ドルファンへの第一歩を踏みしめた俺は、荷物を地面に置き、大きく伸びをした。
それと同時に軽い目眩に襲われ、長い船旅でふらつく足に追い打ちをかけられた。
少しよろめきながら2、3歩後ずさりして両足に力を入れる。
どうにか体重を支える事が出来ると、改めて周りの風景に目を向けた。
決して豪華とは言えないが、逆に安心感を与えてくれる街並みが広がっている。
傭兵の俺が場違いな程「平和」に満ちあふれているし、何より人々の生活には活気があった。
とても戦争が起きてるとは思えない。
眩しそうに目を細めて、街並みや周りの風景を見ていた俺にピコが横槍を入れた。
「チョット!いつまでボーッとしてるつもり?」
さっきまでその辺を飛び回っていたと思ったのに、急に俺の目前に姿を現した。
腰に手を当て、憮然とした表情をしている。風景を楽しむ前に、早く宿舎へ向かおうという意志表示なんだろう。
「そう急かすなよ」
俺はヤレヤレといった感じで返事をする。すると呆れ返った顔をして言葉を続けてきた。
「早く宿舎に行って休まないと。明日から養成所通いなんだよ。」
まるで世話係にでもなった様な言い振りだ。まあ、俺の事を考えての事だから悪い気はしない。
そんな事を考えていると、ピコが俺の側に寄ってきた。
「さっきの人から地図を貰ったでしょう。チョット見せて」
さっき見送られた際に渡された地図の事だろう。
俺は懐に手を入れると、地図を取り出し、ピコに見える様、胸の前で広げた。
地図を見る限りではかなり広大な島だ。
線で表された大陸の中に、数本の点線が走っていて、それによって地区などが区切られていた。
「シーエアー地区って所に、私たちの宿舎があるのね。」
「いやっ!離して下さい!」
ピコが言い終わるか否かの所で、女の子の悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。
「んっ?」
「あれっ?」
同時に反応する。地図に没頭していた俺達は状況が飲み込めず、辺りを見渡した。
「あっ、あそこ!女の子がチンピラに絡まれてるよ!」いち早くピコが発見した。
ピコの指さす方向を見てみると、3人組の男が女の子を取り囲んでいた。
当惑する女の子を、下卑た笑いを浮かべながら見ている。
俺は無言のままそいつらの元に歩み寄る。すると、その中の一人が俺に気付き、睨みを効かせてきた。
目が大きく、妙に鼻が高い。赤い髪の毛をツンツンに立てている様は、まるでほうきみたいだ。
「てめぇ何見てんだよぉ。文句あるのかその面はよぉっ!」
威嚇するように、語尾に凄みを付けてきた。ただ、余り呂律が回っていない。
「その子を離してやってくれ。」
静かに言う。すると、そいつは癪にでも障ったのか、ますます目を見開いた。
「東洋人の兄ちゃんよぉ。カッコ付けすぎると痛い目にあうぜぇっ。こんな風になぁっ!」
己の力を誇示するかの様に、拳を振り上げてきた。
俺は辛うじてかわすと、そいつの頬に思いっきり拳を叩き込んだ。手全体に鈍い感触が走る。
それと同時に奇声を上げ ながらもんどり打つほうき頭。
それを見ていた他の2人は、一目散に逃げ出した。
地面に倒れ込んだほうき頭も、鼻血を垂らしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「てっ、テメェ!いつか殺してやるっ!次会う時は覚悟しとけよっ!」
捨て台詞を吐くと、他の2人と同じ方向に駆け出して行った。
この女の子を助けたという行為が、運命的な出会いへの序曲である事に、俺が気付く筈もなかった…。
続く…