成歩堂 龍一…黒 | |
綾里 千尋…赤 | |
神乃木 荘龍…薄橙 | |
御剣 怜侍…茶 | |
裁判官…黄 | |
無久井 里子…紫 | |
尾並田 美散…緑 |
里: |
『お背中を刺された被害者を、 犯人はすばやく抱え上げました。』(証言1) 『そしてそのまま犯人は、 彼女をお運びになったのです。』(証言2) 『運び去るほかに、死体をかくす 方法など、ありませんものね。』(証言3) 『死体を橋の上に残しておくわけには いかなかったのでしょう。』(証言4) 『わたし‥‥今度こそ、見たコトしか お話ししていませんわ。』(証言5) |
裁: |
ぬぬううううう‥‥。 そんな光景を目撃したのですか。 |
里: |
ええ。わたし、もうショックで‥‥ おムネがドキドキいたしましたの。 |
神: |
この証言が通っちまったら‥‥ もう、オシマイだな。 |
千: | そ、そんな‥‥! |
神: |
さて。‥‥帰りに、カフェーに 寄っていこうじゃねえか。 ‥‥うまいモカを飲ませる 店を知っているぜ。 |
千: | 裁判は‥‥まだ、終わらせません! |
神: |
クッ‥‥! それもいいだろうさ‥‥。 |
裁: |
それでは‥‥弁護人。 尋問をおねがいします! |
千: |
(ムジュンは目の前にあるわ。 一気に突きくずすの、千尋!) |
千: |
犯人が死体をかくしたかった‥‥ それは、リカイできます。 しかし‥‥そのために死体を 運ぶのは、アキラカに不自然です。 犯人には、もっとラクでカクジツな 方法があったのですから! |
御: | ‥‥‥‥‥‥ |
裁: | そ、それは‥‥いったい! |
千: |
上面図を見れば、アキラカです。 吊り橋の下に、 川が流れています。 たしか、検事さんによれば‥‥ |
御: |
『吊り橋の下を流れる<<吾童川>>は、 その水量と急流で知られている。 のみこまれた死体は、ほとんど 発見されることがないという‥‥』 |
裁: | あ‥‥ |
千: |
現に、5年前の誘拐事件では、 被害者は川に投げこまれている‥‥ |
里: | ‥‥‥! |
千: |
これから先、おぼろ橋で10回 殺人事件が起こるとしたら‥‥ 吾童川には、10人の死体が 放りこまれるにちがいありません! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛に! ‥‥弁護人の言い方は、 どうかと思いますが‥‥ たしかに! この状況で、わざわざ 死体を運ぶのは‥‥不自然です! |
里: | うう‥‥‥! |
裁: | いかがかな? 御剣検事くん! |
御: |
ふう‥‥やれやれ。 弁護人も一度、その<<吾童川>>に のまれてみてはいかがか。 ”不自然”を語る前に、大自然と たわむれるコトをおすすめしよう。 |
千: | ど‥‥どういうことですか? |
御: |
死体をトランクにしまうのが、 たとえ”不自然”だろうと‥‥、 ジッサイに、 犯人はそうしているのだ。 その理由がムジュンしていても‥‥ この証人には関係ないこと。 |
裁: |
ぬ‥‥ぬううううう‥‥ た、たしかに! ‥‥どうやら、弁護人の指摘は 決定的とは言えないようです。 |
千: |
しかし! 証人が目撃したという 犯人の行動は、あまりに不自然‥‥ |
御: |
それでも、たしかに死体は トランクから発見されたのだ。 |
裁: | その点にムジュンはありません。 |
千: | ぐ‥‥‥。 |
御: |
それでは、証人。 証言をつづけていただこう。 |
里: | は、はい‥‥ |
御: |
あなたはただ、”見たことだけ”を 証言すればいいのだ。 さもないと、イジワルなお姉さんに いじめられてしまうからな。 |
千: | (ダレのことよ!) |
里: |
わかりましたわ! わたし‥‥ がんばります! 『犯人は、盗んだクルマのトランクを コジ開けて、死体をかくしました。』(証言6) |
