える事は無かった。
奴は表情一つ変えず、懐に潜り込んだ俺の方を向いた。
「ほぉ…俺の一撃を交わすとはな…」
そう言いながら体勢を立て直し、槍の柄で俺の事を突き飛ばす。
俺は、よろけながらも剣を握り直した。
効いていない。鎧ごと叩き斬らないと駄目なのか?
そんな考えが頭を過ぎった瞬間、奴が不気味に笑った。
「だが貴様では役不足だ!死ねえぃっ!」
続く…