成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
綾里 真宵…青 | |
御剣 怜侍…茶 | |
糸鋸 圭介…黄土 | |
裁判長…緑 | |
荷星 三郎…紺 | |
オバチャン(大場 カオル)…灰 | |
スタッフの子…黄 | |
大滝 九太…黄緑 | |
カントク(宇在 拓也)…橙 | |
姫神 サクラ…紫 |
ええい‥‥ コシャクなり、トノサマン‥‥! 天空の月が、キサマの血を欲して 泣いておるわ‥‥! 今宵の月‥‥よく 目に焼きつけておくがいい。 おヌシの見る、 最後の満月となろう‥‥! アクダイカーン! ぐわあああああああああああッ! 満月だけが知っている、 今宵の勝負の行方! 大地にたおれた戦士は 果たして、どっちだぁッ! 次週『闇の使者、復活!』 ‥‥お楽しみに! | |
成歩堂法律事務所 | |
真: |
あー、おもしろかった。 ‥‥カクゴせい! アクダイカーン! |
成: |
うわ! ホウキをふり回すな! |
真: |
‥‥あ、いたんだ なるほどくん。 |
成: |
”いたんだ”じゃない! なんなんだ、あのシュールな ビジュアルは! |
真: |
えーっ! なるほどくん、知らないのー! ヤングに絶大な人気のヒーロー、 トノサマンだよ! |
成: |
ヤング? 何才ぐらいのヤングだよ? |
真: | ‥‥10才ぐらい? |
成: |
ヤングすぎだよ! いっしょになってハシャグな! |
真: |
でも、でも、あたしだってまだ 17才だよ。 ”てぃーん”だよ。なるほどくん とは違うんだよ、根本的に。 |
成: |
人をジジイみたいに言うな。 ぼくだってまだ24才だ。 |
真: |
じゃあ、じゃあ、なるほどくんも いっしょに見ようよ! ホント、カッコイイんだから。 とにかく、すごい人気なんだよ! 今、小学生の”なりたい職業”の 第1位は<<とのさま>>だしね。 |
成: | バカな。 |
真: |
‥‥ま、それはそれ。 さて。トノサマンも見たし、 そろそろ閉めようか、事務所。 |
成: |
‥‥いいのかなあ。 客、ゼンゼン来ないぞ。 ‥‥あれから、1ヶ月の 時間がながれた。 千尋さんの事件は、 かなり世間の話題になったが、 <<成歩堂法律事務所>>はなぜか、 話題にならなかった。 ‥‥どうしよう。 今月の家賃‥‥。 |
真: |
だいじょうぶだよ。 そろそろ何か、デカい 依頼が来るって! |
成: | ‥‥ふう。 |
成歩堂 龍一の寝室 | |
ピッ | |
成: | ‥‥はい、成歩堂です。 |
真: |
たっ、たっ、たっ‥‥、 大変だよっ! |
成: | なんだよ朝っぱらから‥‥。 |
真: |
トッ、トッ、トッ‥‥、 トノサマンがっ! トノサマンが、 逮捕されちゃったんだよ! |
成: |
‥‥は、はあ? トノサマンが? |
真: |
そうなの! トノサマン、怪人を やっつけちゃったんだって! |
成: |
‥‥‥‥‥‥。 それがどうした。 怪人を倒すのが、 彼の仕事だろ? |
真: | それはテレビの話でしょ! |
成: | そりゃあ、テレビの話だよ。 |
真: |
違うの! ホントにやっちゃったんだよぉ! トノサマン・スピアーで、怪人を 串刺しにしちゃったんだよぉぉ! |
成: | ‥‥さっぱりわからん。 |
真: |
とにかく、すぐに事務所に 来てぇ! おねがい! |
成歩堂法律事務所 | |
成: |
(真宵ちゃんは‥‥いた。 テレビを見ている) |
では、次のニュースです。 子供向け人気番組 <<大江戸戦士トノサマン>>の トノサマン役、荷星 三郎 (にぼしさぶろう)が、 殺人容疑で逮捕されていたことが さきほど、あきらかになりました。 被害者は、怪人アクダイカーン役 衣袋 武志(いぶくろたけし)氏。 アクダイカーンの着ぐるみの中から 死体で発見されました。 死体には”トノサマン・スピアー” が突き刺さっており、 警察では、これを凶器と考えて 捜査を進めているようです。 | |
成: |
