成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
神乃木 荘龍…薄橙 | |
御剣 怜侍…茶 | |
裁判官…黄 | |
無久井 里子…紫 | |
尾並田 美散…緑 |
糸: |
『じつは、この事件には れっきとした目撃者がいたッス。』(証言1) 『目撃者がグーゼン撮った写真ッス。 きっちりマフラーを巻いてるッス。』(証言2) 『事件当時は小雨がパラついてたので ちょっと、ボヤけてるッスけど。』(証言3) 『犯人は、押し倒した被害者の背中に またがって、ナイフを刺したッス!』(証言4) 『‥‥おそらく、マフラーはそのとき はずれたと考えられるッス。』(証言5) |
裁: |
ぬううううう。 この写真の感じでは‥‥ 橋は、かなり高いところに かかっているようですね。 |
御: |
下を流れる吾童川から、 約12メートルの高さ‥‥だ。 |
裁: |
それで、御剣くん! この写真は いったい、どなたが? |
御: |
善意の第三者‥‥ といったところだろうか。 |
裁: |
つまり<<目撃者>>でしょう! なぜ、出廷していないのですか? |
糸: |
それが、その‥‥どうしても 証言台には立ちたくない、と。 |
御: |
‥‥証人は、非常にセンサイな ココロの持ち主なのだ。 この写真さえあれば、 証言の必要はない。 |
裁: |
やれやれ‥‥。 私はどうかと思いますがね! |
法廷記録にファイルした。 | |
御: |
尾並田 美散には動機があり、 こうして、現場で会っている‥‥ そのイミするところは、 アキラカだと思われるが‥‥? |
裁: |
‥‥‥‥‥‥‥‥む。 今‥‥! 私の中で、完全に <<真相>>が見えたようです。 |
千: | え。 |
裁: |
今度こそ、キマリでしょう! 有罪、というコトで。 |
千: |
だ、だから、 ちょっと待ってください! がんばって尋問しますから、 ちゃんと聞いてください! |
裁: | ぬうううう‥‥。 |
千: | (”ぬうううう”じゃないわよ!) |
千: |
事件当時‥‥現場には、 小雨がふっていたそうですね。 |
糸: |
キリも出て、しっとりした ムードだったッス。 |
千: |
‥‥その、しっとりしたムードに そぐわない証拠があります。 |
裁: |
これは‥‥トランクから発見された 被害者の死体、ですな。 |
千: |
現場の状況から考えて、この 写真には不自然な点があります。 |
御: | ‥‥‥‥‥‥ |
裁: |
不自然な点‥‥おもしろい。 ぜひ、うかがいたいものです。 このトランクの写真のどこが‥‥ 事件当日の状況とムジュンするか! |
千: |
ムジュンするところ‥‥ モチロン、ここです! |
裁: |
被害者のコート‥‥ですか。 私の見たところ、 異常はないようですが‥‥ |
千: |
それがすでに、異常なのです。 思い出してください! ‥‥事件当日の、橋の上の状況を。 小雨とキリで、おぼろ橋は、 ぬれていたそうです。 もし、被害者が橋の上に うつぶせに倒されたのならば‥‥ 被害者のコートは、ドロで 汚れていなければおかしいのです! |
糸: | あ‥‥ |
御: | ‥‥‥! |
裁: |
それは‥‥そのとおりです! 私も先日、ドロ道で転んだとき ジマンのヒゲがものすごいコトに! |
御: |
‥‥たしかに‥‥ 現場はかなり、ぬかるんでいた。 しかし! 橋の上が ドロで汚れていたとはかぎらない! 裁判長がドロ道ではなく、 フロ場で転んだとしたら‥‥ そのジマンのヒゲは、 ぬれるだけですんだはず! |
裁: |
さすがに、そんなに転びません。 しかし、その主張は認めます。 |
御: |
事件当日の橋の上の状況‥‥ キミに立証できると言うのかな? |
千: | (橋の上の状況‥‥か) |
神: |
クッ‥‥! ここで引いたら オトコじゃねえぜ。 |
千: |
(ここで引いたら‥‥ オンナでもないわ!) モチロン、立証できます。 |
御: | ‥‥‥! |
千: |
おぼろ橋の上はドロで汚れていた。 その証拠は‥‥! |
千: | 証拠は‥‥このマフラーです! |
裁: | あ‥‥ッ! |
千: |
‥‥説明は不要でしょう。 橋の上に落ちていたマフラーが こんなに汚れている以上‥‥ ‥‥<<おぼろ橋>>は事件当時、 ドロでぬかるんでいたのです! |
