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Boogiepop "The Lost"

夕日の沈む場所・Side-B
 僕は震えていた。
 恐怖に?
 いや違う。怒りに、だ。
 毎日毎日毎日毎日、くだらない人間がくだらない人間達にくだらないことを吹き込むゴミ溜めみたいな部屋で吐き気をこらえて時間を潰して、やっとそんなゴミみたいな連中をこの世から消してやろうとしているのに、それを邪魔するムシケラがいるのだ。
 ゴミみたいな連中は所詮ゴミだから、消すのになんの躊躇も必要なかった。
 なんと言うか、あれはもう『世界の敵』なのだ。この世に存在していても害があるばかりでなんの役にも立たない。
 僕のやっていることは正義なのだ。頭の悪い大人達は物事の表面だけ見て、勝手に悪いことと決めつけてしまう。あんなゴミを育てた責任を棚にあげて、自分達が正しいと勘違いしているのだ。
 そんなゴミを処分している内に聞いたブギーポップの噂は僕を興奮させた。
 人がこれ以上醜くならないうちに殺してしまう死神。まさに僕にぴったりだった。
 その日から僕は世界の敵を処分するブギーポップになったのだ。
 それから、僕の充実した日々が始まった。吐き気のするゴミ溜めも、これからする仕事のことを思えばなんとか我慢できた。処分する時のゴミの顔といったら、おもしろくてしょうがなかった。
 自分から「ブギーポップに殺されたい」なんて言っていたのでわざわざ出向いてやったら、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらはいつくばって命乞いをするのだ。
 あまりに滑稽で、それを通り越して哀れみさえ感じる。可哀相に。君はこれ以上生きていてもなんの役にも立たない。
 そうやって素晴らしい日々を送っていた僕の前に、一匹のムシケラがあらわれたのだ。
 あれは、自分からぶつかってきておいて人に向かって「邪魔」なんて口走った身の程をわきまえないゴミを処分した次の日のことだった。
 壇上でくだらない人間の親玉が馬鹿なことをしゃべっていたので笑った僕を、あのムシケラは殴ったのだ。
 何が起こったのかわからなかった。なんとか理解した後は、周りのゴミ達の視線が気持ち悪くてたまらなかった。いっそあの場所でまとめて処分してやろうかとも思ったが、やっとのことで自制したのだ。
 そして、そのムシケラを処分しようとしたその時、そいつは僕を見下したように笑ったのだ。
 あいつは僕と同じように何かの力を持っているのに違いない。でなければ、あんな時に笑っていられるわけがない。
 僕の思い付く限りの惨めで恥ずかしい処分をしてやろうと思ったのに、それができなかった。悔しくてたまらなかったが、人が来たのでその場は見逃してやったのだ。
 その後、腹立ち紛れに似たようなゴミを処分してみたが、僕の気は晴れなかった。
 やはり、あのムシケラを処分するしかない。
 あのムシケラを探しているうちに、僕は信じられないものを見てしまったのだ。
 校舎の屋上であのムシケラを見つけた。だがその隣にはあいつがいた。
「なぜ、お前たちがここにいる……!」
 僕は怒りに震えた。

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