千: |
どうやら‥‥証人。 ついに、やってしまいましたね。 |
里: |
‥‥‥? あ、あの‥‥ 何を、ですの? |
千: | 決定的なミス、です。 |
裁: | み‥‥ミス‥‥! |
千: |
<<盗んだクルマのトランクを コジ開けて、死体をかくした>> あなたは、それを”見た” わけですね? ‥‥その目で! |
里: | そ、それが何か‥‥? |
千: |
カンタンなコトです。 ‥‥上面図を見てください。 事件当時、あなたが写真を撮ったと 主張している地点は、ここです。 いかがかしら? クルマを見ようとしても‥‥ この岩場が、 どうしてもジャマになる。 |
里: | あ‥‥っ! |
千: |
そうなんです、証人‥‥。 あなたのいた地点から、 犯人のクルマが見えるはずがない! |
里: | ‥‥‥うううッ‥‥‥! |
御: |
たしかに、上面図には 岩場が表示されている! しかし‥‥クルマが見えないほどの 高さかどうかはわからないッ! |
里: |
そ、そうです! その岩場は、たいした 高さじゃなくて‥‥ わ‥‥わたしには、 あのかたのクルマが見えましたの! |
千: |
‥‥ザンネンながら‥‥ そうは行きません。 |
里: | ‥‥‥! |
千: |
証人は、この法廷に 証拠品を提出してくれましたね? 上面図の、このポイントから 撮影した、写真です。 その写真が‥‥ 真実を物語っています! 左はしに‥‥ しっかり写っていますね。 問題の”岩場”‥‥というより、 これはもう、”ガケ”です。 |
裁: | あ‥‥ッ! |
千: |
あなたの視界は、切り立った ガケにさえぎられていた! これでも、犯人のクルマが 見えたと言うつもりですか! |
里: |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥ きゃああああああッ! |
裁: |
せ‥‥静粛に! 静粛に! こ‥‥これは、いったい‥‥ |
御: |
裁判長‥‥ 結論を急ぐ必要はない。 脱獄囚がクルマを盗んで逃走した ことは、ニュースでも報道された。 この証人は、殺人事件を目撃して、 少なからず動揺していたはず。 クルマのことを聞いて、それを ”見た”と思ってしまったのだ。 |
千: |
証言に入る前に、彼女は 何度も注意されていました! ”見たことだけを 証言するように”‥‥と! |
裁: | ぬううううううう‥‥む! |
里: | あの‥‥オジサマ? |
裁: | な‥‥なんですかな? |
里: |
わたし‥‥きっと、 思いちがいをしていたのですね‥‥ |
千: |
ちょ、ちょっと! 今さら、そんなイイワケが‥‥ |
御: |
カンちがいをしない人間など、 この世には存在しないのだよ。 |
裁: |
ぬううううう‥‥‥たしかに! そもそも、カンちがいこそは‥‥ 人間だけにユルされた、 高度な精神活動ですからな。 センサイなココロを持った 少女であれば、ムリもない。 |
千: | そ‥‥‥そんなバカな‥‥ッ! |
神: |
クッ‥‥! 冷や汗は後回しだ、コネコちゃん。 |
千: | か‥‥神乃木さん! |
神: |
判決が下るまで、ふり返るな。 今は、前へ進むんだ。 |
千: |
で‥‥でも! ズルいじゃないですか! |
神: |
まあ、落ちつけ。 そして‥‥思い出すんだ。 ‥‥あのコネコちゃんの証言を! |
里: |
『犯人は、盗んだクルマのトランクを コジ開けて、死体をかくしました。』 |
神: |
クルマのことはともかく‥‥ どうして知ってるんだ? 『トランクをコジ開けた』 なんてコトを‥‥ |
千: | あ‥‥っ! |
神: |
そのことをキレイに 説明できないかぎり‥‥ アンタの疑いは晴れねェぜ! おじょうさんよォ! |
里: | ‥‥‥‥‥‥‥‥ |
裁: | い‥‥いかがですかな? |
里: |
