成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
神乃木 荘龍…薄橙 | |
御剣 怜侍…茶 | |
裁判官…黄 | |
無久井 里子…紫 | |
尾並田 美散…緑 |
その子を‥‥人質をはなしなさい! | |
ダマれ! ち、近寄ると‥‥ ヒトジチ、殺すッ! | |
‥‥ザンネンだったわね。 あなたは、ここまでよ‥‥。 | |
‥‥ぼくは今、ある裁判の記録を 目の前にしている。 ぼくの師匠、千尋さんが 初めて法廷に立ったときの記録だ。 ‥‥千尋さんが初めて弁護したのは 脱走した死刑囚だった。 それは、ぼくが千尋さんに出会う さらに1年前のことだ‥‥ | |
綾里千尋・初めての法廷 | |
地方裁判所 被告人第4控え室 | |
千: |
(ううう‥‥もうダメ。 キンチョーで死んじゃいそう。 やっぱり、やめて おけばよかったかな‥‥) きゃああああああッ! ‥‥あ。お、おはようございます! (ビビっちゃダメよ、千尋!) |
?: |
う。オレ。やってない! ダレも殺してない! |
千: |
(尾並田 美散(おなみだみちる) ‥‥私の、初めての依頼人。 5年前、死刑を宣告されて 服役中だった‥‥脱獄囚) |
尾: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
千: |
(とにかく、ここは軽い世間話ね。 リラックスさせてあげなくちゃ) ‥‥あ、あの。 どうしてダツゴクしたんですか? |
尾: | う。う。うがー! |
千: |
きゃああ! ゴメンなさいゴメンなさい! |
尾: |
‥‥うう。オレ、やってない! なんにもやってない! オレ。ウソ、つかない! ダツゴクなんて、知らない! |
千: |
え‥‥ でも‥‥。現におととい、 再逮捕されたじゃないですか。 |
尾: |
‥‥‥‥う。 ゴメン。ちょっと、ウソついた。 |
千: | (うううう‥‥) |
尾: |
でも! オレ、やってない! ダレも‥‥殺してない! |
千: |
あの。シツレイですけど‥‥ 死刑囚さん、なんですよね? |
尾: | う。う。うがー! |
千: |
きゃああ! ゴメンなさいゴメンなさい! |
尾: |
‥‥死刑判決、今から5年前。 オレ、ハメられた! ダマされた! あのオンナ、ウソの証言、した。 ‥‥だから、死刑判決を‥‥! オレ‥‥殺してない! そんなコト、できるワケない。 |
千: |
(‥‥おととい、囚人護送車が 事故を起こした際、逃走‥‥ そして、約8時間後‥‥ 彼が再逮捕されるまでに、 1人の婦人警官が殺害された。 この死刑囚‥‥尾並田 美散に 殺害されたと考えられている) あの‥‥。脱走して、この 婦人警官と会ったんですか? |
尾: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ 会った。‥‥オレ、そのために 護送車、逃げ出した。 |
千: |
(やっぱり‥‥被害者と会ったのは まちがいないのね) |
尾: |
でも! オレ、殺してない! 別れたとき‥‥あのオンナ、 生きてた! これ、ホント! |
千: |
(信じていいんですね? 尾並田さん‥‥) |
?: |
クッ‥‥! 被告人をニラんだって、 真相は見えやしねえさ‥‥。 |
千: | あ‥‥せ、センパイ! |
?: |
裁きの庭に放りこまれた 迷子のコネコちゃんを見に来たぜ。 ‥‥いっしょに 遊んでやろうかと思ってな。 |
千: | ‥‥あの。星影先生は‥‥? |
?: |
クッ‥‥! おジイちゃんは、 まだベッドの中だろうぜ。 カラのボトルを抱いて、 バッカスと語らってるはずさ。 ご不満かな? この神乃木 荘龍 (かみのぎそうりゅう)じゃあ。 |
千: |
