綾里 千尋…赤 | |
成歩堂 龍一…黒 | |
星影 宇宙ノ介…黄 | |
裁判長…緑 | |
亜内検事…茶 | |
美柳 ちなみ…紫 | |
呑田 菊三…灰 |
地方裁判所 第2法廷 | |
裁: |
それでは、審理を再開しましょう。 亜内検事、証人を呼んでください。 |
亜: |
それでは、現場で 事件の瞬間を目撃した証人‥‥ 美柳 ちなみさんを 入廷させてください! |
亜: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
千: |
(な、なによ、この ミョーなチンモクは‥‥) |
裁: |
‥‥長い裁判人生、さまざまな 証人にダマされてきました。 もう二度と、ダレも信用しない。 ‥‥そう決めていたのですが‥‥ この証人のコトバなら! 私、なんでも信じられそうです。 |
千: | (バカなコト言わないでよ!) |
亜: |
あ。では証人。 名前をおねがいできますかな? |
ち: | ‥‥‥‥あ、あの。わたし‥‥ |
裁: |
ああ、大丈夫ですよ。 おびえる必要はありません! |
亜: |
シツレイなことを言うヤツには、 私がカツンと言ってやりますぞ! |
裁: | 私も、この木槌でカツンと! |
千: |
(ふたりとも、まっすぐ私を 見つめて言い切ったわ‥‥) |
ち: |
あの‥‥わたし、とても ほっとしておりますの。 みなさん‥‥とっても親切で、 あたたかな方ばかりなんですもの。 |
亜: | いやいや! |
裁: | なんのなんの! |
千: |
それで‥‥ケッキョク、 名前と職業は? |
ち: |
‥‥お名前は、美柳 ちなみと 申しますわ。 勇盟大学の、文学部3回生ですの。 ふつつか者ですが‥‥なにとぞ、 よろしくおねがいいたしますね。 |
亜: | こちらこそ! |
裁: | よろしくおねがいしますぞ! |
千: | (やれやれ‥‥ね) |
ち: | ‥‥あの。おじさまがた? |
亜: | む。オジサマのことですかな? |
裁: |
このオジサマに、なんでも 言ってごらんなさい! |
ち: |
きっと‥‥どこかに、大きな マチガイがあるのだと思いますわ。 リュウちゃん、ひとごろしなんて ‥‥いたしませんもの。 |
裁: |
うむうむ。 そうでしょうそうでしょう。 |
千: |
(ホント、やっかいな証人ね‥‥ オジサンたちを、たった12秒で 味方につけちゃったわ) |
裁: |
それでは、証言を おねがいしましょう。 事件当日、おじょうさんが 目撃したことを。 |
ち: |
『授業が終わって、リュウちゃんの もとへ参ろうと思いましたの。』(証言1) 『裏庭で、リュウちゃんが‥‥ ノンちゃんと、お話ししてました。』(証言2) 『そうしたら‥‥急に、ノンちゃんが おヨロめきになって‥‥お倒れに。』(証言3) 『そのとき、リュウちゃんも わたしに気がついて。』(証言4) 『わたし、学生さんを呼びに行って ‥‥通報していただきました。』(証言5) |
裁: |
‥‥な‥‥なんですか、これは! この証言によると‥‥ 被告人は、何もしていないでは ないですか! |
亜: |
‥‥おじょうさん。 コイビトを想うアツぅい気持ちは この私にも、おぼえがありますぞ。 しかし‥‥ワレワレは、真実を 見つけなければなりません。 どうか、正直にホントのコトを‥‥ |
ち: |
え。え。‥‥でも、 わたし、そんな。ウソなんて‥‥ |
千: | ‥‥もうじゅうぶんです。証人。 |
裁: | ど、どういうことですかな? |
千: |
とにかく、尋問をさせてください。 ヤワなウソで、無罪を 勝ち取るつもりはありませんから。 |
ち: |
‥‥‥‥‥‥ふふふ。 あいかわらず、ですのね。 綾里 千尋さん。 |
千: | ‥‥‥‥‥‥ |
亜: |
お、オヤ。‥‥おふたりは 知り合いだったのですか‥‥? |
千: |
ええ。 ‥‥以前、ちょっと‥‥。 |
ち: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: |
とにかく、弁護人。 ‥‥あなたにお任せしましょう。 |
ち: |
よろしくおねがいしますね。 ‥‥おばさま。 |
