奇稲田アスタ作品集

第9回


ほうき頭が逃げ出した方向を暫く見ていた。無様としか言い様のないその姿に苦笑する。

「あの…」

恐縮した声が俺の背中に当たる。ハッとして振り向くと同時に言葉を失った。

(可愛い…)

そんな気持ちで一杯になる。変に自分を着飾る事無く、あくまで自然な彼女の魅力に惹かれ始めていた。

「助けて頂いて、有り難う御座います。」

そう言って頭を下げる。しかし、恐怖心が残ってるせいか声は微かに震え、表情も暗い。

それでも、次の瞬間には軽く微笑んでくれた。逆に気を使わせているみたいで、何となく心苦しい。

「いや・・・、気にしなくていいよ。」

元気づける言葉が見つからず、精一杯の言葉だった。こんな時、自分の不甲斐なさを痛感する。

すると、彼女ががそれを否定するように口を開いた。

「そう言う訳にはいきません。是非お礼に伺いたいので、せめて、お名前だけでも教えて頂けませんか?」

言い終えてから、何かを思い出した様な顔をする。その際、微かに頬を染めた。

「あっ、すいません…。私、ソフィア・ロベリンゲと言います。」再度頭を下げる。

ソフィアか…

彼女の一語一句を噛みしめる様に聞くと、恍惚に浸る前に自分の名前を告げた。

「俺の名前は奇稲田・アスタ」

「アスタさん…。素敵なお名前ですね。」

ソフィアの台詞が頭の中で、リフレインする。

『素敵なお名前、素敵なお名前…』と。

ある意味、人生で最高の瞬間かもしれない。そんな馬鹿な事を考えていると、ソフィアが言葉を続けた。

「アスタさん、改めてお礼に伺います。本当に有り難う御座いました。」

一礼すると、笑顔を浮かべながら街中へと消えて行った。

「かっこいいねぇ。女の子なんか助けちゃってさ。よっ!色男!」

今まで黙っていたピコが、おだてる様に言ってきた。「そうだろう、そうだろう。さもありなん!」

「それは、さておき…っと!早く宿舎に行こう。もうすぐ日が暮れちゃうよ」

得意気になる俺を後目に、さっさと話を進める。

「それで終わりかいっ!」取り敢えず突っ込む。

「キミと漫才してる場合じゃないの。このままじゃ夜になっちゃうよ!」

そう言って、地図に記された場所へと飛び始める。

「ピコの方が断然大人だな…」などと嫉妬混じりの事を考えながら、荷物を拾い上げ後を追う。

宿舎に向かう際にも、ソフィアの事が頭から離れなかった。

もう一度会いたい…。会ってゆっくりと話がしたい…。

いや、彼女はお礼に来ると言ってたよな。その際にでも……って…

「あーーーーーっ!」思わず大声が出てしまった。

「なにっ?どうしたの?」目の前を飛んでいたピコが、驚いた様に振り向く。

「住所教えるの、忘れてたぁぁぁっ!」

ザッパーン!

都合良く俺の背後で波しぶきがあがった。

「……………」ピコがあからさまに冷たい目で俺を見る。

獣の咆哮にも似た叫びは、ピコの視線を避けるかのように彷徨い、海に虚しく消えていった。

「ああ…海が綺麗だ………」俺は、迷わず現実逃避した…。


続く……

次回予告

新しいモンスターボールを手に入れた俺達は、見た事もないパチモンを発見した。

そいつは人の言葉を理解して、「ソフィア、ソフィア」と譫言の様に喋りまくる。

取り敢えず、新種発見…なのかなぁ……?

次回 「パチっとモンスター 『史上最低のパチモン!』」

みんなも、パチモンGETだぜっ!


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