今日も放課後の深陽学園の屋上には、竹田啓司とその奇妙な友人ブギーポップの二人が何をするでもなくたたずんでいる。
二人並んでフェンスに寄り掛かり、たわいもない話をしながら、時間が過ぎていく。
ゆるやかに、ゆるやかに過ぎていくその時間は、啓司にとってかけがえのないものになっていた。
そして、話すこともなくなる頃、ブギーポップが静かに口笛を吹き始める。
もの悲し気な音色。啓司はしばし目を閉じて、そのオーケストラにも劣らない旋律に耳を傾ける。チョイト一杯のつーもりーで飲ーんでー
!?
いつの間ーにやーら ハーシゴー酒ぇー
スーダラ節!! 植木等!?
気ーがつーきゃホームのベーンチーでゴロ寝ー
啓司は混乱していた。何故自分はハナ肇とクレイジーキャッツの名曲(インストゥルメンタル・ヴァージョン)を今ここで聞いているのか?
これーじゃ身体にいいわーきゃなーいよ
慌ててブギーポップの方を見る。
まったくの素で口笛を吹き続けているブギーポップ。
変なアクションしてるより恐い。
ぁ分かっちゃいーるけーど やーめらーれない!!
ア、ホレ スイスイスララッタスラスラスイスイスイ〜
ブギーポップが突然踊り出して(?)いた。
スイスイスーララッタスラスラスイスイスイ
?マークが付くのは、啓司のセンスがブギーポップのそれを断じてダンスだと認めないからだ。
はっきり言って馬鹿っぽい。
いや馬鹿まるだし。
その馬鹿さ加減は空気感染しそうな勢いだ。スイスイスーララッタスラスラスイスイスイ〜
例えるならば、いい年ぶっこいたおっさんが突然ダンスに目覚めて、見よう見まねでコーラスラインを踊っているような(どんな例えだ)、なんというかおかしさより先に切なさとか哀愁を感じてしまう、そんな動き。
スイスイスーララッタスーララッタスイスイちなみに擬音にするとこんな感じ。
ふにゃ、ふにゃ
もはや肉体表現に対する冒涜の域にまで達している。
狙った大穴見ー事ーにはーずれー
問答無用で2番に突入するブギーポップ。
啓司はなんだか泣けてきた。
「どうも昔のものが好きでね。もっと新しいのがよかったかな?」
きっちり3番まで吹き終わって、なにやら爽やかに汗を拭いつつ、ブギーポップはそんなことを言った。
「ドリフターズとか」
そうきたか。
確かにドリフターズは昔バンドをやっていたことは知っている。
あのビートルズが来日した時に前座で演奏したのがドリフターズだった。
だからといって……ババンババンバンバン、ハァビバノンノン
って、そっちかい!!
ふにゃ、ふにゃ
しかも踊ってるし!?
啓司の受難は始まったばかりだった。