千: | ダレがオバサマよっ! |
千: |
被害者が‥‥自分で勝手に 倒れたというのですか? |
ち: | え‥‥ええ。 |
千: |
被告人は、被害者に触れてもいない ‥‥そういうことかしら? |
ち: |
わたし‥‥拝見してましたから。 リュウちゃんは、何もしてません! |
千: |
(イミもなくゆさぶったら、 まちがいなく怒られるわね‥‥ ‥‥どうかしら? 今の証言は) |
千: |
‥‥見えすいたウソは やめてもらおうかしら。 |
ち: |
え‥‥! ‥‥そ、 そんな。わたし‥‥ |
亜: |
弁護人! この証人をイジめると、 ショウチしませんぞ! |
千: | ‥‥‥‥‥‥ |
亜: |
い、異議があるのなら、 まず‥‥コンキョをですな。 |
千: | ‥‥‥‥‥‥‥ |
亜: | コンキョを、その‥‥ |
千: | ‥‥‥‥‥‥‥ |
亜: |
そそそ、そんなに 見つめないでいただきたいッ! |
千: |
いいかしら、ちなみさん。 呑田さんの革ジャケットには、 被告人の指紋が残っていたのよ。 なるほどくんがつきとばしたのは、 すでに立証されているの。 |
ち: | え‥‥ |
千: |
‥‥ムリに被告人を かばうことはないわ。 それより‥‥真実を 証言してもらいたいわね。 |
裁: |
ふむう‥‥ 大丈夫ですから、 真実をぶちまけてごらんなさい。 |
ち: |
は、はい‥‥わかりました。 証言を、変えさせていただきます。 |
千: |
(これで‥‥どうやら 一歩前進ね、千尋‥‥) |
ち: |
『あの。わたし‥‥つきとばした 瞬間は、見ておりませんの。』(証言6) 『争っているように見えなかったし、 なんの物音もしませんでしたから。』(証言7) |
千: |
”なんの物音もしなかった”‥‥ そう言いましたね? |
ち: |
はい。だから安心して、 よそ見をしておりましたの。 |
千: |
‥‥それはおかしいのよ。 ここに、あなたのコイビト 成歩堂 龍一の証言書があるわ。 彼は、ハッキリ こう証言しています。 『被害者をつきとばした瞬間、 鋭く大きな音がした』と。 |
ち: | 大きな‥‥”音”‥‥ |
千: |
近くにいたあなたが、なぜ‥‥ この音を聞いていないのかしら? |
ち: | え‥‥ |
亜: |
そ、そんな音など、印象に 残らなかったかもしれませんぞ! |
千: |
なるほどくんの証言によれば、 ”バチッ”という鋭い音でした。 印象に残らないハズはありません! |
亜: | ぎゃうッ! |
ち: |
‥‥あの‥‥ お待ちいただけますかしら。 |
裁: | ム! なんですかな! |
ち: |
わたしが音を聞いていないのは‥‥ ちゃんと、理由がありますの。 じつは、わたし‥‥ ヘッドフォンで お歌を聞いていたんです。 |
亜: |
ヘ、ヘッドフォン‥‥ 両耳がふさがっていたワケですか? |
ち: |
あのとき、雨は やみかけていたんですけれど‥‥ カミナリさまが、お暴れに なっていたんです。 ‥‥ごろごろごろ、って。 |
千: | カミナリさま‥‥? |
ち: |
わたし、カミナリさまが ニガテなんです。 だから、 それが聞こえないように、って‥‥ |
亜: |
うふふふふふ‥‥ いかがですかな、裁判長。 証人の証言には、これで ムジュンはなくなりましたぞ! |
裁: | ふむう‥‥ |
千: |
(ちょっと待って、千尋! 今の証言には‥‥ 事件の流れをひっくり返すような 重大なポイントがあったわ!) |
千: |
裁判長! 証人の証言には 1つ、問題があります! |
裁: | な、なんですと! |
千: |
気になりませんか? ‥‥”カミナリ”ですよ? |
裁: | それが、どうかしましたか? |
千: |
”カミナリ”って、 じつは電気なんですよ? |
裁: | それぐらい知っていますッ! |
千: |
被害者の死因は”感電”。 まず考えられるのが‥‥ ”落雷”じゃないですか! |
裁: | ‥‥あッ! |
亜: | ‥‥おッ! |
ち: | ‥‥‥‥! |
裁: |
ううむ‥‥さすがの私も、 そこまでは気づきませんでした! |
千: |