‥‥‥‥。 なんか、 冗談みたいな事件だな。 |
真: |
ううう、悪夢だ。 この世の終わりだぁ‥‥。 |
ピッ | |
真: |
はい‥‥。 成歩堂法律事務所です。 ‥‥‥‥ えっ! なるほどくん! ト‥‥トノサマンから電話が! |
成: | な、なにぃ! |
真: |
はい‥‥はい‥‥ ‥‥すぐ、うかがいます! |
真: | 行こう! なるほどくん。 |
成: | ど、どこへ? |
真: |
トノサマン、留置所に つかまってるんだって! |
成: | ええっ! |
真: |
この事件、あたしたちの初仕事に 決めたからね! |
成: | どうしようか‥‥これから。 |
真: |
とにかく、留置所に行って トノサマンに会おうよー! うー、じっとしてられないよ! ‥‥早く行こう! |
成: |
(事件を調べたいのか、 スタジオ見物したいのか? おそらく、後者だな‥‥) |
真: |
うーん、まだ何かを推理するには データが足りないな。 |
成: |
すなおに”何も思いつきません” て言えよ。 |
真: | データが足りないの! |
留置所 面会室 | |
真: | ‥‥‥‥。 |
成: |
ホラ、真宵ちゃん。 アコガレのスターさんだぞ。 |
真: |
ね。 ‥‥ホントにアレがそうなの? |
成: |
アレって言うな。 荷星 三郎(にぼしさぶろう)。 今回の依頼人、その人だよ。 |
真: |
こう言っちゃなんだけど、 なるほどくん。 こりゃ、やってるよ、 サツジンの1つや2つ。 |
成: |
お、おいおい! 何、言ってるんだよ! |
荷: | あのぉ‥‥。 |
真: | は、はいッ。 |
荷: | ‥‥何か? |
真: | い、いえッ。 |
成: | (やれやれ‥‥) |
荷: |
わかっています。ゲンメツして いらっしゃるんでしょ、ボクに。 |
真: | め、めっそうもないッ。 |
荷: |
‥‥ボク、ごらんのとおりの ツラがまえですから‥‥、 トノサマンの役をいただいたとき、 決めたんです。 この役が終わるまで、ゼッタイに 素顔を出すまい、って。 子供たちのユメを コワしちゃイケナイと思って‥‥。 |
真: | え‥‥‥‥。 |
荷: |
それなのに。 こんなことに‥‥なってしまって。 子供たちは、トノサマンのこと、 なんて思うんだろう‥‥。 うっ、うう‥‥。 |
真: | ‥‥なるほどくん! |
成: | なんだよ。 |
真: | イイ人だよ! |
成: | そうだな。 |
真: | こりゃ、やってないよ。 |
成: | ‥‥‥‥。 |
成: |
とりあえず、何があったか 聞かせてもらえますか? |
荷: |
は。きょ、恐縮です。 ええ‥‥。 あれは、昨日のことでした。 打ち合わせのため、ボクたち、 英都撮影所に集まりました。 朝の10時から、トノサマンの アクションを打ち合わせして、 夕方の5時から、 そのリハーサルがあったんです。 そこで、夕方の5時に、スタッフが スタジオに集まると‥‥、 怪人アクダイカーンが、 セット付近で倒れていたそうです。 着ぐるみのマスクを とってみると‥‥、 アクダイカーンの中には、 衣袋さんの死体が‥‥! 胸を、トノサマン・スピアーで ミゴトに刺されていました。 |
成: | ”とのさまん・すぴあー”? |
荷: |
はあ。トノサマンの武器で、 長いヤリです。 |
成: |
あの、そもそも トノサマンって、何ですか? |
真: |
うわっ! なんて失礼なコトを! ‥‥すみません、荷星さん! ジョーシキをわきまえない、 青二才でして‥‥。 |
成: | 誰が青二才だよ‥‥。 |
荷: |
いえ、いいんですいいんです。 トノサマンは、お子様向け ヒーロー番組の主人公です。 ネオ・エドシティを舞台に、 宿敵・怪人アクダイカーンと 死闘をくり広げるんです。 まあ、毎回決着は つかないんですけど。 それが‥‥。 こんな形で、け、決着が ついてしまうなんて。 うっ、うう‥‥。 |
成: |
わわ、わかりました。 (ネオ・エドシティ‥‥ いったい、どんな町なんだ?) |
