成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
矢張 政志…紺 | |
裁判官…緑 | |
亜内検事…茶 | |
山野 星雄…紫 |
山: |
‥‥‥‥‥‥ へ‥‥へっ! あんた、1つ見逃してるよ! |
成: |
(‥‥え。 な、なんのことだ‥‥?) |
山: |
たしかに、その時計は 2時間、遅れてるみたいだな。 だがな‥‥。 その時計が、事件当日にも 遅れていたかどうか、 その証拠がないかぎり、 証明したことにはならねえぜ! |
成: |
‥‥‥‥! (‥‥そんなこと、証明 できるワケがないじゃないか! クソッ! あと 1歩だっていうのに‥‥!) |
裁: |
成歩堂くん。 ‥‥どうやらあなたは、それを 証明するのはムリなようですね。 |
成: |
‥‥! ‥‥は、はい‥‥ |
裁: |
となると、山野さんの言うとおり、 彼を告発することはできません。 ‥‥ザンネンですが、ね。 ではこれにて、山野 星雄氏に 対する尋問を、終了します! |
山: |
ヘッ! ヒトがわざわざ証言しに 来てやったっていうのに、 ハンニン呼ばわりかよ! まったく弁護士ってのは、 ヒドい連中だぜ! |
成: |
(くそっ! ‥‥山野め! すまない! 矢張‥‥。 もう少しだったのに ぼくにはもう、 どうしようもない‥‥) |
千: | 待ちなさい! 山野星雄! |
成: | ち、千尋さん! |
千: |
なるほどくん! ダメよ! ここであきらめちゃ! ‥‥考えましょう! |
成: |
でも、もうムリだよ千尋さん! 事件があった日に、時計が 遅れていたかどうかなんて、 今さら、証明しようがない! |
千: |
そ、‥‥そうね‥‥。 じゃあ、いっそのこと 発想を逆転させましょう! <<あの時計が、事件当日も 2時間遅れていたかどうか>>‥‥ ‥‥そう考えるのではなく、 そもそも、あの時計が、 <<なぜ2時間も遅れていたのか?>> その理由を考えてみるの! なるほどくん! あの時計がなぜ、2時間 遅れていたか、わかる? |
成: |
‥‥ ‥‥‥‥あ! はい、それなら たぶん、わかると思います。 |
千: |
あなたは、それを証明する 証拠品を持っているはずよ! それをつきつけてやりましょう! |
裁: |
どうですか、成歩堂くん。 事件があった日には、時計はすでに 遅れていた‥‥。 それを証明することが できると言うのですか? |
成: |
‥‥もちろん。 ある証拠品で、 それを証明できると思います。 |
山: |
ほお! ‥‥できるもんなら、 やってみな! |
裁: |
では、時計が遅れていた理由を示す 証拠品を提示してもらいましょう! |
成: |
被害者は、事件の前日、 帰国したばかりでした。 ニューヨークと日本では、 14時間の時差があります! 日本で午後4時のとき、 向こうでは前日の午前2時。 時計で見れば、その差は ちょうど、2時間になります! 被害者は、帰国後、時計の時差を まだ戻していなかったのです! だから、あなたが聞いた時間は、 2時間ズレていたんだ! どうですか! 山野さん! |
山: | ‥‥ぐ。 ‥‥‥‥‥‥! |
裁: |
せ、静粛に! 静粛に! ‥‥さて。 ここへ来て、状況は 一変したと言っていいでしょう。 亜内検事。 山野 星雄は‥‥? |
亜: |
は、あの‥‥先ほど 緊急逮捕いたしました。 |
裁: |
よろしい。 ‥‥成歩堂くん。 |
成: | はい。 |
裁: |
‥‥正直に言って、驚きました。 こんなに早く、依頼人を 救い出した上、 真犯人まで探し出すとは‥‥。 |
成: | ありがとうございます‥‥。 |
裁: |
とにかく、今となっては 形式にすぎませんが、 被告人、矢張 政志に 判決を言い渡します。 |
裁: | ‥‥では、本日はこれにて閉廷! |
成: |
山野という男は、空き巣の 常習犯だったらしい。 新聞の勧誘をしながら、 留守の家を狙っていたという。 あの日。 矢張が部屋を訪ねたとき、 被害者は留守だった。 彼が立ち去った後、山野は ”仕事”をするため、部屋に侵入。 そして部屋を物色中、 被害者が帰ってきたのだ。 逆上した山野は、そばにあった 置物を手に取って‥‥
|
地方裁判所 被告人第2控え室 | |
成: |
(‥‥うう。ぶじに終わったなんて まだ信じられないよ‥‥) |