御: |
ぐ‥‥ムムゥ‥‥ッ! ‥‥新米弁護士があああ‥‥ |
千: | (それは、おたがいさまでしょ!) |
裁: |
どうやら、弁護人の主張は スジが通っているようです‥‥ |
御: |
たしかに‥‥このマフラーと 被害者のコートの状態には‥‥ ムジュンが存在するようだ。 しかし! 重要なのは、 ”それが何をイミするか”‥‥だ。 |
千: | え‥‥! |
御: |
ムジュンには‥‥かならず、 <<理由>>が存在する。 その<<理由>>を、うかがおうッ! |
千: |
そ、それは‥‥! (そんなの、私に聞かれても‥‥) |
神: |
クッ‥‥! いいセン、行ってるじゃねえか。 ‥‥コネコちゃんにしては。 |
千: | か、神乃木さん! |
神: |
いつの時代も‥‥ムジュンは ウソから生まれるんだ。 トランクから発見された <<被害者>>‥‥ 目撃写真に写っている <<被害者と被告人>>‥‥ そして、犯行の瞬間を見たという <<目撃者の証言>>‥‥。 ‥‥落ちついて考えるんだ。 シンプルなハナシだろう? これらの3つのうち、どれかが‥‥ <<ニセの手がかり>>なのさ! |
裁: |
べ、弁護人! 今の発言、 私はどうかと思いますな! |
千: |
あ! 今のは、私じゃなくて、 このコーヒーのヒトが勝手に‥‥ |
裁: |
この私の法廷で<<ニセの手がかり>> など、認めません! |
神: |
あのボウヤ‥‥その<<手がかり>>を かくそうとしていやがるのさ。 |
千: | ‥‥‥! |
神: |
そうはさせねえ。 引きずり出してやるんだ! |
千: |
は、はいっ! このムジュンにおける、 <<ニセの手がかり>>‥‥それは! |
千: |
考えるまでもなく‥‥ アヤシイのは<<目撃者>>です! 刑事さんは、さっき‥‥ こう証言しましたね。 『犯人は、背中から被害者を 押し倒して、ナイフを刺した』 これは、目撃者が”見た”ことを そのまま証言したワケですよね? |
糸: |
はあ。‥‥たしかに そう言っていたッス。 |
千: |
‥‥その証言は、 大きくムジュンしています。 被害者のコートは、まったく 汚れていないわけですからね。 |
裁: | ‥‥そのとおりですな。 |
神: |
クッ‥‥! そいつが正解だ。 もし、本当に決定的な 目撃証人がいたのなら‥‥ あのボウヤは、最初から そいつを呼んでいたはずさ! |
千: |
‥‥裁判長! 弁護側は、その<<目撃者>>の 尋問を要求します! その証言はアイマイで、 いきなりムジュンしていますッ! |
裁: |
どうやら、検事くん。 その、ナゾの<<目撃証人>>の証言 ‥‥聞く必要がありそうですな。 |
御: |
‥‥‥フッ。 ‥‥カクゴしておくといい。 ‥‥サイアクの事態を‥‥な。 |
千: | ‥‥‥? |
御: |
裁判長。検察側は、目撃証人を かくすつもりなど、まったくない。 ‥‥いつでも召喚に 応じる準備はできている。 |
裁: |
わかりました。それでは さっそく、呼んでもらいましょう。 |
千: |
(検事さんのヒトコト。 ちょっと、気になるな‥‥ ”サイアクの事態”‥‥?) |
裁: |
‥‥それでは、しめやかに 審理をつづけましょう。 御剣検事くん。 よろしくおねがいします。 |
御: |
では、入廷していただこう。 ‥‥あの日、吾童山中で 事件の瞬間を目撃した証人に‥‥。 |
千: | (‥‥ここからが勝負よ、千尋!) |
御: |
‥‥証人。 名前と職業をおねがいしよう。 ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
千: | (な、なに? このチンモク‥‥) |
裁: |
ぬうううううう‥‥‥‥う。 なんかこう、アレですなあ。 あなたを見ていると、こう‥‥ ココロが洗われるというか、 血行がサラサラになるというか、 思わず、軽やかに 判決を下したくなるというか。 |
千: | (バカなコト言わないでよ!) |
御: |
‥‥フッ。 前にも申し上げたが‥‥ この証人は、非常にセンサイな ココロの持ち主なのだ。 くれぐれも、質問には 気をつかっていただきたい。 |
裁: |
くううう‥‥さすが御剣検事くん。 ジェントルマンですな。 弁護人! あなたもキチンと 見習うように。 |
千: |
(‥‥ジェントルマンなら、 私にも気をつかってほしいな) |
