第3話『逆転のレシピ』第1回法廷(その3)

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成歩堂 龍一…黒
綾里 千尋…赤
綾里 真宵…青
糸鋸 圭介…黄土
裁判長…緑
ゴドー検事…薄橙
須々木 マコ…橙
芝九蔵 虎之介…紫
鹿羽 うらみ…灰
本土坊 薫…桃
五十嵐 将兵…紺
小池 けいこ…黄
(フォントサイズをご都合に合わせて変えて、お楽しみください。量が多いので、最小が オススメ)


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(被害者のこと)
五: 『気にさわるワカゾウだったですわ。
イカれたサングラスをかけて。』(証言1)
『ひっきりなしに、バサバサと
右の手で新聞をめくっとりました。』(証言2)
『それに、ラジオを聞いて
おったと記憶しとります。』(証言3)
『そこに、くだんの女給さんが
コーシーを運んできて‥‥』(証言4)
『ワカゾウは、あいてるほうの手で
カップを口に運んだワケですワ。』(証言5)
裁: この証言は、証人の記憶力を
たしかめるためのものです。
どうやら‥‥かなり細かいところ
まで、おぼえているようですね。
五: モチロン。ワシは、あやふやな
コトが大キライですからな!
真: ど、どうする? なるほどくん!
成: ぼくたちがするべきことは、
たった1つだよ。
あのオジさんの記憶はアテに
ならない。‥‥それを立証する!
真: ‥‥あげ足とりみたい。
ちょっとヤだな。
成: (ぼくは大好きだけどな‥‥)

(「証言5」に「コーヒーカップ」をつきつける)
成: 五十嵐さん。最初に言われたこと、
おぼえていますね?
‥‥この証言は、あなたの記憶力を
試すためのものであること‥‥
五: わかっとる! 今度こそ、
マチガイない! ゼーッタイにな!
まちがっとったら、マメ食いながら
”はとぽっぽ”歌ってやるワ!
ゴ: ‥‥どういうコトだ?
まるほどう。
成: 被害者は、右手で新聞をめくり、
あいている手でコーヒーを飲んだ。
‥‥つまり、カップを持ったのは
”左手”ということになります。
五: フン! それぐらいの引き算は
できるみたいだの!
成: これを見てください。
裁: それは‥‥被害者が
使っていたものですな?
成: カップのフチに、コーヒーを
飲んだ跡が残っています。
裁: たしかに‥‥残っていますね。
口をつけた跡が。
成: ‥‥その跡を見れば、
ハッキリわかるのです。
被害者が、右手で
コーヒーを飲んだことがッ!
五:あれ‥‥
成: それでは、五十嵐さん‥‥
はりきって、どうぞ!
マメを食べながら”はとぽっぽ”を
歌っていただきましょうか!
五: ぐむむむううぅぅッ!

(ざわめきが起こる)
裁: やれやれ‥‥。
いたしかたありませんな。
‥‥この証人には、公園に帰って
もらったほうがいいようです
五: ちょっと待てええええぇぇぇぇぃ!
だまって聞いておれば‥‥
いい気になりおって!
湯飲みのヨゴレがなんだ!
ワシはゼッタイ、まちがえとらん!
裁: ま、まだ言いますか‥‥
五: あのワカゾウは、たしかに
左手でコーシーを飲んでおった!
そうなのだ! ワシはゼーンゼン、
悪くないもんね!
悪いのは、あの死んだワカゾウと、
そこのアタマのトガったガキだッ!
成: (ぼくかよ!)
裁: いやいや、おジイさん。
もうケッコウですから‥‥
五: アンタに”おジイさん”呼ばわり
されたくないワ!
たのむ! ワシの68年の人生が、
完全否定されようとしとるんだよ!
ワシの言うコトを
聞いてくだされえええぇぇッ!
裁: ザンネンですが、証人‥‥
ゴ: ‥‥いいだろうぜ。
裁: ご‥‥‥ゴドー検事!
ゴ: ただし‥‥‥このコーヒーは
16杯めだ。
次は、ねえぜ。
五: ありがたい、大将! この将兵、
見かけよりも、やりますぞッ!

(右手? 左手?)
五: 『ヤツは、メガネをかけたほうの耳に
ラジオのイヤホンをハメとった!』(証言1)
『そして、そのイヤホンを、しきりに
手でいじっとったのですワ!』(証言2)
『コーシーを飲む前にも、ヤツは
イヤホンをいじった!』(証言3)
『そしてそのまま、その手で
コーシーを飲んだ。左手でなッ!』(証言4)
裁: たしかに、被害者は左目に、
フシギなメガネをかけていますな。
ゴ: ‥‥ちなみに、そいつは
コワれたメガネじゃねえ。
コンピュータ・プログラマーが
使う、小型のモニターだぜ。
裁: ”もにたー”? ‥‥テレビジョン
のようなものですか?
ゴ: そのレンズの内側に、コンピュータ
の情報が表示されるらしい。
<<モノクル>>と呼ばれる、
彼らのシゴト道具だ。
五: モノクロでもカラーでもいいが、
これでわかっただろ!
ワシが、ハッキリ自信を持って
しゃべっとるコトが!
成: (たしかに‥‥ウソをついている
ようすは、まったくない)
五: さァ! 白黒ハッキリ
してもらおうじゃねえかッ!