そ、そんな‥‥! 星影法律事務所・ナンバーワンの センパイが、私なんかのために‥‥ |
神: |
いやいや。 今朝のナンバーワンは、アンタさ。 まったく、大したクソ度胸だぜ。 初めての依頼人が‥‥ 脱獄した死刑囚なんてなァ。 |
千: |
わ‥‥私も、そう思います。 (もう、逃げ出したい気分だわ) |
神: |
クッ‥‥! 安心しな。 さっき、聞いたんだが‥‥ 今日の検事さんも‥‥ どうやら、新人らしいぜ。 |
千: | そ、そうなんですか! |
神: |
‥‥ただし。 どこかのだれかさんとちがって、 検事局始まって以来の ”天才”らしいけどな‥‥。 |
千: | (”テンサイ”‥‥?) |
神: |
さあ、そろそろ時間だな、 コネコちゃん。 イキにやろうぜ‥‥イキによォ! |
千: |
(この世で最も孤独な場所。 それはきっと、死刑囚の独房。 ‥‥私の依頼人は、 そこから必死に逃げてきた。 弁護士はみんな、彼を見捨てた。 でも‥‥私にはできなかった。 彼の目からあふれ出すナミダと、 そのまっすぐなコトバ‥‥ そこに、まぎれもない <<真実>>を見た気がしたから) |
地方裁判所 第4法廷 | |
裁: |
これより、尾並田 美散の法廷を しめやかに開廷いたしましょう。 |
千: | 弁護側、準備完了しています。 |
?: | 検察側‥‥もとより。 |
裁: |
本日の法廷は、検察側・弁護側とも 新人と聞いているのですが‥‥? |
千: | は、は、はい。綾里 千尋です。 |
御: |
御剣 怜侍(みつるぎれいじ) ‥‥と申す。 |
裁: |
あなたが‥‥ ウワサの御剣検事くんですか。 最年少で検事になった、という。 |
御: | 20才‥‥だ。 |
神: |
どうやら‥‥コネコちゃんは ウワサになってないようだな。 |
千: |
(負けちゃダメよ、千尋。 年下の男のコなんかに!) |
御: | ‥‥フッ。 |
裁: |
若ければイイというものではない。 私はどうかと思いますがね。 ‥‥さて。今回の被告人は、 現在服役中の死刑囚です。 2日前、護送車から脱走したとか。 |
御: | そのとおり。 |
神: |
この法廷で裁かれるのは、 脱獄の罪じゃねえ。 被告人が逃走した日に 殺害された、婦人警官‥‥ |
千: |
その死の責任が、尾並田さんに あるのか、どうか‥‥? |
神: | そういうコトだ‥‥コネコちゃん。 |
裁: |
それでは、御剣検事くん。 しめやかに冒頭弁論を‥‥。 |
御: |
‥‥今から、5年前。 被告人・尾並田 美散は この法廷で、死刑判決を受けた。 罪状は、営利誘拐および‥‥殺人。 被告人が橋の上から突きおとした 少女は、当時14才だった。 |
裁: |
たいへん、イタましい事件ですね。 私も、よくおぼえています。 裁判は、決定的な証拠がなかった ため、ずいぶん長びいたとか。 |
御: |
‥‥さよう。ケッキョク 決め手になったのは‥‥ ある”目撃証言”だった。 |
千: | 目撃証言‥‥ |
御: |
たった1人で誘拐犯と対決した 婦人警官・美柳 勇希。 彼女は、その場で尾並田を逮捕。 のちに法廷でハッキリ証言した。 『尾並田は、ジャマになった人質の 少女を、川に投げ落とした』と。 吊り橋の下を流れる<<吾童川>>は、 その水量と急流で知られている。 のみこまれた死体は、ほとんど 発見されることがないという‥‥ |
千: |
(その証言が決め手になって、 死刑判決を受けたワケね‥‥) |
裁: |
もしかして‥‥その ”婦人警官”というのが? |
御: |
さよう。2日前、殺害された 今回の被害者‥‥ 美柳 勇希(みやなぎゆうき) 巡査部長、というわけだ。 |
裁: |
ぬうう‥‥。 彼女の証言のおかげで死刑判決を 受けた囚人が、2日前に脱獄した。 その目的は1つ。自分を死刑にした 婦人警官への”復讐”‥‥ ‥‥‥‥‥‥‥‥む。 今‥‥! 私の中で、完全に <<真相>>が見えたようです。 |
