夕日が、ゆっくりと沈んでいく。急に寒くなって、私と直也君はそっと身を寄せあった。夕日の沈む場所・Side-A
二人以外は誰もいない校舎の屋上。体は寒かったが、心は暖かかった。
いつのころからか、二人でこうして屋上にいることが多くなった。被衣さんの手伝いをしながらブギーポップの情報を集めてはいたが、あいつはまだ捕まらない。その間にも何人も被害が出ていて、直也君がいなかったら私はこの苛立ちに耐えられなかったかも知れない。
「どうかした?」
「ううん、ちょっと考えごとしてただけ」
「……ブギーポップの事?」
うなずく私を見て、直也君は顔を曇らせた。私の肩を抱く手に力がこもる。
「君の友達が殺されたのも、他の人たちが殺されたのも、君のせいじゃないんだよ?君も被害者じゃないか。何をそんなにこだわるんだい?」
直也君の言うことはもっともだった。本当だったら私にできることなんて何一つ無いのだ。私が見たもの、聞いたものを警察に話して、家に閉じこもているのが普通なのだ。
だが、幸か不幸か私にはできることがあった。
私はあいつを「消す」ことができる。そして……
「あいつが、許せないから」
友達を殺したとか、自分も殺されかけたとか、そんなことではなかった。あいつの言葉を借りるなら、あいつこそが『世界の敵』だ。
善悪の区別のつかない子供のように自分の気に入らないものを消していく。あいつこそが消されるべき存在なのに。
「さやか……!」
突然抱き締められた。強く強く抱き締められて、息がつまる。
「直也……君?」
直也君が私の顔をじっと見つめている。私を抱き締める力は弱くなるどころか一層強くなった。
まるで私を壊そうとするみたいに。
それでもいいと、一瞬だけ思った。
「そんな顔するなよ……。俺がいるから」
「直也君……」
私は馬鹿みたいに彼の名前を繰り返し呼んだ。
直也君の顔がゆっくりと近づいてくる。私はそっと目を閉じた。
二人の唇が重なった後のことはよく覚えていない。ただ、ゆっくりと時間だけが過ぎていった。「何を見ているの?」
月光だけが照らす校舎の屋上で、私は直也君にそっと訪ねた。
「さやかの事」
私の髪をゆっくりと撫でながらそう答えた直也君に、私は首を横に振る。
「そうじゃなくて……。私の、何を見てるの?」
直也君はくすり、と笑った。
「心のずっと奥の方、さ」
その意味を訪ねようとして口を開きかけて、私はその気配を感じた。
月光の下、あいつは立っていた。
「なぜ、お前たちがここにいる……!」
その顔は、怒りに歪んでいた。