(「証言1」に「岡 高夫」をつきつける)
成: ‥‥このムジュンが何を
イミするのかわかりませんが‥‥
証人! あなたが目撃した被害者
‥‥決定的に不自然な点がある!
五: な‥‥なんだと‥‥!
成: <<モノクル>>をつけたほうの耳に
イヤホンをつけていたそうですね。
五: まちがいないぞ! ブチこんで
やがったのさ。左の耳にな!
ワシのテーブルからは、そっちの
耳しか見えなかったんだ!
成: ‥‥そんなハズはないんですよ。
五: ど‥‥どういうコトだ‥‥?
成: あなたは、ご存じ
ないでしょうね‥‥証人。
被害者の左耳は‥‥、
コマクが破れていたんですよ!
五:え‥‥‥
成: 耳には、クスリを
使用した跡も残っています!
そう! 被害者が
イヤホンをつけるハズがない!
その耳は、
聞こえなかったのだから!
五: ‥‥‥‥‥‥‥‥
ホントなのか? 大将‥‥
ゴ: ‥‥たしかだ。
五: ‥‥‥‥‥‥‥ぽ‥‥‥‥‥‥‥
ぽっぽっぽお!
ハトぽっぽお‥‥かぁ!

(ざわめきが起こる)
裁: 静粛に! 静粛に! 静粛に!
成: この証人の証言は、
メチャクチャです!
カンジンのウエイトレスは、
その後ろ姿しか見ていない!
そして、被害者は、聞こえない
耳にイヤホンをしていたと言う!
いかがですか! ゴドー検事!
ゴ: ‥‥ぐ‥‥ッ!
カップの中の闇をニゴらせるには、
ミルクを一滴、たらせばいい。
このジイさん‥‥
そのミルクだったようだぜ。
五: 大将! ヒトをシズクみたいに
言わないでいただきたい‥‥
裁: ここに、青酸カリが検出された
コーヒーカップがあります。
フチのよごれから、右手で
使用されたのは、アキラカです!
五: ワシは死ぬまで
叫びつづけてやるぞ!
ヤツは死ぬ前、たしかに
左手でコーシーを飲んだんだ!
ゴ: おそらく‥‥被害者は、
その両方をやったのさ。
右手でコーヒーを飲んだあと、
左手にカップを持ちかえた‥‥
ジイさんは、それを目撃したんだ!

(成歩堂「異議あり!」)
成: それは、あり得ません!
先ほどから、何度も
証言されているはずです!
被害者は、コーヒーをヒトクチ
飲んだ直後に死んだ、と!

(ゴドー検事「異議あり!」)
ゴ: コーヒーを飲んだ手‥‥そんなの、
どっちだって同じコトだぜ!
ダイジなのは‥‥ヤツがコーヒーを
飲んだコトだけだ!
‥‥こんなふうにッ!

(成歩堂「異議あり!」)
成: ザンネンながら、
そうは行きません!
この証言の目的は、証人の
記憶力をテストすることでした!
結果はアキラカです!
この証人の証言は、
まったくアテにならないッ!
ゴ: ぶふおおオオォォッ!

(ざわめきが起こる)
裁: どうやら‥‥本日の審理は
ここまでのようですな。
証人は、たしかにウソは
ついていないようですが‥‥
その証言は、ハッキリ言って
あまりにもムチャクチャです。
五: そそ。そんな言い方しなくても
いいではないかッ!
食らえッ! このッ!
裁: ‥‥ムダムダ。
ここまでは届きません。
検察側、弁護側に、
さらなる調査を命じます。
‥‥それでは!
本日は、これにて閉廷!


(待った!)

五: ちょっと待っていただきたい!
このまま終わったら、ワシの立場は
いったい、どうなるのか!
裁: ‥‥‥たちば?
五: そこの青いワカゾウのおかげで、
今や、このワシは‥‥
ただの、スットコチョイで
オッチョコドッコイのジジイだ!
成: (ぼくのせいかよ‥‥)
裁: そ、そう言われましても‥‥
五: ジツは‥‥ワケあって
ダマっておったのだが‥‥
ワシにはまだ、
言ってないことがあるッ!
ゴ: ‥‥なんだと!
成: ”言ってないこと”‥‥!
五: ‥‥ショージキなトコロ、
あんまり大したことではない。
しかし! それでもう一度だけ、
勝負がしたい! キサマとッ!
成: は、はあ‥‥
(目のカタキにされてるな‥‥)
五: どうかみなさん、
つきあってもらえまいか!
この、ヘンクツオヤジの
思い出づくりに!
ゴ: ワルいが‥‥
17杯目のコーヒーはもう、
飲み終えちまったぜ。
五: いいではないか、大将!
あとで、ワシの店に来なさい!
あびるほど飲ませてやりますぞ!
この五十嵐 将兵、68才。
オトコにしてくだされえッ!
裁: ‥‥わかりました。
こうなったら、
話を聞いたほうが早いでしょう。
五: あらよッと!
そう来なくっちゃ!
真: スゴいことになっちゃったね‥‥
五: カッカッカッ!
カクゴしろよ、このワカゾウが!
成: ‥‥わかりましたから、
マメを投げないでください‥‥。
(やれやれ‥‥まだ、
やられ足りないのか‥‥)

