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Boogiepop in Wonderland
とるに足らないもの

 夜。

 誰もいない校舎の屋上に一人腰掛け、ブギーポップは聞き手のいない口笛を吹いている。
 寒くはなかった。それは彼が特殊だから、という意味ではない。
(気温にまで気が回らなかったのか?……いや、その方が都合がいいからか)
 そんな事を考えつつ、彼は上を見上げ、そして顔をしかめた。
 そして、立ち上がってその人物を迎える。
「あいかわらずその曲か?」
 屋上のドアを開けて入ってきた少年は、そう言ってにやり、と笑った。
「いいものはいつまで経ってもいいものさ。君もそう思わないかい?歪曲王」
 その少年……歪曲王は「まあね」とうなずいて座り直したブギーポップの傍らに腰掛けた。
「君も出てきたのかい?君は少し『違う』と思っていたが」
「そこの所は正直僕にもわからない。君と同じようにこの世界の歪みに対応して出てきただけだと思う。……ここは『歪んだ世界』だから」
 歪曲王の言葉にブギーポップは小さく首肯する。
「空間ごと世界を複写して、自分の都合のいいように作り変える……まったく、大した能力だ」
「で、どうするんだい?彼を遮断するのか?」
「いや、彼の能力の大きさは関係ない。問題は、この世界に惹かれて来た者がいるということだ。……君の時のようにね。それよりも、君こそ彼の歪みを黄金に変える為に来たのではないのかい?」
「まさか」
 ブギーポップのその問に、歪曲王はひどく皮肉めいた笑みで応えた。
「さっき自分で言ったじゃないか。能力の大きさは関係ないって。こんなもの歪みでもなんでもない、『はしか』みたいなものさ」
「……まったくだ」
 そう言ってブギーポップはもう一度空を見上げた。
「潤いがないとは思わないかい?」
 同じように空を見上げた歪曲王も頷く。
「本当に必要ないと思っているのかな?」

 そこには雲もなく、そして月や星すらもなかったのだった。


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