(‥‥どこまでなら 気づけるって言うのよ‥‥) ‥‥呑田 菊三が ”殺害された”‥‥ そもそも、その前提が まちがっていた! 被害者は‥‥落雷による ”事故”で死んだのですっ! |
裁: |
た‥‥たしかに、 弁護人の言うとおりのようです! まさか、この被害者が‥‥ 事故死だったとはッ! |
千: |
(や‥‥やったわ! 千尋! これで、無罪判決はイタダキ‥‥) |
亜: |
‥‥うふふふふふふふふふ‥‥ ワレワレを ナメてもらっては困りますなあ。 |
千: | ‥‥? |
亜: |
検察側は、そこまでバカじゃない。 気象報告は調べましたよ。 事件当日‥‥。現場付近に 落雷はありませんでした! |
千: | ええええッ! |
亜: |
それに‥‥ この送電線が、事件に関係している という証拠もあるのです。 |
裁: |
亜内検事! そ、それはいったい‥‥? |
亜: | ‥‥この、証言書です。 |
裁: |
”証言書”‥‥ですか。 いったい、どなたの? |
亜: |
事件当時、薬学部の研究室で 実験をしていた学生たちです。 彼らは、こう証言しております。 ”あの日の午後3時ごろ”‥‥ ”いきなり、すべての実験機器が 停止してしまった”‥‥と! |
裁: | ‥‥停電、ですか‥‥ |
亜: |
薬学部の実験機器は、高圧電流を 使用するものばかりでした。 |
千: |
もしかして‥‥、 それらの実験機器の電力は‥‥? |
亜: |
さよう。この、切れた電線によって まかなわれていたのですよ。 そして、その実験機器が止まった 時刻は、午後3時ごろ‥‥ |
裁: |
解剖記録の死亡推定時刻と、 ピッタリ一致しますな。 |
亜: |
そのとおり! つまり‥‥ 被害者は、この切れた送電線に 触れて、ショック死したのです! |
亜: |
学生たちによれば、この送電線は そうとう古くなっていて‥‥ 近いうちに、改修の工事が 予定されていたそうです。 |
裁: | そうだったのですか‥‥ |
亜: |
何か少しでもショックがあれば、 いつでも切れる状態にあった‥‥ そう考えていいようです。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
しかし‥‥そうなると、 気になることがあります。 ”送電線は、少しのショックで 切れる状態だった”‥‥つまり、 ”ショックがなければ、送電線は 切れなかった”ということです。 |
亜: |
ま、まあ‥‥たしかに、 それはそうですな。 |
裁: |
‥‥弁護人。いかがですか。 送電線が切れた原因について、 何か、考えはありますかな? |
千: |
は、はい‥‥ (今‥‥こっちの状況は、 かなり不利だわ。 反撃するためには‥‥ ここで何か、しかけないと!) わかりました。弁護側の 考えを言わせていただきます。 |
裁: |
それでは、 提示していただきましょう! なぜ送電線が切れたか‥‥ ”ショック”の原因を作ったのは? |
千: |
裁判長。‥‥なるほどくんの 証言を思い出してください。 |
裁: | 被告人、ですか‥‥? |
千: |
彼は、被害者をつきとばしたとき、 大きな鋭い音を聞いています。 ”バチッ”という音を。 それは、午後3時ごろでした。 |
裁: |
たしかに、そうでしたな。 ‥‥ま、まさか‥‥! |
千: |
実験機器が停止した時刻が2時 55分。‥‥証言とも一致します。 送電線を切ったのは‥‥ なるほどくんの一撃だったのです。 |
亜: |
さよう! それは、検察側も同意見ですな。 そして、被告人の一撃で、 呑田くんは感電死した! |
千: | そうはいきません。 |
亜: | な‥‥なんですと? |
千: |
なるほどくんが、呑田さんを つきとばした”場所”は‥‥ カサが落ちている地点。 ‥‥つまり、電柱のあたりです。 ‥‥そう。つきとばされた 被害者は、この電柱に激突した。 そのときのショックで‥‥ 送電線が切れたのです。 |
裁: |
ふむう‥‥。それならば、 カンゼンにスジはとおりますな。 |
千: |
おコトバですが‥‥ まったく、スジはとおりません。 被害者が、奥の電柱に向かって つきとばされたのならば‥‥ この切れた送電線で、被害者が 感電できるハズがありません! |
