成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
綾里 真宵…青 | |
糸鋸 圭介…黄土 | |
裁判長…緑 | |
ゴドー検事…薄橙 | |
須々木 マコ…橙 | |
芝九蔵 虎之介…紫 | |
鹿羽 うらみ…灰 | |
本土坊 薫…桃 | |
五十嵐 将兵…紺 | |
小池 けいこ…黄 |
五: |
『気にさわるワカゾウだったですわ。 イカれたサングラスをかけて。』(証言1) 『ひっきりなしに、バサバサと 右の手で新聞をめくっとりました。』(証言2) 『それに、ラジオを聞いて おったと記憶しとります。』(証言3) 『そこに、くだんの女給さんが コーシーを運んできて‥‥』(証言4) 『ワカゾウは、あいてるほうの手で カップを口に運んだワケですワ。』(証言5) |
裁: |
この証言は、証人の記憶力を たしかめるためのものです。 どうやら‥‥かなり細かいところ まで、おぼえているようですね。 |
五: |
モチロン。ワシは、あやふやな コトが大キライですからな! |
真: | ど、どうする? なるほどくん! |
成: |
ぼくたちがするべきことは、 たった1つだよ。 あのオジさんの記憶はアテに ならない。‥‥それを立証する! |
真: |
‥‥あげ足とりみたい。 ちょっとヤだな。 |
成: | (ぼくは大好きだけどな‥‥) |
成: |
五十嵐さん。最初に言われたこと、 おぼえていますね? ‥‥この証言は、あなたの記憶力を 試すためのものであること‥‥ |
五: |
わかっとる! 今度こそ、 マチガイない! ゼーッタイにな! まちがっとったら、マメ食いながら ”はとぽっぽ”歌ってやるワ! |
ゴ: |
‥‥どういうコトだ? まるほどう。 |
成: |
被害者は、右手で新聞をめくり、 あいている手でコーヒーを飲んだ。 ‥‥つまり、カップを持ったのは ”左手”ということになります。 |
五: |
フン! それぐらいの引き算は できるみたいだの! |
成: | これを見てください。 |
裁: |
それは‥‥被害者が 使っていたものですな? |
成: |
カップのフチに、コーヒーを 飲んだ跡が残っています。 |
裁: |
たしかに‥‥残っていますね。 口をつけた跡が。 |
成: |
‥‥その跡を見れば、 ハッキリわかるのです。 被害者が、右手で コーヒーを飲んだことがッ! |
五: | あれ‥‥ |
成: |
それでは、五十嵐さん‥‥ はりきって、どうぞ! マメを食べながら”はとぽっぽ”を 歌っていただきましょうか! |
五: | ぐむむむううぅぅッ! |
裁: |
やれやれ‥‥。 いたしかたありませんな。 ‥‥この証人には、公園に帰って もらったほうがいいようです |
五: |
ちょっと待てええええぇぇぇぇぃ! だまって聞いておれば‥‥ いい気になりおって! 湯飲みのヨゴレがなんだ! ワシはゼッタイ、まちがえとらん! |
裁: | ま、まだ言いますか‥‥ |
五: |
あのワカゾウは、たしかに 左手でコーシーを飲んでおった! そうなのだ! ワシはゼーンゼン、 悪くないもんね! 悪いのは、あの死んだワカゾウと、 そこのアタマのトガったガキだッ! |
成: | (ぼくかよ!) |
裁: |
いやいや、おジイさん。 もうケッコウですから‥‥ |
五: |
アンタに”おジイさん”呼ばわり されたくないワ! たのむ! ワシの68年の人生が、 完全否定されようとしとるんだよ! ワシの言うコトを 聞いてくだされえええぇぇッ! |
裁: | ザンネンですが、証人‥‥ |
ゴ: | ‥‥いいだろうぜ。 |
裁: | ご‥‥‥ゴドー検事! |
ゴ: |
ただし‥‥‥このコーヒーは 16杯めだ。 次は、ねえぜ。 |
五: |
ありがたい、大将! この将兵、 見かけよりも、やりますぞッ! |
五: |
『ヤツは、メガネをかけたほうの耳に ラジオのイヤホンをハメとった!』(証言1) 『そして、そのイヤホンを、しきりに 手でいじっとったのですワ!』(証言2) 『コーシーを飲む前にも、ヤツは イヤホンをいじった!』(証言3) 『そしてそのまま、その手で コーシーを飲んだ。左手でなッ!』(証言4) |
裁: |
たしかに、被害者は左目に、 フシギなメガネをかけていますな。 |
ゴ: |
‥‥ちなみに、そいつは コワれたメガネじゃねえ。 コンピュータ・プログラマーが 使う、小型のモニターだぜ。 |
裁: |
”もにたー”? ‥‥テレビジョン のようなものですか? |
ゴ: |
そのレンズの内側に、コンピュータ の情報が表示されるらしい。 <<モノクル>>と呼ばれる、 彼らのシゴト道具だ。 |
五: |
モノクロでもカラーでもいいが、 これでわかっただろ! ワシが、ハッキリ自信を持って しゃべっとるコトが! |
成: |
(たしかに‥‥ウソをついている ようすは、まったくない) |
