緊急招集召集により、イリハに向かう事になった。
自国ドルファンがダナンを奪回する為に騎士団を派遣。
敵国のヴァルファバラハリアンはプロキアの撤退要求を無視し、ダナンの南方にあるイリハに布陣していたのだった。
ヤング上官の指揮のもと、俺達騎士団がイリハに到着した頃には、既に戦火が渦巻いていた。
そんな中、戦火の炎にも屈しない程の真紅の鎧を着込んだ男が、部下達の指揮を執っていた。
緑色の髪の毛に、吊り上がったきつい目つき。手には槍を持ち、イリハの崩壊を黙って見つめていた。
その折り、ドルファン軍の歩兵、弓兵、騎馬兵の3部隊がヤング上官の支持を待たず、
ヴァルファの部隊へと突き進んでいった。
ヤング上官は部下達の行動に叱責を与える事無く、鎧の男をジッと見据えていた。
すると、ドルファン軍の到来に気付いた様に、鎧の男が俺達の方を向き口を開いた。
「聴けぇっ!ドルファンの犬ども!我が名は疾風のネクセラリア!
我が槍に挑まんとする勇者はここにはいないのか?」
すると、今まで沈黙を守っていたヤング上官が、突如口を開いた。
「ネクセラリア!この俺が相手をしよう!」
その言葉に反応する様に、ネクセラリアが口元に笑みを浮かべる。
「ヤング・マジョラム大尉か…。ハンガリアの狼が、今やドルファンの一部隊長とはな…」
「黙れっ!かつて同僚の貴様に、俺の手で手向けの華を添えてやるっ!」
「面白い…。ハンガリア時代の決着を、今日ここでつけてやる!」
ヤング上官が抜刀して、ネクセラリアが槍を構える。
あっ、いけね!俺、歩兵として出兵するんだったけ…。
まぁいいや。なんか終わってるみたいだし。
そんな事を殺伐と考えている間にも、2人は睨み合ったまま微動だにしない。
その緊張が頂点に達した時、ヤング上官が先に動いた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
剣を上段に構え、ネクセラリアに突進して、一気に間合いを詰める。
そして、開口一番獣の咆哮にも似た叫びをあげる。
「じゃぁぁんけぇぇぇん!」
はい?
「ポンッ!」
二人同時に空いた方の手を出す。結果はヤング上官の勝ちだ。
…まさか、これで終わりじゃないだろうな…?
すると、ヤング上官は笑みを浮かべながら、剣を強く握り直す。
片手で持った剣を振りかざすと、信じられない事を口走った。
「あっち向いて、ホイィィィッ!」
剣を地面に向けると、ネクセラリアは天を仰ぐ。
オイオイ…
武器使わなくても出来るだろうよそんな事…。
って、言うか、お前らそんな事で決着つけるんかい!
だが、俺のそんな思惑とは裏腹に、奴らはそのまま続けていた…
そして、そのアホらしい…、いや、激しい死闘は数時間にも及び、両者の体力も限界に近付きつつあった。
両者とも進展がないままに185回目を迎えた時に、変化が訪れた。
ネクセラリアがジャンケンに勝った瞬間、奴の目が鋭く光った。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
魂の叫びにも聞こえる咆哮と同時に、槍を天に向ける。
すると、ヤング上官はつられて天を仰いだ。
ヤング上官の顔が醜く歪む。あからさまに『しまった』という顔つきだ。
そして、そのまま片膝をついた。
「ヤングよ、冥途で遭おう…」
なにクールに決めてんだ?コイツは…。さっきまで、馬鹿っぽい事してたくせに…。
「クッ、クレアァ…すまんっ…」
そう言い残して地面に倒れ込む。挙げ句に微動だにしない。って、死んだんか?そんなんで殺られたんかいっ!
こいつら、アホだ…。
額に汗浮かべてまでやるか?こんな事…
すると、ネクセラリアが眼孔を鋭くして、言い放った。
「ヤングは我が槍で討ち取った!誰か仇を討つ者はいないのか?受けて立つぞ!!」
いや…あんた槍で討ち取ったって…。まあ、確かに槍は使ってたけどさぁ…。
他の連中は呆れ返って、帰る身支度を始めている。俺も帰ろうかな…?
でも、それじゃあ今後のストーリー展開に響くからなぁ…。
まぁあんな勝負だったら俺でも勝てる見込みはあるな。
俺は、ネクセラリアの元に歩み寄ると、口を開いた。
「俺の名は奇稲田アスタ!俺がヤング上官の仇を討つ!」
続く……