?: | あの‥‥おじさま? |
裁: |
ぬうううううう。 なんですかな? |
?: |
なにぶん初めてですから、 いたらない点もあると思いますの。 こんなムスメですが‥‥ よろしくおねがいいたしますね。 |
裁: |
ぬううううううううううううう。 こちらこそ、よろしくいたすッ! |
千: |
それで‥‥ケッキョク、 名前と職業は? |
里: |
お名前は、あの‥‥無久井 里子 (むくいさとこ)と申しますわ。 大学生です。‥‥あの。 文学部の、1回生です。 |
御: |
あのイタましい事件があったとき、 あなたは不幸にも現場にいた。 |
千: |
‥‥そして、この写真を撮影した。 まちがいありませんね? |
里: |
きゃあああああっ! な、なんてヒドい‥‥ |
裁: |
コラ! いきなりそんなモノを 見せるヒトがありますか! |
千: |
え! で、でも‥‥ フツウの写真じゃないですか! |
裁: |
今度やったら ペナルティを与えます! |
千: |
(‥‥ひ、ヒドいことに なってきたわ‥‥) |
里: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
千: |
‥‥? (私を‥‥見つめている‥‥?) |
里: |
あの‥‥。シツレイですが、 あなたさまは‥‥? |
千: |
え。私は、弁護士ですけど。 ‥‥綾里 千尋といいます。 |
里: |
‥‥‥‥‥‥‥‥ そう‥‥。あなたが‥‥ |
裁: |
それでは、おじょうさん。 証言をおねがいできますかな? |
里: |
はい‥‥。 わたし、がんばりますね。 |
里: |
『わたし‥‥おカメラで、 お野草の撮影をしていましたの。』(証言1) 『吊り橋のまん中に、2つの人影が。 なんとなく、拝見しておりました。』(証言2) 『そうしたら! いきなり 争いをお始めになられたのです!』(証言3) 『わたし、急いで決定的瞬間を お写真に撮りましたの。』(証言4) 『それから、警察のみなさまに、 お電話をさしあげました。』(証言5) |
裁: |
ぬううううう‥‥ ちなみに、事件が起こったとき おじょうさんは、どこに‥‥? |
御: |
それについては‥‥ 上面図を見ていただこう。 |
里: |
あの。わたくしがいたのは、 このあたり‥‥です。 切り立ったガケにかこまれた、 春はうつくしい原っぱですのよ。 |
裁: |
その地点から、あの写真を 撮影したわけですな。 |
里: |
検事さまに言われて、そのときの おカメラも持ってまいりました。 |
裁: |
ほおほお。持ち主に似て、 かわいらしいおカメラですな。 |
法廷記録にファイルした。 | |
裁: |
‥‥それでは、弁護人。 尋問をおねがいしましょう。 証人を泣かせたら、私の 木槌がダマっていませんよ。 |
千: |
‥‥証人。 あなたの言う<<決定的瞬間>>とは、 これのコトですか? |
里: | え‥‥‥ |
千: |
この写真‥‥2人の人物が 向かい合っているだけですね。 あなたは、2人の”争い”を 目撃したと証言しています。 私たちはふつう、それを <<決定的瞬間>>と呼びます! なぜ、その写真が 提出されていないのですか! |
里: | ‥‥そ、それは‥‥ |
御: |
‥‥提出された写真は、 これ1枚きり、だ‥‥。 |
千: |
もし本当に<<決定的瞬間>>を 撮影するつもりだったのならば‥‥ このあと何が起こったか? それを写真に撮ったはずです! |
裁: | ぬ‥‥ぬうううううう‥‥むッ! |
裁: |
あの‥‥よろしいかな、 おじょうさん。 弁護人の主張は、ある種 わからないでもありませんが‥‥? |
千: | あ、”ある種”‥‥? |
里: |
‥‥すみません‥‥。 わたし‥‥いけない子、ですのね。 その‥‥。切らして しまったんです。‥‥フィルムを。 |
裁: | フィルムを‥‥ッ! |
里: |
この、お写真が‥‥ 最後の1枚だったんです。 |
千: | なんですって! |
御: |
ザンネンながら‥‥ これは、ジジツなのだ。 ‥‥証人が事件当日に撮影した 写真は、私がすべてチェックした。 他の写真は、草原でたわむれる、 証人自身の写真だった。 |
千: |
<<証人自身>>‥‥って、 それはダレが撮影したんですか? |
里: |
