あれから、気まずい雰囲気が漂う中、どうにか宿舎に辿り着いた。
しかし、ピコの事を正視できず、その日は早々と布団に潜り込んだ…。
そして翌日。
カーテンの隙間から木漏れ日が差し込んでくる。小鳥達の囀りが耳に心地良い。
まだ覚めきっていない目を軽く擦り、朝の到来を確認する。
今日も良い天気らしい。こんな日は、何もかも忘れて旅にでも出たくなる。
「チョット、何時まで寝てるつもり?今日から養成所通いでしょ?」
「頼むよ〜。後5分寝かしてくれぇ〜!」
前振りの割に現実は得てしてこんな物だ。俺は低血圧だし、寝起きに至っては最悪と言っても良い。
あぁ、かったるい…
「いい加減にしなよ!本当に遅れちゃうよ!」痺れをきらしたピコが呆れ返った様に言い放つ。
そんなピコを横目に、更に毛布を手繰り寄せる。すると、軽く溜息をついて俺の視界から飛び去った。
フッ!俺の勝ちだな。
「お〜き〜ろぉーーーーーっ!」
「うわーーーっ!?」
ピコはいつの間にか俺の耳元に近付いていたらしい。
その突然の大音響に、眠っていた脳細胞が一気に叩き起こされる。鼓膜までジンジンする始末だ。
「起きるっ!起きますっ!今すぐ行かせて貰いますっ!」
毛布をはね除けて即座に顔を洗いに行く。背後でピコの含み笑いが聞こえるが、そんなのは関係ない。
物凄い衝撃を受けた後の反動とでも言うべきか。
数十分後、一通りの身支度が終わった。肩で荒く息をする。こんな慌ただしい朝を迎えたのは初めてだ。
すると、ピコが俺の前に回り込んできた。
「準備できたね。それじゃ、行ってらっしゃい。」笑顔を浮かべながら軽く手を振る。
朝から体力を使ってしまった気分だが、ピコの笑顔に見送られながら宿舎を後にした。
養成所へ向かう途中、俺は周りの風景に目を配った。初めて足を踏み入れた土地の風景は全てが新鮮だ。
自国と極端に違う訳ではないが、何故かしら目を引かれる。
そんな最中、俺の目前に学校らしき建物が見えて来た。
制服を着た女生徒達が、楽しそうに話をしながら校門をくぐっていく。その女生徒達の中に見覚えのある女の子がいた。
ソフィアだ。制服を着た彼女は、他の女生徒達の中でも際だって見える。
私服の時でも充分可愛いのに、制服を着た彼女は、より一層清純さに溢れて可愛い。
これは既に反則だ!
自分勝手な妄想を繰り広げていると、ソフィアが俺に気付いたらしく、笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。
「おはようございます。」
「おはよう。ソフィア。」
笑顔を浮かべ挨拶を返す。
「昨日は有り難う御座いました。」
「いっ、いや…。そんな大した事じゃないよ。」
「そんな事ありません。それで、お礼と言ってはなんですが…」恥ずかしそうに頬を染めるソフィア。
そういう何気ない仕草や表情が益々彼女の魅力を引き立てる。
狂いそうになる自分を抑え、静かに彼女の言葉の続きを待った。
「あっ…!?」
ソフィアは軽く叫ぶと逃げるように校舎の中へと走っていった。
ソフィアの言葉の続きを期待していた俺は、一人その場に取り残された。
あっ、あれ?俺なんかした?
一人困惑していると、急激に辺りの雰囲気が一転した。
何やらBGMが流れてきて、何処からともなく薔薇の花ビラが舞い降りてきた。
なっ、何だこの息苦しい雰囲気は…。
「ボクの〜愛しのソフィアァ〜。」
なっ、何だこいつは?趣味の悪い服に身を包んだ挙げ句、爬虫類系の顔立ち。
如何にも『ボクは良いとこのボッチャンです』とでも言いたげな空気。見ているだけで虫酸が走る。
「んっ?此処にいたと思ったのだが…?」
唄って喋って気が済んだのか、そいつは踊るような足取りで、校舎の中へと消えて行った。
何だったんだ、あいつは?いや、そんな事よりあいつはソフィアの何なんだ?
『愛しのソフィア』とか言ってたな。もしかして、ソフィアはあんな男が好みなのか?
俺の頭の中は、ソフィアとあの爬虫類がどういう関係なのかという疑問詞で一杯になった。
お陰で、養成所初日は散々だった。まあ、イヤでも3年間通わないといけないんだし。
上官も口うるさいが、なんとかなるだろう。
しかし、頭の中に広がった疑問に対しての答えは出ていない。
俺は目に見えない不安に押し潰されそうになりながらも宿舎に戻った…。
続く……