千: | え。 |
裁: |
ぬうう‥‥。 これはもう、キマリでしょう。 有罪、というコトで。 |
千: |
ちょちょ、 ちょっと待ってください! ちゃんと、証言を聞いてから 決めてくださいっ! |
裁: |
ぬうう‥‥。 若さにまかせた、悪あがき。 私はどうかと思いますがね。 |
御: |
‥‥若さというのは、 ときに悲しいモノなのだ。 |
千: |
(‥‥あんた、 私より年下じゃないの!) |
裁: |
それでは、御剣検事くん。 しめやかに証人を呼んでください。 |
御: |
‥‥初動捜査を担当した 刑事を入廷させていただこう。 |
御: | ‥‥証人。名前と職業を。 |
糸: |
自分の名前は糸鋸 圭介。所轄署の 殺人事件捜査担当のけ、刑事ッス! 半年前より、ついに! やっと! 念願の刑事課に配属されたッス! |
千: | だれもそんなコト、聞いてません。 |
糸: |
なんスとォ! 刑事になるのが どんなにタイヘンか‥‥‥‥‥‥‥ |
千: | な、なんですか? |
糸: | き‥‥キレイッス‥‥ |
千: | え。 |
糸: |
ムネのあたりが、 ”キュン”となったッス。 |
御: |
‥‥刑事。シゴトをしたまえ。 さもないと‥‥ 胃のあたりが”キュン”となる 処分を下すコトになるが。 |
糸: | むぐ。すす、すまねッス。 |
裁: |
‥‥それでは、刑事くん。 事件の説明をおねがいします。 |
糸: |
はッ! リョーカイッス! 被害者は美柳 勇希巡査部長。 ベテランの女刑事ッス。 死因は、背中に刺された ナイフによる、失血死ッス。 |
裁: |
それらの情報は、 解剖記録にも書かれていますね。 事件について、もっと詳しく 聞かせていただきたい。 |
糸: |
はッ! リョーカイッス! では、上面図を見ていただくッス。 これは、現場となった吊り橋、 <<おぼろ橋>>の見取り図ッス。 橋の下を流れているのが、 かの急流<<吾童川>>ッス。 犯人と被害者は、 吊り橋の上で会ったッス。 被害者の背中をナイフで刺して殺害 した犯人は、死体を運び去り‥‥、 クルマで逃亡したところを 検問中の警察官に逮捕されたッス。 |
裁: |
ぬうう‥‥なるほど。 よくわかりました。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
‥‥橋の上に、被害者の 血痕でも残っていたのですかな? |
糸: |
被害者の美柳巡査部長は、 厚手のコートを着ていたッス。 ザンネンながら、おぼろ橋には なんの痕跡もなかったッス。 |
裁: |
ぬううう‥‥。 私は、”スイソク”という コトバが大キライです。 橋に痕跡がない以上、 2人がそこで会った証拠はない! |
御: |
‥‥裁判長。 証言を聞いていただければ、 ナットクしていただけるだろう。 2人はあの日、あの橋の上で たしかに会った、と‥‥。 |
裁: |
ぬううう‥‥。 この私に、指をつきつけるタイド。 どうかと思いますがね! それでは、刑事くん。 証言を命じます! |
糸: | は‥‥ハッ! |
千: | (いよいよ始まるわ‥‥千尋!) |
神: |
いいか‥‥よおく耳をすませ、 コネコちゃん。 油断すると‥‥のまれちゃうぜ。 法廷の神サマに‥‥! |
糸: |
『美柳刑事は事件当日、ナニモノかに 電話で呼び出されたッス。』(証言1) 『彼女は指定された時間におぼろ橋へ 行き、そこで犯人に会ったッス。』(証言2) 『そして‥‥彼女は、ムザンにも 殺害されてしまったッス。』(証言3) 『犯人は、死体をクルマのトランクに 詰めこんで、逃げようとしたッス。』(証言4) 『山のふもとに展開された検問で、 尾並田は逮捕されたッス。』(証言5) |
裁: |