あの‥‥わたしのおカメラ、 セルフタイマーがついてますから。 |
千: |
自分で、自分の写真を 撮影したわけですか! |
裁: |
ぬうううう‥‥ 私にも、おぼえがありますぞお! |
千: | (そんな、不自然な‥‥) |
裁: |
‥‥どうやら、弁護人の指摘は 決定的とは言えないようです。 |
千: |
ちょ、ちょっと 待ってください! |
裁: |
フィルムがなければ 写真は撮れませんからね。 |
御: |
証人。‥‥ワレワレに 聞かせていただけるだろうか。 あなたのココロのフィルムに 焼きついた、”事件”について。 |
里: |
まあ‥‥検事さま。 詩人でいらっしゃいますのね。 |
裁: |
それでは! 尋問に 戻っていただきましょう。 ‥‥あなたの見た”争い”を ふまえて、証言してください! |
里: | わかりましたわ‥‥オジサマ。 |
千: |
(ホンキで”今のはナシ”に されちゃったみたいね‥‥) |
神: |
クッ‥‥! どうやら‥‥法廷中が、あっちの コネコちゃんの味方、ってワケか。 |
千: | ちょっぴり、セツないです。 |
里: |
『被害者は、犯人に背を向けて、 お逃げになったのですが‥‥』(証言6) 『10メートルほどで追いつかれて、 お背中から、お刺されに。』(証言7) |
千: |
証人! ‥‥まったく、 お話になりません! |
里: |
え‥‥え‥‥? わ、わたしが、何か‥‥ |
裁: |
コラ、弁護人! シゲキしては イケナイと言ったでしょうが! |
千: |
1回の証言で、2つのムジュン‥‥ これはもう、イイワケの しようがありません! |
裁: |
ムジュンが‥‥ ”2つ”ですって! |
千: |
ハナシはカンタンです。 上面図を見ていただきましょう。 証言によれば、2人は 吊り橋のまん中にいました。 もし、ここで‥‥ 被害者が”犯人に背中を向けて” 逃げようとしたら‥‥? |
裁: | い‥‥行き止まり‥‥ |
千: |
10メートルどころか、 5メートルも逃げられません! おぼろ橋は、 コワれていたのですから! |
里: | きゃああああッ! |
裁: |
ここ、これはいったい、 どういうことなのかッ! |
千: |
状況は、きわめてシンプルです。 かわいらしいおじょうさんが、 かわいらしいウソをついた。 ‥‥それだけのことです。 |
里: | ‥‥く‥‥ッ! |
裁: |
ま‥‥まさか! この、 かわいらしいおじょうさんが‥‥ |
御: | ‥‥お待ちいただこう。 |
千: | (み、御剣検事‥‥!) |
御: |
ただ今の騒ぎ‥‥私のほうから、 おワビを申し上げよう。 |
裁: | ‥‥どういうことかな? |
御: |
この上面図には、1つ‥‥ 大きな問題があったのだ。 |
千: | なんですって! |
裁: | いったい、それは! |
御: |
<<事件発生後に作成した>> という点だ。 なにぶん、山奥の古ぼけた吊り橋。 ‥‥見取り図がなかったのだ。 |
裁: | つ、つまり‥‥? |
御: |
事件が発生したとき、このように 橋がコワれていたか‥‥? 今となっては、 何者にも証言できないのだ。 |
千: | そ、そんな‥‥ッ! |
御: |
ジッサイ、この写真では‥‥ 橋の状況は、判別がつかない。 不完全な証拠品で、審理を コンランさせてしまったようだ‥‥ |
裁: |
‥‥ぬ。 ぬうううううううううむ‥‥ッ! |
神: | クッ‥‥! やるじゃねえか。 |
千: | え‥‥! |
神: |
コイツは、仕組まれてたんだ。 あのボウヤ‥‥上面図に、 最初から保険をかけていやがった。 |
千: | (そんな‥‥ヒキョウな!) |
裁: |
どうやら‥‥弁護人の 勇み足だったようですな。 |
千: | ‥‥‥! |
里: |
すみません‥‥。わたしが しっかりしてないばかりに‥‥ |
裁: |
いやいやいやいやいやいやいや。 あなたのせいではありません! |
御: |
それでは‥‥審理を 再開していただこう。 証人の目撃したこと‥‥ そろそろ、決着をつけたい。 |
裁: |
‥‥わかりました。 それでは、おじょうさん。 もう一度だけ、証言を おねがいできますかな? |
里: | わたし‥‥へこたれませんわ! |
裁: | ここで応援しておりますぞ! |
御: |
シンパイはいらない。 見たコトだけを、証言してほしい。 |
里: | はいっ! |