亜: | なぎゃあああああああああああッ! |
千: |
‥‥つまり! 被害者を感電死させたのは、 別の人物ということになるのです! |
裁: | せ‥‥静粛に! 静粛にいいッ! |
千: |
(ああ。敵の悲鳴って‥‥なんて 心地よく、ムネにヒビくの!) |
裁: |
た、たしかに‥‥弁護人の主張は、 反論の余地がありません! 被告人が、呑田 菊三くんを 殺害できるはずが‥‥ |
ち: |
あの‥‥おじさま? よろしいかしら。 今の、おばさまの説明‥‥ わたしが拝見しましたものと 少々、ちがっているのですけれど。 |
裁: | な‥‥ |
亜: | な‥‥ |
千: | なんですってぇぇっ! |
ち: |
‥‥もう一度だけ。 証言させていただけませんの? ‥‥おじさま‥‥ |
裁: |
モチロン、けっこうです! サッソクもう一度、 証言していただきましょう! |
千: |
(‥‥どうやら‥‥ 本性をあらわしてきたようね!) |
ち: |
『リュウちゃんは‥‥2回、 おつきとばしになったのです。』(証言1) 『1回目、電柱にぶつけられて‥‥ 送電線が、お切れになりました。』(証言2) 『それで、ノンちゃんは必死に お逃げになろうとしたのですが‥‥』(証言3) 『リュウちゃんは、すぐに追いかけて 背中から、そっと体当たりを。』(証言4) 『送電線が切れてから、お感電まで、 1分もたっておりませんでしたわ。』(証言5) |
裁: |
ふむう‥‥。被告人に つきとばされた被害者は‥‥ 起き上がって、送電線のほうへ 逃げたわけですか。 |
亜: |
‥‥そこを、ふたたび 被告人に倒された。 |
ち: |
リュウちゃんには悪いけど‥‥ ホントのコトを言わなきゃ、って。 これでよろしいのですよね? ‥‥おじさま。 |
裁: |
いやはや。マッタクもって、 そのとおりです! それでは、弁護人。 尋問をおねがいしましょう! |
千: |
そんな光景を 目にしていながら‥‥ あなたは、ヘッドフォンで お歌を聞いていたワケですか? |
ち: | え‥‥‥‥ |
亜: |
弁護人! あてこすりは やめていただきたいですな! |
ち: |
あの‥‥わたし、コワくて すくんでしまったんです。 ココロの中で、おふたりを 応援することしかできなくて。 |
千: | お、おうえん‥‥? |
ち: |
‥‥はい。 ”どちらもファイト!”‥‥って。 |
裁: |
ふむう‥‥。いじらしい おとめゴコロ、というヤツですな。 |
亜: |
それで‥‥そのあと、 どうなりましたかな? |
千: | ‥‥もうケッコウです、証人。 |
ち: | え‥‥ |
千: |
‥‥この写真を 見てもらえるかしら。 |
ち: |
あ。このおクスリ、 リュウちゃんがご愛飲していた‥‥ |
千: |
ここで重要なのは、 薬ビンではありません。 ‥‥ダイジなのは、 腕時計のほうなんです。 この時計は、被害者が感電死した 時間に止まりました。 つまり‥‥3時5分。 それが、感電の時間になります。 |
裁: | そのとおりですが‥‥ |
千: |
しかし! 思い出してください。 ”送電線が切れた”のは‥‥ いったい、何時だったか‥‥? |
亜: |
それは‥‥学生たちの証言で アキラカです。 午後2時55分‥‥ あああああッ! |
千: |
‥‥説明してもらえるかしら、 美柳 ちなみさん‥‥ この、10分間の<<空白の時間>>は いったい、なんなのか! |
ち: | ‥‥‥‥‥‥‥! |
千: |
‥‥弁護側は主張します! 被害者を死に追いやった 真犯人は、他にいたのです! |
裁: |
せ、静粛に! 静粛に! これはいったい‥‥ |
亜: |
で‥‥デタラメだッ! し、”真犯人”などと‥‥! |
千: |
送電線が切れてから、被害者が 殺害されるまで、約10分間! ‥‥空白の時間が存在するのは ジジツです! |
亜: |
いったい、ダレが! 被告人の 他に、ダレにできたと言うのです! |
千: |
たったひとりだけ‥‥ 存在するじゃないですか。 被告人が呑田さんをつきとばして 現場を立ち去ったあと‥‥ 彼を殺害できた人物が! |
裁: |
‥‥弁護人。あなたは、 だれかを告発するつもりですか? ‥‥真犯人として! |