五: |
さァ! 白黒ハッキリ してもらおうじゃねえかッ! |
成: |
‥‥このムジュンが何を イミするのかわかりませんが‥‥ 証人! あなたが目撃した被害者 ‥‥決定的に不自然な点がある! |
五: | な‥‥なんだと‥‥! |
成: |
<<モノクル>>をつけたほうの耳に イヤホンをつけていたそうですね。 |
五: |
まちがいないぞ! ブチこんで やがったのさ。左の耳にな! ワシのテーブルからは、そっちの 耳しか見えなかったんだ! |
成: | ‥‥そんなハズはないんですよ。 |
五: | ど‥‥どういうコトだ‥‥? |
成: |
あなたは、ご存じ ないでしょうね‥‥証人。 被害者の左耳は‥‥、 コマクが破れていたんですよ! |
五: | え‥‥‥ |
成: |
耳には、クスリを 使用した跡も残っています! そう! 被害者が イヤホンをつけるハズがない! その耳は、 聞こえなかったのだから! |
五: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ ホントなのか? 大将‥‥ |
ゴ: | ‥‥たしかだ。 |
五: |
‥‥‥‥‥‥‥ぽ‥‥‥‥‥‥‥ ぽっぽっぽお! ハトぽっぽお‥‥かぁ! |
裁: | 静粛に! 静粛に! 静粛に! |
成: |
この証人の証言は、 メチャクチャです! カンジンのウエイトレスは、 その後ろ姿しか見ていない! そして、被害者は、聞こえない 耳にイヤホンをしていたと言う! いかがですか! ゴドー検事! |
ゴ: |
‥‥ぐ‥‥ッ! カップの中の闇をニゴらせるには、 ミルクを一滴、たらせばいい。 このジイさん‥‥ そのミルクだったようだぜ。 |
五: |
大将! ヒトをシズクみたいに 言わないでいただきたい‥‥ |
裁: |
ここに、青酸カリが検出された コーヒーカップがあります。 フチのよごれから、右手で 使用されたのは、アキラカです! |
五: |
ワシは死ぬまで 叫びつづけてやるぞ! ヤツは死ぬ前、たしかに 左手でコーシーを飲んだんだ! |
ゴ: |
おそらく‥‥被害者は、 その両方をやったのさ。 右手でコーヒーを飲んだあと、 左手にカップを持ちかえた‥‥ ジイさんは、それを目撃したんだ! |
成: |
それは、あり得ません! 先ほどから、何度も 証言されているはずです! 被害者は、コーヒーをヒトクチ 飲んだ直後に死んだ、と! |
ゴ: |
コーヒーを飲んだ手‥‥そんなの、 どっちだって同じコトだぜ! ダイジなのは‥‥ヤツがコーヒーを 飲んだコトだけだ! ‥‥こんなふうにッ! |
成: |
ザンネンながら、 そうは行きません! この証言の目的は、証人の 記憶力をテストすることでした! 結果はアキラカです! この証人の証言は、 まったくアテにならないッ! |
ゴ: | ぶふおおオオォォッ! |
裁: |
どうやら‥‥本日の審理は ここまでのようですな。 証人は、たしかにウソは ついていないようですが‥‥ その証言は、ハッキリ言って あまりにもムチャクチャです。 |
五: |
そそ。そんな言い方しなくても いいではないかッ! 食らえッ! このッ! |
裁: |
‥‥ムダムダ。 ここまでは届きません。 検察側、弁護側に、 さらなる調査を命じます。 ‥‥それでは! 本日は、これにて閉廷! |
五: |
ちょっと待っていただきたい! このまま終わったら、ワシの立場は いったい、どうなるのか! |
裁: | ‥‥‥たちば? |
五: |
そこの青いワカゾウのおかげで、 今や、このワシは‥‥ ただの、スットコチョイで オッチョコドッコイのジジイだ! |
成: | (ぼくのせいかよ‥‥) |
裁: | そ、そう言われましても‥‥ |
五: |
ジツは‥‥ワケあって ダマっておったのだが‥‥ ワシにはまだ、 言ってないことがあるッ! |
ゴ: | ‥‥なんだと! |
成: | ”言ってないこと”‥‥! |
五: |
‥‥ショージキなトコロ、 あんまり大したことではない。 しかし! それでもう一度だけ、 勝負がしたい! キサマとッ! |
成: |
は、はあ‥‥ (目のカタキにされてるな‥‥) |
五: |
どうかみなさん、 つきあってもらえまいか! この、ヘンクツオヤジの 思い出づくりに! |
ゴ: |
ワルいが‥‥ 17杯目のコーヒーはもう、 飲み終えちまったぜ。 |
五: |
いいではないか、大将! あとで、ワシの店に来なさい! あびるほど飲ませてやりますぞ! この五十嵐 将兵、68才。 オトコにしてくだされえッ! |
裁: |
‥‥わかりました。 こうなったら、 話を聞いたほうが早いでしょう。 |
五: |
あらよッと! そう来なくっちゃ! |
真: | スゴいことになっちゃったね‥‥ |
五: |
カッカッカッ! カクゴしろよ、このワカゾウが! |
成: |
‥‥わかりましたから、 マメを投げないでください‥‥。 (やれやれ‥‥まだ、 やられ足りないのか‥‥) |