‥‥トランクがコジ開けられた のは、たしかですわ。 だって‥‥トランクのフタに、 キチンとお残りになってますもの。 コジ開けられたときの <<引っかきキズ>>が‥‥! |
裁: |
な‥‥なんとォ! 写真を見せてください! たしかに‥‥カギ穴のまわりに キズがあるようです! ぬうううううううう‥‥。 ダレが見ても”コジ開けられた”と わかりますな。 いかがかな? 弁護人。 ナットクできると思いますが‥‥? |
千: |
(‥‥裁判長は彼女の味方。 シッパイはユルされないわ。 今の発言‥‥ ムジュンはなかったかしら‥‥) |
千: |
‥‥無久井 里子さん。 さっき以上にマズいことを 口走ってしまったみたいね。 |
里: | え‥‥ |
千: |
あなたは、草原で写真を 撮っていたそうですね。 それなのに‥‥トランクの キズのことを知っていた。 いったい、いつ! このキズを 見ることができたのですかっ! |
里: | ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ |
千: |
(やっと‥‥。やっと、 この事件が見えてきた‥‥) |
神: |
クッ‥‥! チョイと 待ちくたびれちまったぜ。 |
御: |
どうやら‥‥弁護人の考えを 聞いたほうがいいようだな‥‥ |
千: |
裁判長! コタエは1つしかありません! 証人は、トランクのキズを 見たことがあった! なぜなら‥‥ |
千: |
キズを見るカクジツな チャンスが、1つだけあります。 |
裁: | そ、それは‥‥? |
千: |
もちろん‥‥ トランクをコジ開けて、 死体をしまうとき‥‥です。 |
御: | ‥‥‥! |
千: |
被害者の死体をトランクに かくしたのは‥‥ 無久井 里子さん! あなた‥‥なのではないですか? |
里: |
そ、そんな‥‥! わたし、そんなコト‥‥ あの、囚人服のかたです! だって、あのかたが‥‥ |
千: |
そんなハズは、ないの。 ‥‥もし、尾並田さんが 死体をしまったのなら‥‥ クルマのキーを使ったはずよ。 コジ開ける必要は、ないわ。 |
里: |
で、でも‥‥! 盗難車、だったのでしょう‥‥? |
千: |
”信号待ちしていたカップルから 取りあげた”盗難車よ。 ‥‥つまり、クルマには キーがついていたの。 |
里: | そ‥‥そう、だったの‥‥ |
千: |
キズのコト‥‥教えてくれて ありがとう。無久井 里子さん‥‥ おかげで、立証できたようね。 死体をトランクに入れたのは、 尾並田 美散ではあり得ない! |
里: | ‥‥いやああぁぁぁ‥‥ッ! |
御: |
ば‥‥バカなッ! この証人が 死体をかくした‥‥だと! それならば‥‥彼女の撮影した、 写真はどう説明するのだ! 死体を入れることができるのは、 事件が起こったときしかない。 その瞬間‥‥彼女は この写真を撮っていたはずだ! |
千: |
(今がチャンス‥‥ 一気に攻めこむの、千尋!) それはどうかしら、検事さん。 |
御: | ‥‥! |
千: |
むずかしく考える必要は ありません。 この写真‥‥シャッターを押した のは、彼女とはかぎらないのです! |
千: |
彼女のカメラ‥‥これはもう、 グーゼンとは思えません! タイマー撮影ができて、 三脚までついています。 |
裁: | ぬうううううううう‥‥ |
千: |
まるで、この写真を撮るために 用意されたように! |
里: | ‥‥‥‥‥ |
御: |
それでは‥‥ 弁護人は、こう主張するつもりか! 事件が起こったとき‥‥ 彼女は草原にいなかった、と! |
千: |
(写真が自動シャッターで 撮影された以上‥‥ 当然、彼女は<<別の場所>>に いたことになる) ‥‥そうです。 草原には、いませんでした。 |
裁: |
どうやら‥‥弁護側の考えを 聞く必要があるようです。 |
神: |