(最後の大勝負)
五: 『最初にくれぐれも言っておく。
大したコトでもなく、自信もない!』(証言1)
『コーシーを飲んだ瞬間、ワカゾウは
机につっぷしたのだが‥‥』(証言2)
『ヤッコさん、ハデにひっくり返した
のだ! その‥‥花ビンをな!』(証言3)
『花ビンは割れて、机にかかっていた
布キレも、ビショビショになった!』(証言4)
『‥‥どうだ! さすがにコレは
ひっくり返せまいて!』(証言5)
裁: ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
あの。それだけですか?
五: そうだが。
ワシの大切な思い出だよ。
なんだ! また疑っとるのか!
このミジメでアワレなワシを!
裁: い、いえ。そういう
ワケではないのですが‥‥
真: なるほどくん。法廷中のヒトが
何か言いたそうだよ。
成: たぶん‥‥、『それがどうした』
だろうね。
‥‥この証言に尋問するぼくが、
イチバン言いたいコトバだ。
五: ‥‥まあ、いわゆる
マメ知識というヤツですな!
裁: ‥‥それでは、弁護人。
最後の尋問をおねがいします。

(「証言3」に「現場写真」をつきつける)
成: 五十嵐さん。
‥‥こいつは、現場の写真です。
五: む‥‥そ、それがどうした!
成: 被害者のテーブルを
よく見てください。
花ビンなら‥‥
ちゃんと、ありますよ。
五: あれ‥‥‥
成: どうなんですか? おとうさん。
五: ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
アンタに”おとうさん”
呼ばわりされたくないッ!
成: いてててててててて!
裁: ‥‥もう、けっこうです!
これ以上、法廷にマメを
まかれては、後かたづけがタイヘ
五: あああああああああッ!
裁: ‥‥‥‥‥‥‥‥
今度は、なんですか?
五: ワシ、思い出したワ!
成: な、ナニを‥‥?
五: 割れた花ビン‥‥
あれ、ワシのテーブルだったワ!
成: はい‥‥?
五: いや、その。
あのワカゾウ、いきなり
ぶっ倒れたもんだから‥‥、
ワシも思わず、
立ち上がっちゃったワケだ。
そのとき、割れたんだっけ。
ワシの席の花ビンが!
裁: あ‥‥”あなたの席の”‥‥?
五: うはは。
‥‥そうみたいだの。
それで、ワシのマタグラが
しっぽり、ぬれそぼったワケだ。

‥‥‥‥‥‥‥‥

裁: ‥‥はあ。
証人。ごくろうさまでした。
五: あの。チョットうかがいたい。
ケッキョク、ワシはその‥‥
役に立ったのだろうか。
裁: 自分のムネに聞きなさい。
五: ぐわわああああっ!
ままま、待っていただきたい!
そ、そういうことであれば、その。
‥‥あ、そうだ!
なんなら、あの話を‥‥
裁: 法廷係官!
この証人をつまみ出しなさい。
五: 待ってくだされ!
ワシの話を聞いてくれええええ!

裁: さて‥‥。最後によけいな
回り道をしてしまいましたが‥‥
とにかく、この場で判決を
下すことは、不可能です。
成:‥‥‥!
裁: 毒を入れたウエイトレスは、
被告人だと特定できませんでした。
それに‥‥大きなムジュン点が、
2つあります。
成: 左手でコーヒーを飲んだ被害者と、
コーヒーカップに残った跡。
そして、聞こえないはずの左耳に
つけられた、イヤホンの問題。
真: かー、やるね。なるほどくん!
裁: 検察側・弁護側に、
さらなる調査を命じます。
成: わかりました。
ゴ: ‥‥‥‥‥‥‥‥
裁: では本日は、これにて閉廷!
‥‥の前に。
成: ま、まだナニか
あるんですか?
裁: さきほどの証人が‥‥、
『どうしても自分の証言を
役に立ててほしい』と。
このように、証言書を
まとめてくれました。
成: ‥‥はあ。
裁: よろしかったら、
みなさんでどうぞ。
ゴ: 好きにするがいいぜ。
‥‥検察側には必要ねえ。
真: ゴドー検事さん、怒ってるね。
成: ま。ムリもないんじゃないかな。
裁: じゃあ。弁護人。
これ、あげます。ゴドー検事と
私のぶんと、3枚ありますから。
成:え。

証拠品<<五十嵐の証言書>>を
法廷記録に挟んだ。
成: (”ごめんなさい”って‥‥
小学生の反省文かよ)
真: どうするの? こんなの
‥‥3枚も。
裁: それでは、とにかく‥‥
本日は、これにて閉廷!


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