成: |
あの‥‥。 事件があった日、あなたは? |
荷: |
あの日は、朝の9時に スタジオに入りました。 お昼まで、アクションの内容を 決めていまして。 午後は5時からリハーサル でしたので、 昼食後は、楽屋で ヒルネしていました。 目が覚めたら、集合時間の5時を 過ぎていたんです! あわててスタジオに行ったら、 みなさん怖い顔をしていて、 そのまま逮捕されて、 こうして留置所へ‥‥。 |
成: |
(事件があった午後は、 ずっと寝ていたわけか。 なんか、マヌケな ヒーローだなあ‥‥) |
荷: | きょ、恐縮です。 |
成: |
あの‥‥。現場にも 行ってみたいんですけど‥‥。 |
荷: |
ああ‥‥英都撮影所。 地図、描きます‥‥。 |
真: |
うわあ。なるほどくん。 早く行ってみようよ! |
成: | (完全に見物に行く気だぞ‥‥) |
英都撮影所・正門前 | |
真: |
うわあ。‥‥ここで トノサマンが作られてるんだ! すごいなあ! カンゲキだよねー! |
オ: |
こらッ! アンタたちッ! 勝手に入っちゃダメでしょ! |
真: |
い、いえあの。 あたしたち、その、 べ、弁護士でして‥‥。 |
オ: |
ああそお。 オバチャンは警備員なの。 アンタらみたいなヤジ馬を 入れさせないのが仕事なのョ。 |
真: | ヤジ馬? |
オ: |
アンタたちもあれでしょ? 昨日の事件を聞いて、 おもしろ半分、やって来たんだろ。 まったく最近の若いモンときたら、 何かあると、すぐにこうだね。 昼間っから、 こんなところで油売っちゃって。 シゴトはどうしたの 弁護士なんてそんなヒマなモンなの かいそんならオバチャンも弁護士に なればよかったよオバチャンが若い ころはこんなことなかったねえ 若いムスメがこんなヘンなカッコウ してああなげかわしいねえ日本の将 来はどうなるんだろうねえまったく ムスコはムスコでもう3年も電話を |
真: |
‥‥なるほどくん。 あたしもいつか、こんなふうに なるのかなあ‥‥。 |
成: | やっぱり、そうなんじゃないか。 |
オ: |
‥‥ちょっと! アンタたち、 人の話を聞きなさいよッ! |
成: |
この撮影所は どんなところなんですか。 |
オ: |
この英都撮影所は、子供たちの ユメを作るところサ。 オバチャンも昔はねェ‥‥。 |
真: |
ま、まさか! スターだったんですか? |
オ: |
大道具仲間のあいだじゃァ、 ちょっとしたスターだったョ。 |
真: | は、はあ。 |
オ: |
ここもねェ。‥‥今はすっかり さびれちゃったけどさ。 でも、10年ぐらい前は、 まさにユメのスタジオだったョ。 そのころは、イブクロちゃんも 大スターでねェ。 |
成: | イブクロちゃん‥‥? |
オ: |
被害者だョ、被害者。 怪人アクダイカーンのこと! 今じゃ、怪人なんてシケた役 やってるけどねェ‥‥。 |
成: |
荷星 三郎さん、 どんな人なんですか? |
オ: |
悪い子じゃないんだケド、 ぶら下げてるツラがアレじゃねェ。 とても、お茶の間に出せる シロモノじゃないよ。 メシがまずくなる。 それだけに、今回は”チャンスだ” って燃えていたみたいだけど、 まさか‥‥ イブクロちゃんをねェ‥‥。 |
真: |
でも、でも、まだ荷星さんだと 決まったわけじゃあ‥‥! |
オ: |
決まってるの。 オバチャンは なんでも知ってんだから。 |
成: |
イブクロちゃん‥‥て、 どんな方なんですか? |
オ: |
”どんな方”だって? ‥‥泣かせるわねェ。 衣袋 武志(いぶくろたけし)。 永遠の大アクション・スターだよ。 今でも忘れられないねえ、 ”ダイナマイト侍”シリーズ。 |
成: | (聞いたことないぞ‥‥) |
オ: |
でもさ。5年前にね。 撮影中に事故が起こっちゃって。 それで、ケチがついちゃった。 今じゃ、子供相手の番組の、 悪の使者だよ。 ギャラも格安でね。 ‥‥セツない話よねェ。 |
成: |
なんで荷星さんを犯人だと 思うんですか? |
