出会いという再会
「竹田君」
退屈な授業も終わり、さて帰ろうかと廊下を歩いていた竹田啓司はその声に振り返り、その声が見知らぬ少女から発せられた物だと知った。
アーモンドのような目をした、かなり可愛い女の子だ。だが、その表情は『りりしい』と表現したくなるたぐいのもので、何と言うかちぐはぐな雰囲気をもっている。
「えーと、誰だっけ?」
啓司が頭をかきながらそう訪ねると、その少女は悲しそうな、それでいて笑っているような、不思議な表情をした。
「そうか、宮下藤花のことは忘れているんだね。それじゃあ」
そう言ってきびすを返した少女の手を慌てて啓司が掴む。
「ちょ、ちょっと待てよ。なんのことだか俺にはさっぱり……」
そこまで言って、啓司は辺りの雰囲気に気付いた。みんながジロジロとこちらを見ている。
クラスメイトの反応はもう最悪だ。なにか汚い物でも見るような目で、ひそひそと何かを話している。
「別な所で話しをしよう!うん、それがいい!」
一人で勝手に言い訳をして、啓司は少女の手をひいて階段を一気にかけあがる。
二人が屋上にたどり着いた時には、啓司は息があがってまともに言葉も喋れないような状態だった。
「……懐かしいな。君と二人でここにいるのは」
息一つ乱していない少女がそうつぶやく。
「な、なん、だっ、て?」
「君は宮下藤花の事は覚えていないようだが、ならば、僕のことも忘れてしまったのかい?」
啓司が振り返ると、そこには先ほどまでの少女の姿はなかった。
そこにいるのは黒帽子に黒マントの怪人。
その姿に、啓司の目が見開かれる。
「お、お前……ブギーポップ!」
「そうか、ぼくのことは……」
その時のブギーポップの表情は、帽子の影になって啓司からは見えなかった。
「お前、どうしたんだよ!?また世界の敵とやらか?」
「どうやらそうらしいね」
どこかとぼけたような調子でそう言ったブギーポップは、もういつもの……啓司が知っているところのブギーポップであった。
「しかし、君は本当に宮下藤花のことを覚えていないのかい?」
「宮下って、おまえの正体のことか?」
「正確には少し違うが……ぼくの知る限り、君の彼女だったんだぜ?」
「なっ」
その言葉に啓司は赤面する。
「知らないぞそんな話。そりゃ、たしかに可愛かったし、彼女だったら光栄だけどさ。俺とじゃつりあわないよ」
「そんなことはないさ。結構お似合いだったよ」
「お似合いって……、お前自分自身のことだろ?」
「ぼくと宮下藤花は別物さ。つまり君は、ぼくのことは知っているが宮下藤花のことは知らない、ということかい?」
「まぁ、そうなるのかな?」
その言葉にブギーポップは考え込み、やがて頷いた。
「とすると、やはりあれは……」
「あのさ……」
そんなブギーポップに、啓司がおずおずと訪ねる。
「大変なのか?、今」
その言葉に、ブギーポップが笑っているようなからかっているような、そんな表情をした。
懐かしい表情。
「いや、どうやらそうでもないらしい。世界の危機に間違いはないけれどね」
「そうなんだ。……だったらさ、久しぶりに聞かせてくれないか?」
「ん?……ああ、いいよ」
そう言って二人はフェンスに腰掛けた。あの日のように。
最終下校時間になるまで、啓司は飽きることなくブギーポップの口笛を聞いていたのだった。
空は今日も、雲一つない見渡す限りの青だった。