ドルファン歴D26年4月1日。俺は『ドルファン』という異国の島国に行く事になった。傭兵として…
潮風が身体に心地良い…。天気も良いせいか太陽の光が燦々と降り注ぎ、甲板に立っている俺の事を照らし出す。
しかし、一寸した客船なのだが、波が立つ度に船体が右や左に傾く。その度に足下がふらついて転びそうになる。
素直にキャビンに戻れば良いのだが、剣と鎧を装備した人間が観光客の中に入ればあからさまに浮く。
それがイヤなので無理矢理甲板に出ていた。お陰で、何度と無く水飛沫を顔に受けていた…
それでも窓越しに見る景色とは違って、眼前に広がる景色は雄大で、ダイレクトに目に飛び込んで来る。
綺麗な海が後押しして実に壮観だ。
すると、段々船の速度が落ちてきて、港に近付いて来た事をほのめかす。
さっきまで俺の側を飛んでいたピコも、羽を休め、俺の目前に静止する。
「ようやくドルファンに着いたね。」嬉しそうな顔で言ってきた。
「なんだ、ピコか」取り敢えず適当にあしらう。
すると、一転して呆れた様な顔をする。
「『なぁんだ、ピコか…』って、もう一寸アクティブなリアクションがほしかったな。」
「何で俺がいちいちリアクション取らなきゃならないんだ!」
年がら年中顔を合わせているピコに対してリアクションを取れと言うのが間違いだ。確かに初めて会った時は驚いたけどよ…
「随分な言い方ねぇ。こんな可愛い妖精を掴まえておいて。」
「掴まえたぁ?そっちこそ何だ!俺は、お前を助けてやったんだぞ!」
そんなやり取りをしている内に、いつの間にかドルファン港に到着したらしい。
他の乗船客は、荷物を持って下船を始めている。その乗船客達が、俺の方を向いて陰口を叩いていたのだ。
そうだった…。ピコの姿は俺以外の人間には見えて無かったんだ…。
そのせいで、俺が大声で独り言を呟いている様に見えたのだろう。
今更弁解出来る訳もなく、まして、ピコの事を説明し始めたらますます危ない人間に見られてしまう。
「はあ…」
「気にしない、気にしない。いつもの事じゃん。」
慰めとも皮肉とも取れる事をさらりと言いのける。
「あのなぁ…」
ますます落胆する俺の前に、一人の女性が歩み寄って来た。正装で身を包み、
多少冷たさを感じさせる目つきをしている。
「初めまして。私、出入国管理局の者ですが。」
事務的な口調で淡々と語り出した。感情という物を感じさせないその口調に戸惑いを隠しきれない。
困惑する俺を後目に、懐に抱えていた書類を取り出し、俺の目前に差し出す。
「こちらの書類に、必要事項の記入を御願いします。」
差し出された書類を反射的に受け取ると、取り敢えず記入を始めた。
その間も彼女の表情が変わることは無い。無表情のまま、俺の手元を見ている。
記入を終えた書類を渡すと、一通り目を通してから再び口を開いた。
「えー。貴方は傭兵志願ですね。この書類は軍事務局の方に回しておきます。」
そう言ってから書類をしまう。そして俺の方に向き直ると、
「ようこそドルファンへ。貴方に御武運があるよう、お祈りしますわ。」と、
微笑みを交えながら言ってくれた。
その微笑みに見送られながら、ドルファンへの第一歩を踏みしめた。これから新しい生活が始まる…
続く…