オ: |
オバチャンねェ、 昨日もここに立っていたのよ。 午後1時から、死体が見つかる 5時まで、ずーっとよォ? 殺人現場のスタジオ、この道を 左に行けばいいんだけどォ、 スタジオへ行こうと思ったら、 かならずここを通ることになるの。 1時から、殺人があった2時30分 まで、ここを通ったのは、1人! |
成: |
それが、荷星さんだった というわけですか。 |
オ: |
そう。 オバチャン、見てたから。 |
成: |
でも、荷星さんは、楽屋で 寝てたって言ってましたよ。 |
オ: |
そりゃ、そう言うでしょ。 あの子も、バカじゃないから。 でもね。ここを通ったのは あの子しかいないんだ。 間違いなく、ハンニンだよ。 じゃ。そろそろアンタたち、 おウチへ帰るんだねェ。 ここにいたって、何も出ないよ。 |
成: |
あの、ぼくたちは、荷星さんの 依頼で、調査に来たんですよ。 |
オ: |
ふん! あんたら、 見た目からアヤシイもんねェ! あの子の書いた依頼状を 見せてみな。 それならオバチャン、入場を 許可してやらんでもないわョ。 |
真: |
このオバチャン、なんで こんなにエラそうなの? |
荷: |
あ。 どうでした撮影所。 やっぱりボク、 ハンニンあつかいですよね‥‥。 |
真: |
そ、そんなことないですよー。 ね。なるほどくん。 |
成: |
え、ええ。せいぜい ”容疑者”どまりだと思いますよ。 |
荷: | きょ、恐縮です‥‥。 |
成: |
荷星さん、何かぼくに かくしていること、ありませんか? |
荷: |
え、えッ! い、いえそんな、めっそうもない。 |
成: |
さっきあなた、昼からは楽屋で ヒルネしていたって言いましたね。 |
荷: |
はい。 グッスリ寝てました。 |
成: |
でも、警備員のオバチャンは、 目撃してるんですよ。 あなたが殺人現場へ向かう ところを! |
荷: |
な、なんですって! そ‥‥そんな、バカな。 ボクは、ヒ、ヒルネを‥‥。 |
成: |
荷星さん。ホントのことを 言ってくれないと。 ぼくは新米弁護士ですから、 すぐ負けちゃいますよ? |
荷: |
‥‥恐縮ですが。 ボク、間違いなく 寝ていたんです。誓います。 オバチャンの見間違いだと 思いますけど‥‥。 |
成: |
(どうなってるんだ‥‥。 ウソをついてるようすは、ない) |
成: |
あの‥‥。撮影所の正門にいる 警備員なんですけど‥‥。 |
荷: |
ああ‥‥。 あのオバチャン。 |
真: |
ヒドいんですよ! あたしのこと、 ”見た目からアヤシイ”って! |
荷: |
は、はあ。実は、前に ボクも言われました。 ”そのお面をとれ!”って。 あの人、エラい人には ものすごく弱いんですけど、 一度ナメられちゃったら、一生 アタマが上がらないんですよ。 |
真: | うう、サイアク‥‥。 |
成: |
すみませんが、依頼状、 書いてもらえますか? |
荷: |
は、はあ。 ‥‥恐縮です。 |
法廷記録に挟んだ。 | |
成: |
(これで、あのオバチャンを 突破できればいいんだけど‥‥) |
成: |
オバチャン、これ。 荷星さんからの依頼状。 |
オ: |
ん‥‥? この頭のワルそうな字は、 たしかに、あの子だね。 |
オバチャンにわたした。 | |
オ: |
あの子も、こんなたよりなさそうな 弁護士をたのむなんて。 ねえ? |
成: | ”ねえ”と言われましても‥‥。 |
オ: |
まあいいや。 通行を許可してあげるわヨ。 ただし、ここから左の スタジオ方面だけだよ。 右方面はダメ。 スタッフの作業所があるんだけど、 ”誰も通しちゃダメッス”って 刑事が言ってたからね。 |
真: | ‥‥ねえねえ、なるほどくん。 |
成: | ん? |
真: |
詰所のところに、地図があったよ。 この撮影所の。 |
成: | おお! いいね、これ。 |
オ: | コラ! 1枚50円だョ! |
真: |
よし。じゃ、行こうか なるほどくん。 |
オ: | 50円! |
法廷記録に挟んだ。 |