ぬううう‥‥。 たしかに、おぼろ橋の重要性は ハッキリしたようです。 |
御: | ‥‥当然。 |
裁: |
それでは、弁護人。 しめやかに尋問をおねがいします。 |
千: |
は、はいッ! じじ、じんもん‥‥ですよねっ! |
神: |
おいおい‥‥大丈夫かい、 コネコちゃん。 あんまり震えると、カップに さざ波が打ち寄せちゃうぜ。 |
千: |
ふふ、震えてなんか、いません! むむむむ、武者ぶるいですッ! |
神: |
法廷はタフな戦場だぜ。 特に、初心者さんには‥‥なァ。 |
千: |
し、シンパイいりません! だって‥‥ 犯人だって証人だって、 みーんな初心者じゃないですか! |
神: |
クッ‥‥! ちげェねえぜ‥‥。 まずは、お手並み拝見、と行くぜ ‥‥コネコちゃん。 |
千: |
(だ、大丈夫よ、千尋! 法廷の作法なら、ゆうべビデオで バッチリ、勉強したじゃない!) |
千: |
”ナニモノか”‥‥ということは、 正体はわかってないんですよね! |
糸: | ザンネンでしたッス! |
千: | え‥‥。 |
糸: |
美柳刑事を呼びだしたのは、 被告人・尾並田だったッス! |
裁: |
な、なんとォォッ! 被告人が‥‥被害者に電話を! |
糸: |
美柳巡査部長は、ナニゴトも キチンとするヒトだったッス。 尾並田からの電話について、 キチンとメモを残していたッス。 |
千: | め、メモ‥‥? |
糸: |
被害者のデスクに残されていた、 ゴクヒのメモッス。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
ぬうううう‥‥。 このメモによると、たしかに 被害者を橋に呼びだしたのは‥‥ 被告人にまちがいない ようですな! |
千: |
うう‥‥ッ! (目を通したほうがよさそうね) |
神: |
クッ‥‥! 裁判長のヤツ、 かなりココロが動いてるぜ。 アンタ‥‥! ヘタなツッコミは イノチ取り、だぜ‥‥。 |
千: |
(あの刑事さんのせいよ! ”ナニモノか”なんて言うから) |
糸: |
あ! あ! そんなカオしちゃダメッス! 自分は、あの若手検事に言われて、 そう証言しただけッスから! |
千: |
(ワナ‥‥というワケ‥‥ ‥‥かわいいカオして、 ワリとやるわね‥‥) |
御: | フッ‥‥ |
千: |
尾並田さん‥‥クルマを 用意してたんですか? |
糸: |
現場の吊り橋は、 山奥にあるッスから‥‥ 2人とも、現場まで クルマを使っているッス。 |
裁: |
なんと! 被告人は、 自動車を持っていたのですか? |
糸: |
‥‥いやいや。 モチロン、盗難車ッス。 信号待ちをしていた若いカップルの クルマを、取りあげたッス。 |
裁: |
ヒトのクルマを盗むとは‥‥ 私はどうかと思いますね。 |
千: |
(他に”どうかと思う” 部分はないのかしら‥‥) |
糸: |
これが、その盗難車の 後部トランクの写真ッス。 ‥‥写っているのは、 モチロン美柳 勇希ッス。 |
裁: |
うわ! これは‥‥ 死んでますねえ‥‥。 |
法廷記録にファイルした。 | |
千: |
被害者は‥‥たしか、 背中を刺されたんですよね? |
糸: | そッス。 |
神: |
クッ‥‥! ‥‥オトコは常に、 背中を狙われているもんだぜ‥‥ |
千: |
(亡くなったの、 女性なんだけどな‥‥) |
糸: |
この写真では見えないッスが‥‥ 被害者の背中には、ちゃーんと ナイフが刺さっていたッス。 |
裁: |
‥‥死体が発見された状況は とても重要です。 刑事くん。現場に、何か おかしな点はなかったのですか? |
糸: |
『後部トランクの写真ッス。 ヘンなトコロは見あたらないッス!』(証言6) |
千: |
‥‥証人っ! ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