五: |
『最初にくれぐれも言っておく。 大したコトでもなく、自信もない!』(証言1) 『コーシーを飲んだ瞬間、ワカゾウは 机につっぷしたのだが‥‥』(証言2) 『ヤッコさん、ハデにひっくり返した のだ! その‥‥花ビンをな!』(証言3) 『花ビンは割れて、机にかかっていた 布キレも、ビショビショになった!』(証言4) 『‥‥どうだ! さすがにコレは ひっくり返せまいて!』(証言5) |
裁: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ あの。それだけですか? |
五: |
そうだが。 ワシの大切な思い出だよ。 なんだ! また疑っとるのか! このミジメでアワレなワシを! |
裁: |
い、いえ。そういう ワケではないのですが‥‥ |
真: |
なるほどくん。法廷中のヒトが 何か言いたそうだよ。 |
成: |
たぶん‥‥、『それがどうした』 だろうね。 ‥‥この証言に尋問するぼくが、 イチバン言いたいコトバだ。 |
五: |
‥‥まあ、いわゆる マメ知識というヤツですな! |
裁: |
‥‥それでは、弁護人。 最後の尋問をおねがいします。 |
成: |
五十嵐さん。 ‥‥こいつは、現場の写真です。 |
五: | む‥‥そ、それがどうした! |
成: |
被害者のテーブルを よく見てください。 花ビンなら‥‥ ちゃんと、ありますよ。 |
五: | あれ‥‥‥ |
成: | どうなんですか? おとうさん。 |
五: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ アンタに”おとうさん” 呼ばわりされたくないッ! |
成: | いてててててててて! |
裁: |
‥‥もう、けっこうです! これ以上、法廷にマメを まかれては、後かたづけがタイヘ |
五: | あああああああああッ! |
裁: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ 今度は、なんですか? |
五: | ワシ、思い出したワ! |
成: | な、ナニを‥‥? |
五: |
割れた花ビン‥‥ あれ、ワシのテーブルだったワ! |
成: | はい‥‥? |
五: |
いや、その。 あのワカゾウ、いきなり ぶっ倒れたもんだから‥‥、 ワシも思わず、 立ち上がっちゃったワケだ。 そのとき、割れたんだっけ。 ワシの席の花ビンが! |
裁: | あ‥‥”あなたの席の”‥‥? |
五: |
うはは。 ‥‥そうみたいだの。 それで、ワシのマタグラが しっぽり、ぬれそぼったワケだ。 |
裁: |
‥‥はあ。 証人。ごくろうさまでした。 |
五: |
あの。チョットうかがいたい。 ケッキョク、ワシはその‥‥ 役に立ったのだろうか。 |
裁: | 自分のムネに聞きなさい。 |
五: |
ぐわわああああっ! ままま、待っていただきたい! そ、そういうことであれば、その。 ‥‥あ、そうだ! なんなら、あの話を‥‥ |
裁: |
法廷係官! この証人をつまみ出しなさい。 |
五: |
待ってくだされ! ワシの話を聞いてくれええええ! |
裁: |
さて‥‥。最後によけいな 回り道をしてしまいましたが‥‥ とにかく、この場で判決を 下すことは、不可能です。 |
成: | ‥‥‥! |
裁: |
毒を入れたウエイトレスは、 被告人だと特定できませんでした。 それに‥‥大きなムジュン点が、 2つあります。 |
成: |
左手でコーヒーを飲んだ被害者と、 コーヒーカップに残った跡。 そして、聞こえないはずの左耳に つけられた、イヤホンの問題。 |
真: | かー、やるね。なるほどくん! |
裁: |
検察側・弁護側に、 さらなる調査を命じます。 |
成: | わかりました。 |
ゴ: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: |
では本日は、これにて閉廷! ‥‥の前に。 |
成: |
ま、まだナニか あるんですか? |
裁: |
さきほどの証人が‥‥、 『どうしても自分の証言を 役に立ててほしい』と。 このように、証言書を まとめてくれました。 |
成: | ‥‥はあ。 |
裁: |
よろしかったら、 みなさんでどうぞ。 |
ゴ: |
好きにするがいいぜ。 ‥‥検察側には必要ねえ。 |
真: | ゴドー検事さん、怒ってるね。 |
成: | ま。ムリもないんじゃないかな。 |
裁: |
じゃあ。弁護人。 これ、あげます。ゴドー検事と 私のぶんと、3枚ありますから。 |
成: | え。 |
法廷記録に挟んだ。 | |
成: |
(”ごめんなさい”って‥‥ 小学生の反省文かよ) |
真: |
どうするの? こんなの ‥‥3枚も。 |
裁: |
それでは、とにかく‥‥ 本日は、これにて閉廷! |