end of the warld
世界が霞んでいく空も、大地も、太陽の光も、何もかも
世界がぼやけていく
校舎も、グラウンドも、生徒たちの声も、何もかも
消えていく世界の中で、たった二人だけが取り残されたようにその姿を保ち続けている。
二人とも、同じ少女の姿であった。
だが、二人ともその少女ではありえなかった。
二人は、言うなれば敵同士であったのだ。だが、二人の間には殺気めいたものは感じられない。
決着はすでについた。いや、そもそも二人は戦ってすらいなかったのかもしれない。
守る者と壊す者。立場は違えど同じ『世界の外にいる者』として、何か通じるものがあるのかもしれない。
「なんで彼につき合っていたんだい?」
口を開いたのはブギーポップの方だった。その問にゾーラギがころころと笑う。
子供のように無邪気でありながら、老女のようにどこか枯れた所のある、それは不思議な年齢不詳の微笑みだった。
「だって私の産みの親ですもの。言うことはちゃんと聞かないといけないでしょう?」
はぐらかすようなその返答に気を悪くするでもなく、ブギーポップは質問を続ける。
「あの少年の時も……君がゾーラギであった時もそうだったのかい?」
「そう。あれがあの子の望んだ姿。強くて、恐くて、大きなお父さん」
ゾーラギが少しだけ悲しそうな顔をする。ほんの少しだけ。
「あの子は周りが思っているよりずっと物事がわかっていた。口には出さなかったけれど、自分に『父親』がいないのは理解していたし、その事に劣等感も持っていた。だから、自分だけのかっこいいお父さんが欲しかったのよ」
「それが、本当に望んだものでなくても?」
「私は自動的なのよ」
知ってか知らずか、ゾーラギはそう言った。
「今の世界を壊したいと思っていて、私と繋がる事ができたなら、私は世界を壊すの。あなたのような邪魔が入らなければね」
だが、口にするほどブギーポップの事を嫌う風でもない。口元には微笑みを浮かべたままだ。
「世界を壊したいと願う者がいたとして、それを誰も止められないような世界は、存在自体が間違っていると思わない?」
「まったくだ。それは本来ぼくの仕事ではないのだがね」
そう言って、ブギーポップも笑っているようなからかっているような表情をした。
そして、気づいたように辺りを見回す。
二人の立っている桜の木の下以外はもう、何もない空間になっていた。
「……そろそろ、お別れのようだね」
「そうね。お互い、もう会わない方がいいのだけれど、あなたと話せてよかったわ」
そう言って差し出されたゾーラギの手を、ブギーポップはしっかりと握り返した。
「私を止めたのは、あなたが最初じゃなかった。そして、あなたで最後でもないでしょう。信じてもらえないかも知れないけれど、私はあの世界が好きなのよ」
「信じるよ。ぼくも捨てたものじゃないと思っている」
ゾーラギの体か溶けるように透けていき、そして消えた。一人取り残されたブギーポップは桜の木にもたれかかると、あの時と同じように口笛を吹きはじめる。
ニュルンベルグのマイスタージンガーは、この世界が終わるまで響き続けていた。