糸: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
御: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ な、なんですか! この、 いたたまれないキンチョー感は! |
千: |
す、すみません! アタマの中、 まっ白になっちゃって。 ‥‥ヒトさまに指をつきつけるの、 初めてなものですから‥‥ |
裁: |
ぬうううう‥‥。 ちゃんと、練習しておきなさいッ! まったく‥‥ 私はどうかと思いますね! |
神: |
クッ‥‥! コネコちゃん。 コーヒーキャンデー、なめるかい? |
千: | キャンデー? |
神: |
‥‥ホンモノのコーヒーは、 アンタには早すぎるからな。 |
千: |
(くぅぅ‥‥このクヤシサを たたきつけてやるの、千尋!) ‥‥こらっ、刑事さんっ! |
糸: | は、はいッスッ! |
千: |
この写真‥‥ ”ヘンなトコロはない” ‥‥そう言いましたね? |
糸: | い、言っちまったッスッ! |
千: |
しかし‥‥被害者が残した、 このメモをよく読みなさいっ! |
糸: | め、めもめも‥‥ |
千: |
はっきり、こう書いてあります。 <<目印に、白のマフラー用意>>‥‥ おそらく、被害者の カオを忘れていたのでしょう。 |
糸: | あ‥‥ああッ‥‥! |
千: |
そのマフラー‥‥ いったい、どこに消えたのかしら? ‥‥この写真には 写っていないようですけど‥‥ |
糸: |
そのぉ‥‥トランクからは 見つからなかったッス。 |
千: |
ダメじゃないの! ちゃんと探さなきゃ! |
糸: | むぐわああああ‥‥ッス! |
裁: |
犯人から指定された以上‥‥ 彼女はマフラーをつけていたはず! ‥‥そのあたり、いかがですかッ! 御剣検事くんッ! |
御: |
ふぅ‥‥やれやれ。 弁護側には、よほど 材料がないと見える‥‥ |
千: | ‥‥! |
御: |
お探しのマフラーというのは‥‥ これのこと、だろうか。 |
千: | あ‥‥っ! |
糸: | ど、どこにあったッス! |
御: |
‥‥現場の吊り橋の上だ。 私が、まっ先に調べた。 |
糸: |
な‥‥なんで自分にも 教えてくれなかったッスか! |
御: |
‥‥証拠品は、自分のカバンに しまうことにしている。 私の知るかぎり、 イチバン安全な場所だ。 |
神: |
クッ‥‥! あのボウヤ‥‥、 ‥‥キチンと、わかってやがるぜ。 |
御: |
被害者のメモとちがって、 <<白>>のマフラーではないが‥‥ おそらく、近い色で 代用したのだろう。 |
裁: |
ぬうううう‥‥。 かなりドロでヨゴれています。 |
御: |
ムリもない。‥‥事件当時、 吾童山中は小雨がふっていた。 |
千: |
(あの検事さん‥‥ワザと今まで かくしていたのね‥‥!) |
裁: |
そのマフラー、証拠として しめやかに受理しましょう。 |
法廷記録にファイルした。 | |
御: |
それでは‥‥弁護人が 大きくスベったところで、 次の証言にうつりたい。 よろしいかな? 弁護士クン。 |
千: |
(このマフラー、ギュギュウと 巻きつけてやりたい‥‥) |
御: |
その、ドロまみれのマフラーを ふり回すまでもなく‥‥ 尾並田 美散と美柳 勇希は、 おぼろ橋でジッサイに会っている。 ‥‥そして、橋の上で いったい、何があったのか‥‥? それを、カンペキに 立証してごらんに入れたい。 |
裁: |
それはおもしろい。 やってもらいましょうか。 |
千: |
(‥‥完全に アイツのペースね‥‥) |
神: |
忘れるな。あのボウヤが なんと呼ばれているか。 |
千: | (‥‥天才、か‥‥) |