Boogiepop "The Lost"
極短編恋愛小説。又は嵐の前の静けさ
「おまたせしちゃったかしら?」
「いえ、勝手に呼び出したのは私の方ですから」
この前あったのと同じ喫茶店で、私は被衣さんと待ち合わせしていた。まさか、本当に来てくれるとは思わなっかったが。
「それで、ブギーポップに会ったって、本当?」
「はい。逃げられてしまいましたが」
被衣さんは驚いて、私の顔をまじまじと見つめた。
「逃げられたって……。あなた、一体なにをしたの?」
「……。それより、あの晩殺された人の事、教えてください」
「あなた、これ以上事件にかかわるつもり?」
「はい」
私に何を見たのか、被衣さんはため息をつくとあの晩……私とブギーポップが会った晩に殺された晩に殺された被害者の事を教えてくれた。
「被害に会ったのは高校二年生の女の子。……髪は肩までのストレート、身長は平均より高め、生前の写真を見たけど目元はきつめで、……まるで」
「まるで私みたい、ですか?」
「……そうね。外見上の特徴はあなたとそっくりだわ」
「きっと私の代わりに殺されたんです、彼女。あいつはそんな奴だったから。私のせいで……」
小刻みに震える私の手を、被衣さんの手がそっと包んだ。
「自分を責めては駄目よ。悪いのはブギーポップ。そうでしょ?」
「でも」
私の手がぎゅっと握られた。最近は慰められてばかりだ。
「あなたは、これ以上事件にかかわるべきじゃないわ。今度こそ本当に殺されるかも知れない」
「その人の言う通りだよ」
突然少年の声が割り込んできた。
「真人君」
「ごめん、立ち聞きするつもりは無かったんだけど」
そう言って彼は開いている席に腰掛けた。
「ここに入る君をみかけて。また、遅くなったら危ないよ?」
「ボーイフレンドの言う通りよ」
「そんなんじゃないです……」
ちょっと赤くなった私を見て、被衣さんはくすりと笑った。
確かに、あの日から何回か会ってはいたが、今は恋愛とかそんな気分じゃ無い。
「はいはい」
被衣さんは笑いながら、それでも最後は真面目にこう言った。
「恋愛なんて生きている間しかできないのよ。気をつけてね」
「本当にそんなんじゃ……」
喫茶店を出ていく被衣さんを追いかけようとする私の手を、真人君がぎゅっとつかんだ。
「本当に心配だよ。君のこと」
「……ありがとう」
でも、私は諦めるわけにはいかない。
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