千: |
なるほどくん! やったわね! おめでとう! |
成: |
あ、ありがとうございます! ‥‥ホント、所長のおかげです。 |
千: |
ううん。 そんなことないわ。 とにかく私、ひさしぶりに スカッとしたわ! |
成: |
(こんなにニコニコしている所長、 初めてだ。 そうだ! 矢張のヤツも よろこんでるだろうな‥‥) |
矢: | 死ぬんだぁ‥‥。 |
成: |
な、なんでおまえが そんなカオしてるんだよ! |
矢: |
成歩堂ぉ‥‥。 オレ、そろそろ死ぬからさぁ。 |
成: |
い、いやいやいや。 おまえは無罪になって、 事件は終わったんだよ、矢張。 |
矢: |
‥‥‥‥ でもよぉ、‥‥美佳は 帰ってこないんだよなぁ‥‥。 |
成: | (‥‥矢張‥‥) |
千: |
おめでとうございます、 ヤッパリさん。 |
矢: | ヤ、”ヤッパリ”‥‥? |
千: |
どうかしましたか? ヤッパリさん。 |
矢: |
いや、あの。なんつーかその、 ホント、ありがとッス。 オレ、一生忘れねーから。 |
千: | ‥‥まあ。 |
成: | (おい、助けたのはぼくだぞ‥‥) |
矢: |
あ、そうだ。 こ、これ、プレゼント! ‥‥受け取ってください! |
千: |
あら。‥‥私に? あの‥‥。 でもそれ、証拠品じゃあ‥‥? |
矢: |
実はコレ、オレがあいつのために 作ってやった時計なんスよ。 あいつのと、オレのとで 2個、作ったんス。 |
千: |
まあ、あなたが作ったの、これ? ‥‥‥‥ そうね。 ‥‥じゃ、記念にいただくわ。 |
矢: |
‥‥でもよぉ、成歩堂‥‥。 オレ、こんなにアイツのこと 想っていたのに、 あの女にとってオレ‥‥、 ただのオモチャだったんだよな。 すげぇ、カナシイよぉ‥‥。 |
成: | 矢張‥‥。 |
千: |
‥‥‥‥ 私、そうは思わないけど。 |
矢: | ‥‥え? |
千: |
彼女は彼女なりに、あなたのことを 想っていたはずですよ。 |
矢: |
ハッ! ‥‥な、なぐさめなんて‥‥。 |
千: |
あら、それはどうかしら。 ねえ、なるほどくん? ‥‥わからず屋の彼に、 彼女の気持ちがわかる証拠を 見せてあげて。 |
成: |
は、はい? ‥‥あ、そ、そうですね。 (い、いきなり 言われてもなあ‥‥) |
成: | 矢張、これ‥‥。 |
矢: |
な、なんだよ‥‥。 この時計がどうかしたか? |
成: |
これ、お前の手製の オリジナル時計なんだよな。 彼女、こいつといっしょに 旅行に行ってたんだぜ。 |
矢: |
は、はん。 たまたま時計がなかったんだろ? |
成: |
それだけで、わざわざこんな 重いものを持っていくか‥‥? |
矢: | ‥‥‥‥ |
成: |
まあ、何をどう考えるかは お前しだいだけど。 |
矢: |
‥‥ 成歩堂。 今回のコト、おマエにたのんで よかったよ。 ‥‥ホント、ありがとな。 |
成: | (‥‥これでよかったのかな‥‥) |
千: |
‥‥なるほどくん。 証拠品て、こういうものよ。 見る角度によって、その意味合いは どうにでも変わってしまうわ‥‥。 人間だって、そう。 被告が”有罪”か”無罪”か? 私たちには、知りようがない。 弁護士にできるのは、 彼らを信じることだけ。 そして彼らを信じるということは、 自分を信じるということなの。 ‥‥なるほどくん。 強くなりなさい。‥‥もっと。 自分が信じたものは 最後まで、あきらめてはダメ。 ‥‥じゃあ、 私たちも帰りましょうか。 |
成: | そうですね。 |
千: |
今夜は私、パーッと ごちそうしちゃおうかな。 ヤッパリさんの無罪を お祝いしましょう! |
成: | はい! |
千: |
あ、そうだ。 ‥‥ヤッパリさんといえば、 あなた、彼のおかげで弁護士に なった、って言ってたわよね。 |
成: |
え、は、はあ。 ‥‥”ある意味”ですけど。 |
千: |
今度、聞かせてね、その話。 ‥‥ものすごく興味があるの。 |
成: |
‥‥こうして、ぼくの最初の事件は 幕を閉じた。 矢張のヤツ”トモダチはいいなあ” を連呼しつつも、 あの<<考える人>>の時計以外に、 依頼料を払う気はないようだ。 ‥‥‥‥ そして、あの時計は、 再び、とんでもない事件を 引き起こすことになり、 ”矢張のことを話す”という ぼくの約束は、 永久に守られることはなかった。
おわり |