‥‥いいか‥‥ ここは、重要なポイントだ。 ”事件が起こったとき、彼女が どこにいたか‥‥?” それがわかれば、おじょうちゃんの ”正体”もハッキリするだろうぜ。 |
裁: |
‥‥それでは、 示していただきましょう。 橋の上で事件が起こったとき、 無久井 里子さんがどこにいたか? |
千: |
もちろん証人は、 ここにいたのです! |
裁: |
そ、そ、そこは‥‥ 被害者・美柳 勇希さんが 立っていた場所ではないですか! |
裁: |
静粛に! 静粛に! 静粛に! 弁護人! あなたは、いったい‥‥ |
千: |
‥‥よろしいですか、裁判長。 被告人は、橋の上で”被害者”と 別れたあと、クルマで逃走した。 ‥‥でも、これでは被害者が トランクに入ることは不可能です。 つまり、だれかが死体を 入れようとしたら‥‥ 被告人が”被害者”と会うよりも、 <<前>>しかないのです! |
御: |
バカなッ! 尾並田は、 ジッサイに被害者と会っている! この状況で、被害者を殺害して、 死体をトランクに入れられたのは、 尾並田 美散以外に、あり得ない! |
千: |
まだ、わからないのかしら? 御剣検事‥‥。 目撃写真が撮影されたとき、もう 被害者は、殺害されていた‥‥ その写真に写っているのは、 美柳 勇希ではないのです! |
御: |
な‥‥何を、バカなコトをッ! それならば‥‥ この写真に写っている被害者は いったい、何者なのだ! |
千: |
決まっているでしょう。 ‥‥そこの証人ですよ。 |
里: | ‥‥‥! |
裁: | な‥‥なんですとぉぉぉ‥‥ |
千: |
それしか考えられません。 尾並田さんが橋の上で会ったのは、 美柳 勇希ではなかった! 無久井 里子さん! あなただったのです! |
里: | わ‥‥わたし‥‥! |
千: |
事件があったとき、吾童山には 小雨がふり、キリも出ていました。 尾並田さんは、目の前の人物を 美柳 勇希さんだと思ったのです! |
御: |
被告人・尾並田 美散は、 美柳 勇希を、よく知っている! なにしろ、自分の死刑判決を 決定づけた証人なのだから! |
千: |
それは、5年も前のハナシです! 被告人は、美柳 勇希の カオを忘れていたのです! |
御: |
‥‥バカなッ! しょ、 証拠があるとでも言うのかッ! |
千: |
(あるわ! あの証拠品が それを立証している‥‥!) 尾並田さんは、事件当時‥‥ 美柳 勇希のカオを忘れていた! |
千: |
尾並田さんは、 被害者のカオを忘れていました。 だから‥‥目印が必要だった。 このマフラーが! |
里: | あ‥‥ッ! |
千: |
マフラーは、尾並田さんの 指示で用意されたものでした。 被害者が残したメモが それを立証しています! |
御: | ‥‥‥‥‥ |
千: |
つまり! 指示どおりの マフラーをしていれば‥‥ たやすく<<美柳 勇希>>に なりすますことができたのです! |
里: | ‥‥‥‥‥‥ |
千: |
さあ! いかがかしら! 無久井 里子さん! |
里: |
ぐ‥‥ぅぅぅ‥‥ッ! きゃあああああああああああああッ! |
裁: |
それで‥‥あの、 無久井 里子さんは‥‥? |
御: | 控え室にやすませてある。 |
裁: | ぬううううううううう‥‥む。 |
千: |
(無久井 里子のやったことは ハッキリしている‥‥ トランクに死体をかくして、 <<被害者>>になりすまし‥‥ ニセの<<目撃写真>>を デッチ上げた‥‥) |
神: |
‥‥なぜ、あのコネコちゃんは そんなコトをした‥‥? |
千: |
決まってます。 彼女こそが‥‥<<真犯人>>だから! |
神: | クッ‥‥! |
裁: |
とにかく、無久井 里子さんの 意識が戻るのを待ちましょう。 それまで、審理は中断します。 検察側・弁護側とも、控え室で 待機しておくように。 |
千: | わかりました。 |
御: | ‥‥了解した。 |
裁: |
それでは! 審理を中断します! |